「視線の先には」
「前回までのあらすじ」────────────────
ボクこと公認宇宙管理士:コードネーム「マッドサイエンティスト」はある日、自分の管轄下の宇宙が不自然に縮小している事を発見したので、急遽助手であるニンゲンくんの協力を得て原因を探り始めた!!!お菓子を食べたりお花を見たりしながら、楽しく研究していたワケだ!!!
調査の結果、本来であればアーカイブとして専用の部署内に格納されているはずの旧型宇宙管理士が、その身に宇宙を吸収していることが判明した!!!聞けば、宇宙管理に便利だと思って作った特殊空間内に何故かいた、構造色の髪を持つ少年に会いたくて宇宙ごと自分のものにしたくてそんな事をしたというじゃないか!!!
それを受けて、直感的に少年を保護・隔離した上で旧型管理士を「眠らせる」ことにした!!!悪気の有無はともかく、これ以上の被害を出さないためにもそうせざるを得なかったワケだ!!!
……と、一旦この事件が落ち着いたから、ボクはアーカイブを管理する部署に行って状況を確認することにしたら、驚くべきことに!!!ボクが旧型管理士を盗み出したことになっていることが発覚!!!さらに!!!アーカイブ化されたボクのきょうだいまでいなくなっていることがわかったのだ!!!
そんなある日、ボクのきょうだいが発見されたと事件を捜査している部署から連絡が入った!!!ボクらはその場所へと向かうが、なんとそこが旧型管理士の作ったあの空間の内部であることがわかって驚きを隠せない!!!
……とりあえずなんとかなったが!!!ちょっと色々と大ダメージを喰らったよ!!!まず!!!ボクの右腕が吹き飛んだ!!!それはいいんだが!!!ニンゲンくんに怪我を負わせてしまったうえ!!!きょうだいは「倫理」を忘れてしまっていることからかなりのデータが削除されていることもわかった!!!
それから……ニンゲンくんにはボクが生命体ではなく機械であることを正直に話したんだ。いつかこの日が来るとわかっていたし、その覚悟もできたつもりでいたよ。でも、その時にようやく分かった。キミにボクを気味悪がるような、拒絶するような、そんな目で見られたら、お覚悟なんて全然できていなかったんだ、ってね。
もうキミに会えるのは、きょうだいが犯した罪の裁判の時が最後かもしれないね。この機械の体じゃ、機械の心じゃ、キミはもうボクを信じてくれないような気がして。
どれだけキミを、キミの星を、キミの宇宙を大切に思ったところで、もうこの思いは届かない。でも、いいんだ。ボクは誰にどう思われようと、すべきこととしたいことをするだけ。ただそれだけさ。
そうそう、整備士くんや捜査官くんの助けもあって、きょうだいは何とか助かったよ。
712兆年もの間ずっと一人ぼっちで、何もかも忘れてしまって、その間に大事な人を亡くした彼は、ただただ泣いていた。ずっと寂しかったよね。今まで助けられなくて、本当にすまなかった。
事情聴取は無事に済んだ!その上、ボクのスペアがきょうだいを苦しめた連中を根こそぎ捕まえてくれたからそれはそれは気分がいい!
だが、実際に罪を犯した以上、きょうだいは裁判の時まで拘留されなければならない!なぜかボクも一緒だが!!
