〈お題:春風とともに〉
早朝のランニング。太陽が雲隠れして少し肌寒く空気が澄んでいる。一息吸っての走り出しは軽やかに、身体の冷えを感じながら公園を目指す。
そういえば花粉と黄砂が世間で騒がれている事を思い出す。花粉症を持たない身からすれば実感の湧かない世界だ。
手前の十字路を右に曲がろうと足を運んだ時、風の予感に従って目を瞑る。
吹き抜ける風が柔らかい。
軽快な足取りで耳障りな選挙区を横断する。
今日も快晴だ。
公園まであと少し、目に見える距離に。
公演の前の信号機が青から赤に変わるのを見て緩やかに減速する。涼しい風が心地よい。
公園からラジオ体操の音が聞こえ始めた頃には公園に背を向けて歩き出す。
「もう行っちゃうの?」信号が青になる。
春風に相応しい温い風が本当の春を運んでいたのを、芽吹いた蕾が証明する。
〈お題:記憶〉
昔々、あるところにツム太郎さんがおりました。
あぁ、なんたることだ。
現在は務所暮らしなようです。
経緯はなんだったかなぁ…あー。
思い出せないが、しかし悪いことをよくする奴だった。風の噂で脱獄に失敗したとかなんとか。
実の所、今何をやっているかわからない。
脱獄なんて上手くいかないとそう思うんだがなぁ、何度か成功したらしいじゃないか。
本人もどんな罪で捕まったか覚えてないんじゃないか。…なんだって、唯犯罪を数えるのをやめただけだって!全く、真生の悪だね。
無期懲役がいいと思うんだがね、脱獄するんじゃ…え?5円チョコを盗んだだって?
まさか…工場を襲撃するなんてな。
前はどっかの事務所を襲撃したんじゃなかったか?…そうそう、命知らずだなぁ。
え?印象か…愉快な奴だったな。
今度、その悪い行いが認められてついに、死刑判決か言い渡されるって専らの噂だね。
…あと500年も経てば老いて動けなくなるか。
〈お題:さぁ冒険だ〉
朝起きたら顔を洗う。
冷たい水に触れる勇気を賞賛しよう。
顔を冷や水で洗いながらぼんやり考える。
今日は一日…。日常だ。変わり映えしない。
いつもと同じ。"それは嫌だ"そう感じた時が踏み出す絶好の機会である。
朝食をいつもより豪勢に。いつもの日課に一手間を加えるか。それでは物足りない。
時間が有れば、まだ見ぬお食事処なんかに行くのも一つ。
それでは時間がかかり過ぎる。
或いはそんな時間がない。
そんな時は、小さな冒険をする。
例えば、時間の掛からない冒険を。
「時間に余裕ができた時、〜〜をしよう!」
〜〜に当てはまる言葉は好きな物を。
ただ少し、昨日はしていなかった事を。
〜花見をしよう。〜夢を友人と語ろう。〜旧友に連絡を取ってみよう。〜夜、散歩に出掛けてみよう。〜月をしっかり観察してみよう。〜お風呂のお湯にいつもより長く浸かってみよう。
或いは入浴剤を変えてみるとか。
意識的にいつもと違う事をする時に、唱えて欲しい言葉がある。
「さぁ冒険の始まりだ!」
小さな冒険が味気なければ次はもっと大きな冒険を。
〈お題:ひそかな想い〉
私は、今。とても…。
〈お題:手紙の行方〉
あの日の手紙の、その後がどうなったのか。
吾輩がその行方を知る事は叶わない。
手紙。
その在り方一つ、一見して中身が分からぬから読み手に効果を発揮する。
手紙とは、込められた想いが封を切って読み手に渡り、やがて想いが帰る場所である。
手紙は想いの形であって、色褪せはしない。
手紙が残れば思いも残る。
良かれ悪かれ手紙は手紙。
手紙はどこ吹く風に馳せている。