『星が溢れる』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
あの夜君は泣いていた。
星空のきれいな夜だった。
全てに絶望し、悔しくて、苦しくて、辛くて、死にたくてたまらない涙だったかもしれない。
君のその泣き顔はとても可哀想で、そしてなぜだかとても美しかった。僕はただ、見つめていた。
君の眼からまた星が溢れた。
僕はただ、見つめることしかできなかった。
星溢れ(テーマ 星が溢れる)
1
夜空の星は、固定ではない。
近くの星である月は毎日動くし、何なら夜を終わらせる太陽だって星だ。
それ以外の、たくさんの星たちも、飛行機のように動くことはないが、少しずつ動いている。
これは、その星の動きについて、科学というものを知らなかった子供だった僕が、ものの見事に大人に騙され、そして勘違いした話だ。
2
「星溢れって知ってるか?」
近所の少しワイルドな兄ちゃんが、ある時僕に教えてくれた。
当時の僕は小学3年生で、世の中のことなんて何も知らないと言ってもよかった。
おかげで授業は楽しかったが、今回のように騙されることもある。
「なにそれ?」
首を傾げた僕に、その兄ちゃんはそうだろうそうだろうと、満足げに頷く。
「教えてほしいか?」
「うん!」
はっきり頷いたものの、普段は悪い遊びばかりすると評判の兄ちゃんが、中々知的なことをいい始めた、と不思議にも思った。
「よし、教えてやろう。星っていうのはな、空に少ししかないだろ。」
「うん」
「でもな。オハジキみたいに星が動いて他の星にぶつかると、星が増える。それを繰り返すと、夜空が星でいっぱいになることもあるんだぜ。それが星溢れだ。」
すごい、と当時の僕は目をキラキラさせていたに違いない。何と夢のある話か。
「それ、いつあるの?」
「……。さあ。」
「どうやったらできるの?」
「……。」
その兄ちゃんは段々不機嫌になってきた。
あとから聞いた話だと、わりと流行った嘘話だったらしく、騙された兄ちゃんは、騙しやすそうな僕を騙してウサを晴らそうとしたらしい。
「あのな。星は空にあるんだぜ。俺達がおこそうったってできないんだ。太陽や月を止められないのと一緒だ。」
「え?できないの?止められないの?」
「そりゃ無理だ。」
その兄ちゃんはひとしきり笑ったあと、僕の予想以上の物の知らなさに満足したのか、そのまま去ってしまった。
そして、種明かしをされなかったことが、その後の僕の行動を呼んでしまった。
3
学生には夏休みというものがある。
1ヶ月半の休み。
遊び回ることが多かった僕だが、前年に宿題を溜めてしまった僕は、母から早期に宿題を片付けることをきつく言われていた。
そして、夏休みの宿題には、自由研究なるものがあった。
「星の研究をする。」
それだけ言った僕を、母は歓迎した。
母は高価な望遠鏡や観測機を誕生日プレゼントに買ってくれようとしたが、父は「本当にその道に進みたいなら買ってやらないこともないが、単に興味があるだけならそれは早い」と買ってくれなかった。
「記録を取るなら、そうだな。例えば、毎晩同じ場所に立って、どこにあるのかノートにメモしていけばいい。筒を作って、紐を通して錘を下げる。錘で紐は地面を指すから、筒がどのくらいの角度なのか、分度器で図れるんじゃないか?」
直感とアイデアの人だった父と僕は、二人で工作し、紙の筒と紐・錘に分度器をくっつけたお手製の角度チェッカーを作った。
僕は張り切って使って星の観察を始めた。
やり始めてすぐに「このチェッカーは高さの角度はわかるけど、方角は分からない」と気がついて、方位磁石とセットで記録をつけ始めた。
4
数日して、段々と星座の動きがノートに記録され始める。
しかし、なんだか日によって記録がバラバラだったりして、なんとも不安定だった。
後から思えば単純な話で、人から聞いた話や思いつきだけでやっているのだ。
確たるものなど何一つない。
しかし、当時は一端の科学者にでもなった気持ちだった。
そして、一週間もする頃、そもそもの始めの疑問に対して悟り始める。
「星を動かすことはできない!」
角度と時刻で星の動きを追っているだけだったが、流石にどうやっても手の届かないところの星を動かせないことはわかった。
