星が溢れる
今日は流星群が見えるらしい。ネットニュースで見かけたのをずっと覚えていた。ピークは午前二時から三時頃。もし、起きていたら見に行こうと決めていた。
時計を見る。星を見に行くには一時間ほど早い。お茶を沸かす音が部屋に響いていた。一人でいるのがなんだかすごく寂しい。スマホを眺めてなんとか現実から目を逸らす。こんな状態で布団に入っても寝れはしないだろう。星を見に行くことが決まって嬉しいようなもどかしいような気持ちになった。
気づくと、歩くこととピーク前にも星空を見ることを加味すれば家を出るにはちょうど良い時間になっていた。草履を履き、ドアを開ける。ひんやりとした風が頬を撫でた。星を見るには、決めている場所がある。家から十分ほどのあまり整備されていない駐車場だ。この街は人口が少ないのに外灯がやけに多い。あまりの光の強さに星がほとんど見れないという状況が作り出されてしまっていた。外灯が少ない場所がないものかと探していたときに見つけた穴場である。
歩きながら、こんなに眩しくしなくてもいいのにとぼやく。動く自分の影を見つめていた。
駐車場に着くと既に人影があった。今日は流星群が見えるからだろう。一人でいているだろうことに勝手に救われる。でも少し困った。しれっと同じ場所で見てもいいものだろうか。なんとなくで気まずくなってしまうのは嫌だった。駐車場に入るのに迷っていたらその人が振り向いた。
「こんばんは、星見に来られたんですか」
まさかあの距離で話してくると思わなかった。ここから話しても私の声は届く気がしない。慌てて頷いて失礼じゃないように近づいた。
「こんばんは、流星群、見えると聞いたので」
緊張で声が震えている。久しぶりに人と話したからか何を話せばいいのかわからない。
「そうですよね、見えるといいんですが」
ふわっと笑った顔が印象的だった。最初にかけられた言葉のときも、笑っていたのだろう。
無事に私の声が聞こえたみたいで安心する。
話していくと、最近こっちに引っ越してきたこと、歳は私よりも一つ上であることがわかった。
時計を見るために少し服を引っ張る。もうピーク時間になっていた。
「そういえば、星見れてなかったですね。誰かに会えると思っていなかったのでつい話過ぎてしまいました。すみません」
「全然、私も話せて嬉しいので」
そう言って上を見る。零れ落ちそうなほどの星が見えた。
「うわー。すごく綺麗ですね」
あの人のことを思い出す。一緒に星を見た日のことを。
二度と戻らないからこそ綺麗なのだという言葉を心に唱える。
「星、見るの好きなんです。自分の存在をちっぽけに感じるから」
つぶやくように言われて思わず顔を見る。酷く懐かしい気持ちになった。
3/16/2024, 9:57:25 AM