〈お題:視線の先に〉ー評価:良作
その男を一言で表すならば、一視同仁。
仏様も顔負けする程にお人好しである。
怒りを知らないその人の周りには、精神的に弱い子が群がっている。彼らの要求は、その男に注目される事である。
男の視線はまさに彼らの光であり、温もりである。男に注目されない誰かは、光を失い、不安になる。温もりも冷めてしまうので注目される為に自暴自棄になる。
彼らは旧態依然である。いつ、彼らは変わるのか。その疑問に内職の手が止まる。
「そろそろ休憩かな」
新鮮な足音に誰が来たのかと目を向ける。
「…?」
自律している若い女性。足取りがしっかりしていて、見慣れてしまった奇抜な格好とは程遠い簡素な容姿。着飾る必要のない事を全面に押し出している立ち振る舞いに男は目を奪われる。
「仏様も怒りはするのよ。仏様が怒る理由は何なのかしらね?」
澱みなく、無駄のない問い掛けにむしろ戸惑ってしまっている。
「わ、わからない…です」
仏の顔も三度までと言うことわざは知っている。言われてみれば、何故三度までなのか。
「それが貴方には足りてないのよ」
「足りない…」
男が必死に答えようとしていると女性は踵を返して歩き出していた。
「優しさは毒よ。与え方を間違えれば中毒を起こしてしまうわ」
仏様は優しさが毒と判って三度目には優しく接することはしないのだろう。
彼らはきっと優しさの過剰摂取に苦しんでいる。
歩を止めて振り返った彼女の目は口ほどに物を言う。
男は造花を見つめた。
7/20/2024, 9:54:32 AM