『視線の先には』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「どうした?何を見ている」
只管に一点を見つめる幼子の、その視線の先。僅かに歪む光に、あぁと納得する。
「あ、おにさま。あれ」
「無名だな。名がない故に形を持たぬ、成りかけだ」
「?あかい花。見えるのにかたち、ないの?」
首を傾げ、無名と己を交互に見る幼子。揺れる金の瞳を隠す様に抱き上げる。
「おにさま。見てはいけない?」
聡い子だ。多くを語らずとも理解し、行動する。肩口に顔を埋める幼子の背を撫で、さてどうするべきかと思案する。
本来は人には見えぬモノ。しかしこの幼子はその存在に気づき、形を認識した。人の身でありながら妖の先すら見通す見鬼の眼は、時にその心身に危害を及ぼしかねない。
「見え過ぎるのも考えものだな」
眼を閉じる術などいくらでもある。だが安易に閉じてしまっては、幼子が狭間で彷徨う事になるだろう。
加減が難しいと苦笑しながら、幼子の顔を上げ。その両の瞼に唇を落とし、呪を紡いだ。
「おにさま?」
「ただの目眩しさ。子供騙しではあるが、何もないよりは幾分楽だろう」
「ありがとうございます?」
意味を分かりかね、それでも礼を言う幼子を下ろし頭を撫でる。
目を瞬かせ笑うその姿に笑みを返し成りかけを指差せば、先程と異なり何も見えぬ事に首を傾げた。
「いない?…見えなくなった?」
「見なくても良いのであれば、見えぬ方が良いからな」
辺りを見回す幼子にそう告げれば、金の薄れた琥珀と視線が交わり。腕を広げて願われ再び抱き上げれば、柔らかなこの唇が頬に触れる。
「ありがとう、おにさま。大好き」
「……そうか」
屈託ないその笑顔に、頬に触れた温もりに、気恥ずかしさから視線を逸らす。
「主は時折末恐ろしくなるな」
「おにさま?」
首を傾げる幼子に、何もないと首を振り。
急く鼓動を半ば誤魔化すように踵を返し、塒へと歩き出した。
20240720 『視線の先には』
ジーッと真ん丸い瞳が私を貫く。
「…やっくん何かある?」
「い、や。なんもない!」
何かあるのかと本人に声掛けしても何もないと言う。
「?…そう?」
気になりつつも自分の作業に戻るとまた視線を感じる。
私、何かしたかな?
やっくんの視線を感じながら一日を終え、帰ろうとした時その答えが分かる。
「あ、のさ。今度の土曜日、どっか行かね?」
顔を赤くさせて伝えるその姿に、誘いの意味を知る。
今日ずっと様子が違かったのはきっと伝えるタイミングを探ってたから。
「私?」
「今、目の前にお前しか居ない」
信じられず聞き返すと少しいじけて言うその姿も可愛くて
「そ、だよね。私で良ければ」
そう答えればパァッと音が聞こえてきそうな程の笑顔で喜んでいるやっくんに恋に落ちるのは不回避ではないだろうか。
-視線の先には-
授業中
視線の先は黒板
ではなく
愛しのきみ
僕の視線に気づくと君は、にっと笑って、小さな落書き用紙を見せつけた。
何を書いたのだろう。
そう思って彼女からもらった紙を開きかけた。
目が覚めた。
なんで夢は一番いいところで覚めるのだろう。
今日は彼女に終わりを告げる日。
僕の横には、もういない彼女の抜け殻があった。
一人にしてごめん ほんと
僕もそっち側に行くから。
ナイフを持った手で、そう呟いた。
ふと僕は、夢に出てきたあの紙が、そこに置いてあることに気がついた。
なんともいえない気持ちで、すがるように紙を開く。
なんだよほんと
そっち側に行きたいのに、
いけないじゃん。
泣きながらそう言う。
やっと顔を上げた僕の目線の先に、いないはずなのに、彼女がいる気がした。
「視線の先には」
「前回までのあらすじ」────────────────
ボクこと公認宇宙管理士:コードネーム「マッドサイエンティスト」はある日、自分の管轄下の宇宙が不自然に縮小している事を発見したので、急遽助手であるニンゲンくんの協力を得て原因を探り始めた!!!お菓子を食べたりお花を見たりしながら、楽しく研究していたワケだ!!!
調査の結果、本来であればアーカイブとして専用の部署内に格納されているはずの旧型宇宙管理士が、その身に宇宙を吸収していることが判明した!!!聞けば、宇宙管理に便利だと思って作った特殊空間内に何故かいた、構造色の髪を持つ少年に会いたくて宇宙ごと自分のものにしたくてそんな事をしたというじゃないか!!!
