『遠い日の記憶』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
ザザンというかすかな波の音が鼓膜をかすかに鳴らす。そこは白浜の海岸で私はそこを両親と手を繋いで歩いていた。
とても仲睦まじく誰から見ても仲良し親子のようだった…。
パチリと目を開けるとそこにはいつも通りの自室が広がっていた。
私は幼い頃、海のあるところで育った。
どこで育ったのかは両親が教えてくれなかったので海がある所としか呼べなかった。海があるところでは楽しく美しい記憶が残っているのに、今、私が生きるこの場所では苦難ばかりが続いてばかりだ。
何故、あの楽しい海のある所を離れたのかを両親は話してくれなかった。両親は秘密主義者なのだと思う。
海のあるところを離れて約18年、大学生になった私は両親の制止を無視して一人暮らしを始めた。
一人暮らしの生活は両親が制止したのも分かる辛さがあった。
ご飯はバイトであまり稼いでいないのでわずかなお米ともやしだけで家は家賃削減のため四畳半で、布団はツギハギだらけで誰が見てもみすぼらしいキャンパスライフを送っていた。
みすぼらしい生活を紛らわすように朝早くに近所を散歩することが私の日課である。
散歩が終わると大学の講義に行って帰ってくるとバイトで帰ってくると、寝る時間である。
私は寝る前、嫌なことがあると巻貝を吹く。
巻貝のあの音は私の記憶の海のある所を呼び覚ましてくれるからだ。
お題遠い日の記憶
ここまで読んでいただきありがとうございます。
果てない闇の中。
橘の木が一本と、童が一人。
いつから在るのか。何故在るのか。
何一つ分からず、ただ暗闇に独り。
「お前はだれだ?」
不意に聞こえるは、己以外の童の声。
不思議そうに疑問を繰り返す。
「なれこそ、誰ぞ」
問い返せば言葉は止み。
「これは藤だ」
当然だと言わんばかりに返された。
「お前はだれだ?この橘か?でも少しちがうな」
「われが誰かは知らぬ。気づけばここに在ったゆえ」
次々と投げかけられる疑問に目を瞬かせ。何も知らぬと伝えれば手を取られ、形を確かめるように触れられる。
手。腕。首。顔。無遠慮な小さき手の温もりに、触れるこそばゆさに笑みが溢れた。
「そうか。お前はここの主だね。世界がまたはじまったのか」
「また、とは?」
「知らない。でも分かる…ここは常世。はじまるばしょ」
言葉の意味を分かりかねて問えば、答えにならぬ答えが返る。それを何処かで受け入れ、されど理解が出来ぬ乖離に目を伏せた。
欠けている。認識され、形は定まった。
ならば足りぬらものは。
「名をくれ、藤。かわりに名を与えよう」
「分かった」
沈黙。藤に相応しい名を思考する。
不意に手を引かれ。同じように手を引いた。
暗闇に見えぬ藤を見据え、名を告げる。
「紅藤《べにふじ》」
「黎明《れいめい》」
互いに互いの名を呼び。
刹那闇が形を変え、互いの姿を浮かび上がらせた。
名を与えられた事ですべて理解する。
常世の在る意味。己の役割。世界の目覚め。
理解したからには始めなければ。
「紅藤、手伝ってくれ。足りぬものが多すぎる」
「藤とは愛でられるものなんだけれど…仕方ないか。他でもない黎明の頼みだ」
ふわりと咲《わら》い、懐から藤の花をいくつか取り出す。
空へ放れば花は皆形を変えていき、藤と同じ姿を模した人形等が音もなく地に降りた。
「とはいえ人手ぐらいしか出せるものはないけれど」
「上出来だ」
藤の頭を撫で、辺りを見渡す。
橘の木。少し遠くに藤の幼木。
藤の人形。童が二人。
一つ頷いて、虚な闇に指で描く。求めるものを指で辿り、屋敷を形作る。
刹那に作り上げられた屋敷を見て惚ける藤の頭をもう一度撫で、手を差し出した。
「さて、始めようか。おいで、紅藤」
「分かった。でも落ち着いたら藤《私》の手入れを頼むよ、黎明?」
互いに笑い合い。歩き出す。
