SAKU

Open App

炎だ。
穏やかに、柔らかく。目尻を下げた柔らかな笑みは、人によっては少しだけ情けなく思うかもしれない。
今日も他の人たちと共に慌ただしくしている様子を横目に、邪魔にならぬよう部屋の隅で話し相手とふたり、手慰みに仕事の手伝いをしていた。
話し相手は一切働いていないけど。
時間があるのなら休みなさいと困ったように言った人こそ、重圧でぐらぐら、ぐらぐら。そのうち支えきれない支柱を必死に押さえて立っているくせに。
たまにサボっているアピールを口にするのは周りに気を遣わせないためだろう。そんな言葉に誤魔化される人間なんて誰一人いないけれど、それでも必要なポーズだ。あの人がいるから、回っている。無理をするのも強いるのも、仕方のないことなのに自分を責めているのだろう。
安眠のために何かしら差し入れでもしようか。
その程度しか自分にはできないもので。
作業をしつつも引き寄せられる意識に、話し相手が頬を突いてきた。暇なら部屋に戻ればいいのに。
三日月を思わせる曲線に目を細めて、楽しくもないだろうに唇も引き上げた、隣にいる人物に眉を寄せる。
貴重な休暇に献身的だとの揶揄いだろう。言わずともわかる意地の悪さは、散々身をもって知っていた。拗ねた幼子のような動作すらわざとでしかない。
自分が不幸になることは望んでいないのはわかっている。それでもどうしようもない。理性でわかっていたとて、どうにかなるようなら自分は今ここで仕事の手伝いなんてしてないのだから。
突くのに飽きたのか、それで身を滅ぼすのか聞いてきた話し相手に目線を彼の人へと移す。
自分にとっては、まさに炎の化身である。
それが恋ってものだろう。

7/20/2024, 9:49:56 AM