『雨に佇む』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
視界不良で足元どころか全身ずぶ濡れの中
傘の隙間から黒い影が見えて
驚きのあまり飛び退いて傘を落としかけた
近所の野良猫だった
『雨に佇む』
18系統のバスを待つ。
ホックを外して着ている黒い学ラン。
大きく重そうな黒いリュック。
白い有線のイヤホン。
右手にはコンビニで買ったであろうビニール傘。
左手には茶色の革製ブックカバーをつけた文庫本。
名前はまきはら こうき君。
彼の友達が「まきはら君」とか「こうき」とか、そう呼んでいた。
高校生。多分、2年生。
彼は雨の日だけこのバス停で、18系統のバスを待っている。
彼はどんなにバスが空いている日だとしても、必ずリュックを前に抱え直し、右手の傘を吊り革を持ち替えて立っていた。
初めて会ったのは、半年ほど前の雨の日。
配属が決まって引っ越してきたこの土地では、電車よりもバスの方が比較的盛んに走っていて、車も持っていない私は仕方なくバスで通勤をしている。
1本乗り遅れると30分は来ない。
中途半端に残業をすると、500mの上り坂を全速力で駆け抜けねばならないのだ。
高校を卒業して早2年、運動不足の私にはかなりこたえるものがある。
傘なんてさしていてもこの状況下では全く意味をなさず、雨は私に止めどなく降り注いでいた。
バス停にバスが来ていて、ほぼ使われることのない腕時計を見ると定刻より1分遅れいる。
ぷしゅーと発車前の準備運動みたいな音がバスから漏れて、あと100m。
こんなにびしょ濡れになったのに追い付けなかった、と足を止めようとした時だった。
「多分、もう1人乗ります」
坂の下から駆け上がってくる私を見つけてくれた彼、まきはら こうき君はバスを止めてくれた。
その声に私はブレーキをかけそうになった足を前へと進める。
肩で息をするへとへとになった私を見て、「えっと、いつもこのバス乗ってますよね」と彼は戸惑いながら聞いた。
その次の雨の日。
また同じようにバス停にいる彼を見つけて、今度は私から声をかけた。
「あの、この前はありがとうございました。覚えていないかもしれないけれど、バスを止めてくださって…」
ぺこりと頭を下げると同時に、彼がいつもイヤホンをしていることを思い出した。
突然話しかけられることですらきっとびっくりするだろうに、突然頭を下げるなんて尚更驚くだろう。
そんなことを逡巡して頭をなかなか上げることが出来ずにいる私の上から、「いや、そんな」と落ち着きのある柔らかい声が降ってきた。
顔をにわかに赤らめた彼がいる。
「お役に立てたなら良かったです。俺、人の乗ってるバス把握してるとか結構気持ち悪いことしていたのかも、とか思ってて。でも、良かったっす」
右往左往していっこうに交わらない視線が、なんだか可愛かった。
【雨に佇む】
雨に佇む
なんか素敵な響き。佇むという言葉が、控えめな品のある響きを感じさせる。
雨の中でどのように佇んでいるのだろう。
佇んでいるのは人?動物?虫?
