『花束』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
あなたをおもって選んだ花の数々を丁寧にひとつに包んで、家に帰ったらお気に入りの花瓶に生ける。
窓際に置いて、日常のふとした瞬間にあなたを思い出す。
不毛だとわかっていてもやめられない。やめる気は無い。
あなたがずっと好きでした。
届くことのないおもいを花に変えて、そうしてひとつに包んだら。
いつかあなたに届くんじゃないか。
なんてね
[花束]2024/02/10
─── ねえ、この間駄菓子屋さんでお花の形のお菓子があったから買おうとしたらね、お金がなくて買えなかったんだー
うちの縁側に座って、隣の女の子が足をぶらぶらと忙しなく動かしている。
─── ほんとに好きだな、花。って言うか、もうお小遣い切らしちゃったのか?
─── だって欲しかったお菓子が沢山あったんだもん。
口を膨れさせながら言った。
─── まだ月の初めだぞ?せっかちなやつだなまったく。
呆れ声で僕は言う。
─── そういうあんたはどうなの?
─── 俺はまだ使ってない。
得意げに言う。すると、隣の少女はニヤニヤといたずらをする前の子供の顔をしはじめた。
─── ねえ、今から駄菓子屋さん行かない?
嫌な予感がする頭で
─── なんでだよ。お前お小遣いないだろ?
少し身を引きながら言うと、少女は詰め寄ってきて僕の手を強く握った。
─── いいでしょわけてくれても!ちょっとだけ!ね!?
ほんとに、こう言う時の自分が嫌になる。
─── ちょっとだけだぞ。
また、寝てしまっていたのか。
縁側に腰掛け、気づいたら庭の木々たちの影が動いていた。何度目のことだろう。こうして縁側に腰掛けては時が過ぎてしまうのは。
「そういえば、君といた時も、すぐに時が過ぎてしまっていたな。」
まだ霧が完全には晴れない視界の隅に、小さな仏壇が見える。仏壇に添えられた花の前、長年共にしてきた、今は亡き愛する人のしあわせそうな笑顔が、そこにはあった。
いつも彼女は僕の隣に座って日が暮れるまで喋り続けた。あの時は、時間があっという間に過ぎていたが、今はもう歳のせいで眠ってしまい時間が過ぎると言うこの体たらくだ。
全く、歳をとるとは嫌な話だ。
君も、そう思わないかい?
仏壇の上の彼女の写真に問いかけてみるが、返事はない。その代わりに、添えられた花が目に止まった。彼女がわたしの元から離れるまでの間、よく花瓶に生けていた花だ。
そういえば、彼女はいつも何かあるごとに生ける花を変えていた。覚えろと言われていたから、名前だけはしっかりと覚えている。
結婚して間もない頃はグズマニア。
子供が生まれた時はピンクのバーベナ。
子供が家を出た時はデュランタ。
どれも花束にするには地味だとわたしは思っていたが、それでいいのだと、なぜか彼女は、嬉しそうな顔をしていっていた。
そしていま、彼女のそばに添えられているのは、白いアザレア。最後に2人で出かけた時に新しく買っていた花だった。
もう、萎れかけてしまっている。
これでは花が可哀想だな。
もうだいぶ前に晴れた頭で考えながら、私は寝起きの散歩に出かる準備をした。
「いらっしゃいませ。」
馴染みの店員が愛想良く挨拶をしてくれる。
「あら、今日もありがとうございます。きょうはどちらの花をお求めですか?」
店員が仕事を忙しなく進める手を止めてわざわざこちらにきてくれた。
「いつもので頼むよ」
「はい、わかりました」
店員は迷いなく白く可愛らしいの花の近くに移動した。
「いつもこちらをお買い求めくださいますが、どなたに贈るんです?」
店員は形のいいものを選び始める。
「.....妻に。もう、先に逝ってしまったがね。」
「....そうですか。」
少し気まずい雰囲気になってしまった。
若いものはやはりよく気を使う。
「妻は花が好きでね、最後に出かけた時、この花を飾っておいてくれって聞かなくてね。いつも彼女は花束にしてもらっていたが、いつも花束でよく見かけるような華やかななものより、そういった小さな可愛らしい花を選ぶ趣味があったんだ。」
「確かに、花束ではよく見かけませんね」
話している隙に、店員は包装を始めていた。
「何か、思い入れがあるのかもしれませんね」
家に帰って彼女の仏壇にアザレアを添える。
彼女が心なしか笑顔になったように感じた。
──── 何か、思い入れがあるのかもしれませんね。
ふと、店員の言葉を思い出した。
一体どんな思い入れがあったと言うのだろう。
彼女は、遺書などは用意せず、後のことは生きているあなたたちに決めてくれと言うような人だった。
何があったと言うのだろうか。
─── 花にはね、ちゃんと意味があるのよ。
彼女の声が頭の中をよぎる。
彼女は僕に、いつもそう言っていたじゃないか。
息子が心配して持たせた携帯を使って、慣れない手つきで調べる。
彼女が好きだった花の、花言葉を。
結婚してすぐの頃に彼女が行けたのは、グズマニア。
これで引越し完了ね
君は何にもしてないだろう
あら、私はちゃんと庭の手入れをしてたわよ
引越しのときにやることじゃないだろう
やりたかったからいいのよ!