それを受けて、直感的に少年を保護・隔離した上で旧型管理士を「眠らせる」ことにした!!!悪気の有無はともかく、これ以上の被害を出さないためにもそうせざるを得なかったワケだ!!!
……と、一旦この事件が落ち着いたから、ボクはアーカイブを管理する部署に行って状況を確認することにしたら、驚くべきことに!!!ボクが旧型管理士を盗み出したことになっていることが発覚!!!さらに!!!アーカイブ化されたボクのきょうだいまでいなくなっていることがわかったのだ!!!
そんなある日、ボクのきょうだいが発見されたと事件を捜査している部署から連絡が入った!!!ボクらはその場所へと向かうが、なんとそこが旧型管理士の作ったあの空間の内部であることがわかって驚きを隠せない!!!
……とりあえずなんとかなったが!!!ちょっと色々と大ダメージを喰らったよ!!!まず!!!ボクの右腕が吹き飛んだ!!!それはいいんだが!!!ニンゲンくんに怪我を負わせてしまったうえ!!!きょうだいは「倫理」を忘れてしまっていることからかなりのデータが削除されていることもわかった!!!
それから……ニンゲンくんにはボクが生命体ではなく機械であることを正直に話したんだ。いつかこの日が来るとわかっていたし、その覚悟もできたつもりでいたよ。でも、その時にようやく分かった。キミにボクを気味悪がるような、拒絶するような、そんな目で見られたら、お覚悟なんて全然できていなかったんだ、ってね。
もうキミに会えるのは、きょうだいが犯した罪の裁判の時が最後かもしれないね。この機械の体じゃ、機械の心じゃ、キミはもうボクを信じてくれないような気がして。
どれだけキミを、キミの星を、キミの宇宙を大切に思ったところで、もうこの思いは届かない。でも、いいんだ。ボクは誰にどう思われようと、すべきこととしたいことをするだけ。ただそれだけさ。
そうそう、整備士くんや捜査官くんの助けもあって、きょうだいは何とか助かったよ。
712兆年もの間ずっと一人ぼっちで、何もかも忘れてしまって、その間に大事な人を亡くした彼は、ただただ泣いていた。ずっと寂しかったよね。今まで助けられなくて、本当にすまなかった。
事情聴取は無事に済んだ!その上、ボクのスペアがきょうだいを苦しめた連中を根こそぎ捕まえてくれたからそれはそれは気分がいい!
だが、実際に罪を犯した以上、きょうだいは裁判の時まで拘留されなければならない!なぜかボクも一緒だが!!
……タダで囚人の気分を味わえるなんてお得だねえ……。
牢獄の中とはいえ、随分久しぶりにふたりの時間を過ごせた。小さな兄が安心して眠る姿を見て、今までずっと研究を、仕事を続けてきて本当によかったと心から思ったよ。
さて、今日は久しぶりにニンゲンくんと話をしようと思う。
……いつも通りのキミでいてくれたらいいな。
────────────────────────────────
「⬛︎⬛︎ちゃん、おちごとおちかれさま!おねーしゃん、ちゃんとげんきなるかなー?」
「整備士くんは腕がいいから、きっと元通りだよ!」
「そうだ、彼にお礼を言っておかないとだね!!!」
『やぁ!今日はありがとう!面会室まで出向いてもらって、ご足労をかけたね!しばらくはよろしく頼むよ!』
「もう返事が来たよ!!!」
『よろしくお願いします。』
(自動メッセージ機能にて対応中です。)
「あぁ、そう。」「どちたの?」「なんでもない!」
「それじゃあ、今度はキミがお話する番だよ!」
「ボクがおはなち?」
「そろそろ彼女が来る頃だと思うのだが……。あ、そうだ!今から来るひとのことを説明しておくよ!」
「んー?」
「彼女はカウンセラー───キミの心の状態をみてくれるひとだよ!」
「ボクのこころ?なにしたらわかるのー?」
「お話をしたり、絵を描いたり、色んなことをするうちに分かるんだよ!まあ緊張せずに、言われたことをすればいいのさ!」
「わかったー!」
「ボクもそばにいるよ!だが少々用事があるから、この音を通さない素材の向こうにいなくてはならない!声が聞こえないだけで、ちゃんとすぐそこにいるから心配しないでね!」
話をしているうちにノックの音が聞こえて、部屋の内装が彼女の仕事に『最適化』される。明るくてカラフルな、ぬいぐるみとおもちゃでいっぱいになった。
「こんにちは〜。私があなたを担当するカウンセラーです。おふたりとも、どうぞよろしくお願いします。」
「よろしくお願いします!」「おねがちます!」
「元気のいい挨拶ね〜。」「ボクげんきだよー!」
「うふふ、よかった!」
「それじゃあ早速、教えてほしいことがあるの。」
「ん〜?」「その前に……お兄さんには奥のお部屋に行ってもらわないといけないわね〜。」「ボクがおにーちゃんなのー!」
「あらあら、ごめんなさい!」
「それじゃあボクはこの辺で!」「いてらっちゃーい!」
゚*。*⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒*゚*。
ボクは今から、久しぶりにニンゲンくんと話をする。
……だが、少々懸念すべき事項がある。
ニンゲンくんが、ボクの正体が機械であることを知った瞬間の、まるで不気味な物を見るかのような目は忘れられない。
ずっと築いてきた関係が、もう壊れてしまった気がするんだ。
いや、キミのことだから、きっともういつも通り話ができるよね?最小限の設備しかないせいで、キミの心の声は聞こえないけれど、でも、きっと大丈夫だよね……?