世界が始まった。
「長。寝ているの?」
「否。昔を思い出していた」
首を傾げる幼子に笑いかけ、そっと頭を撫ぜた。
目を細めて身を委ねる、幼くなったその姿はあの日々を思い起こさせる。
「紅藤」
「どうした?長」
「もう名を呼んでくれぬのか?」
いつからか、藤は名を呼ばなくなった。
その事が少しだけ寂しい。
「長の名を呼ぶと怖い顔をする誰かがいるからね」
「なれば呼んでくれても良いだろう?あれは今、現世に居るのだから」
そういえば、と藤は目を瞬かせ。
あの日と同じ、ふわりと咲う。
「それもそうか…黎明」
「何だ?」
「礼を言うよ。枯れかけた藤《私》を咲かせてくれた事に」
外を見る。
端々は未だ枯れてはいるが、それでも尚美しく咲き誇る藤を認め、目を細めた。
「諦めてはいたのだけれど。存外藤《私》は愛されていたようだ。特に、黎明には」
「当然の事。汝が言うたのだろう?我に手入れをしろと」
「違いない」
くすくすと互いに笑い合い。
終わりは未だ来ず。
あの日から続く世界に。穏やかなひと時に身を委ねた。
20240718 『遠い日の記憶』
今まで何故かモヤが掛かっていて、急にそれが晴れる事ってあるよね。
私はそういう事だと思うな。
何で今まで思い出せなかったんだろうって思う反面、この今思い浮かんだ事は夢なのか白昼夢ってやつなのか
でも実際に体験して遊んだんだよ。
確かあれはまだ5歳だった時、私にはいつでも一緒の友達が居た。
見た目は髪が長くて虹色で、肌は真っ青。
爪は長い時と長くない時があって、鼻は豚みたいだった。
角があって、それに捕まってぶんぶん振って貰ってその遊びが何より好きだった。
その子は私に尽くしてくれて、いつでも私の意見を尊重してくれた。
彼女か彼かはわからなかったけど、私はその子がお母さんよりも好きだった。
というのも、その頃はちょうどお父さんが死んだ時だったから私に無関心で、いわゆる鬱状態だったんだろう
別に恨んではないけど。
ただ私はその間退屈しなかったってだけで
でも何故そんなに楽しかった事を今まで忘れていたんだろう。一度忘れてもう一度フッと思い出すことなどあるのだろうか。
誰に言っても信じてもらえない。
イマジナリーフレンドってやつで片付ける人が大半だ。
でも私はしっかりみた。さっき言った通り私はツノに捕まって遊ぶのが好きだった。
その角が存在していないと、私はこの横にある壁に穴を開けずに済んだはずだ。
これを作り話か本当の話か、私が嘘つきの泥棒か正直はな人かは貴方が決めたらいい。
遠い日の記憶
ふと海を眺めて、今まで会ったことを思い出す。そういえば碌なことがなかったな。朝食べようとしていたパンは気づかないうちにかびていた。本を読もうとしたら、その本が見つからなかった。酒を飲もうとしたら切らしていた。料理を作ろうとしたら材料がなかった。
暑い砂浜の上をゆっくりと歩く。
交通事故で妻と娘を失ってしまった。妻と娘はとても楽しそうだった。2人にドライブをしないかと提案してみた。今日こそは死にたかった。
そう思って気づけば海に浸かっていた。
俺は生き残ってしまった。
海に身を任せようと思った。
「遠い日の記憶」
「前回までのあらすじ」────────────────
ボクこと公認宇宙管理士:コードネーム「マッドサイエンティスト」はある日、自分の管轄下の宇宙が不自然に縮小している事を発見したので、急遽助手であるニンゲンくんの協力を得て原因を探り始めた!!!お菓子を食べたりお花を見たりしながら、楽しく研究していたワケだ!!!
調査の結果、本来であればアーカイブとして専用の部署内に格納されているはずの旧型宇宙管理士が、その身に宇宙を吸収していることが判明した!!!聞けば、宇宙管理に便利だと思って作った特殊空間内に何故かいた、構造色の髪を持つ少年に会いたくて宇宙ごと自分のものにしたくてそんな事をしたというじゃないか!!!