と言うよりも、考えていなかった自分のバカさに気がついた。
(あの兄ちゃんも笑うはずだ。)
子ども心に、一つ大人の階段を登った気がした。
5
「星溢れ」なるものを実現することはどうやら無理そうだと悟ったものの、星の観察は続けていた。
知らないことを、自分で調べて、『こうではないか』『ああではないか』と考えるのは、意外に楽しかった。
僕が物を知らない子どもだったこともあったのかもしれない。
星座の本でも買えば一日でわかるため、他の子どもはこんなことをしようとは、そもそも思わないかもしれない。やったとしても、本の正しさを後追いするだけだから、面白味もないだろう。
毎晩同じ時間に同じ場所に来て、方角を測り、星を見て、角度を記録する。
自分が馬鹿だったことを知っても、この『科学的な』行動は、ごっこ遊びに似た楽しさがあったのかもしれない。
6
そして、夏休みのある日。
比較的大きな地震が僕のいた町で発生した。
大きな震度、テレビでも放送され、建物が崩れたり、地割れが確認されたりしたが、幸いにも死亡者は確認されなかった。
その晩、僕はいつものように同じ場所で同じように星を観察して、驚いた。
「位置が違う!」
方位磁石とチェッカーで位置を確認していた星の動きは、昨日までの動きと相当の大きさで異なっていた。
(もしかすると、地震で星の動きが変わった!?)
僕は大発見をしたとドキドキして、その晩は記録を3回も確認して記録した。
翌日測っても、やはり星の位置はずれたままだった。
(ずれたまま、軌道自体は前と同じように動いているように見える)
地震で星の動きが変わる。そうなれば、星を動かせないわけではないので、「星溢れ」なるものもやろうと思えばできるのではないか。
幼い僕の夢は広がった。
僕の夏休みの自由研究は「星の動きの観察と地震について」とタイトルが変わった。
大発見としたかもしれない、と急に自分がすごい人間になったような気がした。
(ニュートンはりんごが落ちて重力を発見した。僕は地震で星が動くことを発見した。)
僕は、他の夏休みの宿題にも急に手を付け始めた。
歴史的発見をした時、「他の宿題は全然していないだめな子だった」と言われたくない、と思ったのだ。
7
夏休みが終わり、先生に提出する時の僕は、それまでなかったくらい誇り高い気分と期待でいっぱいだった。
その有頂天な状態は、1週間後に先生から呼び出されるまで続いた。
僕を職員室に呼び出した先生は、自由研究について話をした。
「きみの研究は、毎日星を観察して、記録して、動きを考える。地道な作業を良く頑張ったね。」
後から思えば、先生はこのとき、子どもの頑張りを台無しにしないよう、かなり気を使って言葉を選んでいたと思う。
「ただ、地震で星は動かない。結論は間違っているんだよ。」
「でも、観察した星の位置はたしかに変わっています。」
「うん。そうだね。きみは研究のレポートに測定する道具まで書いてくれた。おかげで先生もすぐに気がついたんだが、この『お手製チェッカー』は正確な星の観察はできないんだ。」
先生は、白い紙に図を描いてくれた。地面にたつ人と、筒と、星の関係図だ。
「このチェッカーは、同じ位置から一切動かずにそこから見える物の角度を測るものだ。同じ位置に立っていたとしても、例えばきみと先生では身長が違うから数値は変わる。そして、地震であの場所の高さか角度が変ってしまったんだろう。星の位置記録は変わったが、ずれただけで動きは一緒だった。星が動いたんではなく、きみが動いたんだ。」
先生の話は、せっかく作った自由研究だから、と、結論とタイトルを変えて「星の観察」にしたらどうか、ということだった。
「星の観察自体はよくやったともう。ただ、星の観察は、地上の目印となる建物からの距離などを測ってやるべきで、星と自分だけの位置から測ると正確な観察はできないんだ。」
これで、僕の夏休みを通した大発見は終了した。
星が動いたのは単なる勘違い。星は溢れようがなかった。
しかし、この時の僕の経験は「科学」と「科学っぽいもの」を分けて考えるきっかけになったのは間違いない。
僕はこれ以後、年をとっても「夢のあるSF」と「科学」は分けて考える癖がついたのだ。
