前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりまして、
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、絶賛修行中。
最近は修行の頑張りが認められまして、
今年の3月から、世界線管理局なる大きな大きな組織に、新しい修行へ出されております。
完全週休2日制。
お休みの日には、おうちに帰ることもできますし、
局員が許可すれば、その局員と一緒に遊びに行くこともできます。
前回投稿分など、法務部執行課の局員・ツバメに、楽しいキャンプに連れてってもらいました。
そこで子狐は初めて、ハンモック、という極上のおもちゃを知ったのでした。
ところでガッツリ遊んだ後の、その日はコンコン子狐、法務部執行課のお仕事のお手伝いです。
「なんかね〜、コンちゃんの、心魂の匂いを嗅ぎ分けるチカラを、借りたいらしーよぉ」
管理局で子狐のお世話をしておる収蔵部職員・ドワーフホトのお嬢さんが、子狐に言いました。
「お手伝いをすごく頑張ったら〜、
法務部の偉いひとが、特別手当と特別おやつ、即日支給してくれるらし〜ぃ」
とくべつおやつ!とくべつおやつ、ほしい!
コンコン子狐は尻尾をブンブン、高速回転!
さっそく修行先の世界線管理局の、法務部執行課にばびゅん!跳んでゆきまして、
彼等のお仕事の手伝いを、始めました。
というのもこの管理局
今回のお題の「明日世界が終わるなら……」がピッタリ当てはまるような業務内容を
いくつか、複数、けっこう、持っておりまして。
「おはよう子狐。君が手伝ってくれるのは、実は本当に助かるのです」
子狐が連れてゆかれたのは、管理局の中の難民シェルター、その面会者用ゲートです。
「管理局の難民シェルターは、シェルター利用者以外にも、広く解放されています。
ですがそれを利用して、危険な思想をシェルター利用者に、広めようとする者も来るのです」
世界線管理局は、「世界線」管理局だけあって、
滅んだ世界からこぼれ落ちてしまった者の回収と保護もしておるのです。
故郷世界を失った難民は、難民シェルターに収容されて、3食おやつ付きの余生を送るのです。
ただ
そんなグルメとレジャーと
もちろんリラクゼーションも完備のシェルターに
難民を収容することを「監禁だ」と批判する
過激な活動家も少なからずおりまして。
「明日世界が終わるなら……
その前に、我々と一緒に新世界へ行きましょう!」
ほら、アレです。 ツバメがゲート前で演説している、獣人を指さして言いました。
「管理局は、あなたがたの世界の崩壊を、助けてはくれません。見殺しにされるのです。
あなたの世界が終わる前に、故郷が消える前に、我々は皆さんを、安全な新世界へお連れします!」
ダレだおまえ。ダレだおまえッ。
コンコン子狐は興味本位で、ばびゅん!
演説しておる獣人のおしりスメルと、心魂スメルを丹念にチェックします。
邪悪な匂いは、しないようです。
でも、どうやら、「自分は法に触れている」とか、
「自分は違法行為をしている」とか、
そういう、独特で不審な匂いは、するようです。
「おや、きみも故郷を無くしたのかな?」
さあ、我々のパンフレットをどうぞ。
演説獣人は子狐に、情報クリスタルシートを渡そうとして、 そして、法務部局員と目が合います。
「げ!法務部執行課!」
獣人はスタコラサッサ!逃げてゆきました。
「子狐」
ツバメが言いました。
「さっきのような匂いのする面会希望者を、ひとまず1時間くらい、一緒に探しましょう」
子狐とツバメは、まさしく空港で麻薬密輸を未然に防ぐ探知犬と捜査官のように、
1時間、2時間、お昼を挟んで3時間、
一緒にチェックして、多くの成果を為しました。
明日世界が終わるなら……逃げましょう!
