『沈む夕日』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
沈む夕日と赤く染まる空、浜辺を歩くあなたと私。
あれは遠い南の島で、ほんのひとときの恋だった。
思い出すには拙くて、振り返るには青かった。
それでもそのほんのわずかなひとときが、
今でも私の胸を締め付ける。
今はもう互いに違う人を選び、
交わらない道を歩んでいるけれど、
ふとした瞬間に見たこの景色が、
いつでもその記憶を呼び起こす。
真闇な夜に浮かぶ白い月、波と足音だけが響いてる。
浜辺を歩くあなたと私、過去の記憶の影法師。
思い出すのはあなたの声、振り返ればあなたが笑う。
それでも記憶の中のあなたの顔が、
今ではもう黒い帳に遮られる。
これが過去になることだというのなら、
この想いさえも消してくれればいいのに…。
【沈む夕日】
昔のヒトにとって夜は危険だ
僕らが闇を恐れるのにその名残がある
沈む夕日はその闇の訪れを予感させるものだ
だが僕らはそれを恐れるどころか美しいと感じる
夕焼けの発生条件は西の空に太陽を遮るものがないことだ
それは偏西風が吹く中緯度帯では翌日晴れることを意味する
それを知ったとき僕は一度納得した
だが貿易風や極偏東風が吹く地域の人達は夕日を見てどう感じるのだろうか
そのような地域では夕日は翌日の晴天を意味しない
では彼らは沈む夕日を恐れるのだろうか?
僕は彼らも同じように沈む夕日を美しいと感じるのだと思う
ヒトが沈む夕日を見て美しいと思う理由はもしかすると生存に関係ないところにあるのかもしれない
「沈む夕日」
今日、この夕日が沈んだら大好きなエミリアちゃんとはお別れをしなければならない。
私の親友のエミリアちゃんは、父の海外出張でこの日本にイタリアから訪れた15歳の女の子だ。
日本人の私とは違って堀が深くて、同い年とは思えないくらい美人だ。
母が日本人らしく、小さい時、2年ほど日本で暮らしてたらしい。日本語も話せて、2言語を使いこなすバイリンガルだ。
私たちは毎日のように一緒に遊んでいた。
こんなに友達と遊んで楽しいと思うのは、後にも先にもエミリアちゃんだけだと思う。
ただ、短期の出張で、ほんの数週間でイタリアに帰る予定だったのだという。
それを知ったのは、イタリアに帰る前日だった。
家族同士で仲良くなった私たちは、急遽お別れ会を開くことにした。
日本を経つ前日ということもあり、夕日が沈んで午後8時を過ぎたら解散という、規模の小さなお別れ会だ。
私たちの家は、徒歩圏内に海があり、エミリアちゃん家族とご馳走を食べたあと、2人で夕日を眺めて過ごしていた。
エミリアちゃんの「夕日が海に沈むのを一緒に見たいな。」
という望みを叶えるべく、せっかくのご馳走も味あわずに、2人でかきこんだ。
この夕日が沈めば、もう、二度と会えないのかもしれない。
悲しくて涙が溢れてきた。
本当にいつも楽しくて、こんなに早い別れだとは想像もしていなかった。
そんな私に気づいて、エミリアちゃんは、
「私も別れたくないよ。でも、今日の思い出も、今までの思い出も、海に沈む夕日を見て、あっ!すっごい楽しかったんだっ!て思い出そうよ!大丈夫だよ!一生の別れじゃないんだしね!それに、絶対忘れないよ!!」
嬉しかった。
今までの思い出も一緒に持ち帰って、忘れないでいてくれると約束をしてくれるエミリアちゃんが、心の底から大好きだと思った。
私たちが今日見た別れの夕日は、息をするのも忘れるほどに美しかった。
私も絶対に忘れない。また会おうね、、、!!!!