それを受けて、直感的に少年を保護・隔離した上で旧型管理士を「眠らせる」ことにした!!!悪気の有無はともかく、これ以上の被害を出さないためにもそうせざるを得なかったワケだ!!!
……と、一旦この事件が落ち着いたから、ボクはアーカイブを管理する部署に行って状況を確認することにしたら、驚くべきことに!!!ボクが旧型管理士を盗み出したことになっていることが発覚!!!さらに!!!アーカイブ化されたボクのきょうだいまでいなくなっていることがわかったのだ!!!
そんなある日、ボクのきょうだいが発見されたと事件を捜査している部署から連絡が入った!!!ボクらはその場所へと向かうが、なんとそこが旧型管理士の作ったあの空間の内部であることがわかって驚きを隠せない!!!
……とりあえずなんとかなったが!!!ちょっと色々と大ダメージを喰らったよ!!!まず!!!ボクの右腕が吹き飛んだ!!!それはいいんだが!!!ニンゲンくんに怪我を負わせてしまったうえ!!!きょうだいは「倫理」を忘れてしまっていることからかなりのデータが削除されていることもわかった!!!
それから……ニンゲンくんにはボクが生命体ではなく機械であることを正直に話したんだ。いつかこの日が来るとわかっていたし、その覚悟もできたつもりでいたよ。でも、その時にようやく分かった。キミにボクを気味悪がるような、拒絶するような、そんな目で見られたら、お覚悟なんて全然できていなかったんだ、ってね。
もうキミに会えるのは、きょうだいが犯した罪の裁判の時が最後かもしれないね。この機械の体じゃ、機械の心じゃ、キミはもうボクを信じてくれないような気がして。
どれだけキミを、キミの星を、キミの宇宙を大切に思ったところで、もうこの思いは届かない。でも、いいんだ。ボクは誰にどう思われようと、すべきこととしたいことをするだけ。ただそれだけさ。
そうそう、整備士くんや捜査官くんの助けもあって、きょうだいは何とか助かったよ。
712兆年もの間ずっと一人ぼっちで、何もかも忘れてしまって、その間に大事な人を亡くした彼は、ただただ泣いていた。ずっと寂しかったよね。今まで助けられなくて、本当にすまなかった。
事情聴取は無事に済んだ!その上、ボクのスペアがきょうだいを苦しめた連中を根こそぎ捕まえてくれたからそれはそれは気分がいい!
だが、実際に罪を犯した以上、きょうだいは裁判の時まで拘留されなければならない!なぜかボクも一緒だが!!
……ただで囚人の気分を味わえるなんてお得だねえ……。
────────────────────────────────
「お疲れ様。取り調べも終わったことだから、あんたたちを部屋に連れてかないと。独房を管理してるヤツを呼んでるから、そいつに着いてけば大丈夫だよ。それじゃ、また今度。」
捜査官くんはそう言って部屋を出た。
しばらくは独房暮らし、か……。
「ね!ね!⬛︎⬛︎ちゃん!どくぼーってなに?」
「罪を犯した者が入れられる所さ!キミの場合、隣の部屋とはいえ、特別にボクも一緒にいられるが!」
「や!おうちかえりたいー!……でも、ボクわるいこだもんね。ちゃんとごめんなさいちないと⬛︎⬛︎ちゃんまでおこられちゃうの。それ、もっとやーなの!」
「キミは悪い事をしたが、キミ自身が原因ではないだろう?罪を償わなければならないのは事実。でもね、そう自分を責めなくていいのだよ。」
「だってボクたちは、素晴らしい研究者であるお父さんから生まれたきょうだいだからね!!!」
「おとーしゃん!……あいたかったなぁ。」
「⬜︎⬜︎、きっとお父さんはどこかで見守ってくれているよ。優しいお父さんがボクらを気にかけない訳がない!」
「ん!おとーしゃん、いいこだもんね!」
博士のことを話していると、ノックの音が聞こえた。
「失礼します。マッドサイエンティストさん……ですね?」
「いかにも!!!ボクがマッドサイエンティストだよ!!!」
「はじめまして。僕があなたたちの独房を担当いたします。今からご案内しますので、ついてきてください。」
「ああ、よろしく頼む。」
こうしてボクたちは取調室を後にした。
独房まで歩く間、3人分の足音しか響かない。静かだね。
一体どこまで歩くんだ???
