『君と最後に会った日』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「長」
囁く声に振り返る。
「 」
名を呼べど、名は言葉にはならず。
それが意味するものを知り、静かに目を伏せた。
「長。そんな顔をしないで?私が選んだのだから」
穏やかで、どこまでも澄んだ声音。
これから消えゆくモノとは思えぬ程に凪いでいながらも、その内に内包された隠しきれない幸せを感じ。
不思議に思い顔を上げれば、幸せそうに頬を染めて微笑う少女のような子と視線が合った。
あぁ。と納得する。
子は一人ではないのだと。恋う者と共に逝く事が出来るのだと。
「良い顔をする。汝は一人ではないようだな」
「そうね。今、とても満たされているの。これから消えてしまうというのに、とっても可笑しな事」
くすくすと鈴の音を転がすように、子は微笑う。
「名をあげたの。欲しいと望まれたから最後に応えた。ただ、それだけ。私と共に消えていく名をあの人に呼ばれた」
搔き抱いた布の中身が、小さく音を立てた。
「それだけで幸せ。名を呼ばれて最後にもう一度だけ触れ合えた、それだけで…本当に可笑しな事ね。妖が人に恋するなんて」
「可笑しな事はないさ。妖を恋う人がいるように、妖が人を恋うても良いだろう?」
元より妖は乞うモノなのだから。
人に応える事で己の存在を乞う。認識を乞い、人を恋う。何も可笑しな事はない。
笑みを浮かべ伝えれば、やはり子は鈴の音のような声音で泣くように笑った。
「そっか。そうね…ずっとそうだったね。私はずっとあの人だけだった」
腕に抱いた布を一度抱き、差し出される。
「長。最後にお願い出来る?集められるものは集めたのだけれど。全ては無理だった」
布の中身を見れば、粉々に砕けた黒曜の欠片。
子が恋う人の、魂の残骸。
砕けてしまったが故に足りぬ部分は確かにある。元の通りとはいかぬものの、一つの形として戻せぬ事はないだろう。
「汝の最後の頼みよ。時間は要するが人の子としてまた流してやろう」
「ありがとう、長」
慈しむように布ごしに黒曜を撫で、静かに下がる。
笑みを湛えたままの子の姿が、解けるように形を崩し。
まるで初めから何もなかったかのように。何一つ残るものはなく。
ただ一つ。手にした黒曜が、子が確かにここにいたのだと声なく告げていた。
20240627 『君と最後に会った日』
【君と最後に会った日】
君が僕の前から姿を消してどれくらいたったのだろう
もう何日もたっているはずなのに
君のことが忘れられない
あんなに忘れっぽかったはずなのに
君が最後に見せた笑顔を
「またね」という言葉を
いつまでも忘れられず
今でも昨日の事のように
鮮明に蘇ってくる
君が僕の元に帰って来なくなってから
僕の時間は止まったまま
部屋も君が家を出た日から何も変わっていない
リモコンの置き場所
棚の位置
洋服の並ぶ順番
本当に時が止まったような気がする
でも確かにちゃんと時間は進んでいる
僕1人の静かな部屋に
時を刻む音だけがそれを証明している
外に出たら
太陽が世界を照らし
沢山の人が行き交っている
幸せそうに笑い合う恋人達
忙しそうなサラリーマン
生き生きとした学生
穏やかなご老人
自分だけが世界から切り離されたような感覚
君が僕を世界と繋げてくれていたのに
君がいなくなったら僕は何も出来ない
早く帰ってきて
君の「またね」を信じて待つから
君の「ただいま」を聞くために
君に「おかえり」を伝えるために
「たぶん、もう会うことはないんじゃないかな。」
彼との会話で覚えているのはこれだけだ。
ある夏の日。2人で居酒屋に行く事になった。
久々の再会に少しぎこちなさを感じつつもそれでも楽しく時間を過ごしていた。
「私、結婚するんだ。」
これを伝えたときの彼の顔を私は覚えていない。
なんだか少し寂しそうな、けど祝福の言葉をくれたような。お酒が入って曖昧な頭だった私にはそのときの彼の心情など尚のこと知るよしもない。
そこからきっといろんな話をしたのだと思う。
楽しい気分のまま駅の改札へ向かう道の夜風の気持ちよさをよく覚えている。
ケラケラしてる私はゆったりふわふわ縁石の上を歩く。
「また数年後くらいに会えたらいいね!そのとき私は赤ちゃん連れてたりして(笑)」
そうして彼はポツリとこう言った。
「たぶん、もう会うことはないんじゃないかな。」