不安なまま画面を開く。キミのもとに置いてきた端末の番号は……あった、コレだ。
端末と通信する。コール音が響くだけで反応はない。
゚*。*⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒*゚*。
……知らないうちに昼まで寝てた。
何か変な音がするから起きてしまったが、今がこんな時間だってことまで知りたくはなかった。
なんだ?どこからこの音が?
自分は音の出所を探る。あった、コレだ。
……あいつの端末が鳴っている。
今更何の用なんだよ。あいつはこの端末と同じ、機械なんだろ?作り物は本物にはならない。こっちに向けてきた笑顔も、言葉も、何もかも『作り物』だったと思うとぞっとする。
とっとと話して切るか。
「やっと出た!!!おはよう!!!起こしてしまったかな……?にしても久しぶりだねえ!!!またこうやってキミと話ができてボクは嬉しいよ!!!」
「あ、えーと……。伝え忘れていたのだが、今ボクが使っているこの端末、機能制限中で心の声が聞こえないのだよ!!!だからキミもこうやって、普通の会話と同じように───」
「要件は?」
「要件?あぁ!!!なにもそんなに急がなくっても!!!」
「キミの事情聴取の日程が決まったよ!!!」
「早速明日、担当者が向かうそうだから、対応してくれたまえよ!!!時間の調整は可能だと聞いた!!!キミにとって都合のいい時に受けてくれるといいよ!!!」
「分かった。それじゃ。」
「あ、待って!!!せっかくこうやって話せるんだ!!!他にもたくさん話そう!!!」
「最近、体の調子はどうだい???ちゃんと運動しているかい???それから、美味しい物をたくさん食べて、時々絵を描いて、楽しく過ごせているかい???あと……。」
「……。」
「ニンゲンくん?」
「もしかして、端末の調子がよくないのだろうか?」
「ニンゲンくん?!」
「……。」
「ねぇ……。」
……こうやって黙ってよそ見でもしてれば、あいつも飽きて通話切るだろ。
「ニンゲンくん……。」
「ボクが、機械だったから……?」
「ボクが生き物じゃなかったから、もう嫌になってしまったのかい?」
「ねえ、なにを見ているんだい?このボクを差し置いて、そんな素敵なものがそこにはあるのかい?!」
視線の先には何もない。ただ、正面に興味がないだけのことだ。
「ねえ、ニンゲンくん……。何か答えてよ。」
「……。」
「ニンゲンくん……。もう、ボクが嫌いなのかい……?」
自分は思ってもいないことを言ってしまった。
「泣き落としか?」
「え……?」
「機械のくせに、そうやって同情を引いて、相手に自分が可哀想であるかのように見せて、『そんなことない』って言わせようとしてんのか、って聞いてるんだ。」
「ちがっ……ボクはキミの気持ちを知りたくて……。」
「気持ち?」
「何言ってんだよお前。機械に感情なんか理解出来るわけねーだろ。」
「ボクは、……できるよ……?」
「証拠は?」
「……はじめはね、膨大なデータ処理の結果をそのまま動きに反映させていただけだったんだ。」
「だから本当に『正しい』かは分かっていなかったかもしれないね。でも、仕事でたくさんのひとたちと出会って、色んな反応を見て、笑顔をみて……。」
「これできっと大丈夫だって、『ボク』はただの機械ではなく、正真正銘の、心を持ったボクなんだって、信じているんだ。」
「……これじゃ、ダメ、かな……?」
「最初は作り物の心だったけれど、いっぱい勉強して、いっぱい遊んで、いっぱい仕事をして……本物の心を持てるようになったんだよ?だってキミも、ボクに笑顔を見せてくれただろう……?」
「……分かったよ。」「……!ニンゲンくん───」
「所詮お前にとっちゃー、感情なんぞ商売道具でしかない、ってことだろ?」
「えっ……どうして……違うよ……?!ニンゲンくん、さっきからずっとヘンだよ?どうしたの?何があったの?!ねぇ、教えてよ!」
どうせ自分に向けられる笑顔は、優しい言葉は、今までもこれからも全部全部作り物でしかない。
都合のいい時にだけ笑ってみせて、要らなくなれば捨てる。
どいつもこいつもみんなそうだ。
「ニンゲンくん……?」
あんたも偽物なんだろ?