よそ見をしていると、前から誰かが歩いてくるのが見えた。
「ん〜?」「……???」
「んん〜??」「???」
「んんん〜〜???」「さっきから何だい?!!」
「お前、マッドサイエンティストだよな!いつかやらかすと思ってたよ!」
「ボクは何もしていない!!!」「それ犯人のセリフ〜!」
「久しぶりに会ったと思えば!!!いきなりボクを犯罪者扱いとは!!!失礼にも程がある!!!」
「冗談だって!それとさ……。」
「お前、その歳で息子が出来たのか?!」
「違うよ!こっちは───」
「ねー!このこ、だれー?」
「あぁ、彼はボクと同じ公認宇宙管理士、コードネームは『サイレン』!!!いつもうるさいからね!!!」
「お前に言われたくねーよ!」
「まあよろしく!弟くん!」
「ボクがおにーちゃんだもん!」
「かわいいおにーちゃんだなぁ!ほーら抱っこだ!」
されるがままに振り回されている。
「たかいたかーい!」「お兄ちゃんは優しいか〜?」
「ボクがおにーちゃんなの!!」
「ちょっと……疲れたから……下ろすわ……。」
「もーいっかい!ねー!」
きょうだいは目をキラキラさせている。
「ちょ、ちょっとタンマ……。」
「あのー……お楽しみの所すみません。消灯の時刻も近づいておりますので……。」
「……だって、サイレンくん?」
「あー、悪い悪い!んじゃ、またな!おにーちゃんもしっかり寝るんだぞ!寝る子は育つって言うからな〜!」
「サイレンおにーしゃん、ばいばい!」
「お騒がせして悪かったね!」「たのちかった!」
「いえ、お気になさらず。」
……また沈黙が始まる。
「ところで……ボクたちの独房ってどの辺りにあるんだい?」
「もうすぐそこです。条件に合う部屋がそこにしかなかったので……。本部からのアクセスはあまり良くないですよね……。」
「いや、まあそりゃ独房に入るくらいの重罪人がそう簡単に本部へ行けたら困るからねぇ…….。」
「おへや!おへや!」
「972号室───こちらの独房がマッドサイエンティストさんのご兄弟の、973号室があなたの部屋です。」
「わー!おへや!」
「何かご用があればお申し付けください。ただし、勝手な行動並びに外部との過剰な接触は厳禁です。」
「了解!」「いいこでいるね!」
ボクたちはそれぞれ、独房に通された。
寝ることくらいしか出来ないであろう簡素な作り。
一見するとただの部屋だが、監視装置が無数にある。
……息苦しいなあ。
「わ!おふとんあるのー!」
「こら!飛び跳ねたら危ないよ?!」
小さな窓越しにきょうだいを見守る。
「ね!⬛︎⬛︎ちゃん!いっぱいおちゃべりちたいの!」
「あんまり話をすると怒られるかもしれないよ?」
「むー!」
ちょっと静かになったと思ったが……。
「ねー!このおへや、おふとんだけー?」
「てーぶるといす、たかくておすわりできないのー!」
……そうだよね。ずっと何もないところで、ひとりでいたもんね。痛いのを、怖いのを我慢して、辛かったよね?部屋にテーブルとベッドがあるだけでも嬉しいんだね……。
「ねー!おはなち!おはなちするのー!」
「おかちは?ふわふわでつめたいのがたべたい!」
「あのねー!おえかきとね、おべんきょうとね、あとねー……」
「……ちょっと静かにしてくれないかな?!」
「はーい!」
その後もきょうだいは延々と話し続けた。
「⬛︎⬛︎ちゃーん───」
『あと5分で消灯いたします。各自、速やかに部屋に戻りなさい。』
「しょーとー?」
「明かりを消して眠る時間が来たということだよ。さあ、いい子で寝ようね。」
「やだー!ボクひとりでねんねちない!!」
「独房だから我慢しよう!いつか出られるからね?」
「やー!ボクといっちょにねんねちて!」
「……参ったね。」
まあ仕方ない、当たって砕けろ!
