〈お題:雨音に包まれて〉
長い時間、太い枝の下で立ち往生している。
散歩に出掛けた日に限って雨が降る。
雨に打たれ、「水も滴るいい男」になったわけでもないから損な事だ。
なにより今朝の天気予報は晴れだったはずだ。
「雨具は無しか…」
散歩用のリュックサックの中に常備してあった雨具一式は、連日降る雨のため一度外に放り出したのだ。乾かすという名目によって回収を怠った事実に今は苦しめられている。
さて、思考は流れ、雨に関連する記憶に耽って空を見る。
灰色の空に、ザーザーと耳を圧迫する騒音。
遠くの方で雷の音がする。
「これは…」
木の下が安全とは言い難い状況と、激しさを増す雨に、焦燥感を煽られる。
一時間もしないうちに頭上に雷様が現れる。
なんで、こんな人里から離れた場所へ足を踏み込んでしまったのか。
風邪をひきたくない一心で、比較的弱い雨の中を帰らなかったのか。長引くと知りながら楽観的でいられたのか。雨が騒ぎ立てる。
どうやら、もう雷様がいらっしゃるようだ。
6/11/2025, 6:42:54 PM