そして10年後、私たちは偶然海辺で再開した。あの日沈んだ夕日に思い出をのせて。運命の糸で、結ばれているかのように。
永遠に沈まない夕日でいてください。そして私をその景色の中殺してください。死にたいです。でも自分で死ぬ勇気はないので秒速でお願いします。
沈む夕日なんて切なくて悲しいです。だから沈まない夕日を望みます。そんなこと天変地異が起こらない限りありえない事は分かっています。私はもう高校生なので理科は履修済みです。
いやむしろ天変地異起きて欲しいです。何かも一旦最初からやり直して私をもっと強いひとに生まれ変わらせてください。おこがましく申し訳ございません。私を生まれ変わらせるくらいならもっといい人たくさんいますよねごめんなさい。生きててごめんなさい。
しかもこんな私のことですからどうせ来来来来来世もカスなゴミ人間になることは確定していますもんね。生まれ変わったところで私のゴミカス具合は永遠に変わりません。
私がゴミカスなことで周りにもゴミカスが病原菌の様に移ります。某センター分けの先生が言っていたように腐ったミカンは周りの綺麗で新鮮なミカンまで腐らせるんです。腐ったものは直らない。永遠に私のゴミカスも直らない。そこにいるだけで害。蛙の子は蛙なんです。死にたい。
ミカンとミカン農家の方もこんな私のゴミのような例えに出してしまい誠に申し訳ございませんでした。私はミカンのヘタ以下のゴミです。お詫びとしてミカンで圧死します。ごめんなさい。ごめんなさい死にたいですごめんなさい。ごめんなさい。
#6『沈む夕日』
夕日好きなんだよね。
暖かいのに、どこか寂しい。
見てると幸せだなって感じるのに胸がキュッとする。
苦しいのに、好きなんだ。夕日。
いつだって美しいはずの夕日を、あなたに想いを伝えた日だけが特別に真っ赤だったように思える
海に沈む夕日
あれほどに美しく
あれほどに長く時を感じたのは
生まれて初めてだった。
赤く染まる君の顔には
どこか寂しげな表情が浮かんでいた。
どうかしたの?と尋ねると
「日が暮れたら、、
さよならだから笑。」
と君は言った。
どういうことかよく分からなかった。
確かに、日が暮れたら家に帰らなければいけない。
でも、そんなに悲しそうに言うようなことじゃない。
胸騒ぎがした。
自分でもよく分からないけど。
「じゃあそろそろ行くね」
そう言って立ち去ろうとする君。
「ちょっとまって」
そう言っても、君は振り返らない。
ずっとずっと
彼女は海岸沿いを歩き続けた。
僕が姿を見失うほど遠くまで。
次の日
彼女の服が、海岸で発見された。
瓶に入れられた1枚の手紙と一緒に。
それは僕に宛てたものだった。
〜𓏸𓏸くんへ
今日は突然「さよならだから」
なんて言ってごめんね
あのね、
実は私、人魚なの。
え?って思ったでしょ
それで今日は私の18歳の誕生日だった。
人魚の世界の掟では、18歳になると
陸で、人間と同じように生活していた人魚は
海に帰らなければいけないの。
まるでかぐや姫のようにね
おとぎ話みたいなほんとの話。
𓏸𓏸君なら信じてくれるよね?
今までありがとう
元気でね
△△より〜
そう書かれた手紙と同じ瓶に入っていた、
恐らくは彼女のものであろう鱗を
手に握りしめて
僕は、海に沈む夕日に照らされながら
涙を流した。
『人魚』
陽が沈む。
空の端がオレンジ色に燃えている。
高層ビルも、公園の木も、行き交う車も、歩く人も、すべてを黒く塗り潰して。
黒いかたまりになった街は、そのまま一つの大きな生き物になってしまったようだ。
夜に向かって変貌を遂げる街の姿を、ビルの屋上で見下ろしている。
手すりに掴まって片足を跳ね上げる後ろ姿は無邪気な子供のそれに似ていた。
「しゅうまつだねー」
間延びした声で言う。
「そうだな」
短く答えて隣に並ぶ。
地平に沈む太陽の端が、黒い生き物に食べられて無くなってしまったようだ。ならばオレンジの光は黒い生き物の口から漏れた最後の吐息だろうか。
世界の終わりのような不吉な赤は、見ている者の胸をざわつかせる。
