かたいなか

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9/16/2024, 2:57:34 AM

「『LINE』はこれで今年3回目なんだわ……」
7月11日の「1件のLINE」、9月1日か2日付近の「開けないLINE」。そして「君からのLINE」。
さすがに4度目のこのアルファベット4文字は無いだろう、多分。某所在住物書きは配信された題目に対して、昨日に続き今日も、頭を抱えた。
ネタの枯渇である。加齢で固くなった頭で、そうそう何度もグループチャットアプリの物語を書けようか。

「Line。回線・接続・釣り糸・方針・口癖等々。
『君から伸びる会話の延長線』とか、
『君から仕掛けられた釣りの糸』なんてのも、
思い付きはするけどさ。するけどさ……」
これ、次回のお題も難題だったら、どうしよう。
物書は悩みに悩み、何か突破口は無かろうかと、スマホの中のチャット履歴をそれとなく辿った。

――――――

最近最近の都内某所、某アパートの一室、昼。
部屋の主を藤森といい、ソファーで室内の実用書や専門書を読み、ぼっちで静かに過ごしている。
両肩に後ろあんよを乗せているのは、どこからともなく侵入してきた、近所の稲荷神社在住の子狐。
藤森の髪でハミハミかじかじ、毛づくろいごっこ。
この不思議なコンコンには、ロックもセキュリティーも、現代の電子的常識さえ、通用しないのだ。

コロコロ、ぽてり。
藤森の頭に登ろうとしたネコ目イヌ科キツネ属は、足を滑らせ、ソファーの上に落ちた。
回転、ヘソ天、停止。幸福と愛情の詰まった腹が天井を向くまでの流れは芸術。
おお。癒やしの権化、尊みのあんよとポンポンよ。
すなわち着地に至る滑落からのLineよ。
汝の役割は「LINE」のお題回収である。

さて。
「付烏月さん?」
肩に乗っていたウルペスウルペス。今度は膝に上がり大きくあくびをして、首筋などポリポリ。
「ツルムラサキ?」
藤森はといえば、読んでいたいた本を閉じてスマホを手繰り寄せ、ポンポン。友人からグループチャットアプリのメッセージが届いたのだ。
ディスプレイをじっと見て、小さく首を傾けて、
己の蔵書たる約1000冊、つまり本棚を見渡す。

藤森が再度呟いた。
「ツルムラサキ……」
途端、子狐が耳をピンとして、騒がしくなる。
藤森が発した言葉を認識し、「ツルムラサキ」が食い物であることを理解しているのである。
狐は肉食寄りの雑食性。美味と知れば、野菜も山菜も、もちろん果物も食うのだ。

つるむらさき!ツルムラサキ食べる!コンコン。
「ここに有るワケじゃない。落ち着け」
おひたし、天ぷら、ごまあえ!コンコン。
「だから。ここには無いんだ。子狐」
なんで?
「私の友人から、メッセージが来たんだ。
『隣の部屋からプランター菜園のツルムラサキを貰ったが、食い方が分からず、さばき切れない』と」

つれてって。 ツレテッテ。
「こ ぎ つ ね」

稲荷の子狐に上着の布を引っ張られながら、藤森は友人からのチャットメッセージに返信を入れる。
「天ぷらや、胡麻和えが、美味いらしい……と」
メッセージ送信者は名前を付烏月、ツウキといい、
彼の隣の部屋の60代マダムが、今週末の引っ越しに向けて、身辺整理と片付けの真っ最中。
付烏月との一時的な交流は、このアパート、この区内での最後の思い出づくり。
マダムは手料理を、付烏月は趣味で作った菓子を、互いに渡し、互いに受け取っていた。
メタいハナシをすると過去作前々回投稿分参照だが、スワイプが面倒なので気にしてはいけない。

ピロン、ピロン、ピロン。
付烏月からのメッセージが藤森のスマホに届いた。
『・ω・)φ_ 天ぷらと胡麻和えオボエタ!