目に浮かぶのは、
6月夕方少し大粒の雨
古い家の軒下に、傘を忘れた女子高生が雨宿り中
佇んでいるのは、その女の子から30センチ離れたところにいる日本猫。女の子を心配しているようにも見える。
「3月24日に『ところにより雨』、5月25日に『いつまでも降り止まない、雨』、それから6月1日が『梅雨』で、今回『雨に佇む』か」
3月は「3月の雨と季節ものの山菜」、5月は「『止まない雨は無い』って励ましのセリフがあるけど、実際絶対止まない雨は有るよな説」、6月は日本茶の茶葉「あさ『つゆ』」で書いたわ。過去投稿分を振り返る某所在住物書き。
別に外に、雨は降っていない。曇天である。
リアルタイム風の物語を投稿している身として、雨ネタの日の曇天晴天は地味に困るところであった。
「ところで別に気にしてねぇけどさ。去年の今頃、丁度某ソシャゲのリセマラしてたの。
気にしてねぇけど、1週間くらい粘って、結局、大妥協して絶対条件1枚だけ揃えたわけ。
……後日その絶対条件キャラ厳選のピックアップのガチャ始まってさ。1週間、何だったのって」
気にしてねぇよ。ホントに気にしてねぇけど。
唇をきゅっと結ぶ物書き。別に雨は降っていない。
――――――
最近最近の都内某所、某稲荷神社近くにある茶葉屋の向かい側に、タヌキの置物が目印の和菓子屋がある。
一度店名を変えて「和菓子屋ポンポコ堂」となったそこは、夏になると軒下からドライミストが噴霧され、テイクアウト客に少しの冷涼を提供している。
近くには長椅子とゴミ箱もあり、その場で食うにも画像撮影後の早食いにも対応。
その日の正午過ぎも、この物語の登場人物であるところの付烏月という男とその同僚が、
テイクアウト用窓口から商品を受け取り、金を払って少し店員と話し込み、人工霧雨に佇んでいた。
勤務先であるところの某支店に
茶と交流を楽しみに来るロマンスグレーの常連が
大口契約のハナシをドンと持ってきたのだ。
「すまないねお客さん。そんな今日に限って」
店主が申し訳無さそうに、しかし少し笑って付烏月とその同僚の女性に言った。
「おたくの店までデリバリーする予定だったのに、こっちの急な都合で突然人手不足で」
こちらお詫びの品です。ぽてぽてぽて。
店の玄関から出てきたのは背中に小さな紙箱背負った看板子狸。中身は青と透明と紫と、水色やら白やらで夏の空を閉じ込めた琥珀糖であった。
きゅっ。子狸が付烏月を見上げた。
何やら見覚えありそうに、人間がそうするごとく、ぺこり頭を下げて「会釈に見える動作」。
理由がありそうである。
詳細は過去作8月25日投稿分参照だが、スワイプが面倒なので細かいことは気にしてはいけない。
「しゃーないですよ」
看板子狸から琥珀糖の箱を受け取った付烏月。
「こっちも、今回は急な注文でしたもん」
付烏月やその同僚個人としてではなく、支店として、数年〜十数年の長い付き合いなのだ。
日頃常連と常連と常連しか来ない過疎支店たる付烏月の職場は、その常連が数ヶ月に一度、ポンと従業員ひとりのノルマ数割に匹敵するハナシを持ってくる。
ゆえに上等の菓子で接待するのだ。
ゆえに、過疎支店でも存続しておるのだ。
客層の良さと店舗の静かさ、それからいわゆる「モンスターカスタマー」とのエンカウント率の低さゆえに彼等の支店が心の少し疲れた・傷ついた従業員の療養先ともなっているのは想像に難くない。
「……琥珀糖撮ってから支店帰ってヨキ?」
こそり。付烏月の同僚が彼に耳打ちした。
「ていうか、コレ持って帰っても、ゼッタイ全員分無いよね?足りないよね?」
ひそり。同僚に付烏月が言葉を返した。
顔を見合わせて、箱を開けて、また見合わせて。
示し合わせたように、唇をきゅっと結ぶ。
どうする。 どーしよっか。