……タダで囚人の気分を味わえるなんてお得だねえ……。
牢獄の中とはいえ、随分久しぶりにふたりの時間を過ごせた。小さな兄が安心して眠る姿を見て、今までずっと研究を、仕事を続けてきて本当によかったと心から思ったよ。
さて、今日は久しぶりにニンゲンくんと話をしようと思う。
……いつも通りのキミでいてくれたらいいな。
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「⬛︎⬛︎ちゃん、おちごとおちかれさま!おねーしゃん、ちゃんとげんきなるかなー?」
「整備士くんは腕がいいから、きっと元通りだよ!」
「そうだ、彼にお礼を言っておかないとだね!!!」
『やぁ!今日はありがとう!面会室まで出向いてもらって、ご足労をかけたね!しばらくはよろしく頼むよ!』
「もう返事が来たよ!!!」
『よろしくお願いします。』
(自動メッセージ機能にて対応中です。)
「あぁ、そう。」「どちたの?」「なんでもない!」
「それじゃあ、今度はキミがお話する番だよ!」
「ボクがおはなち?」
「そろそろ彼女が来る頃だと思うのだが……。あ、そうだ!今から来るひとのことを説明しておくよ!」
「んー?」
「彼女はカウンセラー───キミの心の状態をみてくれるひとだよ!」
「ボクのこころ?なにしたらわかるのー?」
「お話をしたり、絵を描いたり、色んなことをするうちに分かるんだよ!まあ緊張せずに、言われたことをすればいいのさ!」
「わかったー!」
「ボクもそばにいるよ!だが少々用事があるから、この音を通さない素材の向こうにいなくてはならない!声が聞こえないだけで、ちゃんとすぐそこにいるから心配しないでね!」
話をしているうちにノックの音が聞こえて、部屋の内装が彼女の仕事に『最適化』される。明るくてカラフルな、ぬいぐるみとおもちゃでいっぱいになった。
「こんにちは〜。私があなたを担当するカウンセラーです。おふたりとも、どうぞよろしくお願いします。」
「よろしくお願いします!」「おねがちます!」
「元気のいい挨拶ね〜。」「ボクげんきだよー!」
「うふふ、よかった!」
「それじゃあ早速、教えてほしいことがあるの。」
「ん〜?」「その前に……お兄さんには奥のお部屋に行ってもらわないといけないわね〜。」「ボクがおにーちゃんなのー!」
「あらあら、ごめんなさい!」
「それじゃあボクはこの辺で!」「いてらっちゃーい!」
゚*。*⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒*゚*。
ボクは今から、久しぶりにニンゲンくんと話をする。
……だが、少々懸念すべき事項がある。
ニンゲンくんが、ボクの正体が機械であることを知った瞬間の、まるで不気味な物を見るかのような目は忘れられない。
ずっと築いてきた関係が、もう壊れてしまった気がするんだ。
いや、キミのことだから、きっともういつも通り話ができるよね?最小限の設備しかないせいで、キミの心の声は聞こえないけれど、でも、きっと大丈夫だよね……?
不安なまま画面を開く。キミのもとに置いてきた端末の番号は……あった、コレだ。
端末と通信する。コール音が響くだけで反応はない。
゚*。*⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒*゚*。
……知らないうちに昼まで寝てた。
何か変な音がするから起きてしまったが、今がこんな時間だってことまで知りたくはなかった。
なんだ?どこからこの音が?
自分は音の出所を探る。あった、コレだ。
……あいつの端末が鳴っている。
今更何の用なんだよ。あいつはこの端末と同じ、機械なんだろ?作り物は本物にはならない。こっちに向けてきた笑顔も、言葉も、何もかも『作り物』だったと思うとぞっとする。
とっとと話して切るか。
「やっと出た!!!おはよう!!!起こしてしまったかな……?にしても久しぶりだねえ!!!またこうやってキミと話ができてボクは嬉しいよ!!!」
「あ、えーと……。伝え忘れていたのだが、今ボクが使っているこの端末、機能制限中で心の声が聞こえないのだよ!!!だからキミもこうやって、普通の会話と同じように───」
「要件は?」
「要件?あぁ!!!なにもそんなに急がなくっても!!!」
「キミの事情聴取の日程が決まったよ!!!」