 ・ω・)φ_ ……。

 ノД`) それオンリーでヘビロテきちぃ』
おかわりおかわり!のスタンプが添えられた一連の嘆願は、付烏月に渡された「お裾分け」の量を確実に、正確に示している――多いのだ。

「ヘビロテきつい、と言われてもだな」
私は料理に関して詳しくないし、そういうサポートが可能な本を持っているワケでもないんだが。
頭をカリカリ掻き、ため息など吐いて、藤森は再度己の蔵書を、娯楽欠いて漫画も小説も雑誌も存在せぬ堅苦しい本棚を見渡す。
「んん……」
利用方法も記載されている植物図鑑に、ひょっとしたらヒントがあるかもしれない。
閃いた藤森は付烏月からのグループメッセージに返信しようと、視線をスマホに戻そうとして、
「……こぎつね?」
結果、まんまるおめめを食欲と食欲と食欲で輝かせる稲荷の子狐と、目が合った。

「食いたいのか」
たべる、キツネ、ツルムラサキ食べる!
「どうしても、食いたいのか」
たべる!つれてって、食べる!
ツルムラサキごはん、お揚げさん、おいなりさん!

「ちゃんと人間に化けて、おとなしくできるか」
それにかんしては、ゼンショ、いたします。こやん

9/15/2024, 3:00:27 AM

「絶対エモネタ書かせるお題、8月以来だな……」
日常ネタ風の連載形式を続けてきた某所在住物書きは、天井を見上げ、長く深いため息を吐いた。
前回の8月は「君の奏でる音楽」だった。
今回は命を火、炎、灯とし、燃やし尽くすらしい。
例として「今の社会は一部、あるいは大半で、雇い主が、労働者の命を使い捨てろうそくの如く使い潰してるんだぜ」と、世の不条理を嘆くことは可能だが、
それはそれで、筆が乗らぬ気分であった。

「じゃあ何書くって?」
物書きは再度、今度は羞恥とともに息を吐く。
「先月の『君の奏でる音楽』同様、バチクソ不得意なエモとファンタジーに極振りすんのよ」
前回それをした8月13日投稿分は、未だに自分で読み返すことができぬ。エモが酷く不得意なのだ。

――――――

薄暗闇の室内。外に向けられた窓は無く、中央にひとり、黒い制服の男が倒れ伏し、
は は と弱々しく、浅い呼吸を繰り返している。
力無く動かぬ指の、約30センチ先には、闇によって色の判別がつかない手提げランタンがひとつ。
ゆらり、ゆらり。ゆらり、ゆらり。
灯火を内包し、周囲を僅かだけ照らしている。

「世界線管理局収蔵、癒やしのランタン:レプリカ」
その室内に、嬉々とした嗜虐を投じる者がある。
「便利な拷問器具だよな。ぇえ?半径1メートル以内の生物から、命を吸い上げて、それを燃料に灯火を燃やすってのは?」

放置しとけばそれこそ、命が「燃え尽きる」まで。
毒も薬も残らねぇから完全犯罪が可能ってワケだ。
嘲笑と嗜虐の主は唇の両端を吊り上げる。
先月まで同僚であった筈の男が、明確に衰弱していくのを、離れた場所から見下ろすのは最大の優越。
「これはそんな道具じゃない」
息絶えだえの男が反論した。

正式名称「癒魂灯:レプリカ」。
どの世界線から流れ着いたとも、誰の手による品とも知れぬオリジナルを、それでも何処ぞの何者かが己の手で再現しようとした「まがい物」。
揺れる灯火は本来、ストレスや病によって生じた「心の傷」、魂の表層の炎症や膿だけ吸い上げるための、名前通り、癒やしの器具。
表層どころか深層の奥底まで燃やし尽くす使用法は完全に想定外であった。

「コレが最後だ、ツバメ。いい加減質問に答えろ」
カキリ。小首を鳴らし、しゃがみ込んで問う嗜虐を、
「ツバメ」と呼ばれた男が、精一杯、睨みつける。
「テメェの上司、ルリビタキ部長は今どこにいる。どこで何をしている?」