ははっ、変わらないな君は
いつものように、2人で笑い合う。
今日から、ここは2人の家だ。
なあ.....
何?
幸せにするよ
.....うん!
『グズマニア 花言葉: 理想の夫婦』
次は、子供が生まれた時。ピンクのバーベナだった。
七月十四日、おめでとうございます!!男の子ですよ
よく頑張ったな......!!
ちょっと、泣いてるの?
ああ.....俺たちの子供だよ
そうね... 大切にしましょう
『ピンクのバーベナ 花言葉 : 家族の和合
誕生花 : 七月十四日』
子供が家を出た時は、デュランタ
じゃあ、行ってきます
ああ、しっかりやれよ
ちゃんと必要なもの持った?ほんとにこれで全部?
少ないように見えるけど....
大丈夫だって、心配性だなほんとにもう子供じゃない
んだから
待って
ん?
私たちにとって、あなたはいつまでも私たちの子よ
『デュランタ 花言葉 : あなたを見守る』
そして、彼女と最後に2人で出かけた時の花。
アザレア
はぁ、疲れたわね
この歳になると、無理も効かないな
これが、最後になるかもねぇ
何が?
あなたと出かけられるのが
.....そんな縁起でもないこと言うなよ
...そうね
そろそろ、帰らないとだな
それなら、お花買って帰りましょう
今度はどんな花にするんだ?
白いアザレアよ
お、新しい花か。どうして?
.....ないしょよ。
『アザレア 花言葉 : あなたに愛されて幸せ』
気づいたら、私の視界は起きたばかりと言うわけでもないのに、滲んでいた。
そうか。
ずっと見守ってくれていたんだな。
私は仏壇の上の彼女に笑いかけた。
彼女もまた、かつてのように、私を包み込むような笑顔をくれた気がした。
「あら、今回は早いですね」
花屋の店員が今日も明るく挨拶をしてくれる。
「どうしますか?いつもと同じ花にしますか?」
「いや今日は別のを頼みたい」
私はある花を指差した。
「まあ、珍しいですね。どうしてですか?」
私は笑って言った。
「ないしょだよ」
「ただいま」
縁側から木漏れ日が指している。いつもだったら眠くなっている時間だ。
「今日は、いつもと違う花を買ってきたよ」
彼女の笑顔の前に添えられたアザレアの隣に、わたしが選んだ花を置く。
「わたしの気持ちが、伝わったかな。」
彼女は、答えてくれなかった。それでも、わたしの気持ちは、きっと届いているだろう。
「さて、昼寝でもするかな」
私は縁側に腰掛けて、深い眠りについた。
暖かい風が吹く。
白いアザレアと、赤紫色のセンニチコウが彼女の笑顔の前で、静かに揺れていた。
『センニチコウ 花言葉 : 変わらぬ愛情を永遠に』
#花束(遅刻)
ナマケモノ具合には、自信がある。
昼を過ぎても寝ていたいし、洗濯機のスイッチを入れるのすら億劫で、シンクは食器であふれかえっている。くたびれきった生活をしている。
そのくせ、切り花を一輪、コップに挿したくらい
で、少し早起きしてふわふわモップで本棚のホコリ
取りをしてみたり、ポットで紅茶を淹れてみたり
してしまう。
花束だと、もっとすごい。
花瓶代わりに麦茶のグラスを引っぱり出し、いつもは椅子の背もたれに投げっぱなしのテーブルランナーをちゃんとテーブルに敷いて、パスタを茹でてみたりして、スモークサーモンとカマンベールチーズなんかを奮発して、小さいボトルのスパークリングワインを開けちゃったりする。ちょっと花を飾ったくらいで、ぐんとオシャレで文化的な人間になった気持ちがする。お手軽だと自分でも思う。
スーパーでも、生花のコーナーをつい、見てしま
う。
だいたい入り口すぐにあって、季節によって菖蒲の葉っぱやら南天やらが幅を利かせていたりする。
うっかり御仏壇用のを選んでしまったことがある
から、一応、花の種類と商品名を確認する。白い菊