片やスマホを取り出し、片や周囲を見渡す。
ドライミストの人工霧雨に佇むふたりはその後数分、軒下から動かなかったとさ。
夏のある日の17時、
学校からの帰り道で、ゲリラ豪雨に見舞われた。
何だか雲が黒いなぁとは思っていたが、
ものの5分でここまて天気が急変するとは思わなかった。
雨は土砂降り。雷もゴロゴロ。
傘を持っていなかったから、
頭から足まで完全にずぶ濡れになった。
ここまで濡れたのは、小学校の着衣泳以来だと思う。
直ぐ側に駅の出入り口があったから、
ひとまずそこに避難し、駅の建物の柱により掛かる。
スマホの天気アプリで雨雲レーダーを確認してみると、
あと1時間は降り続くとのことだった。
さてどうしようかと考えていると、駅ナカにあるコンビニで傘のレンタルサービスをやっているのを見つけた。
早速コンビニに入ると、ペットボトル飲料のコーナーを見ていた女子高生の話し声が聞こえた。
「レインカフェって知ってる?雨の日にだけ現れるって噂の」
「それ都市伝説でしょ。前に気になってネットで調べたけど、そんな店出てこなかったよ。」
そういえば、僕の学校でもそんな噂が立っていた気がする。確かレインカフェの場所は神社の隣とか言っていた気がするが、そこは空き地になっていて、実際には店はない。
なんでそんな噂が立っているんだろうか。そんなことを考えながらレンタルサービスのビニール傘を一本借りて、駅を出る。
雨風が強い中、頑張って家の方向へ歩いていたが、ある時
猛烈な風が吹いてきて、傘が飛ばされてしまった。
傘は神社の鳥居の近くまで飛ばされていた。傘を拾い、早く家に帰ろうと思っていると、神社の隣にある店が目に入った。
「いらっしゃいませ」
看板には、レインカフェと書かれていた。
一人で屋根のある場所を探し佇むと
一人また一人と増えて
雨がひどくなり、
時間が経つと会話が始まる
そして雨が弱まると
一人一人と立ち去って
晴れると人は佇む出会いが終わる
【お題:雨に佇む 20240827】
最後にその人を見た光景を、私は今でも鮮明に思い出せる。
真っ赤な傘をさし、ブランド物の大きなボストンバッグを手に振り返ることなく歩いて行く後ろ姿。
玄関先で冷たい雨に佇む父の背中が小さく震えていた。
「私は真実の愛を見つけたの!」
言い切るのと同時に、美香子は料理の乗ったテーブルを両掌で叩いた。
食器がカチャンと音を立て、先程まで置かれていた位置から僅かにズレている。
「美香子、一体何個目の真実の愛よ!それに、そんな事はどうでもいいわ!問題は相手に家庭があることよ!あんたにだって武田くんがいるじゃない。それとも何?武田くんとは別れたの?」
「別れてないわよ。今別れたら私住むとこないもん。それに彼は奥さんと別れてくれるって言ってくれたもん!」
「美香子、いい加減に目を覚ましなさいよ。あんたのそれは浮気よ?不倫なのよ?」
「浮気じゃない、本気だもん。彼が私の運命の人なんだから!」
「⋯⋯⋯⋯」
グラスのジュースを一口飲んで、私はピザに手を伸ばす。
少し前に店員が運んできたピザは、まだだいぶ温かい。
この辺りでは珍しい、窯焼きのピザでこのビルの隣のビルの地下に入っている店の自慢の逸品だ。
頬張ると、チーズと小麦の良い香りが口の中に広がり、トマトの酸味がいいアクセントになっている。
「真実の愛でも運命の人でもどっちでもいいわよ。でもね、本当に本気なら、武田くんと別れて、相手の人が離婚した後で付き合いなさいよ」
「だから、浩二と別れたら、私あの部屋出て行かないと駄目じゃない。そんなの困るもん」
「困るもんって、美香子、あんた⋯⋯」
「だってちゃんと家賃払ってるよ、私」
「ならそのお金でどこかに部屋を借りればいいじゃない。小さく不便な部屋にはなるだろうけど」
