夜叉@桜石

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豪雨だった。
休日返上で事務所で作業して、仲の良い同僚や君と別れた帰路。私は、情けないことに道端にしゃがみこんでしまった。
雷が鳴り響く真っ黒い空が、すべてをさらってしまいそうで、みんながいなくなってしまいそうで、また、守れないんじゃ、ないか、と、怖くて、動けなくなって、うずくまってしまった。

あのときも、豪雨の夜だったのだ。

眠ると古い記憶が蘇るから、仕事がなくても
起きていたりして、どんなに怒られても、呆れられても、眠りたくはなかった。運の悪い事に、最近、君と最後にあった日の夢を見た。豪雨の中で、霞む視界に映る君の顔は忘れられないだろう。本当に、悪いことをした。大切な人は、いつも私よりも長生きしてくれた。反対に考えれば、私は、人より先に人生を終わらせてしまったということだ。悲しんでくれる人は、いたのだろうか。

足音が聞こえる。そろそろ、立ち上がらなければ。
傘も落としてしまったから拾って、鞄は防水性だから中の書類は無事だろう。ここからだと家よりも事務所のほうが近いから一旦戻るか、いや、どうせ今晩中にはやまないだろうしこのままでも…

嗚呼、気持ちが悪いなあ。

足音が止まったと同時に、ばらばらと雨音が大きくなる。私に降っていた雨雫も、止んだような。
振り返ると君がいて、なにも言わずに手を差し伸べてくれた。
なんで、君は、いつも私も守ってくれる。

歪んだ私の顔を、雨が静かに隠した。

6/27/2024, 10:03:37 AM