SAKU

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おそらくは他者よりも薄らがない記憶は今も色鮮やかに蘇る。それを優秀というか不幸というかは人生への幸福度によるかもしれないが。
あの頃にはもう少しだけ柔らかかった手は、皮が厚くなり、握り込むとざらりとした感触を返してくる。
握り慣れなかった武器の柄は、すっかり馴染んで、もう新しい豆ができることはない。

人間のことを何も知らずに、首を傾げてなぜなぜなぁにと尋ねた自分を、近しい友たちは、面白がることはあってもバカにするようなことはなかった。好奇心が人並み外れていたからかもしれないが、ありがたいことである。
友も若輩が多かったからか、うまくいかないことも悩みもあった。自分が何かの力になれたかは、今となってはわからない。それでも同じく悩むこともできたし、わからない時には隣にうずくまり、時には暖かな飲み物を差し出した。
無力に寂しく情けなく感じることはあっても、あの頃がなかったらなんて一度も思わない。涙に似た何かを頬に光らせて、あてもなく歩いたあの日、隣にはいつだって相棒がいた。

あの日、並んでぴょこぴょこと歩いていた相棒は、体幹と体重の問題でもう跳ねているようには見えない。
それでも、並んでいるのは今も同じ相手だというのが、より一層あの日を色鮮やかに見せるのだ。

7/18/2024, 9:48:06 AM