外資系に勤めてる武田くんは駅近の広めの物件に住んでいるから、そこを出るとなればそれなりの覚悟は必要だね。
ピザを食べ終わった私は小皿を手に取り、テーブル中央に置かれたパスタを取り分ける。
『小エビの桜パスタ』という名の、エビと明太子のパスタだけど、これがどうして最高に美味しい。
エビはぷりっぷりで、明太子の出汁の効いた塩味とピリ辛感がマッチして堪らない。
また、細く切られた大葉が乗っているところもポイントが高い。
大抵のお店ではこの場合、刻み海苔が乗ってくるのだけれどアレは歯に着いたりするのでどうしても倦厭しがちになってしまう。
それが大葉になるだけで、これほどまでに安心して食べられる、なんて気が利いているのだろうか。
「お金じゃないもん」
「え?」
「お金で払ってないよ、家賃」
「えっ?じゃぁ、家事⋯⋯なわけないか。美香子、掃除も洗濯も料理も何一つできないもんね」
「うっ、そ、その通りだけど」
「じゃぁ何で払ってるの?」
「え、そんなのセッんぶっ」
私がフォークにぐるぐるに巻き付けたパスタを頬ばろうとした瞬間、フォークは文乃によって美香子の口に突っ込まれていた。
口に入れられたパスタをゆっくりもぐもぐと咀嚼し、ゴクンと飲み込む美香子に対し頭を抱える文乃。
「美香子、それは家賃を払ってるとは言わないわよ」
「そうなの?」
「そうなのよ⋯⋯はぁぁぁ」
盛大にため息を吐き出して文乃はソファに倒れ込んだ。
美香子と文乃とは大学で知り合った。
と言っても、同じ大学なのは文乃の方で、美香子は文乃の父方の従姉妹で文乃経由で親しくなった。
私と文乃がびっくりするくらい、一般常識が欠けている美香子は、身長152cmの小柄な27歳だ。
顔は所謂童顔と言う奴で、とても27歳には見えない。
フランス人形のようにぱっちりとした目鼻立ちをしていて、カワイイお姫様系。
本人もそれは自覚していて、服装なんかもふりふりふわふわしたものが多い。
ただしお胸は何が詰まってるの?と思うくらいの大きさがある。
そして世の中の男性陣の中には、そんな女性が大好きな人が多いのも事実。
でもそれは、性的欲求を満たすためだけという場合も多く、生涯の伴侶としてのそれとは別。
無論、その女性の内面も含めて『好き』というのであれば何ら問題はないけれど。
「美香子、浮気や不倫ってお金がかかるんだよ」
「え?詩織、どういう事?」
「まず大抵の場合、慰謝料が発生するの。相場は200万から300万。離婚して子供がいればどちらが養育をするかにはなるけど、養育費を払わないといけないわね。その場合子供の人数や年収にもよるけれど、子供一人で平均月に5万くらい」
「さ、3人だと?」
「平均で月9万弱かな。まぁ10万みといた方がいいかも。それから相手の奥さんは不貞の相手、この場合は美香子に慰謝料を請求できる。で、これも大体、200万から300万」
「えっと、旦那か不倫相手かのどちらかに請求できるの?」
「違うよ。両方に請求できるの。例えば旦那が5人と不倫していたとしたら、奥さんは、旦那さんと不倫相手5人の合計6人に慰謝料請求できるって事」
「え、それって奥さんズルくない?」
「ズルくない。結婚⋯⋯婚姻関係が国によって認められているっていうのは、それだけの権利を持つの」
「⋯⋯⋯⋯」
「だから文乃の言う通り、本当に本気なら相手は離婚、美香子は武田くんと別れてから付き合うべきよ。まぁ、もう既に不貞行為をしてるなら、相手の奥さんからは慰謝料請求されるとは思うけど」
でもまぁ、武田くんはどんな事があっても美香子を手放さないだろうけど。
「美香子、きちんと考えなよ。私達もう学生じゃないんだから」
