そして君は宇宙になった。
駅のホームにはまばらに人がいて、休日にしては寂しげだ。
ホームからのぞく空に描いたひこうき雲に想いを馳せる。
近くにいた老夫婦がなにやら楽しげに会話している。
僕はそれだけでなんだか幸せな気分になれた。
やがてやってきた電車に乗り込み、気ままに揺られ目的地へ運ばれた。
「や、おはよ」
改札を出た先に美乃梨がいた。煌めく笑顔に僕は当てられる。僕の彼女は今日もかわいい。
本日は付き合って1周年デートだ。君のためにプレゼントを用意した。きっと気に入ってくれるはずだ。
帰り際に渡そう。
水族館、喫茶店、本屋。君と行くならどこだって楽しい。君が屈託なく笑ってくれるから、僕は一緒にいて心地良い。
来年も再来年もいつまでも何度だってデートをしよう。なにもなくたって君といれば毎日が彩られる。
日が落ちはじめて、僕らは展望台にいた。
用意したプレゼントを渡そうとカバンを漁る。
「奨くん、あのねわたし奨くんに言わないといけないことがあるの」
突然君が真剣な顔で言うから、僕の心臓の音が強くなった。続きを知りたい、けど聞きたくない。
「わたしね、宇宙になるんだ」
たぶん3つくらいクエスチョンマークが頭の上に並んでいたことだろう。
「わたし奨くんが好き。だけどならないといけないの」
なにかのサプライズとか壮大な冗談かなと思った。けど君は僕の知っているかぎり真面目に言っているということはわかる。
「えっと、なにかの病気とかってこと?」
「ううん。宇宙になるの。もう地球には帰ってこれないの」
それ以上のことは言えないと君はいつもより元気半減で笑っていた。
「奨くんが好きだよ。でもだからこそ奨くんは幸せになってね」
壮大な別れ話だったのか、なんだったのか。
カバンにしまったままのプレゼントを自室の引き出しの奥に突っ込んだ。
あれが君との最後の会話だった。
そして君は宇宙になった。
6/27/2024, 11:21:46 AM