と薄紫色のトルコキキョウ。すごく可愛い組み合わ
せだと思ったが、「仏花」と書いてあったから、何となく遠慮してしまう。
帰り道に花屋がオープンしてからは、もっぱら、そちらを覗くようになった。
庶民的なベッドタウンに似合わない、ちょっと小洒落た雰囲気の店だった。店頭に並んでいるワンコインの花束も、スーパーのものとは比較にならないくらいセンスが良い。買った花束は、英字新聞がプリントされた茶色いクラフト紙で包んでくれる。
毎回、花が長持ちするという薬液をお店の人が付けてくれた。楽しめるのはだいたい1週間前後だった。もっと早く枯れてしまうこともあった。驚異的生命力で悪名高いミントですら枯らしてしまう自分にしては、よくもっていると感心していた。
ある日、勇気を出して、店の奥まで入ってみた。
店頭の花束しか買ったことがなかったが、その日の目当ては、店奥のガラスケースだった。
ちょうど、生け花サークルに所属していた頃だっ
た。技術もセンスもないくせに、ホームセンターで
自分専用の花鋏と剣山を購入して、悦に入っていた。花器の代用品も同じホームセンターで見つくろった。うどんのどんぶりだった。
ガラスケースを覗いて、驚いた。
色んな花が並んでいたが、どれも二百円から三百円。たった一本で、その値段なのだ。中央に置かれた真紅のバラには、四百円の値札がついていた。
完全にリサーチ不足だった。
しかし今さら、退くに退けない。適当にアリウムかなにかと葉物を購入して帰った。本当に驚いたの
はその後だった。
ものすごく長持ちしたのだ。
うどんどんぶりの中身は、ただの水道水だった。素人がざくざく挿し直して、フニョフニョになった茎が、かろうじて剣山に支えられていた。なのに、その生け花もどきは元気に咲きつづけた。半月から一か月ちかく保ったと思う。
後日聞いた話だが、店頭で花束として売られているのは、終わりかけの花なのだとか。スーパーで言うと、賞味期限の近いものをまとめて置いてある特売品のワゴンのような。だから、あまり日持ちは
しない。
一瞬、残念な気持ちになった。とはいえ、手頃な
価格で色んな花を楽しめることを思えば、win-winと言っていいのかもしれない。
2024/02/10(土)No4.『花束』
―――――――――――――――――――――
生まれたとき病室には桜蘭が飾られていたらしい
5歳、幼稚園で作った折り紙のカーネーションを母に送った。
10歳、花係になって沢山の花を育てた。
―…いろいろな花を育てたはずなのに、花壇の下でひっそりと輝いていた、たんぽぽが一番印象に残っている
18歳、高校の卒業式に泣きながらクラス皆で桜の木の前で写真を撮った。
20歳、成人式で親から初めての花束を貰った。
―…花束にはカスミ草の間に「いくつもの小さな幸せをありがとう」と書かれた小さなメッセージカードが添えられていた
28歳、恋人にプロポーズされ、大きなひまわりの入った花束を貰った。
29歳、1年目の結婚記念日に偶然、お互いひまわりの花束を渡し、笑い合った。
34歳、夫の連れ子であった子から初めてカーネーションを渡された。
46歳、子どもに自分とは血が繋がっていないことを伝えて大喧嘩。1週間後に手紙と一緒にカーネーションを渡されて仲直りをした。
56歳、癌が見つかり、治療をするも体は弱くなっていった…
57歳、命がなくなる前に見たのは、子どもと夫から貰ったカスミ草などが入れられた花瓶だった。
―…いくつもの小さな幸せをありがとう。
―――――――――――――――――――――
作者は、華道部に入っているただの高校生なので人生これからです…!花束は、幸せなときもそうでないときも誰かの気持ちが込められたものだと思います。
華道部で花を生けている時、とても落ち着きます。生けた花が飾られているのを見るととても嬉しく感じます!