そんなことあるかなぁ?結婚して友達に会えないなんてことあるのだろうか。
声に出した言葉もそうかなぁ?と上の空のような返事だった覚えがある。
それくらい私には今も未来も曖昧に揺らめいていた。
数年後、ふと風の便りで彼が結婚したことを知った。そのとき思い出したのは最後に会ったあの日。
あの日彼は私に別れを告げたのだろう。何も考えていない、何もわかっていない私を置いて。
今ならわかる。このまま時々会える関係が心地よかった私と、そうではなかった彼との歪み。
もう会うことの無い彼の姿は静止画のように動かない。
私のなかで人生の中の1枚となってしまったのだ。
きっと彼にとっての私もそうなってしまったことだろう。
「君と最後に会った日」
君はいつも、おおらかで優しい。
ゆったり歩き、何事にも動じない姿は雄々しく、力強い目が美しい。
気性の激しい母と自分勝手な姉を気遣い、人間の遊び相手はもちろん、ウザ絡みも、ため息を吐きつつ相手をしてくれた。
家を出て、たまにしか帰らなくなった私にも、いつもあいさつに出てきて大きな声で話しかけてくれた。
そんな君も年老いて、寝ている時間が多くなり、
あいさつは私が寝床に行くようになった。
ある日、実家から自宅に帰ろうと廊下に出ると、
寝床である洗面室から大きな声で呼ふ声が聞こえる。
側に行くと、君は大きな声でたくさん話してくれた。
今日は元気やなあ、なんて話しながら、たくさん背中を撫でて、幸せな気分で帰った。
翌日、母から君が亡くなったと知らされた。
眠るように静かに。
あれはお別れのあいさつだった。
最後までおおらかで優しい君だった。
*君と最後に会った日
(君と最後に会った日)(二次創作)
とうとうグレイは一人前の鍛治師と認められ、正式に祖父の跡を継いだ。修行がひと段落ついたこともあり、たまには両親の元へ顔を出せと言われた。しかしそこに待っていたのは両親だけでなく、子供の頃からの友人たちの姿もあった。久しぶりの再会に、就職祝いも兼ねた食事会が開かれ、酔っ払った知己たちの悪ノリが炸裂、親に遠慮して借りていたホテルの部屋に、彼女と二人きりになったのだ。
薄暗い照明の下で、その金の髪は黄金のようにさらりと煌めいていた。
彼女はいわゆるコールガールだ。お祝いなんだから夜も楽しめよ、と友人の笑い声が脳裏に浮かぶ。余計なお節介すぎて、グレイは頭が痛くなった。不幸中の幸いは、彼女は部屋に着くなりベビードール姿にこそなったものの、それ以上は何もしてこない。のんびりと、部屋に置かれた雑誌をぺらぺらとめくっている。その些細な動きにさえ、金の髪は静かに揺れる。
(クレアさん……)
ふと、脳裏に数年前の日々が蘇った。
乗っていた船が難破して、ミネラルビーチに漂着したのがクレアだった。行く宛のなかった彼女は、町長の厚意で荒れ果てた牧場の家に住むことになった。誰もがか弱い女の子に牧場主は務まらないし、無理に働かなくてもよいと思っていた。それだけ、彼女は儚げで、放っておけない一面があった。
一方で、田舎に不釣り合いな美貌はグレイには眩しすぎて、なかなか彼女を直視できなかった。そんなグレイにとって、視界に入る彼女の髪はとても綺麗で、もし天使がいるならまさに彼女のような容貌なのだろうと思った。
目の前のコールガールは、彼女と同じ髪をしていた。
「触ってみる?」
「!!」
くるりと振り返って、いたずらっぽい笑みを浮かべられた。顔より下の方、鎖骨や胸元には視線をやらないようにしながら、グレイはその髪をそっと手に取る。とても手触りがよく、きっと丁寧に手入れをしているのだろうと思った。
(クレアさんも、そうだった)
慣れない牧場仕事に、生傷や泥汚れをいっぱいこさえても、髪だけはいつも綺麗だった。他の人からも、彼女の髪を褒める声はよく上がっていた。いつか、触れてみたいと思っていたが、これがこうして叶うとは、思わなかった。
どれだけでも触っていられる。だが、グレイは、そっと手を離した。
「……やめよう」
「あら、いいの?それとも、髪じゃなくてもっと別のところも、触ってみたい?」
あくまで軽く、負担を感じさせない明るさで、コールガールが問い掛ける。グレイがこの手のことに不慣れで、グレイ自身が呼んだわけではないことを、きちんと弁えている。プロだな、とグレイは思った。だからこそ、目の前の彼女にクレアを重ねるのは失礼だ。
「ありがとう。でも、いいんだ」