捕まえた演説活動家は、全部で10人。
コンコン子狐は法務部の偉い人に、たんと褒められ、美味しいジャーキーをたっぷり貰いました。
だけど、どうして自分が見つけた活動家の演説が違法なのかは、よく分かりませんでしたとさ。
「なんで?なんで?」
「少し難しいハナシになりますが、聞きます?」
「いらない。むずかしーのヤダ」
「でしょうね……」
前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某しっかり整えられたキャンプ場に、ツバメというビジネスネームの管理局員がテントを張りまして、
なにやら相当に疲労した様子で、ノンカフェインのコーヒーをすすっておりました。
テントの横には荷物運搬特化かつ、オフロードもそこそこ対応できるように整備されたバイク。
複数台所有するツバメの相棒のうちの1台です。
はぁ。 ぽんぽん。
ツバメは大きなため息を吐いて、相棒のおなかを優しく叩きました。
ツバメのアウトドアライフは、バイクと出逢って、良い方向に変わりました。
ああ、ああ、君と出逢って、
私はどれだけ多くの川と山と林と高原と以下略に、テントと焚き火を置いたろう。
君と出逢って、私は何度、君と一緒に湯を沸かして、コーヒーをすすったことだろう。
ツバメは再度、ため息を吐いて、
そして、ノンカフェインの香りを吸い込みました。
何が酷いって
前回投稿分でツバメは
自分の弱みを握った相手に
口止め料として至高のコーヒーと軽食セットとスイーツとを間違いなく提供したのに
相手が「マン『デ』リン」と「マン『ダ』リン」を間違えたその一点だけで、
ツバメは本当に、酷い目に遭ってしまったのです。
しかも最終的に「美味いなこの、シトラスシロップ入りのマンデリンコーヒー」と、
酷い目に遭った理由のすべてがリセットされて、ツバメの理不尽なハプニングが完全に、無かったことにされてしまったのです。
「ひどいよな。 ……ひどいよなぁ……」
はぁ。 ツバメは3度目のため息を吐きました。
「ひどい?たたる?たたる?」
ツバメのキャンプに勝手についてきた稲荷子狐が、ハンモックをぐりんぐりんに揺らして言いました。
美味しい犬用干し鮭ジャーキーを、あぐあぐ、あむあむ、ちゃむちゃむ。幸福に堪能しています。
「いっかい、いっせんまんえん!たたる?」
「簡単に祟る呪うと言っちゃいけません」
ズズッ。ツバメがコーヒーを飲みながら、干し鮭ジャーキーの1本を焚き火で軽く炙ってやると、
コンコン子狐、すぐに香ばしい香りに気付いて、耳も尻尾も、ピン!目もキラキラ!
お手とか伏せとか言えば、秒で反応しそうな鋭利さで、ツバメのジャーキーを直視しています。
「キツネ、たたれる。キツネ、チカラある」
「チカラは、使って良い場合と、使ってはダメな場合が、存在するのです」
「なんで?なんで?キツネ、できる」
「『できる』と『やって良い』は違うのです」
「おじちゃんジャーキーちょーだい」
「炙って熱いから少し待ちなさい」
ジャーキージャーキー!
尻尾ブンブンで、ポテッ。
子狐は炙られた美味、付与された手間の贅沢、君と出逢って、もう我慢なりません!
