ナナシナムメイ

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9/6/2025, 1:17:15 PM

〈お題:誰もいない教室〉

廃校になった。或いは閉鎖された。更には休校日など、候補はあるけれど、僕は殺風景としか形容できない教壇と丁寧に並べられた机と椅子を認めた。

僕は徐に、そして赴くままに教壇に手を掛けて教室を見渡した。この空間の唯一の観測者にして、干渉者。埃の在り方すら定める立場に立っていることを確信した。

今いる場所こそが、大地を踏み締めた痕跡のみが覇道。朝、陽の光を淫らに反射するだけが畏怖の証明。

___歩を進める度、舞い上がる塵。

深く息を吸う。“ゲッッ…

8/14/2025, 10:08:40 PM

〈君が見た景色〉

君はこの先の人生で色を感じられるだろうか。

君が感動を知ることが出来るだろうか。
僕の見る世界に君を連れ込んでも“幸せ”だとか“幸福”だとか。

君はこの先、一生を懸けて僕の見る全て、君の目に映し出して良いのだろうか。

熱を帯びる眼球。君は耐えかねて目を伏せるだろう。底冷えする闇の中へ。

例えば一羽の鳥の自由を。翼を。困難を。
例えば僕の胃袋に詰め込むが如き所業を“幸せ”と評するのは舌鼓を打った僕だけだろう。

君ならばと手招きするのは困窮した捕食者かもしれない。君はその光景を眺めることになる。

逃避行の末に眺める景色は仄暗い。
冷たい雨に唄えば、声は床に叩かれる。

君との出会いが一枚の風景画となりて風化する、そんな未来に邁進する僕を。そんな景色を狭い食道の中から見つめていたんだね。

7/22/2025, 11:07:06 PM

〈お題:またいつか〉

その日は曇りのどんよりとした天気で、二時間もしないうちに雨が降り出しそうだった。

雨雲が泥流している。

そんな天気を見ながら公園を歩く。
一人は何を思ってか空を見上げて歩いている。
僕はこの先の車に乗り込んで何処へ向かうかを考えている。

ふと、公園の入り口で僕が立ち止まる。
「もう時間か」

もう一人はそれを知っていたのだ。
「そうだね」
それだけいうと鼻先に水が当たったことをぽつりと言った。

もう太陽は隠れてしまった。
時間を示す物は無機質な機械だけ。

冷たく冷えたエンジンが唸って帰りを促した。
街灯が帰り道を照らし始めて、公園の入り口が遠く。

「そういえば、あ、雨だ」
ついに雨音がもう一人の言葉を奪ってしまった。

ワイパーに頼って微かにスピードを落とす。

あぁ、これでお別れか。
各々に今日を振り返って、別れ際に一言だけ告げる。

「また、いつか遊べる日があったらLINEして」
俺はそれに頷いて別れを告げた。

6/17/2025, 2:41:42 PM

〈お題:届かないのに〉

与えられた感情の、猶予が迫る。

魅せられた、提示された、齎された感嘆の意。

冷たい水が火照った頬に焼け付く様な。

甘美な炎症が胸で痒みを伴った。

吐き出せる言葉では意味が生まれず。

視線が泳いだ先で夢を見る。

一向に言葉が出ず。一切の感謝も届かない。


抱いた理性。
懐疑的で有るならば、本能とも煩悩とも解らない。

綺麗を求めて彷徨って、清廉であろうと蓋をする。至らず籠る有終の。

過去に開いた瞳孔の、見定める先、闇の夜。
泣かねば曇る晴れの潔白。

6/11/2025, 6:42:54 PM

〈お題:雨音に包まれて〉

長い時間、太い枝の下で立ち往生している。
散歩に出掛けた日に限って雨が降る。
雨に打たれ、「水も滴るいい男」になったわけでもないから損な事だ。
なにより今朝の天気予報は晴れだったはずだ。

「雨具は無しか…」
散歩用のリュックサックの中に常備してあった雨具一式は、連日降る雨のため一度外に放り出したのだ。乾かすという名目によって回収を怠った事実に今は苦しめられている。

さて、思考は流れ、雨に関連する記憶に耽って空を見る。

灰色の空に、ザーザーと耳を圧迫する騒音。
遠くの方で雷の音がする。

「これは…」
木の下が安全とは言い難い状況と、激しさを増す雨に、焦燥感を煽られる。

一時間もしないうちに頭上に雷様が現れる。
なんで、こんな人里から離れた場所へ足を踏み込んでしまったのか。

風邪をひきたくない一心で、比較的弱い雨の中を帰らなかったのか。長引くと知りながら楽観的でいられたのか。雨が騒ぎ立てる。

どうやら、もう雷様がいらっしゃるようだ。

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