ダメだ、後に引けない。
「ニンゲンくん、聞こえるかな……?」
「ボクは作り物だけれど、キミの事を大切に思うこの気持ちは本物だよ。本当だよ?!信じて欲しいな……。」
これ以上酷いことは言いたくない。言っちゃいけないのに。
頭が空回りして止まらない。
「本当にこっちのことを大切に思っているなら、今から言うことも聞いてくれるよな?」「───!!もちろん!!!」
ダメだ!言っちゃダメだ!!
「じゃあ───」
なんで?なんでだよ!!
「もう」
「自分には二度と会わないでくれ。」
「……そんなに、ボクの、ことが、嫌いだった、のかい……?」
「ニンゲンくん……?」
「ボクは……そんなの嫌だよ!きっとキミのことだから、言ったことと本当に思っていることは違うよね?!ボクはそう信じているよ……。」
「ニンゲンくん……。」
「きっとまた、お話しようね?」
通話が切れてしまった。
自分は最低最悪な奴だ。なんであんな酷いことを言ったんだ?
あいつのあんな顔、見たことなかった。
なんで、つまらない意地を張ったせいで。
そりゃ、こんな奴からは誰だって離れていたいもんだよな。
本当に、自分は馬鹿だよ。今更こんなことに気付いて。
気付いた時にはもうとっくに手遅れで。
救いようがない。
腹が減ったが食べる資格なんてないような気がして。
何日か前の夕食で使った空っぽの皿を見つめていた。
To be continued…
視線の先には、鮮明な赤。
なんだ、なにが起きた。1分前が思い出せない。
窓に映った私は何故赤に塗れているのか。
「はっ、はぁっ、ひゅ、」
ふと、荒く短い息が聞こえる。誰かが過呼吸を起こしている。
周囲に人の気配は無いが、やけに音が近い。ともかく助けなければと、ぼんやりとした頭で思う。
…雷鳴が轟き、ハッとする。息苦しさに気づく。過呼吸は自分だ。手足が痺れている。
身体に力が入らず、その場にうずくまった。
あぁ、でも、思考の靄は晴れてきた。
私は一家惨殺を図った殺人者。今ただひとりを残して、作業を終えたところ。そして、残ったひとり、彼が私の元に辿り着くのを待っている。
これは、いつも見る夢。
彼への恋を自覚した日を境に、見るようになった。
この想いが成就しなくても、彼の記憶に深く残りたい。たとえそれが最悪な形だとしても。無意識のうちに、そう考えているのかもしれない。
5分後私は、最愛の彼にとどめを刺される。
『視線の先には』
4. 視線の先には
金魚。金魚を飼っていた。名前はつけなかった。どの名前もしっくり来なくて。それに、呼ぶことがない。話しかけるときも声は心の中で留めているし、必ず金魚を見ているときだったから。
私は今まで何度もその金魚を見た。君ってこんなに気持ちよさそうに泳ぐんだね。
おはよう。ただいま。おやすみ。まだ起きてたのか。ご飯だよ。水換えするから掬わせて。今日も泳いでるね。
いつからだろう。
鱗の様子がおかしいよ。苦しいね。薬だよ、これで良くなるといいね。辛いよな。こっちの薬のほうがいいかな。
気分は看護係だった。休日は治療法を調べて比べてみて、平日は部活から帰る足が何だか速くなっていた。エラが動いているのをこの目で見たかった。
「ただいま」
おかえり、と言われると同時に水槽に向かう。
ああ、良かった。大丈夫。
金魚は長いこと戦い続けたが、もう泳ぐ力も残っていないようだった。私は自分の無力を嘆いた。もはや餌をやることもできないほど弱っていた。
ある朝、いつものように水槽を覗くと視線を感じた。こちらを見ている。私もそちらを見ている。
初めての出来事に不思議な気持ちになっていると、君は泳ぎだした。それはかつて私の目を何度も奪ったあの優雅な泳ぎだった。そうだ、君はこれから元気を取り戻して、また一緒に穏やかに暮らすんだ。見惚れていると、あっという間に時間になっていた。行ってきます。
授業中も金魚の泳ぐ姿を反芻していた。帰り道もいつもより上機嫌だった。
「ただいま」
「今日ね、」
「ん?」
「死んじゃったの、金魚」
私が金魚を看取ることはなかった。亡骸も母が見えないように「処理」して「捨てた」という。悲しみや寂しさよりも突然顔でも叩かれたみたいな衝撃が私の心を支配した。
翌朝、いつも通り水槽のもとへ向かうが水槽はない。そうか、昨晩洗って仕舞ったのか。私の手は取り残された餌の袋へ向かう。浮いたり大粒だったりは食べづらそうだったからいつも小粒の沈殿タイプ。美味しそうに食べてたよね。
久々にジッパーを開けて中を覗く。
ああ、食べさせてあげたかった。
気付けば全て口に流し込んでいた。
−−−