当たり前にやって来る週末のように世界の終わりも来るのなら、こんなに不安に駆られる事も無いだろう。
「最後に一緒にいられて良かった!」
「·····俺も」
陽が沈む。
オレンジの光が完全に消えてしまえば、待っているのは·····。
END
「沈む夕日」
今が何時かも分からず
寝そべったまま窓を見つめる
朝とも夕方とも取れるその橙の光
首だけを動かして壁の時計に目をやると
短い針は5を指し示していた
余計に朝なのか夕方なのか
分からなくなってしまった
テレビでもつければそれくらい分かるかと
思いベッドからのそりと起き上がる
とはいえ、朝だろうか夜になろうが
なにもない自分にはどちらでも良いか…
考えを放棄して体をまたベットへ沈める
しばらくして窓の外から
ただいまーという声が響くが
まどろむ自分には届かない
沈む夕日
沈む夕日を眺めながら家路を急いだ
今日はあいつが来るはずだから急いでいた
夕日は心臓みたいに大きくて赤くて主張が強かった
細切れの雲が家来みたいで薄ピンク色に染まっていた
わたしは一日中働いていたのだ
もうクタクタで帰ったらすぐにベッドで眠りたい
だけどそうはいかないだろう
あいつと結論を出さなければならない
薔薇色になった天国みたいな西の空に向かって大きな口を開けて息を吸った
それから何かを吐き出した
さあ、家に帰ろう
あいつが待っている
『沈む夕日に』
沈む夕日に暖かい気持ちになったのは
昔の話。
今は夕日を見て暖かい気持ちになる余裕も
空を見上げて綺麗と思う時間もない。
毎日の慌ただしさにかまけて
いつから感情を無くしてしまったかな。
沈む夕日
空が赤く染まっていく
君の頬もそまっていく
髪も瞳も
僕の心にもそのぬくもりが染み込んでくる
嫌な思い出が
夕日と共に沈んでは消えていく
今日できた新しい思い出と一緒にそれを見送っている
あまい匂いがどこからか泳いでくる
花のような あおいあおいしばふのような
柔らかい草に寝転がって 空を眺めていると
星が輝き始めることに気づく
君の瞳が星を映して輝いている
どこまでも照らすような美しい瞳で僕に笑いかける
ららら 歌声は空へひびき
反響する まるで星に届いているように
沈む夕日が、私にとって「よきしらせ」だった時期があった。一日が終わりゆく。辛いことしかない今日の一日も、なんとか終わる。誰とも関わらないで良い、わずかでも安心できる時間帯までたどり着きつつあることを、沈む夕日が知らせてくれた日々だった。
家の中も外も苦しく痛い場所だった。身近な「近所」には怖いものが居た(5歳のとき襲われた)し、家の中には諸事情あっていつも痛かったし、学校にはいじめがあった。夕日が沈んでゆくなら皆眠りへ向かう。私を脅かす人達も住み家へ、眠りへ引っ込んでゆく。息ができる時間が来る。
そんな状態の期間、当然ながら朝なんか大嫌いだった。優しい夕日、容赦ない朝日。せめて家という「居場所」を失わないですむためだけに、「いじめの溜まり」へ向かう毎日。
家のなかの「毒」に苦しむ人達の気持ちがわかる。
学校でのいじめに苦しむ人達の気持ちがわかる。
犯罪被害にあって脚が竦む人達の気持ちがわかる。
私もこれらをくらった。
今現在の私は、その時期の痛みを持ち越していない。目に見える助けの手があったのではない。私は自分の内側に湧き上がり溜まる怒りに、正直だっただけだ。
学校で、怒りの感情は私の「考え」を変えた。私の立ち居振る舞いには「暴力的雰囲気」が現れた。クラスの全員に「心当たり」が確としてあったため、全員が怯えた。無記名アンケートによってクラスの状態を知っていた担任は私を責めなかった。卒業で終わりが来た。
暴力犯罪行為にしても、恐怖で脚が竦んでいるうちは類似案件を自分に引き寄せてしまう。ここでも、やはり自分の「怒り」が、大きな作用をした。恐怖故にあれこれ考え試し、大人になった私は強かった。呆気なく怯えた成人男性が、逃げるように引っ越して去った。自分が強い自覚は私を自由にした。
家の諸事情が解消されると、徐々に「毒」は薄れていった。