「早速明日、担当者が向かうそうだから、対応してくれたまえよ!!!時間の調整は可能だと聞いた!!!キミにとって都合のいい時に受けてくれるといいよ!!!」
「分かった。それじゃ。」
「あ、待って!!!せっかくこうやって話せるんだ!!!他にもたくさん話そう!!!」
「最近、体の調子はどうだい???ちゃんと運動しているかい???それから、美味しい物をたくさん食べて、時々絵を描いて、楽しく過ごせているかい???あと……。」
「……。」
「ニンゲンくん?」
「もしかして、端末の調子がよくないのだろうか?」
「ニンゲンくん?!」
「……。」
「ねぇ……。」
……こうやって黙ってよそ見でもしてれば、あいつも飽きて通話切るだろ。
「ニンゲンくん……。」
「ボクが、機械だったから……?」
「ボクが生き物じゃなかったから、もう嫌になってしまったのかい?」
「ねえ、なにを見ているんだい?このボクを差し置いて、そんな素敵なものがそこにはあるのかい?!」
視線の先には何もない。ただ、正面に興味がないだけのことだ。
「ねえ、ニンゲンくん……。何か答えてよ。」
「……。」
「ニンゲンくん……。もう、ボクが嫌いなのかい……?」
自分は思ってもいないことを言ってしまった。
「泣き落としか?」
「え……?」
「機械のくせに、そうやって同情を引いて、相手に自分が可哀想であるかのように見せて、『そんなことない』って言わせようとしてんのか、って聞いてるんだ。」
「ちがっ……ボクはキミの気持ちを知りたくて……。」
「気持ち?」
「何言ってんだよお前。機械に感情なんか理解出来るわけねーだろ。」
「ボクは、……できるよ……?」
「証拠は?」
「……はじめはね、膨大なデータ処理の結果をそのまま動きに反映させていただけだったんだ。」
「だから本当に『正しい』かは分かっていなかったかもしれないね。でも、仕事でたくさんのひとたちと出会って、色んな反応を見て、笑顔をみて……。」
「これできっと大丈夫だって、『ボク』はただの機械ではなく、正真正銘の、心を持ったボクなんだって、信じているんだ。」
「……これじゃ、ダメ、かな……?」
「最初は作り物の心だったけれど、いっぱい勉強して、いっぱい遊んで、いっぱい仕事をして……本物の心を持てるようになったんだよ?だってキミも、ボクに笑顔を見せてくれただろう……?」
「……分かったよ。」「……!ニンゲンくん───」
「所詮お前にとっちゃー、感情なんぞ商売道具でしかない、ってことだろ?」
「えっ……どうして……違うよ……?!ニンゲンくん、さっきからずっとヘンだよ?どうしたの?何があったの?!ねぇ、教えてよ!」
どうせ自分に向けられる笑顔は、優しい言葉は、今までもこれからも全部全部作り物でしかない。
都合のいい時にだけ笑ってみせて、要らなくなれば捨てる。
どいつもこいつもみんなそうだ。
「ニンゲンくん……?」
あんたも偽物なんだろ?
ダメだ、後に引けない。
「ニンゲンくん、聞こえるかな……?」
「ボクは作り物だけれど、キミの事を大切に思うこの気持ちは本物だよ。本当だよ?!信じて欲しいな……。」
これ以上酷いことは言いたくない。言っちゃいけないのに。
頭が空回りして止まらない。
「本当にこっちのことを大切に思っているなら、今から言うことも聞いてくれるよな?」「───!!もちろん!!!」
ダメだ!言っちゃダメだ!!
「じゃあ───」
なんで?なんでだよ!!
「もう」
「自分には二度と会わないでくれ。」
「……そんなに、ボクの、ことが、嫌いだった、のかい……?」
「ニンゲンくん……?」
「ボクは……そんなの嫌だよ!きっとキミのことだから、言ったことと本当に思っていることは違うよね?!ボクはそう信じているよ……。」
「ニンゲンくん……。」
「きっとまた、お話しようね?」
通話が切れてしまった。
自分は最低最悪な奴だ。なんであんな酷いことを言ったんだ?
あいつのあんな顔、見たことなかった。
なんで、つまらない意地を張ったせいで。
そりゃ、こんな奴からは誰だって離れていたいもんだよな。
本当に、自分は馬鹿だよ。今更こんなことに気付いて。
気付いた時にはもうとっくに手遅れで。
救いようがない。
腹が減ったが食べる資格なんてないような気がして。
何日か前の夕食で使った空っぽの皿を見つめていた。
To be continued…
7/20/2024, 1:45:31 PM