ハンモックから飛び出そうと、布をあんよで力強く押し蹴りましたが、
うまくチカラが伝わらなくて、そのままフカフカな地面に、落っこちてしまいました。
それはそれで楽しいのです。
子狐は落ち葉や見頃を終えた花びらで、ぴょんぴょん、遊び始めました。
はぁ。 ツバメはまた、今度は親心のような息を吐いて、子狐を見守ってやりました。
前回投稿分からの続き物。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、世界線管理局なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこの経理部の天才エンジニアは、ビジネスネームをスフィンクスというのですが、
ちょうど前回投稿分で、法務部執行課の局員・ツバメの弱みをガッツリ握ったところ。
というのもツバメ、なかなかのコーヒー特化なカフェインジャンキーでして、
あんまりカフェインを摂取し過ぎたせいで稲荷狐の漢方医なお医者さんから
『カフェイン摂取量を減らしてください』
『1日の摂取カフェイン量を、ちゃんと日記として記録しておいてください』
と何度も何度も言われておったのです。
なのに、前回このコーヒージャンキーは、
無糖バニラクリームフラッペに
希釈用エスプレッソベースを
どっぱどっぱとブチ込んで、
主治医からも、主治医が送りつけた監視ぬいぐるみからも隠れて、
エスプレッソ●杯分のカフェインをちゅーちゅーキメておったのでした。
稲荷狐は、とっても耳が良いのです。
まさしくお題どおり、耳を澄ますと、
抜けがけカフェインちゅーちゅーなど、すぐ、バレてしまうのです。
「それは困るよな、ぇえ?ツバメくぅん」
によによ、スフィンクスが笑います。
「……料理の美味い喫茶店で、このあと1杯」
ぐぎぎぎぎ。ツバメが端末を取り出します。
完全予約制、一見さんお断り、客単価がそれなり、かつコーヒーのラインナップが豊富にして王道。
ツバメは、とっておきの切り札を、スフィンクスのために切ったのでした。
「最近、マンデリンが入荷したそうです」
「おお!気が利く店舗チョイスじゃねぇの」
「深煎りのブラックが、個人的にオススメです」
「あ? ふかいり?」
「深々としたコクが楽しめます」
「ミカンを深煎り?」
「スフィンクス査問官。マン『デ』リンです」
「うむ」
「マン『ダ』リンでは、ありません」
「……む?」
ミカンのコク?ミカンを深煎り?
耳を澄ますとスフィンクスの、混乱と困惑が小ちゃい長考で聞こえてきます。
スフィンクスは、ミカンがとっても大好き。
スフィンクスの頭の中では、マンダリンオレンジの種を豆に見立ててローストされた嗜好品が、
いわゆるオレンジコーヒーとして、低解像度でもって画像生成されています。
いちおうオレンジの皮で風味付けが為されたオレンジピールコーヒーとか、
オレンジジュースとコーヒーを合体させたオレンジコーヒーとか、
ミカンを活用したコーヒーも、無くはないのです。
「どんな味だ、その、深煎りしたミカンコーヒー」
「ですから、マン『デ』リン」
「いや、待て。俺様の楽しみを薄めるでない。
注文してからのお楽しみだ」
「あのですねスフィンクス査問官??」
ああ、ああ。ダメだこりゃ。
ツバメは長いため息をひとつ吐きました。
でも間違いなく、そこの喫茶店のコーヒーは、サイドメニューとの相性も含めて、美味いのです。
ツバメは凝ったトッピングや、アレンジをあまり楽しまないので、試したことはありませんが、
それでも、その喫茶店にオレンジピールのアレンジや、シトラスシロップのトッピングが完備されているのは、知っておったのでした。
「席が取れました」
ツバメが端末から顔を上げました。
「おう!でかした!」
スフィンクスの目が、キラキラ輝きました。
「待ってろ俺様のミカンコーヒー!」
そこから先のことは、お題とあまり関係が無いので、詳細には書きません。
ただ間違いなく、喫茶店に到着して、メニューブックを見たスフィンクスは、
耳を澄ますと、
「ミカンのコーヒーじゃ……ない?」
と、言っていることでしょう。
前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某隠された小道の奥に、本物の魔女が切り盛りする喫茶店がありまして、
ここのBGMのひとつを担当している不思議な不思議なオルゴールが、前回投稿分で不具合を起こし、
これを、魔法道具の対応ができるエンジニアに、ガッツリ直してもらったところ。
「おーい、アンゴラ。アンゴラばーちゃん。この俺様が直々に、オルゴール、届けに来てやったぜぇ」
エンジニアはビジネスネームを、スフィンクスといいまして、
世界線管理局なる厨二ふぁんたじー組織の局員。
「前金はもう貰ってあったから、残りの報酬、勝手に持ってくぞー」
チリリン、ちりんちりん。
スフィンクスが喫茶店のドアを開けると、
美しいドアベルが、スフィンクスを出迎えました。
店内はちょっと寂しそうな音の景色で、
スフィンクスが直してくれてオルゴールのメロディーを、今か今かと待っている様子でした。
ところで店主の魔女、アンゴラは、どこでしょう?
