くらげ

Open App

海に沈む夕日

あれほどに美しく
あれほどに長く時を感じたのは
生まれて初めてだった。

赤く染まる君の顔には
どこか寂しげな表情が浮かんでいた。

どうかしたの?と尋ねると

「日が暮れたら、、
さよならだから笑。」

と君は言った。

どういうことかよく分からなかった。

確かに、日が暮れたら家に帰らなければいけない。

でも、そんなに悲しそうに言うようなことじゃない。

胸騒ぎがした。

自分でもよく分からないけど。

「じゃあそろそろ行くね」

そう言って立ち去ろうとする君。

「ちょっとまって」

そう言っても、君は振り返らない。

ずっとずっと

彼女は海岸沿いを歩き続けた。

僕が姿を見失うほど遠くまで。



次の日

彼女の服が、海岸で発見された。

瓶に入れられた1枚の手紙と一緒に。


それは僕に宛てたものだった。

〜𓏸𓏸くんへ
今日は突然「さよならだから」
なんて言ってごめんね

あのね、
実は私、人魚なの。
え?って思ったでしょ
それで今日は私の18歳の誕生日だった。

人魚の世界の掟では、18歳になると
陸で、人間と同じように生活していた人魚は
海に帰らなければいけないの。
まるでかぐや姫のようにね

おとぎ話みたいなほんとの話。

𓏸𓏸君なら信じてくれるよね?

今までありがとう

元気でね

△△より〜

そう書かれた手紙と同じ瓶に入っていた、
恐らくは彼女のものであろう鱗を
手に握りしめて
僕は、海に沈む夕日に照らされながら
涙を流した。



『人魚』

4/7/2024, 3:46:53 PM