こういうちょっとした幸せを感じて生きたい…
花束に 母への感謝 詰め込んで
喜ぶ笑顔 いついつまでも
#花束
花束飾りたいけどすぐに枯らしちゃうからやめとこう
「旅立ちの朝」
音もなく登る朝陽を横目に佇む影は
その胸に色とりどりの想いを抱えて遠くを見据えた
空のアオが見守る道には風と遊ぶ草花が
ユラユラと踊りやわらかな息吹を匂わせて
いくつもの時を見続けてきたのだろう
ずっと遠い過去の雨に消えた足跡の上を今歩いてる
数々の声が世界に広がり空の彼方の星がささやく
野原に腰をおろして草笛を鳴らして
いつの頃か忘れていた懐かしい記憶を思い出した
仰いだ空には風に乗って遊ぶ鳥たちが
なによりも早く季節の息吹とたわむれて
いくつもの旅人を見てきたのだろう
誰もが未知の行く末に平和を願って歩いてきた道に
甘い香りを匂わせてキレイな花たちが咲いていた
頭をなでるように朝の光が宙を流れて
立ち上がった影はただ一つの色を求めて
再び歩き出した旅立ちの朝
ずっと遠い過去の雨に消えた足跡の上を今歩いてる
数々の声が世界に広がり空の彼方の星がささやく
第十三話 その妃、断言す
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「蒔いた『種』は確実に『芽』を出しました。それを、ここに御報告致します」
二人きりになった部屋で、瑠璃宮の妃――ユーファは、妃の名が書かれた調書を一つずつ置いていった。
それを見た廃離宮の主人は、「思った以上に釣れたわね」と感嘆の息を漏らす。
知っていたわけではないのか。
そう問うてみれば、「全てがわかるわけないじゃない」と、楽しそうな笑顔が返ってくる。
「この子は?」
「……金糸雀宮の妃はまだ幼い少女です」
「ふーん、そう。じゃあこの子」
「桃花宮の妃は元修道女だそうです」
「この子とこの子」
「花露宮の妃は甘い菓子にしか興味はなく、天女宮の妃は、協調性はありますが縛られるのを嫌がります」
『全てがわかるわけではない』
確かにそう言った妃は、恐らく何かを感じているか、或いは気付いている。
でなければ、無害に等しい妃たちばかりを指差すなど、辺境に棲まう離宮妃には少々難題だ。
しかし、後宮内を嗅ぎ回っている人物が先回って報告していたのなら話は別。加えてその中から一つ、鶺鴒宮の調書を迷わず開いて読むくらいには、ある程度の報告を受けていると思っていいだろう。
「女って、どうしてこうも面倒臭いのかしらね」
“彼等が瑠璃宮を去った直後接触”
“必要があれば『恋の教え』を説くと言い残す”
「『振られてざまあ』って、はっきり言えない病にでも罹ってるの?」
「遠回しに伝える方が、効果的なこともありますので」
それに、結果は初めからわかっていた。
「振られると断言した私を恨んでいないのかしら」
「残念ながら私にはそのようには聞こえませんでしたので」
それでは、これにて失礼致します。
ゆるりと腰を上げると、「一つ聞いても?」と問われ、勿論と返す。
「こんな廃れた離宮にも名はあるのかしら」
「……黄昏宮や冥土宮。それが、ここの異名で御座います」
「解釈は?」
「お任せ致します」
今度こそ去ろうとすると、背中に妃の声が掛かる。
「今度は私が、あなたに直接会いに行くわね」
『事の次第につきましては、追って使いを寄越しますので……』
あの時は、半分興味本位だった。でももう半分は、その噂にもすがる思いだったのかもしれない。