『星が溢れる』
俺の生まれ育った地。
そして俺達の種族『戦士(クリーガー)』が住んでいる土地。
その名は『夜(ナハト)』。
前に神々とクリーガーが戦争を起こし、その後に神々が眠らせた力に関係があるとされている。
その戦争は、ある1人の男によって終焉を迎えた。
神々と私達の祖先は和解し、その証として神々はこの地の緑や水、作物などの成長を促したり、クリーガーの生活を豊かに出来る『奇跡(ヴンダー)』と言う力を眠らせ、クリーガーは神々に食材などを捧げると言う取り決めをした。
そして、そのナハトが数100年に1度、その『奇跡(ヴンダー)』とその『奇跡(ヴンダー)』から出ている小さな輝きを放つ物体『魂(ゼーレ)』が爆発し、地下から出てくると言う。
その名を『奇跡の光(ヴンダー・リヒト)』と、祖先達は付けた。
『奇跡の光(ヴンダー・リヒト)』が起きた後は、空が『魂(ゼーレ)で明るく輝き、豊作になったり病気が無くなったり治ったりと言う事があるらしい。
それが今日、もう少しで起きると言う情報が入った。
爆発が起きると予測されている場所には近づかず、安全な所からそれを待つ。
いつか一目見たいと思っていたので、感激だ。
ちなみに『奇跡(ヴンダー)』は自分で輝きを放たず、周りの『魂(ゼーレ)』の光の影響で光っている様に見えるらしい。
そんな事を考えていた直後、大きな揺れが起きた。
遂に来る。待ち望んだ時が。
次の瞬間、地が爆発し、巨大な物体がキラキラした小さい物と共に出て来た。
そのあまりにも綺麗過ぎる光景に、俺は目が離せなかった。
生きていて良かったと、そう思える様な光景だ。
その物体が空高く登っていき、かなり小さく見える様になった所で止まった。周りには沢山の『魂(ゼーレ)』が輝いている。
周りの木々達がどんどん成長していっている。これが『奇跡(ヴンダー)』の力か。
これから暫くの間、食べ物や水分には困らなさそうだ。
そしてここで豆知識。『奇跡(ヴンダー)』と『魂(ゼーレ)』には別名がある。
それは『奇跡(ヴンダー)』が『月(モント)』と、『魂(ゼーレ)』が『星(シュテルン)』と呼ばれている。
そして地下から出てくる時にこう言われたりもする。
『星(シュテルン)』が溢れる、と。
「星が溢れる」
あれは私がこの世界を作った時のこと。
「あなた」がこの世界に生まれる前、私は「あなた」の心を満たせるように、いろんなものを作りました。
はじめは、大地と海。その次に草花と生き物。
小さな街も、メトロポリスも、「あなた」が楽しんでくれそうなものは、なんでも作りました。
でも、何か足りない。これでは「あなた」が満たされない。
ここで私は気づいたのです。
空を見上げた時、何もないことに。
そして私は決めました。太陽と月を作ることを。
私とあなたが出会ったあの時のようなあの夜がまた見たくて。
「あなた」の笑顔が見たくて。
満ちる。星が満ちる。
それから、もっとたくさんの星で世界を飾りました。
これできっと、「あなた」もたくさんの星々から誕生を祝福されるはず。
溢れる。星が溢れる。
「あなた」がこの世界に生まれてからも、私は毎晩、星を作り続けました。彗星も、銀河でさえも作りました。
「あなた」が望めば、なんだって。
世界を星で溢れさせながら、私は「あなた」で溢れる。
このまま、ずっと永遠に。
星が溢れる
きらきら輝く一等星を見つめていた。
いつの間にか、どれが一等星か分からなくなった。
どこを見ても星しかなかった。これは何座?なんて柄にもなく聞いてみた。こんなにもたくさんの星が溢れているのに、よく覚えられるね。やっぱり私は君には敵わない。
星が溢れる
今日は流星群が見えるらしい。ネットニュースで見かけたのをずっと覚えていた。ピークは午前二時から三時頃。もし、起きていたら見に行こうと決めていた。
時計を見る。星を見に行くには一時間ほど早い。お茶を沸かす音が部屋に響いていた。一人でいるのがなんだかすごく寂しい。スマホを眺めてなんとか現実から目を逸らす。こんな状態で布団に入っても寝れはしないだろう。星を見に行くことが決まって嬉しいようなもどかしいような気持ちになった。