「文乃の言う通りだよ。真実の愛とか運命の人とか言うけど、そういうのって、出会ってすぐにわかるものじゃなく、長い時間を一緒に過ごしてからわかるものなんじゃないかって私は思う」
「でも⋯⋯」
「だって今までに5回も美香子の真実の愛があったけど、本当に真実の愛だった?」
「⋯⋯⋯⋯」
「長くて半年くらいじゃなかった?」
「⋯⋯⋯⋯」
「私が言えるのはここまで。あとは自分で考えてみて。ね、美香子」
「うん⋯⋯」
「よし、じゃぁ歌うよ〜♪」
その後、終了時間までの4時間半歌いに歌いまくって喉がちょっと痛くなった。
ちょっとスッキリした顔の美香子を見送って、私と文乃は駅に向かって歩く。
「詩織、ありがと」
「うーん?まぁ、友達だしね。で、文乃はどうなの?」
「仕事が楽しくて全然そんな気になれないのよね」
「はははっ、私と一緒か」
「まぁ、子供産めるうちに結婚はしたいかな、って思ってるよ」
「だねぇ、父さんに孫抱かせてあげたいな」
あの人は浮気も不倫もせずに、父ときちんと離婚して、私を父の元に置いて出ていった。
私と会うことについて、父は特に制限を設けなかったが、あの人はケジメとして一度も連絡してくることも、会いに来ることもなかった。
父は再婚することなく私を育ててくれた。
そして先日、酔った勢いでポロリと零した言葉。
『俺にとっては運命の人だったよ、あいつは。だって、詩織を産んでくれたからな』
そう言った父の顔は、穏やかだった。
「じゃぁ、また連絡してね」
「うん」
駅の改札を通って、それぞれのホームに向かう。
階段を上りホームに立ち、名前も知らない人の後ろを歩き、いつもの乗り場に立つ。
運命ならばきっと、こんな人混みの中でもお互いを認識できるのかもしれない。
まぁ、今の私にはそんな人は居ないけれど、少しはそっちのアンテナを張り巡らせていた方が良いかもしれない、と思った。
━━━━━━━━━
(´-ι_-`) 不倫、ダメ絶対。
とある男は憂鬱な気分で空を眺めていた。雨は止まず、悶々と何かを考えており、男はそこに佇んでいる理由付けとして、雨を利用しているだけのようだった。つまり悩める場所ならどこでも良かったのだ。日が暮れると、男は建物の中に入っていった。男がつけている炎の他にあかりはなく、中は真っ暗で何も見えない。
しばらく経って、その男――すなわち下人が慌てた様子で外に飛び出してきた。その手には老婆の着物が握られている。再び真っ暗になった羅生門。中から老婆の呻き声が聞こえてくる。
下人の行方は誰も知らない。
#雨に佇む
「雨に佇む」
雨は景色を一変させる。
明るさも、雰囲気も。
知っている眺めも、違う場所のように感じる。
だからか、雨が降ると非日常のような気がする。
そんな雨の中で佇む となれば、
人でも物でも普段とは違う存在感が出る。
悲しげに見えたり、
特別な感じに見えたり。
でもそんな光景が目を引く。
眺めて勝手に物語を考えたり。
雨に佇む何かに想いを馳せる。
ただ、自分が雨の中にいる場合は別問題だけど。
カフェの外は強い風と共に強く大粒の雨が降っている。
道ゆく人々は皆忙しく歩いている。
今、私はその嵐の天候のような境地にいる。
目の前の男は鋭い北風のような眼で私を睨んでいる。
彼は元夫だ。
結婚している当時、
私たちの間にできた一人娘の親権を奪おうとしている。
私と娘は酒豪の暴力男から逃れるために離婚した。
その理由も理解せず元夫は
娘だけでも手元に置こうとしている。
元夫は口を開く。
「俺になぎさを返せ」と。
私も口を開く。
「もうあの子を危ない目に合わせない」と。
娘の連絡先をしつこく求めてくる元夫の顔に
コップの水をかけた。
「らちが開かない」
そう吐き捨て、私は千円札を一枚置いて店を出た。