長い間心の準備だけして、それ以外は何もしてこなかった。誰にも悟られぬよう必死に隠してはいつも怯えていて。けれどそれを知るのは何より恐ろしく、そうして心は疲弊していくばかり。
……だから十分救われた。
ようやく、区切りを付けられたのだから。
「……心より、お待ち申し上げております」
妃の方を振り返ることはできなかった。
涙声にならないように、必死だったから。
宮を出るや否や、見知った顔と遭遇する。不安そうに、けれど微笑みながら、その人は誰かを待っているようだった。
「早く戻られた方が宜しいのでは? またどなたかのように、薬を盛られているやもしれませんわよ」
この程度の反撃くらいはいいだろうと、輿と遣いを探そうとした矢先、何故か目の前が花一色になる。
何のつもりか。
そう問う前に、持っていた花束を握らされた。
「ずっと、想っていてくれてありがとう。雨華ちゃん」
それが、彼なりのケジメなのだろう。
だからその花束を、素直に握り締めた。
「……あなたなんか、一生恋に振り回されてしまえばいいのですわ」
これ以上、捨て台詞に相応しいものはない。
御簾を下ろした帰りの輿の中。カミツレの香りを嗅ぎながら、静かに笑みをこぼした。
『後日、その男を遣わしましょう。事前に伝えておきます故、その時に試してくださいまし。男が一体、何を選ぶのか』
そして、彼は選んだ。
それが、彼の答えだった。
だから、妹と言われてもつらくはなかった。
「最後に、うかと呼んでくださって、ありがとう」
あなたを想っていた時間は、本当に……最初から最後まで、心から幸せでしたわ。
#花束/和風ファンタジー/気まぐれ更新
《花束》
拍手喝采の中、私はステージから降りた。
演劇の幕が降りたのだ、もうそこに私の居場所は無い。
「お疲れ様でした〜」
共演者さんやスタッフさんに声を掛けながら私は、控え室まで戻る。
漸く手にした舞台だったのだ、緊張するのも仕方がないと思う。
「これ、ご友人だと名乗る方から頂いた花束です。あなたに渡して欲しい、と」
スタッフさんから渡されたのは、薔薇の花束だった。
「あら情熱的……誰からかしら」
何気なく、添えられていたカードを見ると、
『親友からの気持ちよ』
とだけ書かれていて、恐らくこの送り主であろう彼女の素っ気なさに笑ってしまった。
裏返してみると、まだ文章があった。
『これが、あんたの演技に対する』
文脈的に裏から見てしまったのかも知れない。
改めて文字を見ると、書き殴ったような字だと思う。
ねえ、花束って何が綺麗なの?
だってせっかく綺麗に咲いてる花を手折って、集めたのものなんでしょう。
それの何が綺麗なのか、わからない。
そのまま野に咲いている方が何倍も心が揺さぶられて、美しいって感動できるわよ。
花束なんて、窮屈な布に綺麗に押し込められただけ。そこに花の個性も何も無いわ。
その本来の才能を殺してるようなものでしょ。
そんないつかの会話を、ふと思い出した。
つまりこれは、そのメッセージなのか。
「……私だって、そのままでいたかったわよ」
夢の為に捨てた想いを、夢の為に捨てた『私』を、彼女は大切にしてくれているんだろう。
だから彼女は私にとって、最高の親友なんだ。
押し入れの戸を開けると、そこには花束が隠されるように置いてあった。
おそらく明日が結婚記念日なので、夫が私に渡すための花束だと思われる。
そのプレゼントを見つけてしまった私の今の気持ちを述べよ(配点10)
答え:もっとうまく隠せよ
一秒にも満たない現実逃避から、通常モードへ復帰。
復帰して初めにやることは、ため息を出すこと。
こういうのって当日に買うものでは?
