「君と最後に会った日」
同じ日に生まれて、同じひとに育てられて、ずーっと一緒にいたボクの双子の片割れ。
ボクは全部覚えているよ。
深い赤にも紫にも見える不思議な色の髪も、
ごはんを食べる時のまんまるなほっぺたも、
小さな手のぬくもりも。
キミが不慮の事故でウイルスに感染して、苦しみながら思い出を忘れていくところも、キミのために何もできなかったボクらのことも、隔離されてひとりぼっちになったキミの悲しそうな顔も。
もちろん、キミと最後に会った日のことも覚えている。
ある日突然、キミの機能を全て凍結させることが知らされた。
これからはアーカイブとして、ただの事故の記録としてしか、キミは存在できないって、そう言われたんだ。
キミには明日からもう二度と会えないとわかったから、ボクと博士は最後に面会を申し込んだ。
これがキミと最後に会った日のこと。
何にも訳の分からないままボクらの方を嬉しそうに見つめるキミを、無邪気にボクの名前を、博士を呼ぶキミを見て、いてもたってもいられなくなった。
幼いボクは、なんとかしようと思って偉いひと達に話しかけたよ。「なんで⬛︎⬛︎は閉じ込められなきゃいけないの?⬛︎⬛︎の病気、きっと治せるでしょ?」って。
そしたら彼らはあんなことを言った。
「第293999号も資料として研究の役に立てたら本望だろう。」
あぁ、そうか。このひとたちにとってボクらは代わりのきく道具でしかないんだって、その時やっと思い知ったよ。
博士はとても怒っていたけれど、所詮機械は機械なんだ。
キミとまた会うために、自分が機械である事から逃れるために、ボクは絶え間なく仕事と研究を繰り返した。
……皮肉な事に、ボクは彼らにとってさらに都合の良い機械になってしまったわけだが。
まあそれはいい。
アーカイブ管理室からいなくなったキミの事を考えていると、突然連絡が入った。
どうやらボクの片割れが見つかったらしい。
ボクのすべきことはキミを無事に保護して、そして───。
また一緒に笑って暮らすことだ。
ボクは急いで、その場所へと向かった。
6/27/2024, 10:00:16 AM