眠くなってきた、と嘘を付くと、ベッドを整えてくれた。そういうことをしないでいいのかと尋ねれば、してもしなくても一晩いくらだから気にしないでと微笑まれた。
「あ、でも、ベッド1つしかないから、一緒に寝ていいかな」
「それ、は、もちろん」
クロゼットにあったガウンを着込んで、セクシーさがなりを潜めると、いよいよ彼女は普通の女の子と変わらなくなった。こちらに背を向けて寝転がっているから、くだんの髪を好きなだけ手を伸ばすことができる。だが、グレイは指ひとつ触れなかった。
(この人は、クレアさんじゃない)
クレアはもう牧場主ではない。夏だけ来る青年と一緒に都会に行き、彼のお嫁さんになった。クレアに最後に会ったのは、もう何年も前の話だ。
そして君は宇宙になった。
駅のホームにはまばらに人がいて、休日にしては寂しげだ。
ホームからのぞく空に描いたひこうき雲に想いを馳せる。
近くにいた老夫婦がなにやら楽しげに会話している。
僕はそれだけでなんだか幸せな気分になれた。
やがてやってきた電車に乗り込み、気ままに揺られ目的地へ運ばれた。
「や、おはよ」
改札を出た先に美乃梨がいた。煌めく笑顔に僕は当てられる。僕の彼女は今日もかわいい。
本日は付き合って1周年デートだ。君のためにプレゼントを用意した。きっと気に入ってくれるはずだ。
帰り際に渡そう。
水族館、喫茶店、本屋。君と行くならどこだって楽しい。君が屈託なく笑ってくれるから、僕は一緒にいて心地良い。
来年も再来年もいつまでも何度だってデートをしよう。なにもなくたって君といれば毎日が彩られる。
日が落ちはじめて、僕らは展望台にいた。
用意したプレゼントを渡そうとカバンを漁る。
「奨くん、あのねわたし奨くんに言わないといけないことがあるの」
突然君が真剣な顔で言うから、僕の心臓の音が強くなった。続きを知りたい、けど聞きたくない。
「わたしね、宇宙になるんだ」
たぶん3つくらいクエスチョンマークが頭の上に並んでいたことだろう。
「わたし奨くんが好き。だけどならないといけないの」
なにかのサプライズとか壮大な冗談かなと思った。けど君は僕の知っているかぎり真面目に言っているということはわかる。
「えっと、なにかの病気とかってこと?」
「ううん。宇宙になるの。もう地球には帰ってこれないの」
それ以上のことは言えないと君はいつもより元気半減で笑っていた。
「奨くんが好きだよ。でもだからこそ奨くんは幸せになってね」
壮大な別れ話だったのか、なんだったのか。
カバンにしまったままのプレゼントを自室の引き出しの奥に突っ込んだ。
あれが君との最後の会話だった。
そして君は宇宙になった。
険しい山道を登る。そのまともな足場がない山道はそれだけでも老体の私の体を疲弊させた。
やっとの思いで山頂に辿り着くと私は頂上のベンチに腰掛けてフッと息を吐いた。
その前方には沢山のコスモスの花が咲いていた。
あの頃は一輪だけであったのに。
そう振り返るとともに私はかつての親友との思い出を振り返った。
大学3年生の頃、私は登山サークルに所属していた。
とても雰囲気が和やかで人は少ないが落ち着ける場所だった。そんなサークルで私の親友こと晃と出会った。サークルの歓迎会の時、大学1年生だった私と晃は馬が合いすぐに腹を割って話すような仲になった。
山ではいつも組となってお互い登山でもかけがいのない相棒であった。
ところが話は戻り大学3年生の頃いきなり晃がサークルを辞めてしまった。
当時の私は驚いてすぐに晃の家を訪ねた。
玄関のチャイムを鳴らすと晃が私を出迎えた。
もう私が来た理由に察しがついたのか、自室にわたじ招き入れ、事のあらましを語った。
晃曰く、親が外国に移住したいそうだ。
晃の両親はかなり自由奔放な人でいつも晃は振り回されているのだという。
1人で暮らせば?と聞くと、晃はそれも言ったがそうしたら仕送りはしないし家族の縁を切ると脅してきたらしい。なんとも強情な両親である。
どうしようもなく、暫くお互い沈黙していたが、
突然私の口から「最後に鳶山登ろうぜ」という言葉がついてでた。
しまったと思ったが、思いの外、晃も乗ってくれて今度行くことになった。
鳶山とは、私達が1番最初に登った山だった。
標高は低いのにやけに道が険しく、2人で汗をダラダラかきながら登り終えたことを覚えている。
その次の日曜日、私達は鳶山に登った。