気づくと、歩くこととピーク前にも星空を見ることを加味すれば家を出るにはちょうど良い時間になっていた。草履を履き、ドアを開ける。ひんやりとした風が頬を撫でた。星を見るには、決めている場所がある。家から十分ほどのあまり整備されていない駐車場だ。この街は人口が少ないのに外灯がやけに多い。あまりの光の強さに星がほとんど見れないという状況が作り出されてしまっていた。外灯が少ない場所がないものかと探していたときに見つけた穴場である。
歩きながら、こんなに眩しくしなくてもいいのにとぼやく。動く自分の影を見つめていた。
駐車場に着くと既に人影があった。今日は流星群が見えるからだろう。一人でいているだろうことに勝手に救われる。でも少し困った。しれっと同じ場所で見てもいいものだろうか。なんとなくで気まずくなってしまうのは嫌だった。駐車場に入るのに迷っていたらその人が振り向いた。
「こんばんは、星見に来られたんですか」
まさかあの距離で話してくると思わなかった。ここから話しても私の声は届く気がしない。慌てて頷いて失礼じゃないように近づいた。
「こんばんは、流星群、見えると聞いたので」
緊張で声が震えている。久しぶりに人と話したからか何を話せばいいのかわからない。
「そうですよね、見えるといいんですが」
ふわっと笑った顔が印象的だった。最初にかけられた言葉のときも、笑っていたのだろう。
無事に私の声が聞こえたみたいで安心する。
話していくと、最近こっちに引っ越してきたこと、歳は私よりも一つ上であることがわかった。
時計を見るために少し服を引っ張る。もうピーク時間になっていた。
「そういえば、星見れてなかったですね。誰かに会えると思っていなかったのでつい話過ぎてしまいました。すみません」
「全然、私も話せて嬉しいので」
そう言って上を見る。零れ落ちそうなほどの星が見えた。
「うわー。すごく綺麗ですね」
あの人のことを思い出す。一緒に星を見た日のことを。
二度と戻らないからこそ綺麗なのだという言葉を心に唱える。
「星、見るの好きなんです。自分の存在をちっぽけに感じるから」
つぶやくように言われて思わず顔を見る。酷く懐かしい気持ちになった。
<読まなくていい前回のあらすじ>
百合子は、大金持ちの沙都子の家に行くほど仲がいい。
この日も百合子は家に遊びに行くのだが、ショーケースに入った宝石をうっかり壊してしまう。
慌てて証拠隠滅を図るも、沙都子にあっけなく見つかり、百合子は絶望する。
だが沙都子は、「これは百合子を釣る罠。宝石はイミテーション」とネタ晴らし。
安心する百合子だったが、沙都子から壊したイミテーションの弁償を要求されるのであった。
<本文>
高そうな車から降りて、辺りを見渡す。
降り立った場所は料理店が立ち並ぶ何の変哲もないグルメ通り。
だが他と違うことを、私は知っている。
この前、この通りの特集をテレビでやっているのを見たのだ。
この通りは星付きの料理店が立ち並んでおり、グルメ好きには有名な通りなのだ。
あの店も星付き、その向こう側も星付き、目に入る店、みーんな星付きで、星が溢れかえっている。
どの店も予約が半年先まで埋まっているほど大人気。
そしてお値段も味相応のお高いもの。
弁償するよりましと、ご飯を奢ることを提案したものの、これは予想外――いや本当は予想できたはずなのだ。
だって沙都子はお嬢様。
普通の庶民が来るような店には来るわけが無い。
弁償額を聞いたとき、冷静さを失ったのが悪かったのだろう。
なんやねん10万って。
いたずらに使う金額じゃねーぞ。
「あのさ、もう今日は帰らない?」
私は目の前の光景にしり込みしていた。
今回の件は自分が前面的に悪いので、下手に出つつ沙都子の様子をうかがう。
「あら、珍しくしおらしいわね。いつもそうだったらモテるわよ」
「モテないみたいに言うな!じゃなくて、これ無理。私の今月のお小遣いどころか一年分あっても足りません」
一品だけならなんとかなるかもしれないけど、それ以上は無理。
沙都子は少食だけど、こういう料理って『量より質』ってやつなので、一品だけではすむまい。
「心配しなくても大丈夫よ。ちゃんとあなたの持ってるお金の事を考えているわ」
え、マジで。
沙都子、もしかして天使?