あらためて「沈む」夕日を思い出してみれば、出てきた記憶はこんなものだ。書いて見るとまるで力押しだけみたいに見えるが、意識の底近くにはいつも光を探す意思があった。実際、光に飢えていた。絶望しきらず、希望をあきらめられない心は本当に自分を助ける。見るべきを見ろ、考えるべきを考えろ、為すべきを為せ、その本質は何かを掴め…と、自分に言い聞かせていた毎日だった。
今日も公園で君を待っている。
息苦しい生活にも、この時だけは落ち着ける。
ブランコの軋む音で、時間を刻む。
君と会ったのは、この公園。
休日、家に1人でいるのが辛くなった時に、
ここで心を落ち着けていた。
そしたら、君が話しかけてくれた。
やがて、休みの日はほとんどここで過ごすようになった。
ただ他愛のない話ばかりする。
職場の愚痴だったり、美味しかった料理の話とか。
君も奇抜な人がいただとか、晩御飯の香りの話とかを。
そしていつも日が沈む前に別れる。
最近、君が来ない日がある。
なんだか忙しそうだった。
日が沈みそうだ。今日も来なかった。
「さて、帰るか」ため息をつきながら、立ち上がる。
目線をあげた先には君がいた。
「ごめん、遅くなった」
走ってきたんだろうか、君は息を切らしながら言う。
「これを、渡したくって」
よれた手紙をもらう。君が恥ずかしそうに笑った。
「じゃあ、帰るね」
僕から離れていく。
「えっ、ちょっと、まっ…」
君が逃げた先に夕日。
眩しくって、君の手を掴めなかった手で光を遮った。
君が大きく手をふる。笑顔で。
きっとまた会えるって確信していた。
君のことなんにも知らないのに。
君からもらった手紙を開く。
そこには、君の秘密が書かれていた。
数年前、交通事故にあったこと。
もう実体ではないこと。
人々の記憶から忘れさられれば、消えてしまうこと。
最後に綴られていた言葉は、
「君に私が見えたことは、本当に奇跡だったんだ、ありがとう」
あの日、夕日を背に笑う君が忘れられない。
逆光でほとんど見えないはずなのに、
君の笑った顔が見えたのは、夕日が透けていたから。
横断歩道を渡る前、何も無い電柱に花を手向けていた。
この街の誰もが君を忘れても、僕は君を忘れない。
橙色に包まれながら、
目を細めて。
近づけるようにって
背伸びしながら歩いた日々は
もう戻ってこない。
帰りも、隣に立てなくなるんだ。
気付けは空は群青色に染まっていた。
その割合は、もう8割にも及ぶ。
こうやって想うのも、
今夜で終わりか。
あ。もう、夜が来る。
沈む夕日
#21
彼と二人で沈む夕日を見ていた。
ふと隣を見ると彼が居なかった
ああ、沈んでしまったのか
あなたは目を覚ましました。
それから私の顔を見て
「お前は誰だ」
と言いました。
あなたは記憶を失っていて、私のことも忘れていました。
「あなたの妻でございます」
「お前が!? 俺の許嫁はどこだ? 俺がお前のような醜女を選ぶはずがない」
この社会では美醜によって扱いが異なりますから、
美しい者は美しさを求め、
醜い者は嫌われて笑われ者になることもあるし、それを歌う舞台演劇だってあります。
そして、周囲の親族が口々に説明していました。
特にあなたの妹は、
「お兄様? いい機会でなくって? この際、離縁なさってもよろしいと思いますわ」
「もう、援助金を頂いて我が侯爵家は立て直しができたわ、それに醜女なんて我が侯爵家にはふさわしくないですもの」
とニッコリと社交界の華と称賛されている笑顔で言いました。
それを聞いて事実通り政略結婚で結ばれた私を見て、
「そういう事情があったのか、でないとまさか、俺がお前のような……」
「醜女を選ぶはずがない?」
喉が支えてしまったようなので続きを代弁させていただきました。
医師の方々があなたに今の状況を説明したことで目に見えてあなたは落ち着いていきました。
「ゴホン」
失礼なことを言った自覚があるのでしょう。
目を閉じて咳払いして誤魔化すのはあなたの悪い癖です。
そして目をそろりと開けて、
「行くあてはあるのか? 確かに君との関係は考え直すかもしれないけど、すぐに追い出したりはしないから、しばらくは屋敷にいて良い」