「……ご本人に聞け」
部長なら今、管理局を裏切ったお前と、お前を引っこ抜いた連中を叩きに、ココへ向かってる最中さ。
遠のく意識を懸命に繋ぎ止め、ツバメは笑った。

…………………………

「――なるほどね。たしかにこれは、難しい……」
都内某所、某アパート。 かつて物書き乙女であった社会人が、某ポイポイ創作物投稿サービスに投稿された物語を、スマホで楽しんでいる。

乙女が読むのは「書きかけ」のタグが付けられ、キャプションで「兎→燕→瑠璃鶲は確実だけど、兎×燕なのか瑠璃×燕なのかと聞かれると難しい書き散らし」と弁明されている二次創作。
投稿作を先に読んだ別の同志からは、某呟きックスアプリにて、「曲解して兎×瑠璃の可能性が微粒子」と感想を投稿されていた。

上記にて最初に倒れていたのが燕(ツバメ)、
後から出てきたのが兎(ウサギ)、
最後名前だけの登場が瑠璃鶲(ルリビタキ)である。
すなわち過去作8月13日投稿分の、まさかまさかの第2弾だが、詳細は割愛する。
要するにこの乙女の心の滋養であり、妙薬である。
「……続き、はよ、はよ……」

ぽん、ぽん、ぽん。
投稿者に感想のスタンプを連打する物書き乙女。
完結編への渇望と、結末予測の衝動をそのままに、書きかけ作品の2周目、3周目、4周目を続ける。
推しに参拝し、推し登場作品を巡礼し、尊みで乙女の命が燃え尽きるまで。

9/14/2024, 3:01:28 AM

「3月7日が『月夜』、5月17日付近が『真夜中』、それから8月16日か17日あたりが『夜の海』で、今回のお題は『夜明け前』か」
星系のお題も含めれば、類似のお題は何度目か。
某所在住物書きは今回配信分に目を通し、今まで通過してきた夜に思いを馳せた。

島崎藤村の『夜明け前』は、「木曾路はすべて山の中である」の書き出しで始まるらしい。
気象庁がまとめた「天気予報等で用いる用語」によれば「明け方前」や「明け方」と言い換えられ、
前者は 日の出の前2時間くらい。後者は午前3時頃から午前6時頃までを指すようだ。
一部の農作物の収穫は夜明け前。
最も甘い状態で「それ」を得るためである。

「今年6度目のトウモロコシネタでも書くか?」
ひと、それを重複過多という。

――――――

眠れなくて眠れなくて気がついたら夜明け前、
夜明け前なんて酷い時間帯にダイレクトメッセージ、
例として、沖縄と東京と北海道では夜明けと日没の時刻が分単位で違う。
どれもなかなか物語に落とし込めず、結果放っぽり出して寝た物書きの、
以下は、いわば毎度恒例の苦し紛れです。

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。まだ都内はすべて残暑の中であるのです。
そんな都内の某所にある某稲荷神社は、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、ウカノミタマのオオカミに仕える、不思議な不思議な古神社。
敷地内の森に、いつか昔の東京を残し、花と水とキノコと山菜を抱き、
木陰や小川や稲荷の不思議なチカラのおかげで酷暑の夏にも木陰で涼しい、ご利益豊かな神社です。

そんな稲荷神社在住の、末っ子子狐。
くっくぅーくぅー、くっくぅーくぅーと、鼻歌軽やかに夜明け前の縄張り巡回。もといお散歩中。
コンコン子狐はお花とお星様が大好き。
最近はリンドウ科の、白い星の形の花、アケボノソウのツボミにご執心です。

「まだ咲かない。まだ咲かない」
「夜明け」、「今日も元気で」等々の花言葉を持つアケボノソウ。罰ゲームの苦いお茶で名高い、あのセンブリのお仲間さんです。
花の先っぽの黒い点々が、至近距離で見る人をほんの少しだけ選びますが、遠くから見る分には、ちっとも気になりません。
「来週かなぁ。明日かなぁ」