悶々としながら、押し入れを閉める。
前からあの人はうかつだと思っていたが、まさかここまでとは……
あの人はサプライズ好きで、なにかと私を驚かせようとする。
が、詰めが甘く、たいていの場合それを実行する前に目論見が露呈する。
今回もサプライズで花束をプレゼントするつもりだったのだろうが、ご覧の有様だ。
花束をくれること自体は嬉しいんだけどね。
さて知らないふりをして花束をもらうべきか……
それとも指摘するべきか……
それが問題だ。
いや待てよ。
第三の選択肢を思いついた。
私がサプライズをすればいい。
なぜ今まで思いつかなかったのか。
善は急げ。
今すぐ花束を買いに行こう。
今までもらってばかりだったが、私からのプレゼントもいいだろう。
きっと驚くぞ。
しかしそうなるとバレないように隠す必要があるな。
うーん、隠す場所隠す場所。
まあ無難に押し入れでいいだろう。
今から夫のリアクションが楽しみだ。
🌹 🌹 🌹 🌹 🌹
押し入れの戸を開けると、そこには花束が隠されるように置いてあった。
おそらく今日が結婚記念日なので、妻が僕に渡すための花束だと思われる。
そのプレゼントを見つけてしまった僕の今の気持ちを述べよ(配点10)
たくさんの花束を抱え
向かった先に
君がいるかと思うと
胸が高鳴る
あぁ、どうやって渡そう
喜んでくれるかな
柄にもない事するなんて…
って君は笑うだろうか
こんな瞬間さえも 愛おしい
#花束
〘花束〙
花束を持って、僕はその墓の前に立っている。それは随分と昔に亡くなった友人のためだった。彼は普段、神経が太すぎるくらいでそれ故に撲や彼女は胃を痛めたものだったが、………こうして居なくなってしまうとそれはそれで寂しいと思ってしまった。一呼吸おくと、僕は"妻"と友人の墓へ花を手向け、それから手を合わせた。
僕らはいわゆる三角関係というやつだった。僕と彼が彼女を好きで、彼女は僕らの両方が好きで、どうしようもなかった。だから、じゃんけんで分けることに決めた。勝った方が生前に負けた方が死後に彼女を娶る。勝ったのは、僕だった。僕は彼女の生涯を共にした。予想外だったのは彼が若くして逝ってしまったことぐらいだろう。僕らはずっと幸せだった。
先日、妻が天寿を全うした。老衰だった。
子や孫らは悲しんでいて、勿論それが一般的なのであるが僕は同時に安心したのだ。彼はあちらで僕らをずっと待っている。だけれど、僕らには死の兆候が見られなかった。僕らだけが幸せのまま。彼に申し訳がたたない気がしていた。けれど、ようやく恩が返せるのだ。喜びで涙が溢れた。彼女は最期に「お祝いしてね」と静かに息を引き取った。春のことだった。僕はそれを最後の仕事だとばかり老いた身体を酷使した。"世界で一番の結婚式を"それだけだった。(ウェディングドレス風の)エンディングドレスに二人の墓の手配、家族に理解を示してもらうのに一番苦労した。そして、今日が彼らの結婚式だ。参列者は僕1人。
他には誰もいない。けれど、幸せだった。さあ、彼らが呼んでいる。
「今、いくよ。」
テーマ『花束』
誰かに花束を贈ったことは、ない
花瓶に入れられた花が枯れ、茶色くしなびて乾燥し
パラパラ砕け散るのを見て以来
どんなにきれいな花も、すぐにそうなってしまうのだと知って
摘まれた花よりも、野に咲く花のほうが
素直にきれいだなと思えるようになった
野に咲く植物は、枯れて朽ちても
土の養分になって、次の命の糧となれる
枯れたからと、ゴミ箱に捨てられるのを見るのは
嫌だから
きっと私は、生きた花を贈らないだろう
花束
『花言葉』
私の名前は未衣、花の女子高生。
京先生「今日は母の日だな、みんな母親にいつものお礼になんかしてあげろよ」
授業が早めに終わり休み時間まであと3分となり、担任の京先生が言った。
藤介(とうすけ)「でも何してあげたらいいんですか」
前の席の藤介は机に突っ伏して気怠そうに言った。
京先生「お花をあげたらいいんじゃないか、カーネーションとか」
藤介「カーネーションね〜」
また気怠そうに言った。
京先生「あっでも気をつけろよ、カーネーションは赤いヤツをあげるんだぞ」
未衣(みい)「なんでなんですか?」