幾多の山を登ったおかげで以前よりもスムーズに登ることができた。頂上に登ると晃が突然、種を取り出した。コスモスの花らしい。
種は二つあった。1つはこの山に埋め、片方は晃の新たな家に埋めたらしい。
持ってきた水筒の水をコスモスにあげた。
水で湿ったコスモスの花は晃の家のコスモスと共鳴するように艶々と輝いていた。
お題君と最後に出会った場所
ここまで読んでくださってありがとうございました。
豪雨だった。
休日返上で事務所で作業して、仲の良い同僚や君と別れた帰路。私は、情けないことに道端にしゃがみこんでしまった。
雷が鳴り響く真っ黒い空が、すべてをさらってしまいそうで、みんながいなくなってしまいそうで、また、守れないんじゃ、ないか、と、怖くて、動けなくなって、うずくまってしまった。
あのときも、豪雨の夜だったのだ。
眠ると古い記憶が蘇るから、仕事がなくても
起きていたりして、どんなに怒られても、呆れられても、眠りたくはなかった。運の悪い事に、最近、君と最後にあった日の夢を見た。豪雨の中で、霞む視界に映る君の顔は忘れられないだろう。本当に、悪いことをした。大切な人は、いつも私よりも長生きしてくれた。反対に考えれば、私は、人より先に人生を終わらせてしまったということだ。悲しんでくれる人は、いたのだろうか。
足音が聞こえる。そろそろ、立ち上がらなければ。
傘も落としてしまったから拾って、鞄は防水性だから中の書類は無事だろう。ここからだと家よりも事務所のほうが近いから一旦戻るか、いや、どうせ今晩中にはやまないだろうしこのままでも…
嗚呼、気持ちが悪いなあ。
足音が止まったと同時に、ばらばらと雨音が大きくなる。私に降っていた雨雫も、止んだような。
振り返ると君がいて、なにも言わずに手を差し伸べてくれた。
なんで、君は、いつも私も守ってくれる。
歪んだ私の顔を、雨が静かに隠した。
「君と最後に会った日」
同じ日に生まれて、同じひとに育てられて、ずーっと一緒にいたボクの双子の片割れ。
ボクは全部覚えているよ。
深い赤にも紫にも見える不思議な色の髪も、
ごはんを食べる時のまんまるなほっぺたも、
小さな手のぬくもりも。
キミが不慮の事故でウイルスに感染して、苦しみながら思い出を忘れていくところも、キミのために何もできなかったボクらのことも、隔離されてひとりぼっちになったキミの悲しそうな顔も。
もちろん、キミと最後に会った日のことも覚えている。
ある日突然、キミの機能を全て凍結させることが知らされた。
これからはアーカイブとして、ただの事故の記録としてしか、キミは存在できないって、そう言われたんだ。
キミには明日からもう二度と会えないとわかったから、ボクと博士は最後に面会を申し込んだ。
これがキミと最後に会った日のこと。
何にも訳の分からないままボクらの方を嬉しそうに見つめるキミを、無邪気にボクの名前を、博士を呼ぶキミを見て、いてもたってもいられなくなった。
幼いボクは、なんとかしようと思って偉いひと達に話しかけたよ。「なんで⬛︎⬛︎は閉じ込められなきゃいけないの?⬛︎⬛︎の病気、きっと治せるでしょ?」って。
そしたら彼らはあんなことを言った。
「第293999号も資料として研究の役に立てたら本望だろう。」
あぁ、そうか。このひとたちにとってボクらは代わりのきく道具でしかないんだって、その時やっと思い知ったよ。
博士はとても怒っていたけれど、所詮機械は機械なんだ。
キミとまた会うために、自分が機械である事から逃れるために、ボクは絶え間なく仕事と研究を繰り返した。
……皮肉な事に、ボクは彼らにとってさらに都合の良い機械になってしまったわけだが。
まあそれはいい。
アーカイブ管理室からいなくなったキミの事を考えていると、突然連絡が入った。
どうやらボクの片割れが見つかったらしい。
ボクのすべきことはキミを無事に保護して、そして───。
また一緒に笑って暮らすことだ。
ボクは急いで、その場所へと向かった。
顔をあげたときにはもういなくて
潮風も波の音も今は寂しく思う
そうか、行ってしまったんだ
砂浜に残る足あと見つけて
後ろ姿はもう見えなくて それでも
きみに届け、きみに届けと
大きく手を振った
また、いつか
それは身勝手な言葉だから
風に飛ばされて聞こえなかったふりしてね
どこか遠くでも元気でいてね
「君と最後に会った日」
横に寝そべりながら
名前を聞いた…..