「やあ、独房の管理人くーん……。」
「はい、なんでしょう?」
「あのね、きょうだいがボクと一緒に寝るって言って聞かないんだよ。おそらく今日から毎日そう言われるだろう。まさか対応して頂けるとは思わないが……。」
「ボクのきょうだいと同じ部屋で眠ってもいいかい……?」
「かしこまりました。今から上と掛けあってみます。」
「本当にすまないね……。」
しばらく返答を待つ。その間もきょうだいは床を転がってみたり、シーツを被ってみたりと忙しそうにしている。
「ちょ、何をしているんだい?」「おふとんごっこ!」
「……お待たせしました。話し合いの結果、危険性はないとの判断がおりました。そのため、こちらにおられる間はおふたりで就寝して頂いても問題ありません。」
「本っ当にありがとう……!助かるよ……!」
「お役に立てたようでなによりです。それでは、失礼します。」
「おにーちゃん、ばいばーい!」
挨拶もそこそこに、ボクが部屋を移ったタイミングで明かりが消えた。……もう眠る時間か。
ボクときょうだいはベッドに入る。随分と久しぶりだね。
「⬛︎⬛︎ちゃん、ありがと。ボク、⬛︎⬛︎ちゃんがいてくれてよかった。もうずっとさびちくないの。」
嬉しそうに話すきょうだいの頭を撫でる。
「⬛︎⬛︎ちゃん、おぼえてる?むかち、おとーしゃんもいっちょに、さんにんでねんねちてたの。」
遠い日の記憶が蘇る。
「ボクがおとーしゃんにだっこちてもらって、ねんねちてね。そのあと⬛︎⬛︎ちゃんはいっぱいおとーしゃんにおはなちちてもらってね。とってもたのちかったの!」
「もちろん、覚えているよ。」
「よかったー!⬛︎⬛︎ちゃん、ボクのことわすれちゃったかもって、ちんぱいだったの。」
「でもねー、⬛︎⬛︎ちゃん、ちゃんとおぼえてたの!」
「当然だよ。たった2年と少しでも、ボクにとっては大切な、かけがえのない家族との時間だったんだから。」
「ふふふ!」
「ねー⬛︎⬛︎ちゃん。ぎゅーって、ちて!」
ボクは黙って兄の小さな体を抱きしめた。
嬉しそうに何かを言っているが、ボクの体に顔を埋めているから内容はわからない。と思ったら突然顔を上げてこう言った。
「もーちょっと、このままでいてね。」
わかったよ。もう少しこうしておこうね。
安心した様子でこちらを見て、またボクに顔を埋める。
もう寂しくないね。ボクがそう呟いた頃には、きょうだいはもう眠ってしまっていた。
To be continued…
【遠い日の記憶】
この間は演劇の稽古の日で、いつもの場所で集まって仲良く稽古をして休憩していた時のこと。
「今の子って小さい頃何してたんだろうね?そういや千葉さんは小さい頃何してたの?」
話題は今の子、つまり私は17歳なのでそれくらいの年の子達。そんな話になっても仕方ないとは思う、今の大人と子供じゃ全然何もかもが違うのだから。
「そうですね〜」
続きを話そうとしたその時、遠い日の記憶が頭の中で再生されてしまった。
私が幼少期から住んでいるのは片田舎で、よく夕方になれば公園ではキジバトというフクロウのような声がする鳥が鳴いており、近所にはお寺とお墓とお地蔵さんと坂しか無くて、移動するには少し歩いてバスや電車に乗らなければ駅にも行けず、商業施設も駅に行かなければ無いくらいな土地であった。
そして小学生くらいの時からどこもかしこもグループができていて他所の住民は邪魔な存在。
そして私の事を好いている同級生なんていないのだからいつも1人で遊んでいたような気がした。
だから誰かと遊んだ記憶なんて私には残っていないが、聞かれてしまえば答えるしかない。
「そうですね友達と商業施設に出かけたり、ゲームとかしてたと思いますよ」