その無駄に優しい心遣いが以前のあなたと変わっていなくてじんわりと温かくなる。目元も熱くなるので、下を向いて
「気を遣ってくださってありがとうございます」
と見られないように言いました。
二人の思い出があるお屋敷のテラスに私はいました。
沈む夕日がキラキラと反射しているのを見て過去が蘇ってきて、胸が締めつけられました。
正直言ってお屋敷に居るのがこんなに辛いと思いませんでした。
侍女が気を遣ってくれて先程から心配そうに紅茶をいれてくれました。
私は椅子に座って外を眺めながら紅茶を飲んでもう三杯目になります。
「旦那様はすぐに良くなられますよ。奥さまのことを大切にされていました。仲睦まじいご様子をしっかりとこの目で見ていましたから」
侍女の優しさに苦しさが和らいできました。
「でも、もう退院されているのに屋敷には帰ってきてないわ」
最後の言葉が若干震えてしまったけど、私は恐れていました。
もう私たちの関係は終わってしまったのではないかと。
脆く儚い時間だったのではないかと。
沈む夕日
山の端に、ゆっくり沈んでゆく夕陽が眩しい…そして、空に拡がるオレンジから群青へのグラデーション…変わりゆく姿に、つい目が離せない…夕方の雑踏、曖昧になってゆく影や、ひんやりする空気…どうして..も…何処からか湧き上がる切ない気持ちと、終わりゆく一日に、ほっとする瞬間…
海の磯の匂いを運ぶ生ぬるい風が、ふと俺の頬をかすめた。あたりにはツンと鼻の奥に突き刺さるような血の匂いが充満している。目を開けると、そこにはただ赤くにじむ空があった。
あぁ、生き残ったのか。
その実感が湧くと同時に、一気に凄まじいまでの情報量が押し寄せてきた。右腕がとてつもなく痛い、のどが渇いて仕方がない、なにか飲みたい、息が苦しい、体が鉛のように重い、誰か、誰かいないのか、生きている仲間は。
その暴虐にしばらく耐えていると、少しづつ脳が身体の感覚に慣れてきた。右腕は全く動かないが、左腕なら少しは動かせそうだ。水が飲みたい。一刻も早く。俺はぎこちなく立ち上がると、あたりを見渡した。水がある!国中の兵士が飲んでも絶えないほどの水が。まだ思考力の戻らない頭はとにかく水を求めて、俺に海へ行くように命じた。海の水が辛いことは知っている。でも、少しでも渇きが癒せるなら。強烈な欲求に支配された俺の体は理性が止めるのも無視して海へ向かっていた。
ドスッ
足元で鈍い音がした。いや、さっきまでもしていたはずだ。五感が遠のくほど極限の感情に支配されていただけで。不思議な感覚だ。こういう感覚は以前も何度か覚えたことがある。そういうときはいつも極限の状態で、その感覚の命じるままに体を動かすだけで俺は生き残ってきた。今、この感覚が命じているのは足元を見ることだ。少し頭がスッキリしてきたような気がする。何度か息を吸ったり吐いたりすると、気持ちも落ち着いてきた。ゆっくり足元を見る。そこには先程から何度も踏んづけてきた、見慣れた軍服があった。しかし、何やら腕に腕章をつけている。これは、補給隊のものだ。もしかしたら近くに馬車が。急いで馬車を探すと、それは思いのほか早く見つかった。荷は荒らされているが、あまり減っていないようだった。あった、水だ!これでようやく一息つける。
水の入った袋を片手に馬車から移動すると、近くから波の音が聞こえてきた。後ろを振り向くと、そこにはまるで使命を終えたかのようにゆっくりと沈む夕日があった。こんなおっかない太陽は見たことがなかった。おぼつかない足取りで砂浜に座る。まるでこの世界に一人取り残されたかのようだった。
今日が終わる。
1時間前のことすらはっきり覚えていない。
何となく1日か過ぎていく。
だけど、この衝撃は忘れない。
毎日訪れるこの瞬間。だけど、もっとも短い光景。
目を瞑っていても太陽の光か瞼を通り越して明かりを灯してくる。鬱陶しくもあるこの時間が、何よりも好きだ。
今日もまた沈む夕日。明日もまた沈む夕日。
当たり前だけど、その当たり前が美しい。
だから、今日も当たり前に生きた自分は美しいんだと思える。