『未来の記憶』
未来は自分でつくるものだと誰かが言った。
空虚な言葉だと私は思った。
たくさん勉強して良い大学に入って良い会社に就職してお金をたくさん作って家族と楽しく過ごすのが幸せな人生だと私は教えられた。
なら、将来は決まっているようなものではないか。
自分が思い描いた未来をそっくりそのまま再現する。
良いことのように聞こえるけど、なにかが足りない。
creativity.
大事なのはそれだ。
教えられた幸せを追っていては、「ひと」になる。
ひらがな2文字だけで表される存在になってしまう。
identity.
そうとも言えるかもしれないけど、「自己同一性」。
既にそれを失った僕たちには、意味のない言葉だから。
だから、創り出すんだ。
新たなidentityを、creativityによって。
『わぁ!』14/520
とある駅前のベンチ。日曜の午前だからか人が多く行き交っているのを、ぼんやりと見つめる。
あ、あそこにドッキリ大作戦決行中の子がいるなぁ…
「わぁ!えへへ、びっくりしたー?折角だから後ろから
驚かせてやろうと…あたっ!ちょ、スマホは痛いじゃん!?…う…遅刻の件はまことにゴメンナサイ…あ、ちょっと待って置いてかないでよー!…」
…甘。学生同士かなぁ。青春ってベリーみたいな甘酸っぱい味がするものだと思ってたけど、案外ミルクチョコみたいに甘さ100%かもしれない。知らんけど。
その味を知らずに大人の舌になったのは後悔だなぁ。
「わぁ!」
「ぅおっ」
灰色の思い出に苦い顔をしていると不意に背後から声がした。なぜかついでに左肩に強めのチョップが落ちた。
「容易に背後を許すなんてね、私がス○ンド持ってたら死んでたわよ?」
「どこのギャングのボスですかそれ…」
「空の雲はちぎれ飛んだことに気付k」
「もういいですよそれ」
「最近ノリ悪くない?体調でも悪いの?」
「社会人にもなってそのノリでいける方がアレかと」
「ウチの会社はフレッシュさが売りでしょう」
「今日休日ですけど」
「真の社会人はいかなる時も高い意識を持つのよ」
「意識してるならベクトルが真逆です、あとジ○ジョはフレッシュ路線じゃないですよ絶対」
「なッ…なにィーーーッ」
「最近ハマってるんですか?あとこれどうやって収拾つけるんです?一応『わぁ!』がテーマなんですけど」
「終わりがないのが終わり…これがゴールd」
「もういいです…」
ど う し て こ う な っ た
『終わらない物語』17/506
私が「これ」を見つけたのはいつだったろうか。
日頃の嫌な勉強から逃れるために始めたから、
きっとそこまで昔のことではないんだろう。
けれど、今はそれだけではない。
私の書いた物語が、誰かに評価される。
誰かの書いた物語が、私の目に留まる。
名前も知らない誰かと、不思議なつながりをもつ。
きっと、この場には、終わりがない。
私たちの物語は電子の海の中に生を受けて、遥か遠く、どこまでも泳いでいく。
叶うなら、あなたのもとに流れ着きたい。
この物語は、あなたに届いている?
『透明な涙』11/489
覚えている限りでは、小さな頃は純粋な子だったように思う。主観と若干の思い出補正が掛かってはいるけど。
映画はジャンルに関わらず全部泣いたし、
微妙な高さの棚に頭ぶつけて泣いたこともあったっけ。
昔は友達とつまらない事で喧嘩して、お互い泣いた。
で、目を赤くしながら仲直りするんだった。
今になっては、そういう事では泣かなくなった。
子どもの頃は、大人は強いから泣かないんだ。
そう思っていたけれど、自分が大人になって分かった。
大人になるって、弱さを見せられなくなるってことだ。
弱い自分を守ってくれる人は、もういないから。
社会の荒波ってやつに揉まれて、飲み込まれて、
あの頃の純粋さは、とっくに流れてしまったから。
濁った涙を見られたくないから、大人は涙を流さない。
『そっと』15/478
私には、ほかに何もいらない。
叶うならば、これが永遠に続けばいい。
不思議と惹かれ合った私たちの、この時間が。
本名なんか知らなくても、彼女の手の温もりは、
胸の鼓動は確かにここにある。確かに繋がっている。
吹けば飛ぶような今日が、なぜだかとても心地良い。