「あそこよ」
沙都子が指を差したのは、通りを少し外れたところにある焼き肉チェーン店。
星付きではないが、安くてうまい店である。
私も行ったことがある庶民の味方である。
「あー、助かるっちゃ助かるけど。なんであの店?」
「一度やってみたかったのよ、『人の金で焼き肉を食べる』というのをね。こればっかりはお金積んでも食べられるものじゃないわ」
なんだが急に庶民じみてきたお嬢様である。
「……別にいいけど、気持ちは分かるけど」
妙に張り切る沙都子。
そんなに他人の不幸が嬉しいか?
「一つ聞くけどさ。なんでこの通りのここの店なの?沙都子の家からなら、もっと近い店あったよね。チェーン店だし」
なんなら車の中から見た記憶もある。
「それは、星付きの店を見て、あなたが絶望する顔を見たかったからよ」
こ、こいつ悪魔か。
さすがに一言文句を言おうとしたが、沙都子は我先にと焼き肉屋に入っていく。
あらかじめ予約をしていたのか、店員に促されるまま席に案内される。
席に座って渡されたのは、食べ放題用のメニュー。
私の懐事情に配慮したというのは嘘ではないらしい。
「さーて、食べまくりますわよ」
沙都子は今まで見たことがないくらいテンションを高くして肉を注文する。
そして運ばれてくる肉の皿。
これ食べきれるのか?
さすがにストップをかけようと、沙都子の方を見て――そして言うのをやめた。
沙都子の顔が期待でとんでもなく輝いていた。
特に目が輝いていて、目の中に星が溢れていた。
その様子を見て私は覚悟を決める。
いいだろう。
ここまで来たら付き合ってやるのも悪くない。
馬鹿みたいに食べるのも、焼き肉の醍醐味の一つだ。
どんどん焼いて、焼いた側から食べていく。
そして案の定食べすぎ吐きそうになりながらも、車に乗って家に帰るのだった。
後日談。
そして、沙都子は『人の金で食べる焼き肉』がたいそう気に入ったのか、私が何か物を壊す度に肉を奢らされることになった。
減っていくお小遣いもそうだが、少しずつ横に大きくなる沙都子をどう扱ったらいいいのか。
私の悩みは尽きないのだった。
:星が溢れる
「もう嫌なの」「逃げたい」「もう耐えられない」「離れたい」「どこで間違えたの」と泣いているあなたの背中を撫でるわけでもなく、ライトに照らされたあなたの涙が星みたいだと思っていた。あなたの目から星が溢れ、流星となる。美しかった。鬱くしいともいえる。
泣いているあなたのことをほったらかしにして。ティッシュを差し出すこともハンカチで拭ってあげることもせず。
星を流すあなたのことを“儚い”と思い込んで美化した記憶は、星の輝きなど持っているだろうか。
あの人は美しかった 確かに。
未だ星を眺めている。
第四十五話 その妃、祝福を与えし
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
黒く分厚い雲が空を覆う。
もうすぐ、バケツをひっくり返したような土砂降りの雨が、地に降り注ぐ。予想通り、被害は最小限に抑えられるだろう。
「……くん? 栄光くん」
それに反して、池に映る空は今にも星が溢れてきそうなほどの満天。計画は、終始つつがなく、そして一切の問題もなく終わるだろう。
一人ポンコツが居たところで、優秀な妃と陰陽師がいるんだ。そもそも失敗なんか、するわけないけど。
「強いて問題があるとすれば、あっさり終わってしまうことくらいかな。意外と楽しかったし」
「よしみつくーん!」
「ん? 何、チョコちゃん」
真っ赤に熟れた苺のような瞳に、光が当たるとキラキラと白く輝く綺麗な髪。