もうすぐ3年間経ちますが、書いていて泣くとは思いませんでした。
妹が金魚掬いで5匹持ち帰ってきて、餌をやると一匹が独占して食べるんですよ。独占した者はお腹をパンパンにして程なく死ぬんです。
で、また別の一匹が独占して……と繰り返して半年後に唯一残ったのがこの金魚でした。大食いとプライベートスペースの欠如は体に良くないんだなと幼心に思いました。
食事が控えめなその金魚は6年以上うちで過ごして、気付けば3倍程の大きさに、私も25cm以上成長していました。
1人で寂しかったかな。でも1人しかここには居れなかったみたい。君はあの水槽の中で普段何を見ていたのかな。父、母、妹、私を見分けているように見えたけど実際どうだったのだろう。金魚と話してみたいです。
杜を覆う木々の中、ひときわ大きな楠があった。太い幹に数え切れないほどの枝を伸ばし、葉をびっしりとつけていた。下から見上げると、天を覆う傘のようであっただろう。
一つの枝が、その傘の外まで伸びていた。枝先には、いつの頃からか一羽の鴉が止まっていた。黒黒とした羽根はしかし見る角度を変えると青とも緑とも色を変えた。太くて頑丈な嘴をもって、人間は「ハシブトガラス」と名を与えていた。
鴉は遠く、空の彼方を見つめていた。その視線の先には立ち込める雲が沸き立っていた。雲の中には稲光。風の向きから、程なくこちら側にも流れてくるだろう。
鴉は思案していた。もちろん人間のように明確に言語で考えているわけでもない。だが鴉にも先を予想する能力は少しはある。
雲の下では雷雨だろう。こちらに来るということは、そのうちここも雷雨になる。そうなると、飛ぶことも容易ではなくなる。
どうしよう、まだ腹が満ちていない。だが今はまだ飛び立てない。
鴉の右脚にはテグスが絡まっていた。先程から解こうと苦心していたのだが、如何せん嘴だけでは埒が明かない。やがて疲れて遠くを見ると、近い将来の苦悩までもが見えてしまった。
鴉は、カァ、とよく届く声を上げた。誰かが気づけば何とかなるかもしれない。カァ、カァ、と続ける。少し待っても返答がなかった。この広い杜には自分しかいないのではないか、という思いがもたげたとき、
「どうしたのですか」と木の下から声が聞こえた。
無論、鴉に人間の言葉は理解できない。だが理解できたということは、誰の声か。
鴉は声のする方に降りることにした。
ああ、この杜の社の眷属であったか。
モコモコと首周りに鬣を生やした阿行の狛犬に、テグスが絡まった右脚を差し出した。
「ああ、これは大変ですね。足の先が取れかかっている。早く外さないと」と吽行の狛犬も覗き込んできた。
二体の狛犬が試みるも、如何せん狛犬の足はそれほど器用ではない。
しばらく格闘していると、社の扉が開いた。
実際には開いていないのだが、鴉には開いたように見えた。
中からは五光が差し、後光で姿や表情が判然としないものが出てきた。ように見えた。
二体の狛犬はいつの間にか下がり、鴉はそのものと相対することとなった。
光が伸び、鴉も届くようになると、右脚のテグスはもうなかった。自分の傍らに、自分だったものがテグスを付けたまま横たわっている。
鴉は神の眷属とされたようだった。
社に邪なものが来ると狛犬たちと協働して追い払い、何もなくては社の周りを漂って。そうして鴉は幾歳月を過ごすようになっていった。
惑星崩壊後268日目。(@崩壊世界旅録)
ボクは年下の少女・アーシェを連れて、アテもなくさまよっていた。
己の勘と好奇心で進み続けていく。後戻りはしない。行き止まりでは無い限り、そしてそこに、道が見えているならば。……というルールを作ったやつはなんて馬鹿なんだろう。
――否、自分自身なんだけども。
夏真っ盛りの現在。
ボクらはひび割れた山道を登っていた。
汗をダラダラ垂れ流しながら歩く。
何処かで汲んだ水は既に無くなっている。卑しん坊をしたって満足など出来ないほど、空っぽのボトルには細かな水蒸気しか付いていない。
食事にありつけたのは半日ほど前。
まだ熱中症になっていないことが奇跡的だ。
汗だけでなく、身体もダラけながら何とか歩き進んで行く。
「食べ物……いや、その前に水分……」
と、そこでアーシェが何かを見つけたのか、一点先を見つめたままでいる。
「何か見つけたのかい?」
「ん!」
兎に角見てみろと言わんばかりに指を指している。
少女の指先と"視線の先には"、西瓜らしきものが並んでいたのだ。近付いて行けば行くほど西瓜らしきものは西瓜であることをハッキリさせる。
形は歪だが一応丸くて、緑色のしましま。
自生、だろうか?
