〈お題:風のいたずら〉
眠いのは、誰?
そよかぜに撫でられる。窓からゆったりと。
今日もよろしくお願いします。
永い瞬きを終えて風の行く末に目を向ける。
風は未完の原稿用紙を散らして歩く。
終わってないことを咎めているようだ。
風が部屋を物色するのを僕?私…は深呼吸で受け入れる。どうぞ散らしてください…と。
部屋の常連さん。少しお転婆な常連さんだ。
私に?僕に冷たいけれど、来てくれると空気が変わる。文字通り。年中その日の熱を帯びてくる。外の荒波をも超えて、僕?私に逢いにくる。
流石に今日はお終いだ。
ぶるんっと震えた身を乗り出して窓を閉める。
ばざぁー。
別れの瀬戸際、積まれた原稿が地に落ちた。
〈お題:透明な涙〉
泣き腫らした目がすっかり面影を失って、いつもの調子で彼を見つめる。
彼の涙は私には見えない。
人前で泣いた事もない。いつだって笑顔を振りまいている。
私には彼の心の内はわからない。
彼を想って泣いてみれど、彼はいつだって戯けて見せる。
ピエロの涙はとても赤い。
イジメを笑って受け入れる。そんな彼の"本当の姿"を幻視する。赤い髪がとても似合うもの。
ファンシーな気分。
彼は本当は、もっと素敵な人に違いないもの。
そんなことを想って夜風を浴びる。
彼の見えない涙の数が静かな夜空に流れて消える。
〈お題:そっと〉
駅のホームで目が覚める。
君が泣いた背中にそっと手を掛ける。
泣き叫ぶ君が僕を拒絶する度に、戸惑いは広がっていく。何故泣く?
君の怒りは何処から湧いたのか。
そっとしておいたら消え入りそうだ。
泣き止むその時までそばにいられたら良かったのかな。
君の笑顔だから。僕には少し荷が重い。
君は感情的だから、泣き顔も見慣れてしまったよ。悲しくて泣いているのかな?悔しくて泣いているのかな。必死に誤魔化す君の情けなさが僕にはどうも良く映る。
そっと押し出した背中の感触が今に残る。
〈お題:まだ見ぬ景色〉
目を瞑ると、闇が広がる。
しばらくして感情が脈動し、徐々に闇がこれまでの景色に変わる。
一日の出来事や、記憶に残ったこれまでのこと。見覚えのある光景が折り重なって、目に見える全てが懐かしくなる。
闇を祓った先の絶景が激情に駆られた感情を宥めてくれる。なったらいいな。
この先の人生、まだ見ぬ景色に心が躍るそんな人になりたい。
〈お題:あの夢のつづき〉
「ご入店ありがとうございます」
「当店は…おや、随分と凍えておりますね…店内は温まるでしょう。さサ、席までご案内いたします。」
夢から覚めた今、夢を見失った今。
人生の只中にして眠る意義を失ったアナタ。
意義を失い世界を彩る原動力を失った。
目を瞑る、それすら世界は妨げる。
冷えぬ様、冷めぬ様、凍えた心に温もりを。
寝て覚めて、それでも冷めない夢がある。
だから人は暖かい。
夢の続きは入眠してからのお楽しみ。
自分の世界でなら自由にゆっくり語らえる。
アナタが望む限り、私はいつまでも、どこまでもお供いたします。
「…どうでしょう、こちらの“情熱”そうですね…お客様ですとお時間を対価にお取引き可能です」
「「「「さぁ、夢のつづきをご所望で?」」」」