白い星咲く予定のツボミは、まだちょっと、開花の準備が済んでいない様子。
ぎりぎり、夜明け数分前のようです。
「あっためたら、早く咲くかな」
そのぎりぎり数分前が、どうにもこうにも、コンコン子狐はもどかしい様子。
しまいには温かいフサフサ尻尾で、株のひとつをぐるり囲んで、お昼寝ならぬ夜明け寝を、

「あの和菓子屋に、まさかこの時間限定のテイクアウトがあるとは思わなかった」
「でしょー?俺もつい最近知ったの」
しようと思ったら、こんな時間の稲荷神社に参拝者がやって来て、名前を藤森と付烏月、というのですが、
ぐるりアケボノソウを尻尾で囲む子狐に気付かず、通り過ぎて、お賽銭箱に小銭をジャリン。
「それで、私に聞きたいことというのは」
「それがね。ご近所付き合いのハナシでね……」
ぱん、ぱん。 清い、力強いかしわ手の二拍 ✕ 2人分が、薄闇の森にこだましました。

藤森の方の「ジャリン」は500円玉だ。
稲荷神社の子狐は、自慢のかわいいふたつの耳で、
即座に、正確に、ガッツリ判別しました。
きっと、いや確実に、元恋人との縁切りをしてやったことに対する、お礼参りでしょう。なんてったってメタいハナシをするに、藤森は前回投稿分のような経緯で悪しき元恋人に執着されておったのです。
コンコン、こやん。子狐のまんまるおめめが、明けの明星か、満月のように輝きました。

「お隣のマダム、手作り料理くれるの」
「うん」
「俺が『お礼に』って手作りお菓子差し出すと、『それは要らない。やめて』っていうの」
「うん」
「『それ「は」』、要らないって、なんじょ」
「んん……。思い当たるところは、ある」

「マジ?」
「渡したいから、渡すんだと思う。
お返しに渡されるのは、違うのだと思う。
私の故郷のご近所のご高齢数名がそうだった」
「ナンデ?」
「私も礼は渡したい派閥だから分からない」

なんだか、難しいハナシをしてる。
コンコン子狐、ちょいちょい後ろあんよで首筋掻いて、大きなあくびなどしています。
そんなことより参拝者です。腹を撫で、おやつをくれる参拝者です。逃がしてはなりません。
「エキノコックス・狂犬病対策済み」の木札を首からしっかりぶら下げ、顔見知った参拝者の意味深な涙ひとつも知らんぷり。
コンコン子狐は一直線、夜明け前の参拝者に、全速力で突撃してゆきました……

9/13/2024, 2:58:32 AM

「そうそう。恋愛系も、お題の常連なんよ」
「初恋の日」、「恋物語」、「失恋」、「本気の恋」。「恋」だけでも3月から数えて4回目。
お前とも長い付き合いになった。
某所在住物書きはお題の、特に「恋」の字を見た。
「愛」も含めれば「愛を叫ぶ。」に「愛と平和」、それから「愛があれば何でもできる?」の7回目。
今後、更に増えるものと予想される。

「……そういや『本気の恋』、『愛があれば』とは言うけど、『本気の愛』とか『恋があれば』とかは、あんまり言わない気がするわな。なんでだろ」
そもそも「本気の恋」の反対とされる「遊びの恋」は、本当に「恋」であろうか。
物書きは首を傾け、黙り、視線を下げた。

――――――

昔々のおはなしです。まだ年号が平成だった頃、9年10年くらい前のおはなしです。
都内某所に、4年ほど前上京してきた珍しい名字の雪国出身者が、ぼっちで暮らしておりまして、つまり附子山というのですが、
田舎と都会の違いに揉まれ、打たれ、擦り切れて、ゆえに厭世家と人間嫌いを発症しておりました。