私はそんなことなどした事は無いのに嘘をついた。
嘘でも、大人たちが満たされればそれで構わない。
4年という長い闘病の末に父が亡くなり、もうすぐ6年を迎えようとしている。69歳の若さで亡くなった父。手の施しようがない癌だった。
その父が大事にしていた腕時計を今、ベルトだけは手直しをし、私が愛用している。光に当てれば電池交換いらずの優れもの。だが、ここ数年は少しガタがきたのか、いくら針を調整しても、必ず2分遅れるようになった。こうして少しずつ、少しずつ、時計も私も老いていくんだろうなと思うとちょっと切ない。
この時期、ベランダで夜風にあたると脳裏に浮かぶ。
泣きながら『兄』に電話をした、あの日を。
私は、卒論に行き詰まり、研究室の人間関係に行き詰まり、教授から干されて行き詰まり、たぶん、人生最大の挫折の渦中にいた。
休学して自宅に引きこもり、昼夜逆転。
クスリにこそ手を出さなかったが、自暴自棄になっていた。
そんな時、『兄』のように慕う人と出逢った。
彼は寡黙だったけど、ここぞというときの一言がとにかく重く響く人だった。
普段はサングラスをかけている奥の瞳はつぶらで優しくて、外した時の人の良さそうな顔は、彼の内面を見事に現していた。
私は、マンションから飛び降り自殺をしようと考えた。
自分に生きる価値なんて皆無だと思った。
包丁を持ち出して自分を傷つけようとしたけど、苦しむ時間が怖くて、実行しなかった。
ベランダの鳥避け用のネットを外し、人が通れそうな隙間を作った。
夜が深まった時、高所恐怖症の私は手摺に身体を預け、階下の駐車場をチラリと一瞥した。
この高さなら、いける。
深呼吸をしてから、震える手で手摺を握った。
私は怖かった。
死ぬのも
生きるのも
一線を越えるのが怖かった。
私はベランダにうずくまり、泣きながら『兄』に連絡した。
彼は、電話口の私の様子に、感じ取ったのだと思う。
嗚咽混じりで支離滅裂な私の言葉を、唯々「うん」「うん」と相づちを打って聴いてくれた。
涙とともに零れ落ちる、悲しみや絶望や苛立ちや情けなさや‥…そんな諸々を熊のような大きくふっくらした手で受け止めてくれていたのだと思う。
あの夜から、十数年。
『兄』はこの世界のどこか、あの夜の私のような限界を突破しちゃった人たちに会いに行っているのだと、人づてに聞いた。
『兄』は私だけのヒーローじゃなく、世界を股にかけるヒーローになるんだね。
#遠い日の記憶
『遠い日の記憶』
私がまだ4歳か5歳そこらの話。
その頃よく見ていた夢がある。
夢の中で私は大きな平屋の日本家屋にいた。
その中の中庭に面した畳の敷いてある部屋で1人遊んでいるのだ。
部屋の中にはぬいぐるみやゲーム機と言ったおもちゃもあれば、日本人形やお手玉と言った少し古めの物もあった。
そんな中1人で遊んでいると中庭の方から声をかけられる。
ふと顔を上げるとそこには、当時の私より幾分か年上であろう女の子がたっていた。
綺麗な黒髪をお下げにして綺麗な着物を着た可愛らしい女の子だ。
何処か懐かしい感じがして嬉しかったのを覚えてる。
その子とのひとしきり遊ぶ。
そして辺りが少し暗くなった頃にその子は帰っていくのだ。
帰り際、彼女は『今回も忘れないでね?』そう言って帰っていく。
そして目が覚めるのだ。
大丈夫忘れてないよ。
遠い日の記憶
家路を辿る夏の夕暮れ。雨上がりの匂い。どこか寂しい気がして、私はため息をつく。空の青も雲の白も少しだけ赤らんで、感傷的な雰囲気を醸していた。
大丈夫。そう自分に言い聞かせ前を向く。振り返らないと決めたんだ。遠い日の記憶に「青春」と名前をつけて、心の奥にしまい込む。