外は相変わらずゲリラ豪雨だ。
あんな男に惚れたあの頃の自分を悔やみながら
私は傘をさして雨の中でぼーっと突っ立っていた。
『雨に佇む』
夏祭りで掬った金魚が水槽の水面近くに裏返っているのを見つけたこどもは朝からしくしくと泣いていた。湿度も気温も高い日に庭先の一角にこしらえた金魚のお墓に雨のひとしずくがぽつりと落ちて土の色を変える。まぶたを腫らしたこどもはお墓を見つめていて、一つまた一つと落ちる雨雫がアスファルトや屋根瓦の色を残らず塗り替えてもそこから動かなかった。
「涙雨が降ってきたね」
雨に佇むこどもに傘を差し出して寄り添う。
「なみだあめ、ってなに?」
「金魚の悲しい気持ちと、君の悲しい気持ちが合わさってできた雨だよ」
雨の降り続く空を眺めていると、こどもが抱きついてまた泣きはじめた。しっとりと濡れた頭や濡れそぼる体から悲しさが溢れ出ているのを傘で塞がった片手で優しくあやしながら、雨が収まるようにと願い続けていた。
雨に佇む
今日は花火大会だったはずだ。
花火の空撃ちも鳴っていた。
自分の心臓と同じくらいに肌に響いていたのも覚えている。
それなのにどうだろうか。
一緒に行く相手も花火の予定もなくなってしまった。
お誘いにOKをもらったはずだけど...
直前になってキャンセル。
仕方なく1人で現地に着くと予報ハズレの雨。
もちろん花火大会は中止。
僕が何をしたんだろうか。
いつもより少し調子に乗っただけじゃんか。
あー...カステラも食べたかった。
2人で綺麗だねって言いながら花火を見たかった。
雨の中佇む僕の姿は見てもいられないほど
哀愁漂っているだろうか。
...雨で見えなくなってるといいな。
語り部シルヴァ
失恋をした。
10年も温めた初恋だった。
まぁ、だからどうというわけでも無いけれど、事実としてわたしは失恋をした。
ザーッザーッと降り注ぐ雨の中わたしは涙を隠すために傘を刺さずに立ち尽くした。
冷たい雨が10年もの間温めていた想いを冷やすかの様に体温を奪っていく。
夏の暑さ諸共、熱を奪って冷やしていく。
「バーカッ」
雨の音がくぐもり、冷たい雨が体に触れることがなくなったと思った途端頭の上から声が聞こえてきた。
「稚拙な言葉でしか人を嘲られない馬鹿が一体何しにきたの?」
目元を擦って涙を拭いた後で上を向けば幼馴染が傘を差し向けていた。
「ん?失恋した可哀想な子を慰めに、かな?」
「知らないの?『バーカッ』って言葉に人を慰める意味は無いこと」
「知ってるよ。でもまぁ、思ったよりも元気そうでよかった。雨の中泣いて立ち尽くす姿見てさ、あまりにらしく無いから落ち込んでるのかと思ってた」
傘を持つ反対の手でタオルを持ち顔や髪を軽く拭き上げてくれる幼馴染と他愛もない言葉を言い合う。
それだけで少し気持ちが楽になった。
「風邪引くよ?帰ろ!」
「放っておいてくれていいのに」
手を引き歩き出す幼馴染に向かって独りごちれば「バーカッ!!」ともう一度言われた。
わたしより成績悪い癖に
「好きな子のこと放っておくわけないでしょ?傷ついてる今がチャンスだと思って近づいたんだから。だからとっとと絆されてよ」
「…は?」
目を丸くして驚くわたしにしてやったりと笑う彼女
「はぁ?!」
わたしに傘を預けて傘の中から出る彼女は頬を赤く染めながら雨の中、手を差し伸ばした。
「絆されてくれる?」
「わたしたち、女の子同士で……」
「好きにそんなの関係ないでしょ?」
雨に佇む彼女は失恋という傷をあまりの驚愕から忘れさせた。
あっという間にわたしの心を満たして心臓は早鐘を打ち続ける。
戸惑うわたしに彼女は「覚悟しててね」と小悪魔チックな笑みを浮かべた
お題「雨に佇む」
雨に佇むものは、空にある慟哭に目を投げていた。