異文化適応曲線なるカーブに、ショック期というものがあります。
上京や海外留学なんかした初期はハネムーン期。全部が全部、美しく、良いものに見えます。
その次がショック期。段々悪い部分や自分と違う部分が見えてきて、混乱したり、落ち込んだりします。
附子山はこの頃、丁度ショック期真っ只中。
うまく都会の波に乗れず、悪意に深く傷つき、善意を過度に恐れ、相違に酷く疲れ果ててしまったのです。
大抵、大半の上京者が、大なり小なり経験します。
しゃーない、しゃーない。

「附子山さん!
ケーキが美味しいカフェ見つけたの。行こうよ」
さて。そんなトリカブトの花言葉発症中の附子山に対して、まさしくハネムーン期真っ最中と言える者が、附子山と同じ職場におりました。
加元といいます。元カレ・元カノの、かもと。未来が予測しやすいネーミングですね。

「何故いつも私なんかに声をかける?」
絶賛トリカブト中の附子山は、「人間は皆、敵か、まだ敵じゃないか」の境地。
加元も敵と見なして、無条件に突っぱねます。
「あなた独りか、他のもっと仲の良い方と一緒に行けばいい。何度誘われようと私は行かない」
加元は附子山の、威嚇するヤマアラシのような、傷を負った野犬のような、誰も寄せ付けぬ孤高と危うさと痛ましさが大好きでした。
なにより附子山のスタイルと顔が、加元の心に火を付けたのでした。

このひとが、欲しい。
このひとを身につけたい。
恋に恋する加元にとって、この所有欲・独占欲の大業火こそが、すなわち本気の恋でした。

「だって、附子山さん、いっつも何か寂しそうな、疲れてそうな顔してるんだもん」
己の声、言葉、表情それら全部を使って、附子山の傷ついた心に、炎症を起こした魂に、
ぬるり、ぬるり、加元は潜り降りていきます。
「美味しいもの食べれば、元気になるよ。
ねえ。一緒に、カフェ行こうよ」

それは、表面的には附子山をいたわり、寄り添う言葉に聞こえますが、
加元の心魂の、奥の奥の最奥には、獲物の心臓に手を添える狩猟者、執着者の欲望がありました。
そして悲しいかな、附子山はそんな加元の「奥の奥の奥底」に気付くことが、
ちっとも、まったく、できなかったのです。

「……あなたが分からない」
何度突っぱねても、どれだけ拒絶の対応をとっても、こりずに優しく言葉の手を伸ばしてくる加元に、
ぽつり、怯えるように、少し懐いてきたように、でもまだ相手を威嚇するように、附子山は呟きました。

この数ヶ月後、加元は望み通り附子山を手に入れ、
しかし「実は附子山、心の傷が癒えてみたら、自然を愛する真面目で心優しいひとでした」の新事実発覚で地雷級の解釈違い。
無事加元にも、ショック期が堂々到来します。
「アレが解釈違い」、「これが地雷」、「頭おかしい」と旧呟きアプリに愚痴を投下していたら、
さぁ大変、その投稿が附子山にバレます。
元カレ・元カノの名前どおりの結末を歩んだ加元の本気の恋は結局、瓦解・崩壊・大失敗です。

一方、附子山は加元の執着から逃げるべく、合法的に名前を「附子山 礼(ぶしやま れい)」から「藤森 礼(あき)」へ。連絡経路を全部絶ち、就職場所も居住区も全部ぜんぶ変えて夜逃げを敢行。
スッパリ縁切りして、新天地で親友に助けられ後輩に恵まれて、友人とも再会して、
そこそこ幸せに、穏やかに、暮らしましたとさ。

9/12/2024, 2:55:27 AM

「カレンダーっつーか、スケジュール帳ってさ、
アレよく後半にフリーメモ用のページあるじゃん。
昨日からそのフリーページに、アプリの投稿のネタになりそうな出来事書き溜めてみてるんだわ。
っていうのも、そのスケジュール帳のカレンダー部分に、去年から『その日どんなお題が配信されたか』ってのを記録し続けててよ」

