思考の森を掻き分けて
言葉の海を泳いで
今日もまた旅をする
まだ見ぬ君を探して
あ、朝。
目覚めて、カーテンを開く。
光が刺したこの部屋に、今日も1人。
誰も私を見ない、私も誰かを見ない。
まるで存在を無くしたみたいだ。
今日は何をしようか?
コーヒーを入れて、パンをかじろう。
終わったら、お気に入りの服を着て、外に出ようか。
私の存在を色を彩るように。
足元に咲いた花、公園で遊ぶ子供の声、
木の葉が擦れる音、猫の鳴き声、
踏切を横切る電車。
少しばかり、私の話をしよう。
ずっと感情が何か分からなかった。
喜怒哀楽も、何もかも。
目の前で起こる全てが、画面越しに見える景色で、私はそれをじっと見つめていた。
心はずっと空っぽだった。
きっと透明人間と言っても過言じゃないほど、
他人と関わってこなかった。
語るべき変化などないけれど、画面越しに世界を見て十数年、他人は煩わしいものばかり落としていく。
そうして私は、色をつけるのは自らだと気づいた。
だから、たとえ今私が透明人間であろうとも、私は私のやり方で、毎日に彩りを与える。
さぁ、何処へ行こうか。
よく仕事で色んな所に出張する。
車、新幹線、飛行機、さまざまなものを使って、
目的地までの道を往く。
便利な世の中で、行きたいと思えば、
数時間で目的地に着く。
(もちろんお金はかかるが…)
家に引きこもっていた自分では、想像もできなかった未来。
外に出ることが難しかった。
体力も時間もお金もなかったから。
それが今や、1週間家に居ないことが多いほど、
どこかに行っている。
出張するまで気付かなかった。
どれだけ距離があろうとも、どこにでもいける。
もし「オーロラを見に行こう」なんて
君が言うことがあっても、
僕はその返答を迷わず答えられる。
そんなことを冗談みたいに、
時間も金もないと、息苦しいと言う君に伝えたい。
僕は書く。
言いたいことを頭の中で纏めて……、
というよりも、独り言の感覚に近いかもしれない。
なんせ、浮かんだ言葉をそのまま吐き出しているのだから。
そんなことはどうだっていいんだ。
君だって、本当は僕だって。
もっと大切なことが、ある。
そう、この物語の中身だ。
……そうだろう?
だけど、この物語が終わるまで、
僕はずっと1人で演じているばかりだ。
この舞台の中で、
僕は演じる僕と永遠に向かい合っていた。
……もう飽き飽きだ。
それでも、演らなくちゃ誰にも会えない。
辞めたら、もっと寂しくなるだけだ。
だから、
伝えたいことを必死で纏めて、
伝わらなくても全力で演じる。
そうやって、また画面の中、
1人分の椅子に掛けて、僕は吐き綴る。
中身のないこの物語を、
向かい合う誰かが見てくれるまで。
視線の先には、ずっと遠く遠くまで続く水。
空から止まることない涙が落ちてくる。
水と水、触れる度に跳ね返って。
僕は何もせずただ見ていた。
まるで同じ時を繰り返しているみたい。
叶うことならずっと見ていたい。
こんな綺麗な景色、晴れてしまうには勿体ない。
まだ隣に誰も居なくていいから。
だからどうか、もう少しこのままで。