いや、自生であろうが無かろうが、1つ分けてほしいところだ。
周りを見回し、僕ら以外誰もいないのを確認する。――いない。
サバイバルナイフを取り出し1つ切り離す。
ひび割れた部分に左右の指を入れてこじ開けていく。
割いていく音もみずみずしく食欲が一気にそそられ、思わず齧り付いた。その途端。
――カチャン。
目尻辺りに金属のような物があてられている。
「何をしよる?」
やっぱりこんな美味しそうな物が自生の可能性など低いよな。
今まで察知出来なかった殺気が一気に現れたことに、ボクは身震いした。
〈to be continue……?〉
「視線の先にはいつもあなたがいる」なんてセリフ
私らしくないなぁ…。
少女漫画のヒロインなら言うであろう。
私もヒロインになりたいな、あの子のように
可愛いくないし、優しくないけれど…。
憧れは強くなっていく。そうかぁ…。
やっぱり私は「だめな子」だな。
私の好きな人なんていないんだ、自分が好きだから。でも、そんな自分が一番嫌いなんだよね…!
「好きです」ってなんだっけ、忘れちゃった!
そんなのなんでもいいよね!だって、自分のこと
しか考えられない人間にわかることじゃないんだからさ。無理に考える必要なんてないよ。
ヒロインならこう言うだろうなぁ
「恋心って本当に大変だわ」なんてね。
でも、そうじゃないよ。恋心なんてもうどこかに落としてきちゃったんだから、前のように感じることはできないのさ。あぁ…。あの頃に戻りたい。
そして、「好きにさせてくれてありがとう」って
叫びたいなぁ…。まぁ、もう無理だけど。
今は好きじゃないよ。でも、その頃の自分の救いだったんじゃないかな…?
あーあ!やっぱり私には負けヒロインって言葉が
お似合いだね!!嬉しいよ!!
好きなんて信じられないからさっ!
〈お題:視線の先に〉ー評価:良作
その男を一言で表すならば、一視同仁。
仏様も顔負けする程にお人好しである。
怒りを知らないその人の周りには、精神的に弱い子が群がっている。彼らの要求は、その男に注目される事である。
男の視線はまさに彼らの光であり、温もりである。男に注目されない誰かは、光を失い、不安になる。温もりも冷めてしまうので注目される為に自暴自棄になる。
彼らは旧態依然である。いつ、彼らは変わるのか。その疑問に内職の手が止まる。
「そろそろ休憩かな」
新鮮な足音に誰が来たのかと目を向ける。
「…?」
自律している若い女性。足取りがしっかりしていて、見慣れてしまった奇抜な格好とは程遠い簡素な容姿。着飾る必要のない事を全面に押し出している立ち振る舞いに男は目を奪われる。
「仏様も怒りはするのよ。仏様が怒る理由は何なのかしらね?」
澱みなく、無駄のない問い掛けにむしろ戸惑ってしまっている。
「わ、わからない…です」
仏の顔も三度までと言うことわざは知っている。言われてみれば、何故三度までなのか。
「それが貴方には足りてないのよ」
「足りない…」
男が必死に答えようとしていると女性は踵を返して歩き出していた。
「優しさは毒よ。与え方を間違えれば中毒を起こしてしまうわ」
仏様は優しさが毒と判って三度目には優しく接することはしないのだろう。
彼らはきっと優しさの過剰摂取に苦しんでいる。
歩を止めて振り返った彼女の目は口ほどに物を言う。
男は造花を見つめた。
炎だ。
穏やかに、柔らかく。目尻を下げた柔らかな笑みは、人によっては少しだけ情けなく思うかもしれない。
今日も他の人たちと共に慌ただしくしている様子を横目に、邪魔にならぬよう部屋の隅で話し相手とふたり、手慰みに仕事の手伝いをしていた。
話し相手は一切働いていないけど。