今まで、どれくらいの涙を流したというのだろう、天も自分も……
百代は永遠、過客は旅人――という意味。
月日は百代の過客にして~、と昔の人は詠んでいたというが、彼らにも汗に似た涙を地面に流している。
山に登れば自然に反応して汗をかくように。
それが雨粒で地表を滑り、川に流れて海にたどり着き、それが蒸発して雲になって、雨となって下る。
降りしきる雨のなかで、置いてきぼりを食らわされているそのものは、人間でない代物をしていた。
身体の色は全身白色をしていて、白いエビフライのような見た目をしていて、雨の中でもちょっとかわいい。
古い言い方をしたら白いアザラシである。
けれども図体はそれなりに大きくて、700メートルの山よりも大きく、まるで小大陸のように寝そべっていた。
周りは海しかない。空模様は止まない雨である。
そう、この星は、数百年前からずっと、止まない雨を降り、それを続けている。
今日も雨、明日も雨、一年後も雨だろう。
ちょっとしっぽに意識を向けてみた。
かわいいしっぽはすでに海の中。
持ち上げてみないと海の外にいけない。
渦が生じるような水の重さを感じ、ざばあ、としっぽを動かした。
ちょっとだけ別の生き物が出現したような感じがして、個人的に楽しい。
そのものの体色は、最初は黒土のように黒っぽかった。
土の中に埋もれていたような恰好をしていた。
地震の正体は、そのものが「ごろり」と寝返りをしたからだったが、地上の人々はやけに高技術なものを駆使して予測しようとしたり、プレートやマントルを研究していたらしい。
それを翻弄するようにそのものはそうしていたが、誰かが儀式でもしたのだろうか。
長い雨がやってきて、長い雨によって、そのものと地面の境に氾濫した川や、水の流れによって浸食した溝をいくつも作るようになって、今ではもう、それらの文明は海底の仲間入りとなった。
すべてが水没した。そのもの以外。
陸地が雨の幾重もの打撃によって、陸地が砕け解けたように見えた。
実際は陸より水の海域が広がっただけなのに。
そのものはまだ遠慮して、その場にとどまっていた。
過去に行った「ごろり」による影響を鑑みて、世界的に影響があると認識していた。だから雨が降ってから今日にいたるまで、苔むした石のように固まって濡れていた。
けれども、このままだと大量の雨粒の音を聞いて、身体がくすぐったくて、くしゃみや身体のふるえを引き起こすかもしれない。
そのものは泳ぐことにした。
そのものは体長1キロメートル以上はあるので、数分ほどで雲の端が見えるところまで泳ぎ、雨粒から逃れることができた。
やった、と嬉しそうにした。
そのものは海面をランランと泳いでいたが、海底とやらがどのくらい下にあるのか興味を覚え、ドルフィンのように海に潜った。
天に届くくらいに長いしっぽが塔のようにそびえ立った。ゆらゆらと揺れ、雲の欠片を払う。
それによりようやく、止まない雨はない、と言えた。
「雨に佇む」
元々傘をさすのが面倒なタイプで
多少濡れても平気なタイプで
送り迎えの少しの時間だけだし、ちょっとくらい濡れたって平気よと雨の中幼稚園バスに手を振っていたら
同じバス停で一緒になるお母さんに無言でそっと傘を半分譲られてしまい
あ、気を遣われている…
すみません、ガサツなだけなんです
次からは傘を持っていくようにした
雨が降り始めた。
雨は好きじゃない。でも好き。
雨に当たると濡れちゃうし、傘も持たなきゃいけないなんて面倒臭い。
けど、雨の地面に当たると飛び散る、あの音が好き。
「ぽちゃん」と小さくなるのが好き。
あと、泣いてもバレない。
どれだけ泣こうが、どれだけ喚こうが、雨の音で、雨の雫で、バレることなんてない。顔が濡れたと、少し喉が痛いと言えばそれで終わり。