「遠い日の記憶」
思い出したくなくなって。
ぎゅっと頭の隅にしまって。
お前の笑顔が滲んでった。
肺の中がぎりぎりした。
みー。
そう俺を呼ぶ声は優しかった。
おいで。
夜空にふたりぽっち、砂浜に寝転がった。
それだけで良かった。
ゆー。
俺は小さく呟いて。
そしたら空っぽにしてた心が熱くて。
涙腺の蛇口を無理やりしめた。
お前の涙が、脳裏にいた。
ゆー。
泣かないでとお前に言った回数だけ。
俺と一緒に泣いてくれ。
世界不適合者の俺たちだって。
泣いたっていいに決まってる。
みー。
そう俺を呼ぶ声が、夏の奥底に。
細くて脆そうなお前の手が。
今でも頬にいるから。
ゆー。
間違いなくお前は俺を大好きだから。
ふわりと浮かんだ宇宙に逃げよ。
嘘つきで泣けない俺たちだって。
居場所を作っていいに決まってる。
みー。
ゆー。
それだけでなんとなくわかるから。
えすおーえすはいらないから。
いつでも一緒になけるから。
いつでも一緒にしねるから。
そんなこと言ってたのに。
ふたりぽっちまいなすいち。
心臓の隅に乾いた涙がひりついてるから。
もー、いきたくないよ。
そっちいかせろよ。
遠い春の思い出。
雛祭りの日には、ご近所の老夫婦から
必ずお宅へとお呼ばれされていた。
色鮮やかな雛あられに湯気の昇るお茶
立派に並べられた雛人形達を前に
老夫婦と折り紙と絵を楽しみ
私と姉は可愛がってもらっていた。
ある雛祭りの日に、つい口に出したのは
此処の子だったら良かったと言う言葉。
老夫婦は一瞬だけ顔を見合わせて
“私達の子供等はどれだけ離れようとも
あの子達の他には居ないんだ”と
そう、申し訳なさげに言っていた。
雛形である自分が川へと流されてゆく様な
抗う事も許されない突然の喪失感は
胸にぽっかりと穴を押し開け
濁流の如くに過ぎ去っていったが
依代だとしても良くしてくれた老夫婦が
少しでも不幸を避けて幸せであってくれるなら
この時間だけは幸せに盲目であろうと思った。
その後、何度もお呼ばれはすれど
そう言った言葉は二度と口にしなかった。
そして、最後に会った時
老夫婦は、どちらも安らかな顔で
遠くに離れ住んでいたであろう家族に
慈しまれ惜しまれつつ、かこまれて
屋根の下に降る暖かな雨に見送られていった。
もう会えはしないが、あの時の喪失感は
知る必要のある痛みであったんだと
私は今でも、そう感じているよ。
ー 遠い日の記憶 ー
おそらくは他者よりも薄らがない記憶は今も色鮮やかに蘇る。それを優秀というか不幸というかは人生への幸福度によるかもしれないが。
あの頃にはもう少しだけ柔らかかった手は、皮が厚くなり、握り込むとざらりとした感触を返してくる。
握り慣れなかった武器の柄は、すっかり馴染んで、もう新しい豆ができることはない。
人間のことを何も知らずに、首を傾げてなぜなぜなぁにと尋ねた自分を、近しい友たちは、面白がることはあってもバカにするようなことはなかった。好奇心が人並み外れていたからかもしれないが、ありがたいことである。
友も若輩が多かったからか、うまくいかないことも悩みもあった。自分が何かの力になれたかは、今となってはわからない。それでも同じく悩むこともできたし、わからない時には隣にうずくまり、時には暖かな飲み物を差し出した。
無力に寂しく情けなく感じることはあっても、あの頃がなかったらなんて一度も思わない。涙に似た何かを頬に光らせて、あてもなく歩いたあの日、隣にはいつだって相棒がいた。
あの日、並んでぴょこぴょこと歩いていた相棒は、体幹と体重の問題でもう跳ねているようには見えない。