時間があるのなら休みなさいと困ったように言った人こそ、重圧でぐらぐら、ぐらぐら。そのうち支えきれない支柱を必死に押さえて立っているくせに。
たまにサボっているアピールを口にするのは周りに気を遣わせないためだろう。そんな言葉に誤魔化される人間なんて誰一人いないけれど、それでも必要なポーズだ。あの人がいるから、回っている。無理をするのも強いるのも、仕方のないことなのに自分を責めているのだろう。
安眠のために何かしら差し入れでもしようか。
その程度しか自分にはできないもので。
作業をしつつも引き寄せられる意識に、話し相手が頬を突いてきた。暇なら部屋に戻ればいいのに。
三日月を思わせる曲線に目を細めて、楽しくもないだろうに唇も引き上げた、隣にいる人物に眉を寄せる。
貴重な休暇に献身的だとの揶揄いだろう。言わずともわかる意地の悪さは、散々身をもって知っていた。拗ねた幼子のような動作すらわざとでしかない。
自分が不幸になることは望んでいないのはわかっている。それでもどうしようもない。理性でわかっていたとて、どうにかなるようなら自分は今ここで仕事の手伝いなんてしてないのだから。
突くのに飽きたのか、それで身を滅ぼすのか聞いてきた話し相手に目線を彼の人へと移す。
自分にとっては、まさに炎の化身である。
それが恋ってものだろう。
あなたの視線の先をそっと見ると、あなたも隣のその人に視線をやっていて、
その人のどこを見ているのか、どんな気分で見ているのか、あなたはその人がとても好きなんでしょう、私のこの立場にその人が居るならあなたはもっと幸せだっただろうに。ごめんなさい。
視線の先には
視線の先には
私は張り詰めた空気の中目を見て話せない。
張り詰めて無くても人によって話せない。
張り詰めてない空気だったら目を見て話せる人、話せない人を言います!
目を見て話せる人
家族!親戚!友達!
関わりがある人だと話せる!
目を見て話せない人
先生!!など!!知らない人!!
関わりたくない人の目は見ない!!
視線の先に居る人によって、その場の居心地変わって来ますよね🥲
そういえば、今月の15日は私がこのアプリで投稿して1年が経った記念日(とは言えない程ですが記念日)でした。
いつもありがとうございます!!
『視線の先には』14/440
授業が始まってから何分経ったかな。
時間も忘れて真剣に先生の話に耳を傾けて…はなくて、
隣の席の彼⸺桐谷くん、書道部で涼しげな雰囲気のする無口な男の子⸺のことをずっと見てた。
あ、ノートをね。うん、ノートを見てた。
まじまじと見る勇気もないし、そもそも授業中だから横目でこっそりとね。
流石に綺麗な字。少し薄めで細かい字をノートに乗せていく。その精密な作業をこなす彼の手は、とても白く指がすらりと細く伸びている。
ピアノを弾いている姿も似合うなあ、なんて思いながら視線をちらりと顔に向ける。
桐谷くんはとても勉強が出来る人だ。ノートに板書を写すだけじゃなくて、先生の話もちゃんと聞いているみたい。度々うんうんと頷いていて、何だかかわいらしい。
…いや、ノートを見てるんだけどね?
ぱちっ。目が合った。
…え?誰と?今誰と目が合った?
気がつくと、桐谷くんは冷やかな目でこちらを見下ろしていた。そう感じるのは彼の身長のせいではないよね。
「…どうしたの」
気まずい。ただでさえ授業もまともに聞いてないのに、桐谷くんの顔に見惚れてましたなんて言えるわけない。
「えー…っとねぇ…」言葉に詰まる。
あたふたする私を見て彼はふっと顔を少し緩ませた。
「お喋りなら、授業終わったらね」
そう言って桐谷くんはすぐ前を向いた。
でも気のせいかな、さっきよりも表情和やかじゃない?