小柄な彼女は、例えるならかわいらしい雪兎のよう。
「いつになったらその、かっこいいお妃様に会えるの?」
「全部終わったら来てくれるよ。向こうもチョコちゃんにすごく会いたがってたから、心配しなくてもそのうちすっ飛んで来るんじゃないかな」
彼女こそが、あの帝から寵愛……いや、迫害を受け続けた張本人であり、“星”を統べる男が生涯愛し続ける女性。
「でも、栄光くんずっとここに居ていいの?」
「いいんだよ。僕も、そしてチョコちゃんにも、これ以上は手が出せないから」
「どうして?」
「彼女たちとは違って、僕たちは渦中の人間だから」
国の滅亡には勿論賛成だ。天辺を奪い中枢を壊しさえすれば、あとは何もしなくとも勝手に滅びの一途を辿るだろう。
けれど、国の中には全く罪のない人間たちが大勢いる。犠牲になった者たちもいる。
星の長として、彼等を放っておくわけにはいかない。
そして……残していく我が子のためにも、今のうちにできることをしておかねばならない。
「やさしいのね」
「そうだね。まあ鬱憤溜まってるだろうから、二人とも今頃大暴れしてるだろうけど」
「そうじゃなくて、栄光くんがよ」
「……僕が? そんなこと言うの、チョコちゃんくらいじゃないかな」
「そんなことないよ。今だって、南の……“日”? の子たちも助けてあげてるじゃない」
「利害の一致だよ」
「それでも、栄光くんはやさしい人だよ」
そうして笑顔を向けてくれる彼女が、心からの言葉を届けてくれる彼女がすごく、いつも眩しかった。
「たとえ何かを成し遂げるためだけの関係でも、人とは一切関わろうとしないあの栄光くんがわざわざ築いたんだよ? それだけで十分栄光くんの宝物だし、きっと本当はやさしい栄光くんのことを知れた相手も、大切にしようとしてくれると思うの」
「……千代子さん」
聞くに耐えきれず思わず抱き締めると、心の中で彼女は嬉しそうに笑った。
それで十分、彼女には全てがお見通しなのだとわかる。
だから、内心で白旗を上げ、白状することにした。
「これから先何があっても、僕はあなたのことを愛してるよ」
(ふふっ。……私もだよ)
この国はいずれ滅ぶ。
星も、月も、そして太陽も。
そのことを唯一知っている人間に、できることは何だろうか。残された人々に、そして愛する人たちのために、残せることは何だろうか。
国の各地には、古くから言い伝えや伝承が残されている。人々のこびり付いた考え方を変えるには、相当の時間を要すだろう。この命が尽きる方が、もしかすると早いかも知れない。
「お出掛けするの?」
「うん。まあちょっと」
らしくない。不確かな未来に不安がるなんて。
不安なら、ただ無くせばいいじゃないか。
その原因を。徹底的に。この目で見届ければいい。
「わかった! 留守は任せて!」
「それは心配だから、そこの馬鹿カラスに任せとくよ」
「カアーッ⁈」
「ちょっと栄光くん。そんなこと言ったらシロちゃんがかわいそうじゃない」
「そう? 僕は千代子さんがいつも通りで嬉しいけど」
そもそも、まだ何も返せていないじゃないか。
この、幸せな時間をくれた、橘の姫に。
そして、あの……ポンコツ野郎にも。
#星が溢れる/和風ファンタジー/気まぐれ更新
2人で歩く歩道橋のさらに上には光輝く宝石で埋め尽くされていた。闇を隠すように溢れ出していた。私は幼馴染のゆーくんとこの下で話すのが好きだった。単にゆーくんが好きなのもあるけども私はロマンが大好きだった。八月の空に見える銀河の断面を川と比喩した人は本当に天才だと思う。この川は私にロマンを与えてくれるだからゆーくんと見るのが大好きだった。
ゆーくんは今も覚えてるかな?
