ナナシナムメイ

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7/22/2025, 11:07:06 PM

〈お題:またいつか〉

その日は曇りのどんよりとした天気で、二時間もしないうちに雨が降り出しそうだった。

雨雲が泥流している。

そんな天気を見ながら公園を歩く。
一人は何を思ってか空を見上げて歩いている。
僕はこの先の車に乗り込んで何処へ向かうかを考えている。

ふと、公園の入り口で僕が立ち止まる。
「もう時間か」

もう一人はそれを知っていたのだ。
「そうだね」
それだけいうと鼻先に水が当たったことをぽつりと言った。

もう太陽は隠れてしまった。
時間を示す物は無機質な機械だけ。

冷たく冷えたエンジンが唸って帰りを促した。
街灯が帰り道を照らし始めて、公園の入り口が遠く。

「そういえば、あ、雨だ」
ついに雨音がもう一人の言葉を奪ってしまった。

ワイパーに頼って微かにスピードを落とす。

あぁ、これでお別れか。
各々に今日を振り返って、別れ際に一言だけ告げる。

「また、いつか遊べる日があったらLINEして」
俺はそれに頷いて別れを告げた。

6/17/2025, 2:41:42 PM

〈お題:届かないのに〉

与えられた感情の、猶予が迫る。

魅せられた、提示された、齎された感嘆の意。

冷たい水が火照った頬に焼け付く様な。

甘美な炎症が胸で痒みを伴った。

吐き出せる言葉では意味が生まれず。

視線が泳いだ先で夢を見る。

一向に言葉が出ず。一切の感謝も届かない。


抱いた理性。
懐疑的で有るならば、本能とも煩悩とも解らない。

綺麗を求めて彷徨って、清廉であろうと蓋をする。至らず籠る有終の。

過去に開いた瞳孔の、見定める先、闇の夜。
泣かねば曇る晴れの潔白。

6/11/2025, 6:42:54 PM

〈お題:雨音に包まれて〉

長い時間、太い枝の下で立ち往生している。
散歩に出掛けた日に限って雨が降る。
雨に打たれ、「水も滴るいい男」になったわけでもないから損な事だ。
なにより今朝の天気予報は晴れだったはずだ。

「雨具は無しか…」
散歩用のリュックサックの中に常備してあった雨具一式は、連日降る雨のため一度外に放り出したのだ。乾かすという名目によって回収を怠った事実に今は苦しめられている。

さて、思考は流れ、雨に関連する記憶に耽って空を見る。

灰色の空に、ザーザーと耳を圧迫する騒音。
遠くの方で雷の音がする。

「これは…」
木の下が安全とは言い難い状況と、激しさを増す雨に、焦燥感を煽られる。

一時間もしないうちに頭上に雷様が現れる。
なんで、こんな人里から離れた場所へ足を踏み込んでしまったのか。

風邪をひきたくない一心で、比較的弱い雨の中を帰らなかったのか。長引くと知りながら楽観的でいられたのか。雨が騒ぎ立てる。

どうやら、もう雷様がいらっしゃるようだ。

6/6/2025, 7:48:24 PM

〈お題:さあ行こう〉

あさ。「おはよう」と窓辺へ向かう。
カーテンのその先に広がる快晴に手を伸ばして深く、息を吸う。

「ふぅー」
寒さを感じさせない穏やかな風流が頬を撫で。

夢の続きに背を向ける。

顔を洗って、静寂を取り払って、熱を帯び始めた頬を張り詰める。

「ふっ…」
牛乳と、パン。ヨーグルトに蜂蜜。

「…さてと」
穏やかな一日のその予兆を身に着ける。

着替えるその目的に想いを馳せて。
友人との深い交わりに感謝する。

「そろそろ時間かな?」
時計の針はまだ幼ないから。

「行ってきます」
余裕に心を預けて、仕切りを跨ぐ。

閉ざされた扉のその残り香を胸にして、光を仰ぐ。

天に昇る頃には…きっと。

そんな夢を見る。

5/8/2025, 2:59:05 PM

〈お題:木漏れ日〉

夕日で照らされる角部屋から見える外の景色は、背の高い木々に遮られ街の様子を伺う事は叶わない。森の翳りは雪解け水か、先日の雨の影響か未だにぬかるんでいるようだった。

窓から見える光景はその程度のもので、それでいて木漏れ日とその揺らめきが心地よい。或いはあの景色の一部となることに憧れでも抱いているのかもしれない。


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