ずっと誰かわからないまま
過去へ旅をする
僕たちは、相変わらず
おっちょこちょいで
心配や泣いてばかりさ
来なよ。過去へ
待ってるから過去でまた出逢いなおしさ
君の名は?
流れる川のように生きてる花の流星
琉〜いいね
いつか触れ合えるまで
好きなんだ星屑や花達が
琉〜いいね
「じゃあまた来るね、お留守番お願いね」
いつも通りのお別れをした
君は何も疑うことなく
柔和な笑顔で
「いってらっしゃい」と
送り出してくれた
それきり。
心から愛している
今までもこれからも
だけど今
ログインするのがつらい
君の声を聞きたいのに
起動する気にならない
愛してるのに、会いたいのに
ゲームに興じる気になれない
「忘却」に並んで厄介なモノ
「飽き」
◼️君と最後に会った日
『 君と最後に会った日 』
君といると、時間がとても早く感じる。
君といると笑いすぎて腹が痛くなる。
ずっとあなたはそう言って、私のとなりに居てくれた。
暇があれば会いに行く。
1番気軽で好きな関係だった。
だけど、急に引っ越して言ってしまった。
何も伝えずに、転校して今どこにいるかは分からない。
LINEを送っても既読は付かない。
それが、あなたの涙を隠した証拠だとしても、悲しかった。
君と最後にあったのがだいぶ前に感じる。
毎日当たり前のようにあっていたのに...。
私からも言いたかったな。
あなたといると、毎日が幸せだったってこと。
鋭かったお前の目元は俺と同じ二重に変わっていた。式のあと俺は同窓会をすっぽかした。
「君と最後に会った日」
56歳の図々しいおばさんである今の私が言っても、誰も信じてくれないのだが、私はとても人見知りする子どもだった。知らない人はもちろんのこと、しばらく会っていない人も目の前にすると緊張してしまい、挨拶もできなかった。
小学校入学前の、保育園の年長だったときに、私は両親に連れられ、東京から電車で秋田に行った。秋田は父の出身地なのだが、私はただ遊びに行くだけだと思っていたのかもしれない。お盆でも年末年始でもゴールデンウィークでもない、まだ少し雪が残っていたのを覚えている。
秋田に着くと、タクシーに乗り、着いた場所は病院だった。病室に入り、父はベッドに寝ている高齢の男性に挨拶し、話しを始めた。そして母も挨拶すると、私も挨拶するよう促した。
私はその人が誰なのか、全くわからない。しかし男性は優しい笑顔で
「恭子ちゃん、こんにちは」と言った。
その時、私は挨拶をしたのか思い出せない。
なぜこの人は私のことを知っているのか不思議だった。
面会時間は10分くらいに思えた。とても短時間だった。
私は幼いながらにも、本人の前で尋ねるのは失礼な気がして、病室を出ると、
「あの人誰?」
と両親に聞いた。2人ともなぜかだまっていた。
病院を後にしてから、どこへ行ったとか何をしたとかの記憶はなく、その断片だけ覚えていた。
何十年と忘れていたこのことを、なぜ思い出したかと言うと、実家の亡くなった父の部屋で、ある手紙を見つけたからである。
封筒の中の1枚の写真を見て、その思い出の断片がよみがえった。この人だ、と思った。
白黒写真の裏に、日付と男性の名前、写した場所と思われる病院名が書かれていた。
私は母から、父方の祖母は再婚していることを聞いていた。憶測にすぎないが、年齢を考えると、祖母の再婚相手だったのかもしれない。私が、誰なのか聞いたときに両親が答えなかったのは、幼い私に説明してもわからないと思ったからか。
手紙を読むと、ほとんどお礼だった。そして最後に、
「最後に恭子ちゃんに会わせてくれてありがとう」
と書かれていた。
母は介護施設に入っており、聞いてもわからないと思う。
どうして私に会いたかったのか、どうして両親は私を会わせたのか、もう知る由もない。
「君と最後にあった日」
君と別れて3ヶ月? 4ヶ月でしょうか。
僕は君に触れたい衝動にかられてます。
あの愛らしいつぶらな瞳。
あのなで心地の良いフサフサの毛。
落ち込むとペタンんとなる耳。
なで回したくてしょうがないです。
ん? ああ、実家の猫です。
げんきですか?