私は忘れかけたロマンをこうして思い出す。研究漬けの毎日なのは自分で選んだ道だ。だからここで折れる訳には行かない。少しでも早くに会いたくて私は今日も道具研究を続ける。
「時を越えて私のロマンを取り戻す。」 私はこう誓った。
ゆーくんは優秀で周りの子から好かれていた。でもそれは仮初の姿。本当のゆーくんは私しか知らない。クールな表面に隠されているのは本当はふざけたい気持ち。誰もが羨む頭の良さはショートスリーパーな彼女が大量の自由時間を削って手に入れた成果ということ。ゆーくんの努力を小学生の時から見てきている私はゆーくんを羨む人を心底軽蔑した。でも、ゆーくんは優しいからフェイクの笑みを振りまく。そんな心をすり減らしているゆーくんを支えたくてずっと一緒にいて本心を聞いたりしていた。でも、最大の悩みは解決などしようがない。
ある日、いつもの歩道橋で突然ゆーくんが立ち止まった。
「空、綺麗だね。」
「うん! 私はね月もいいけどその奥のマイナーな星が見えるようになるってロマン溢れるしょ? だから好きなんだよな〜」
「ふふっ、しょーちゃんはロマン好きだね。」
「だって星と書いて「しょう」だもん!」
「幽九って名前もかっこいいよ!」
「でも…」と言いかける彼女の言葉を遮って言った。
「可愛くなりたいんでしょ?」
「うん。」
彼女はボーイッシュな見た目と名前にとても苦しんでいた。「女の子なのに……」というどうしようも無い問題を彼女は抱えていた。これは子供だからこそより精神的に来る辛さなのは私にも想像できた。周りは肯定どころか今の彼女を肯定する。
星が溢れる
星、星、星
満天の星空を見上げて私は両手を広げてくるくる回る。
「ねえっ!キレイだね」
「こんな状況じゃなければな」
幼馴染はブスッとした顔で返事をする。
「ノリ悪いなぁ。大丈夫、何とかなるって!」
「お前につきあわされてなんとなかったためしはないんだって!」
幼馴染の健太の声を無視して、私は小高い丘の木の下に座る。家がよく見える。
お母さんと勉強のことでこっぴどく喧嘩したんだ。
家の明かりもよく見えた。
今頃、心配しているだろうか?書き置きを残して出てきたから。
「はぁ~。何で俺まで」
健太はため息をついて私の横に座る。
「いいじゃん。女一人だと危ないでしょ、ボディーガードよ!」
私の返答にも不満そうな顔をする健太。
「あのなー、前々から台風の日に冒険行くだの、大雪の日に一番深く積もった場所を見に行くだの、散々付き合わされてるんだけど、俺」
「幼馴染でしょ?」
ニコッと私が笑いかけると、健太は再びため息をつく。
「幼馴染って便利屋か?」
「まあまあ、そう言わず。見てよ、星空がキレイだよ」
私が再び夜空を見るよう促すと、健太はしぶしぶ上を見た。
「・・・本当だ、キレイだな」
漆黒の闇に、チカチカと瞬く星星は私達の心を柔らかくしてくれるようか気がしていた。
月も三日月より細い分、星の明るさが際立っていた。
「この星空を見られたなら家出したかいあったでしょ?」
「・・・なぁ、家出はもうやめて帰ろうぜ」
健太が私を見て言う。
「やだ、だって私の親宿題しないと遊んじゃだめっていうんだから」
「それはお前が宿題毎日やらなくて担任から連絡行ったからだろう」
「遊んでる方が楽しいもん。宿題なんてやりたくないよ」
「子供じゃないんだからさ。家出して解決する問題じゃないと思うんだよな・・・」
健太がそう呆れたように言うので、私はムッとする。
「じゃあ、どうすればいいの?」
「時間決めてやったら?」
「分からないんだもん」
勉強をすればするほどこんがらがる。分からなくなる。漢字をずっと書いてると頭がおかしくなりそうだ。
「分からないところは、俺も教えるからさ。一緒に宿題しようよ」
健太は、そう言ってくれる。
「いいヤツだね、健太。でも、私に出来るかな?」
自信がなくてそう言うと、健太は力強く頷いた。
「大丈夫、できるよ。出来なかったらまた考えればいいから、な?帰ろう」
「・・・分かった」
正直、帰ってまたお母さんとやり合うのは嫌だった。
口ではとても勝てない。
私の気持ちを察したのか、健太が話し出す。
「ちゃんとお前の母親にも言うから。一緒に勉強するって。だから今度から家出に俺を付き合わせるなよ」
健太にそう言われて、私は胸が軽くなるのを感じる。
「ありがとっ、健太。もう家出なんてしないようにするよ、まぁ、大雪の日なら雪だるま何個作れるかチャレンジしに行くけどね〜!」