疑問に思ったので私は質問した。
京先生「カーネーションは色によって花言葉が違うんだ、赤が母への愛、白は尊敬とかな」
未衣「へぇ〜、そりゃ知らなんだだ」
京先生「僕は大学で植物サークルに入ってて花言葉とかにすごく詳しいんだ」
未衣「へぇ~、そらも知らなんだだ」
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴って休み時間となった。
夜「ねっ未衣、黄色いカーネーションの花言葉知ってる?」
友達の夜が後ろの席から声をかけてきた。
未衣「えっ知らない、何?」
夜「『感謝』らしいよ、しかも12本の束であげたほうがいいらしいよ」
未衣「へぇ~、そりゃ知らなんだだ」
夜「先生にあげたら?」
未衣「それいい!明日あげるわ!いつも京先生には助けてもらってるし」
次の日
未衣「先生!いつもありがとうございます!」
そう言って朝早くから京先生に12本の束の黄色いカーネーションを渡した。
京先生「おぉー、ありがとな、えーと、なんか先生に不満があるかぁ」
未衣「えっなんでですか?」
京先生「カーネーションは12本で『永遠』って意味で黄色いカーネーションの花言葉はな、『軽蔑』なんだよな、だから永遠に軽蔑するって
ことなんだ」
後ろから夜の笑い声が聞こえてきた。
未衣「夜〜!嘘ついたなー!!」
夜「ごめんごめん笑」
【花束】
小銭片手に花屋に経つ少年。
勇気をだして、店内に入り1輪の赤いカーネーションを手に取った。リボンで飾り付けられ、店を飛び出すと、誰にも見られたくない思いで走り出し家に帰る。
夜、母親が帰宅する。仕事から帰って食事の支度をする母に、少年は恥ずかしそうにしながらカーネーションを差し出した。
-……。
目を覚ました俺は自分が寝ていたと気づくまでに少し時間がかかった。ボーッと、先程まで突っ伏していた机を眺める。
懐かしい、子供の頃の記憶を夢みていた。本当はあの時、たくさんの花をプレゼントしたかった。子供の小遣いで買える精一杯の感謝の気持ち。
眠気を覚ますため、俺はふらっと街に出る。
その時、偶然通り掛かった花屋の前で足を止めた。さっきの夢の影響か、俺は店の中に入る。
店を回ると、小ぶりの可愛いブーケを見つけた。それを手に取ると、会計を済ませて店を出ていた。
購入するつもりはなかったが、このブーケを見つけた瞬間何故か夢のことが脳裏に過ぎったのだ。
こんな何でもない日に急に実家に帰って、母さんにプレゼントしたら変に思われるだろうか。
そう思いながら、今は少し離れて暮らす母親の家に足を向けるのだった。
過去、花束を貰ったのは二回。
幼稚園の卒園式のとき、先生から「小学校でも頑張ってね」とチューリップを貰ったのが一回目。
次いで中学校の卒業式前に、部活の後輩たちから手帳型の書き寄せと共にガーベラ&カーネーションを貰ったのが二回目。
そのどちらも、とても嬉しかったことを鮮明に覚えている。
そして、じきに三回目の花束を私は貰うのだろう。
新たな門出を祝われて、次のステップへと足を踏み出す私たちに向けた応援の花束を、ひとつ、教師手ずから貰うのだろう。
それを踏まえて、卒業する私も心温まる花束を渡したいと思っている。
精一杯の感謝を込めて、親身に相談に乗ってくれた先生方に向けた、スイートピーの鮮やかな花束を。
自信を持って、押し付けてやろう。
心配性の先生に、もうそれは不要だと、胸を張って言い放ってやるのだ。
「お世話になりました!」
きっと、笑って見送ってくれるだろうから。
花束
「やぁ」
『やぁ?』
「久しぶり」
『久しぶりだねぇ』
「今回行ってきた島にはね、花束が落ちてたんだ」
『ふぅん?』
「たくさんたくさん落ちてたの」
『どのくらいなのぉ?』
「道が見えなくなるところまで。ずぅっと」
『へぇ』
「オオクチさん。道って知ってる?」
『知ってるけど、知らないよぉ』
「そっか」
『そうだよぉ』
「何で落ちてるんだろうって気になったからね、ぼくは花束を追っかけたの」
『何でか分かったぁ?』
「ちゃんと分かったよ。せっかちなオオクチさん」
『ふへへぇ』
「花束の先には巨人さんが居てね、どこかのお家の賢いお兄ちゃんみたいに、花束を置いて行ってたの」
