わをん

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『雨に佇む』

夏祭りで掬った金魚が水槽の水面近くに裏返っているのを見つけたこどもは朝からしくしくと泣いていた。湿度も気温も高い日に庭先の一角にこしらえた金魚のお墓に雨のひとしずくがぽつりと落ちて土の色を変える。まぶたを腫らしたこどもはお墓を見つめていて、一つまた一つと落ちる雨雫がアスファルトや屋根瓦の色を残らず塗り替えてもそこから動かなかった。
「涙雨が降ってきたね」
雨に佇むこどもに傘を差し出して寄り添う。
「なみだあめ、ってなに?」
「金魚の悲しい気持ちと、君の悲しい気持ちが合わさってできた雨だよ」
雨の降り続く空を眺めていると、こどもが抱きついてまた泣きはじめた。しっとりと濡れた頭や濡れそぼる体から悲しさが溢れ出ているのを傘で塞がった片手で優しくあやしながら、雨が収まるようにと願い続けていた。

8/28/2024, 4:25:06 AM