書く習慣のアプリ入れてから、もう561日だとさ。1年と半分とっくに過ぎたのな。
ポツリ言う某所在住物書きは、記念日アプリ内のカレンダーを見詰めながら、感慨深く息を吐いた。
約560回、現代風の連載モドキを書き続けて、分かったことがあった。
すなわち「このアプリで連載の物書きを続けるにはネタを収集し続けるのが大事」という基本である。

「だって、特定のジャンルが重複しやすいんよ」
物書きは言う。
「エモネタ、雨系、年中行事ネタだろ、あと恋愛。
特に雨よ。だって下手すりゃ今週の日曜……」

――――――

最近、ちょっとだけアナログを取り入れてる。
というのも先日、ビジネスバッグを昭和レトロな学生カバンのリメイク品、すなわち学生カバンに金具を取り付けてショルダーバッグにしたやつに変えまして。
しかもこれが、
私が好きなゲームの登場キャラが、所属してる組織のビジネスバッグの、
コミカライズ版バージョンにほぼほぼそのまんま登場してる「現実のモチーフ」でして。

日頃カレンダーアプリっていうか、スケジュールアプリしか使ってない私は、
バチクソ、どちゃくそ久しぶりに、紙のカレンダーなスケジュール帳を持ち歩くようになった。
……「紙の」スケジュール帳。『紙の』だって。
すごいよね。私が子供の頃は、それこそ日記帳あたりとか、普通に紙製がまだメジャーだったのに。

「どこのスケジュール帳?」
「セレクトショップ。『今月のチェッキー』とか『本日のプリクーラ』とか貼るスペースがあるの」
「カレンダーアプリでよくない?」

「付烏月さん。ツウキさん」
「なーに」
「『今月のベストよく作れたクッキー』」
「はぅっ!」
「『本日のカップケーキ試作品』」
「うあぅぅッ!」

「付烏月さんの趣味のお菓子作り、楽しくなる」
「たのしくなる!」

週の真ん中が過ぎて、あとは今日と明日と、土曜日の午前営業だけっていう私の職場のお昼休憩。
まだまだ書き始めたばっかりのせいで真っ白が多いスケジュール帳を見てたら、
今年の3月から一緒に仕事してる付烏月さんが、アナログ久しぶりって寄ってきた。
「今じゃお財布もカレンダーも、写真のアルバムだって、スマホで完結しちゃうもんね」
「ねー。便利な世の中になったよね」

ぱらり、パラリ。白いスケジュール帳をめくる。
横7枠、縦4〜6枠に区切られた見開きには、
その日その日それぞれに、思い出の画像なりプリクーラなりを貼れる小さなスペースが設けられてる。
昨日の私は昨日の枠に、すっッごく美味しくて感動したチョコクリームフラッペを貼った。

「あのね。この店のフラッペ、」
この店のフラッペ、すごく美味しかったの。
そう言いたくて、なによりその店を付烏月さんと共有したくて、 もう、無意識だ。

私は紙のスケジュール帳に貼った、チョコクリームフラッペの小さな画像を、
人さし指と親指で、ピンチアウトしてた。

「……」
「後輩ちゃん。それ、スマホじゃないよ」
「あっ。……やだ。クセで」
「わかる。俺もやっちゃう。てか先週やった」

「便利な世の中になったよね」
「ねー。ホントに便利になったよね」

いつかガチで、拡大縮小できるデジタルを、ぺたぺた紙に貼っ付けられる日が来たりするのかな。
私と付烏月さんは「やぁね、」「やーねぇ」して、
それから、私は紙のカレンダーなスケジュール帳を自分のバッグに戻す。
その後はいつもと同じお昼休憩、お昼ごはん。
スマホいじって皆でダベって、コーヒー少し。
アナログのカレンダーは検索も拡大縮小もできなくて、今となっちゃ少し使いづらく感じるけど、
それでも楽しいから、もう少し続けることにした。

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