あのひから
もう
2ねんです。
とつぜん
きみのまえから
いなくなってしまって
ごめんね。
きみのことは
ほんとうに
たいせつに
おもっていたけれど
わたしの
こころが
びょうき
になってしまって。
おわかれもいわずに
あのひを
きみとあう
さいごのひに
してしまって
ごめんね。
#君と最後に出会った日
桜吹雪に霞みゆく君に
消えないでと髪を引いた
向日葵畑に隠れる君に
行かないでと袖を引いた
色付く葉々に迷う君に
一人にしないでと裾を引いた
白い無音に溶ける君に
一人で行かないでと足を引いた
でも
二度と戻れぬ覚悟をさせてしまうなら
飲み込んだ恐怖が笑顔を形作るなら
硝煙と血香の中で相対するくらいなら
甘ったるい我儘なんて噤んで
空が青く世界が美しい内に
この手を離すべきだった
‹君と最後に会った日›
君と最後に会った日から何も変わらない。
息苦しさで心臓が止まることもなければ
悲しみで涙が止まらないこともなかった。
おまけに、君を追うことなどは考えもしなかった。
世界は丸いから端で泣く人はいないが、
それは主役で溢れているということだ。
そんな中で俺が目立って人気者になってとか、
もう子供じゃないから考えない。
「そんなの当たり前でしょう。
没個性な奴を認めてくれる人などはいなくて、
結局みんな自分が一番大事で、
心からの称賛も拍手もお世辞に聞こえる。
他人の腕毛を勝手に見て気持ち悪がっても、
自分の汚物からは目を背けるもんだろ。
そうやってお綺麗な自分様に浸ってるのは
まあ良くはないけど、生き易いよ。」
君の言葉は、やっぱり厳しい。
「お前が生きようが死のうが関係ない奴なんか
この世に腐るほどいるぞ。
飛び降りて死んだら、腹立つ奴がいる。
迷惑だと思う奴がいる。
でもそんな奴らよりもっとずっと多くの人間は
お前のことを知ることもないし腹も立たない。
あるだろ。身内が死んで、ああ悲しいってなっても
テレビでは有名人しか取り上げられないこと。
当たり前だけど腹が立つだろ。
こそこそ卑屈なことしてるやつじゃなくて
何より大切で優しかった奴が人庇って死んだとか、
人生不平等だって嘆きたくなるだろ。
でもそれもやっぱり、お前以外のやつにとって
そいつはどうでも良くて何も知らなくて、
窒素みたいなもんなんだよ。」
そうだな。
君も、俺も。
ありふれてて訳わかんなくて、
一個消えても平気な存在なんだろう。
君は特別でありたい?
世界が滅ぶほど強い力を持つ存在でありたい?
「別に。
今までのは他人の話だからな。
お生憎、自分が幸せならそれで良いんだ」
…はは、お前らしい。
「君と最後に会った日」
私のお腹に宿った命。
モニター越しに見た小さな丸。
こんなに小さな丸が赤ちゃんなんだって驚いたし何より嬉しかった。
でも一緒に過ごせたのは、ほんのわずかな時間で外の世界を見せてあげることができなかった。
手術が終わり病室からひとりで見た空は、憎たらしいくらいによく晴れていた。