銀時計

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『視線の先には』14/440
授業が始まってから何分経ったかな。
時間も忘れて真剣に先生の話に耳を傾けて…はなくて、
隣の席の彼⸺桐谷くん、書道部で涼しげな雰囲気のする無口な男の子⸺のことをずっと見てた。
あ、ノートをね。うん、ノートを見てた。
まじまじと見る勇気もないし、そもそも授業中だから横目でこっそりとね。
流石に綺麗な字。少し薄めで細かい字をノートに乗せていく。その精密な作業をこなす彼の手は、とても白く指がすらりと細く伸びている。
ピアノを弾いている姿も似合うなあ、なんて思いながら視線をちらりと顔に向ける。
桐谷くんはとても勉強が出来る人だ。ノートに板書を写すだけじゃなくて、先生の話もちゃんと聞いているみたい。度々うんうんと頷いていて、何だかかわいらしい。
…いや、ノートを見てるんだけどね?

ぱちっ。目が合った。
…え?誰と?今誰と目が合った?
気がつくと、桐谷くんは冷やかな目でこちらを見下ろしていた。そう感じるのは彼の身長のせいではないよね。
「…どうしたの」
気まずい。ただでさえ授業もまともに聞いてないのに、桐谷くんの顔に見惚れてましたなんて言えるわけない。
「えー…っとねぇ…」言葉に詰まる。
あたふたする私を見て彼はふっと顔を少し緩ませた。
「お喋りなら、授業終わったらね」
そう言って桐谷くんはすぐ前を向いた。
でも気のせいかな、さっきよりも表情和やかじゃない?
あー、今なら何でも頑張れちゃうぞ、私。

7/20/2024, 9:44:08 AM