今日も公園で君を待っている。
息苦しい生活にも、この時だけは落ち着ける。
ブランコの軋む音で、時間を刻む。
君と会ったのは、この公園。
休日、家に1人でいるのが辛くなった時に、
ここで心を落ち着けていた。
そしたら、君が話しかけてくれた。
やがて、休みの日はほとんどここで過ごすようになった。
ただ他愛のない話ばかりする。
職場の愚痴だったり、美味しかった料理の話とか。
君も奇抜な人がいただとか、晩御飯の香りの話とかを。
そしていつも日が沈む前に別れる。
最近、君が来ない日がある。
なんだか忙しそうだった。
日が沈みそうだ。今日も来なかった。
「さて、帰るか」ため息をつきながら、立ち上がる。
目線をあげた先には君がいた。
「ごめん、遅くなった」
走ってきたんだろうか、君は息を切らしながら言う。
「これを、渡したくって」
よれた手紙をもらう。君が恥ずかしそうに笑った。
「じゃあ、帰るね」
僕から離れていく。
「えっ、ちょっと、まっ…」
君が逃げた先に夕日。
眩しくって、君の手を掴めなかった手で光を遮った。
君が大きく手をふる。笑顔で。
きっとまた会えるって確信していた。
君のことなんにも知らないのに。
君からもらった手紙を開く。
そこには、君の秘密が書かれていた。
数年前、交通事故にあったこと。
もう実体ではないこと。
人々の記憶から忘れさられれば、消えてしまうこと。
最後に綴られていた言葉は、
「君に私が見えたことは、本当に奇跡だったんだ、ありがとう」
あの日、夕日を背に笑う君が忘れられない。
逆光でほとんど見えないはずなのに、
君の笑った顔が見えたのは、夕日が透けていたから。
横断歩道を渡る前、何も無い電柱に花を手向けていた。
この街の誰もが君を忘れても、僕は君を忘れない。
4/7/2024, 3:20:30 PM