「それそれ、そういうのが嫌なんだって」
そんなことをワイワイ話しながら、私の短い家出時間は終わったのだった。
【星が溢れる】
(※性的表現有り🔞)
「あ…ああっ…」
星のライトに照らされ、
彼女は濡れている。
かつて恋人だったオレに抱かれて
可愛く鳴いている彼女は
相変わらず 恥ずかしがり屋で顔まで布団を被せる。
彼女の綺麗な肌は
オレが少しでも触れたら傷がつきそうに
柔らかかった。
彼女がはらりと服を脱いだ時、
彼女は当時よりも痩せていた。
そんな彼女でもやはりオレは彼女を心から愛していて
たくさん体にキスをした。
いくら彼女が愛しくても
彼女はキスが嫌いで 唇を奪えない。
そのもどかしさを思いながら
体に優しくキスしたり、少し噛んだり
舌をはわせたりしていく。
「ココ?」
オレが優しく彼女が求める場所を
舌で探しだす。
彼女から出る蜜はとろとろで甘くて美味しかった。
優しく舌先で舐める度に可愛らしい声と
同時に溢れ出す愛液がたまらなかった。
「優しくして…」
『処女』の彼女は 汚れを知らない。
ゾクゾクと小さくふるえだす柔肌は
『天使』そのものだ…。
芯まで汚れているオレが触れるには
もったいないぐらい純粋だ…。
しかし いつも彼女は「あなただから」と
オレに身を委ねる。
…それは当時でも変わらない。
彼女には好きな人がいる。
オレにも旦那がいる。
これが許されない恋なのはわかっている。
だがもし、彼女がオレを本当に求めるその時は
旦那を捨てて 彼女と駆け落ちしようと思っている。
もちろん。他の愛人も捨てて…。
彼女はずっと オレのものだ。
希望の星が沢山あった。今やない。どこで手放し、どこで諦め、どこで間違えたのだろう。
それでも毎日続く。星が見える自分になりたい。
蒼いシロップを透き通るまで割って
ふわふわの綿飴で蓋をする。
雫模様を描いたグラスには
強めのクリームと鮮烈なレモン。
きらきらと注がれるサイダーに
小さな金平糖が踊っている。
ふと視線を向けた暗闇は、
気の遠くなる様な銀紗に覆われて。
私のいないその暗闇は、
いっそ五月蝿い程に眩いようで。
サービスです、と差し出されたチョコレート。
白い果実を隠した黒を、皮肉かしらと見上げれば
次は暫く先でしょう、とマスターは笑う。
それもそうか、それもそうだ。
私を見えなくなった人々の歓声に耳を傾けながら、
移り行く時にグラスを重ねた。
<星が溢れる>
初めて私達人類の住むこの地球が
億千万の星々の内の一つでしかないと知った時
幼心ながらに絶望したのを憶えている
現在の私を苦しめる問題やささやかな幸せ
この大きな地球に住む人々の生活
それらを乗せて回り続けるこの地球
そのすべては特別なものではなくて
当たり前のようにいつか滅びる儚いものなのだと
それから時は経ち私は少しおとなになっていた
プラネタリウムで隣の席
星たちの物語を楽しげに聴くきみを見ていると
昔の自分が思い出された
あの時溢れた星は私を苦しめたけれど
この空に浮かぶたくさんの星たちのように
今きみの笑顔が溢れていた
○星が溢れる○
「なんて綺麗なの…」
隣の彼女は大きい目をきらきら輝かせ、頬を紅潮させて呟いた
「ね、綺麗。来てよかったでしょ?」
「ええ…まさかこんな…素敵なところがあるだなんて」
驚いたことに、彼女は瞳から星屑をぽろぽろと溢れさせていた。
「あら…素敵すぎて、思わず涙が…」
星屑を涙と捉えていることにさらに驚いた
「え、それ…星じゃないの?」
「え?星?…ああ、この涙のことかしら」
彼女はふふっと笑って、
「乙女にはなにかしら、秘密があるものよ?」
そうして、目をきらきらさせた。
001
星が溢れる
(本稿を下書きとして保管)
2024.3.15 藍
「星が溢れる」
あの日 4人で集まって
なんの作戦会議をしてたんだっけ?
もう帰らなくちゃ お母さんに怒られるねって
なんとなく夜空を見上げたら
星がピューってたくさん降ってきてて
みんなですごいすごいってなったの
今でもその時の空気感は忘れてなくて
星が溢れそうな夜空をみると思い出すんだ
あの時初めてあんなたくさんの流れ星をみて
それがね 大好きな君とだったから
あの 星が溢れた日は
いまでも大切な思い出です
03 16
星が溢れる
と、かしゃり、っていうよ
北のほしいろの、一点ものだよ
そろそろ溶けてしまうから、
食べてしまおうね
星が溢れる
お土産に金平糖を買った。
ガラスケースの中にある甘くて小さな星に癒される。