かたいなか

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「3月24日に『ところにより雨』、5月25日に『いつまでも降り止まない、雨』、それから6月1日が『梅雨』で、今回『雨に佇む』か」
3月は「3月の雨と季節ものの山菜」、5月は「『止まない雨は無い』って励ましのセリフがあるけど、実際絶対止まない雨は有るよな説」、6月は日本茶の茶葉「あさ『つゆ』」で書いたわ。過去投稿分を振り返る某所在住物書き。
別に外に、雨は降っていない。曇天である。
リアルタイム風の物語を投稿している身として、雨ネタの日の曇天晴天は地味に困るところであった。

「ところで別に気にしてねぇけどさ。去年の今頃、丁度某ソシャゲのリセマラしてたの。
気にしてねぇけど、1週間くらい粘って、結局、大妥協して絶対条件1枚だけ揃えたわけ。
……後日その絶対条件キャラ厳選のピックアップのガチャ始まってさ。1週間、何だったのって」
気にしてねぇよ。ホントに気にしてねぇけど。
唇をきゅっと結ぶ物書き。別に雨は降っていない。

――――――

最近最近の都内某所、某稲荷神社近くにある茶葉屋の向かい側に、タヌキの置物が目印の和菓子屋がある。
一度店名を変えて「和菓子屋ポンポコ堂」となったそこは、夏になると軒下からドライミストが噴霧され、テイクアウト客に少しの冷涼を提供している。
近くには長椅子とゴミ箱もあり、その場で食うにも画像撮影後の早食いにも対応。

その日の正午過ぎも、この物語の登場人物であるところの付烏月という男とその同僚が、
テイクアウト用窓口から商品を受け取り、金を払って少し店員と話し込み、人工霧雨に佇んでいた。

勤務先であるところの某支店に
茶と交流を楽しみに来るロマンスグレーの常連が
大口契約のハナシをドンと持ってきたのだ。

「すまないねお客さん。そんな今日に限って」
店主が申し訳無さそうに、しかし少し笑って付烏月とその同僚の女性に言った。
「おたくの店までデリバリーする予定だったのに、こっちの急な都合で突然人手不足で」
こちらお詫びの品です。ぽてぽてぽて。
店の玄関から出てきたのは背中に小さな紙箱背負った看板子狸。中身は青と透明と紫と、水色やら白やらで夏の空を閉じ込めた琥珀糖であった。

きゅっ。子狸が付烏月を見上げた。
何やら見覚えありそうに、人間がそうするごとく、ぺこり頭を下げて「会釈に見える動作」。
理由がありそうである。
詳細は過去作8月25日投稿分参照だが、スワイプが面倒なので細かいことは気にしてはいけない。

「しゃーないですよ」
看板子狸から琥珀糖の箱を受け取った付烏月。
「こっちも、今回は急な注文でしたもん」
付烏月やその同僚個人としてではなく、支店として、数年〜十数年の長い付き合いなのだ。
日頃常連と常連と常連しか来ない過疎支店たる付烏月の職場は、その常連が数ヶ月に一度、ポンと従業員ひとりのノルマ数割に匹敵するハナシを持ってくる。
ゆえに上等の菓子で接待するのだ。
ゆえに、過疎支店でも存続しておるのだ。

客層の良さと店舗の静かさ、それからいわゆる「モンスターカスタマー」とのエンカウント率の低さゆえに彼等の支店が心の少し疲れた・傷ついた従業員の療養先ともなっているのは想像に難くない。

「……琥珀糖撮ってから支店帰ってヨキ?」
こそり。付烏月の同僚が彼に耳打ちした。
「ていうか、コレ持って帰っても、ゼッタイ全員分無いよね?足りないよね?」
ひそり。同僚に付烏月が言葉を返した。
顔を見合わせて、箱を開けて、また見合わせて。
示し合わせたように、唇をきゅっと結ぶ。

どうする。 どーしよっか。
片やスマホを取り出し、片や周囲を見渡す。
ドライミストの人工霧雨に佇むふたりはその後数分、軒下から動かなかったとさ。

8/28/2024, 5:02:32 AM