それでも、並んでいるのは今も同じ相手だというのが、より一層あの日を色鮮やかに見せるのだ。
「この自転車でどこまでも行ける」
そう思った子ども時代
「この電車でどこまで行こうか」
そう思った青春時代
「あの飛行機でどこかへ行ってしまいたい」
そう思った暗黒の日々
「もしタイムマシンがあったら
あの頃に戻ってもう一度
自転車を力いっぱい漕ぎたい」
そう思った最期の時
―――遠く遠く
#78【遠い日の記憶】
遺伝子に
刻まれている
本能の
ひとつ失い
新人類に
【遠い日の記憶】
今は亡き祖母と通った今は亡き温泉"玉の湯"風呂上がりに飲むフルーツ牛乳と、ざる蕎麦にカツ丼。わがまま言ってよく怒られた。
あの日、何をしていただろう
もう思い出せない
仕方がない、もう10年も前のことだ、10年も経てば年寄りでも若者でも忘れてしまう
しかし、忘れたことには、必ず理由がある
多分、あの日の記憶は、僕にとってはもう「過去」であって、決して、「思い出」でも「想い出」でもない
「過去」になってしまったら、当時どれだけ強い思いを持っていても、脳のゴミ箱に捨てられてしまう
きっと、その時の記憶は、泣いている
もう忘れられてしまったのか、もう思い出されることもないのか、と
しかし、気づかない
僕たちがゴミ箱の中を気にすることがないように、記憶のゴミ箱を気にすることもない
遠い日の記憶、いまではもう、屑籠の中
僕たちが気にすることもない、美しい、ゴミ
遠い日の記憶、それは棺桶に片足突っ込んだころ、孫や介護士にウザがられながら、盛りに盛って語られる英雄譚
早く
仕事を辞めて
専業主婦になりたかった。
母親が
専業主婦だったし
目指した職業は
やりがいはあるけど
給料は低くて
多分
自分が
長く
働き続ける姿を
想像
出来ていなかった。
夢は叶えた。
そして今
思うことは―――
専業主婦は
わたしには
絶対ムリ!!
家で過ごすのは
好きなんだけど
家にいて
話し相手は家族が基本で
家事をやる
なんて
家事がニガテで
おしゃべりなわたしには
ムリ!!
病んじゃう!!
#遠い日の記憶
【私のトラウマ】
あれは私がまだ7〜8歳の頃、
ギリギリ記憶に残ってるぐらい昔の話。
私の父はサービス業で、土日祝は絶対に仕事。
だからあれは、
夏休みなどの長期休暇中の平日の夜の思い出。
年に数回あるか無いかの、家族4人での外食。
チェーン店のステーキ屋さんで夕飯を食べて、
店を出た。
車に乗り込むまでの距離を歩く間に、
私は近くのパチンコ屋のネオンに見入ってしまった。
不規則なリズムで点滅し、
流れるように動く、カラフルな光。
文字が浮かび、消え、
また形を変えて、陽気に動き回る。
私はその点滅のスピードに追い付こうと、
夢中で踊り始めた。
ジャンプし、両手を広げ、体を揺らした。
そして私がハッと気付いた時、
家族の乗った車は、
私を乗せないまま急発進した。
大慌てで車を追いかけて走った。
今思えば、ほんの数メートルの事だっただろう。
急発進だと感じたのも、きっとただの徐行で。
それでも当時の私にとっては、
何十年たっても思い出す度に心がザワザワする、
立派なトラウマになっている。
後部座席のドアを急いで開けて乗り込むと、
ミラー越しに父の険しい顔。
母も無言で睨んでくる。
母はいつもそうだ。
父や祖父母の前では、絶対に怒らない。
黙って睨み付けてくる。
そして夜、祖父母や弟が眠りについて、
父が遅くに帰宅するまでのわずかな時間に、
わざわざ私を起こして、往復ビンタの説教が始まる。
これは、そんな思い出の中のひとつだけど、
捨てられるという恐怖を強く感じた、
特に思い出したくない、
けれどはっきりと覚えている出来事だ。