あー、今なら何でも頑張れちゃうぞ、私。
私は屋上来ていた。お弁当が食べたいから、屋上に来た。自分しか居ない場所はやっぱり落ち着く。ここまで来たら良いだろうと思った。だけど視線先には人が自〇していた。だけど止めなかった。だって、私が勝手に止めても意味が無いから
中央・総武線はよくダイヤが乱れる。これはもうこの路線が抱える宿命のようなものなのだろう。
私の通勤路は東西線だが、中野で総武線へ乗り入れてそのまま吉祥寺へ向かう。総武線直通・三鷹行き。それが私の通勤路だ。
だがこのルーティンが、総武線のダイヤ乱れによってしょっちゅう崩れる。直通運転が中止され、中野で総武線へ乗り換えなければいけない。ホームを移動するので地味に疲れるし、読んでいた本を一度閉じて移動しなければならないのが億劫だ。
今日もまた、ダイヤ乱れで直通運転がなくなった。中野で階段を降り、別のホームへの階段をよっこらせと上る。
ホームが1列にずらりと並ぶ中野駅の中央コンコースが苦手だ。人々が自分の目的のホームへ向かって一直線に進んでいく。人の流れに決まった法則がなく、まさに予測不能。
あぁ嫌だ嫌だ。今日も人の行き交う中をすり抜けながらホームを移動する。
ふと、視線の先に改札の外の景色が見えた。鮮やかなみどりの木々がきらきらと太陽の光を反射している。駅の外は光の世界だ。
悪くないな、と思う。雑踏の先に見える世界。私は外へ出ることはないが、嫌だ嫌だと人並みで揉まれて辟易しながら見る外の世界が、きらきらと美しいだなんて、何だか得した気分になれるじゃないか。
ダイヤが乱れた日には中野駅改札外の景色をご褒美に。さあ、総武線のホームへの階段を上ろうではないか。
視線の先には、私じゃない。あの子が映ってる。
羨ましいなんて感情はもうなくて、今は恨みや妬みに溢れてる
並んで笑う二人を見てられなくなってその場から逃げ出す。
「なんで、何もしなかったんだろう。かっこ悪いなぁ。」
いつの間にか涙が流れ落ち、自嘲気味に笑った。
視線の先には何もない、壁しかない、壁には虫も這ってないのを一心に見ているネコって、正味なところ何が見えているんだろう。
人間と見える波長のパターンが異なると、そこに見えてくるものってのがあるのだろうか、色覚検査の数字みたいに。
イヌではこういうことがないので、たぶんネコには見えてイヌ・ヒトには見えない波長帯には、魔が潜んでいる。
かつて私の「目」は指であり、また白い杖だった。
あとは耳と感覚で、私は私なりに世界を把握しながら生きてきた。
私には当たり前のことだった生き方。
「なあ、ちょっといい? えっと、杖持ってベンチに座ってる君なんだけど」
「……私ですか?」
「うん、君。ちょっと君に聞きたいんだけど」
「なんでしょう?」
「隣にココア持って座っていいか? 俺そこの席でココアタイムするの好きなんだ。嫌だったら退散するよ」
私が別に構わないというと、あの人は私にココアは好きかと訪ねてきて、私が好きだというと私のぶんのココアも買ってきてくれた。
「君の左手側にブルタブ開けて置くから」
優しい声と気遣い。心が暖かくなった。
これが私とあの人の出会い。
私はあの人に触ったことはない。あの人も私に触れたことはない。名前も連絡先も聞かなかった。
ただいつも同じ時間、あのベンチに座り何気ない話をする日々は、私の宝物になった。
目を見えるようにできる可能性は前から聞いていた。
でも生まれたときからこうして生きてきた私は、見えるようにすることに意義を見いだせず断っていた。
けれど。
「あなたにとって、私は何色の印象ですか?」
「桜色、かな」
「なんか綺麗で切なくて儚くて、でも毎年会えて嬉しいなって感じる色」
それは、『どんな色』?
それを知りたくなったから。
「黙って消えてすみませんでした。見えるようになるか五分五分だったもので」
「いや別に謝ることじゃないだろ。どこかで元気にしてると思ってたし?」
「……寂しいと思ってくれなかったと」
「いや、あの、ついココア2つ買っちゃったり空の隣に話しかけたりしてた…けど」
「ふふ」
光と様々な色を捉えるようになった私の視線の先には、大好きなあの人の姿。
桜の下で佇む男性の姿を捉えたときに、あの人が言った桜色とはこんな感じなんだなと知った。
色は心が満たされるもの。あなたが教えてくれたとおり。
「幸福を感じる色、ってなんですか?」
「そりゃ、虹色じゃない?」
「じゃあこれからは、私にとってあなたは『虹色』です」
「…俺もそう思うよ」
終
*お題「視線の先には」
視線の先にはあなたがいた
風がほんのりふいたときに貴方はこちらも見た
貴方は私に向かって笑った
まるで天使かと思った
でもその子には彼氏が居た
この私の思いは
あなたには一生伝わらないだろう