望月

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《花束》

 拍手喝采の中、私はステージから降りた。
 演劇の幕が降りたのだ、もうそこに私の居場所は無い。
「お疲れ様でした〜」
 共演者さんやスタッフさんに声を掛けながら私は、控え室まで戻る。
 漸く手にした舞台だったのだ、緊張するのも仕方がないと思う。
「これ、ご友人だと名乗る方から頂いた花束です。あなたに渡して欲しい、と」
 スタッフさんから渡されたのは、薔薇の花束だった。
「あら情熱的……誰からかしら」
 何気なく、添えられていたカードを見ると、
『親友からの気持ちよ』
 とだけ書かれていて、恐らくこの送り主であろう彼女の素っ気なさに笑ってしまった。
 裏返してみると、まだ文章があった。
『これが、あんたの演技に対する』
 文脈的に裏から見てしまったのかも知れない。
 改めて文字を見ると、書き殴ったような字だと思う。

 ねえ、花束って何が綺麗なの?
 だってせっかく綺麗に咲いてる花を手折って、集めたのものなんでしょう。
 それの何が綺麗なのか、わからない。
 そのまま野に咲いている方が何倍も心が揺さぶられて、美しいって感動できるわよ。
 花束なんて、窮屈な布に綺麗に押し込められただけ。そこに花の個性も何も無いわ。
 その本来の才能を殺してるようなものでしょ。

 そんないつかの会話を、ふと思い出した。
 つまりこれは、そのメッセージなのか。
「……私だって、そのままでいたかったわよ」
 夢の為に捨てた想いを、夢の為に捨てた『私』を、彼女は大切にしてくれているんだろう。
 だから彼女は私にとって、最高の親友なんだ。

2/10/2024, 9:38:48 AM