僕の存在なんて、雨が降っている時はないものと同じようなもんなんだよ。
それでいい。それがいい、はずなのに。
誰かに気づかれたい。心配されたい。そんな事を思ってしまう自分がいる。
そんな自分が気持ち悪くて。憎たらしく思って。
雨の音で、雨で涙や声なんて消える。それがいいと言ったのは僕なのに。心配されたい?気づかれたい?何をふざけたことを。
だけど、1度思ってしまえば、そう思う思想はなかなか消えなくて。自分でもなぜだかもうよく分からない。
雨で佇む僕は、いつだって自分勝手だ。
こんな僕なんて大っ嫌い。車に轢かれて死ねばいいのに。
なのに、死ぬ勇気なんてないから。今日も、泣き続ける。
そして、ずっと奥にしまっておくんだ。
お題『雨に佇む』
顔がいい男は雨にうたれているとより一層魅力が増すものだ。私はテレビを見ながら思わず「尊い」とこぼす。
横にいた夫がムッとした顔をしながら、なにを思ったのか急に外へ出た。今、外は大雨だ。
「えっ!? なに?」
私もあとを追いかけると、夫がテレビの俳優の真似をして雨に打たれていた。正直夫はイケメンでもなんでもない。俳優と違って背が高いわけでもなければ、すらっとしていない。どちらかというと腹は出てるし、ガタイがいい。おまけに髪型も床屋で短く切ってきただけの清潔感しか備わってないものだ。正直、絵にならない。ただ、私が他の男にうつつを抜かしているのが気に入らないのだろう。推し活に関しては「いいよ」と言ってくれるくせにだ。
私はため息をつくと、夫に
「そんなんで風邪ひいたらバカだから家に入んなね」
と言う。その言葉に夫はすごすご戻っていく。私はゆるゆる洗面所に行き、バスタオルを持ち出すとそれを夫に渡す。
「えへへ。テレビの俳優は濡れてもこうやって君からバスタオル渡してもらえないもんね」
と笑って言うから、アホなやつ、と私も呆れながら笑みを浮かべた。
雨に佇む
ひとり雨にうたれて
ずぶぬれになることで
じぶんを罰しているつもり
雨の中、佇む私はアンニュイな装い
悲しいことがあった時は、傘なんてさしちゃいられないの
濡れる瞳を雨に紛らして
なんにも聞かなかったことにして、次へ進むんだ
ドラマとか漫画では結構ありますよね。なんかたいていドラマチックな展開で、作品のターニングポイントに配置されてたりしますね。濡れる美形は絵になりますからね。
でも実際この言葉をゲシュタルト崩壊するくらい見つめ現実にトレースしてみると、なんだか全然腑に落ちないのです(もちろん個人的な感想ではありますが)。まず見たことないですし、いたらちょっと心配より怖いが勝つ。次によしんば濡れていたとして、大抵は足早に屋根のある場所を探していたりします。出費は痛いけどコンビニで傘を買うでしょう、それがよく見る現実です。
おいおい馬鹿野郎、シチュエーションが違うじゃないか。彼はショックを受けている、悲しんでいる。雨を気にしている余裕なんてないのだ、と言われるかもしれません。たしかにそういう人もいるのかもしれませんが、私はやっぱり納得できません。私個人青天の霹靂とも言える転換点を経験したことがあるのですが、お腹はすき日差しは暑く、コンビニで飲み物を買っていました。
色んな人がいるので色んな反応があると思います。だけれども現実は思ったよりも現実的で、生物学的に私達はしっかり人間です。私は雨に佇んだなら、寒い、財布濡れるし携帯やばい、屋根、コンビニ気持ち悪い風邪引く最低ってなります、ごめんなさい。
台風も来ておりますので、必要以上の外出は控えましょう。もちろん佇んで怪我をしないよう気を付けて、命はとりあえず第一優先事項です。
それでは散文駄文失礼いたしました、お疲れさんでございます。