よく仕事で色んな所に出張する。
車、新幹線、飛行機、さまざまなものを使って、
目的地までの道を往く。
便利な世の中で、行きたいと思えば、
数時間で目的地に着く。
(もちろんお金はかかるが…)
家に引きこもっていた自分では、想像もできなかった未来。
外に出ることが難しかった。
体力も時間もお金もなかったから。
それが今や、1週間家に居ないことが多いほど、
どこかに行っている。
出張するまで気付かなかった。
どれだけ距離があろうとも、どこにでもいける。
もし「オーロラを見に行こう」なんて
君が言うことがあっても、
僕はその返答を迷わず答えられる。
そんなことを冗談みたいに、
時間も金もないと、息苦しいと言う君に伝えたい。
僕は書く。
言いたいことを頭の中で纏めて……、
というよりも、独り言の感覚に近いかもしれない。
なんせ、浮かんだ言葉をそのまま吐き出しているのだから。
そんなことはどうだっていいんだ。
君だって、本当は僕だって。
もっと大切なことが、ある。
そう、この物語の中身だ。
……そうだろう?
だけど、この物語が終わるまで、
僕はずっと1人で演じているばかりだ。
この舞台の中で、
僕は演じる僕と永遠に向かい合っていた。
……もう飽き飽きだ。
それでも、演らなくちゃ誰にも会えない。
辞めたら、もっと寂しくなるだけだ。
だから、
伝えたいことを必死で纏めて、
伝わらなくても全力で演じる。
そうやって、また画面の中、
1人分の椅子に掛けて、僕は吐き綴る。
中身のないこの物語を、
向かい合う誰かが見てくれるまで。
視線の先には、ずっと遠く遠くまで続く水。
空から止まることない涙が落ちてくる。
水と水、触れる度に跳ね返って。
僕は何もせずただ見ていた。
まるで同じ時を繰り返しているみたい。
叶うことならずっと見ていたい。
こんな綺麗な景色、晴れてしまうには勿体ない。
まだ隣に誰も居なくていいから。
だからどうか、もう少しこのままで。
大学4年の春。
いつも学校へ向かうバス停。
近くの家の桜が満開だった。
入学してすぐ、地面が見えなくなるくらいに、花が舞って、
感動したのを、今でも覚えている。
「それからは、毎日楽かったな…。」
ふと、言葉を零して思う。
ずっとここにいたい。って。
でも、それは叶わない願いで、
1年後はもう別の場所にいるんだ。
そう、風にさらわれる花びらを見ながら思った。
次第に時が経って、就活が忙しくなってきた。
大学も週に1、2回に行くくらいになってしまった頃。
いつもの様にバス停で、バスを待っていた。
けれど、いつもと違う。
あの桜の絨毯を作る家が、取り壊しの工事に取り掛かっていた。
あの桜も切られて、見る影もない。
「ああ、1年後またあの風景を見れないんだな…」
自分がもうここに来れないことも悲しいけれど、
それ以上に入学時、私の心を晴らしてくれた、
あの風景に二度と会えないことが悲しかった。
1年後、私はまた別の場所で満開の桜を見る。
けれど、あのバス停にもう桜が降ることは叶わない。
でも、あの景色を忘れることはきっとない。
なんてことない日だった。
今日は2人とも休日。
あなたは、リビングのソファでテレビを見ていた。
いつも通りの朝の光景だ。
「ルームシェアをしよう」
高校生の時に2人でふざけあって決めたこと。
あの時は、お互い冗談半分だったけど、
それが今、叶っている。
「おはよう」
私は寝ぼけ眼を擦りながら、言う。
「おはよ、凄い寝癖だよ?」
「嘘!」
あなたの笑い声をよそに、急いで自分の部屋へ。
ドレッサーの鏡で確認する。
こりゃまぁ、凄い。まるでメデューサのようだ。
私の部屋はリビングのすぐ隣。
「あぁもう」
不満を小さく零しながら、ドレッサーの前に座る。
ここは好きだ。
ドレッサーの鏡を少し動かして、
髪の後ろまで見えるようにする。
と、リビングでくつろぐあなたが少し見えるから。
誰も知らないあなたを、ひっそり盗み見ているようで。
ただ、今日は違った。
いつも気づかれていないから大丈夫だと思ってたの。
だけど、あなたが鏡越しこちらを見て、目が合った。
今までだって、何回だって、
目を合わせてたはずなのに、
とっても驚いてしまって、目を逸らした。
その日からずっとあなたは親友とはどこか違っていた。
でも、かけがえない人で、
思うよりも、そっと恋をしたんだって、
その時は気づかなかったけど…。
それが初恋の日だったんだ。
って今更気づいたんだ。