『ふぅん?』
「それでね、ぼく聞いたんだ。何で花束を置いてるのって」
『それでぇ?』
「自分は体がとても大きくて、知らないうちにたくさんたくさん小さな生き物を殺しちゃうからだって、巨人さんは言ったんだ」
『それで花束ぁ?』
「うん。それで殺しちゃった生き物たちを弔うんだって、許してもらうんだって、言ってたよ」
『そっかぁ』
「巨人さんの身体にはたくさんたくさんお花が咲いててね、それを引っこ抜いて、巨人さんは花束を作ってたんだ」
『とってもファンシーな巨人だねぇ』
「うん。すごく綺麗な花たちだったよ。お手伝いをしてくれてるんだって、巨人さんは言ってたよ」
『花は知らないけど知ってるよぉ』
「先越さないで!」
『ごめんねぇ』
「ぼくはしばらく巨人さんについて行ってたの」
『何で?』
「何となく」
『そっかぁ。そのままずっと旅しなかったのぉ』
「オオクチさん拗ねてる?気持ち悪いね」
『んひひっ』
「旅はね、ずっとはできなかったの」
『どうしてぇ?』
「巨人さんが崩れちゃったから」
『あららぁ』
「崩れた巨人さんは動かなくなってね、お花たちは喜んでたんだ」
『へぇ』
「私たちの仲間の命を何千年もの間奪い続けた悪しき巨人を、やっとやっとやっつけた!って言ってたよ」
『悲願達成おめでとぉ?』
「ホントにね!」
「今回はここまでね。じゃあね」
『じゃあねぇ』
《キャスト》
・ベニクラゲさん
ふわふわの生き物。オオクチボヤさんが大嫌い。ちょっとだけ賢くなった。
・オオクチボヤさん
ぶよぶよの生き物。ベニクラゲさんが大好き。でも憎い。変わらない。
花束
自分にされて嫌なことは他人にもするな。よく言われた。
花束はいらない。貰っても邪魔になるだけだから。
だからあげなかったんだけどな。どこから違ってただろう。
今日も帰り道で花束を買う。
私に心配させまいと
常に辛そうな表情で無理に笑顔を作る君。
そんな君が花束を貰った時だけは
本当に幸せそうな顔をして笑うから。
私は君に会いに行く時は必ず花束を買うようになった。
私は後何回君に花束を渡せるだろうか。
後何回君と話せるだろうか。
後何回君の笑顔が見れるのだろうか。
どうか一日でも一秒でも多く君と過ごせますように。
ー花束ー
毎日、残業、残業。
「あー疲れた、やっと終わった。お腹が空いたぁー。」
「俺が手伝ってやったから早く終わったな、感謝しろよ。」
この人は私の先輩だ。意地悪な言い方をするけど、多分根はいい人なのだと思う。
私が仕事で失敗しても、フォローしてくれたり、一緒に謝罪しに回ってくれたり、まぁ出来の悪い後輩の面倒はいつも面倒くさそうにしながらもみてくれる。
「ちょっと待っとけ。」
「あの…コーヒーは飲み過ぎて吐きそうなので、米を、おにぎりをお願いします。」
「しょうがないな。太るぞ。」
「太ってもいいんです…。」
先輩にこんな事お願いしたらだめだよなって思いながらも、甘えてしまう。いい人だからだ。
別に、好きな訳じゃない、気になるわけじゃない。
いつも見えない所で頑張っている、面倒な事でも普通に引き受けて淡々とこなすこの人が、好きな訳じゃないんだけど…
「おにぎり、ありがとうございます。」
「よく食うな、お茶も飲め。」
「食べることが好きなんです。あんまりこっちを見ないでください。」
先輩はただ笑って見ていた、私の食べる様を。
それから6ヶ月が経ち、先輩は退職する事となった。
私が彼から退職の事をきいたのは3ヶ月前だった。
驚いたけど、引き留めはしなかった。頑張ってもらいたかったし、思い通りに生きて欲しいから。
先輩の挨拶が終わった。
「お世話になりました。ありがとうございました。
」
「こちらこそ、まあこれからも頑張ってね。」
部署内で準備した花束を、部長が手渡した。
大きな花束のせいで、先輩の表情がよく見えなかった。
私は泣きそうになったけど、我慢した。さみしくなるけど、前を向いて。
今度は私が後輩たちを育てていかないと。
「頑張れよ、期待してる。じゃあな。あんまり食いすぎるなよ。」
私の肩を叩いた。
よくわからないけど、涙が止まらなかった。
もう、私に夜食を買ってきてくれる人はいないんだ。