「あらあら、ツバメ、あらあら、まぁまぁ」
テーブル席の奥のあたりから、店主の声がします。
「そんなことしちゃって、バレたら大変よ」
なんだなんだ、何がどうした、
スフィンクスが声のする方、その天井を見ると、
若いツバメが喫茶店の店内に、ひとつ、小さな巣を作っておりました。
「仕方無いわね」
再度、魔女の優しい声がしました。
「二人だけの、秘密よ」
なーんだ。「そっち」のツバメか。
スフィンクスは納得して、頷きました。
というのもスフィンクスの職場・世界線管理局は、動物由来のビジネスネーム制が敷かれておって、
法務部に、「ツバメ」という執行課局員が、事実として勤務しておるのでした。
よってすなわち
法務部のツバメが
魔女のアンゴラの喫茶店に来店して
何か「あらあらまぁまぁ」な職務怠慢を
魔女と当人の「二人だけの秘密」として
見逃してもらっているワケではなかったと。
「アンゴラー!勝手に代金、持ってくぜぇ!」
チラホラあっちこっち、スフィンクスが見回しますと、ちゃんとカウンターに、オルゴール修理用の後払い分が整えてありました。
「ひとまず、」
ひとまず、来月か再来月にでも、一旦経過確認に来るから、覚えておけよ。
スフィンクスがそう続けようとしたときでした。
「らいげつ……」
スフィンクスは、ツバメの巣の、下の席の客と、
ばったり、目が合いました。
彼は、スフィンクスと同じ職場の局員でした。
彼は、バニラクリームの無糖シェークフラッペに、
この店の売れ筋のひとつであるところの、希釈用エスプレッソベースを、
たぷたぷ、3杯分ほどブチ込んで、
それをストローで、丁寧にかき混ぜておりました。
ガッツリ視線がぶつかりました。
スフィンクスと彼は数秒、互いにフリーズして、
数秒後に互いに、示し合わせたように、
それこそ「二人だけの秘密」のように、
無言で、視線を外したのでした。
世はゴールデンウィークの真っ只中だそうですが、普通に明日も明後日も、その次の日も普通にお仕事の物書きです。
優しさ?思いやり?知りません。優しさだけで、きっと懐は温まらないのです(早々のお題回収)
と、いう慟哭は置いといて、今回のおはなしのはじまりはじまり。
最近最近の都内某所、某隠された小道の奥に、
食べログにもグルメマップにも記載が無い、本物の魔女が切り盛りする喫茶店がありまして、
美味しいスープを煮込む大釜も、温かい光をこぼす鉱石ランタンも、全部ぜんぶ、本当の魔法道具。
中でも、差し込む鍵によって音色を変える魔法のオルゴールは、周囲から特定の感情だけを集めて、
いろんなフレーバーのシュガーを精製するのです
が、
その日の魔法のオルゴール、どうにも調子が良くありません。完全に、ヘソを曲げています。
「ヘンね。とても、ヘンだわ」
店主の魔女のおばあちゃんは、首を傾けました。
「どの鍵を差し込んでも、同じ曲しか流れないし、同じ感情の味のシュガーしか出てこない」
その同じ曲、同じ感情の味こそ、まさしくお題そのもの。「優しさ」でした。
「いたずらネズミにでも、かじられたかしら」
やめろ!冤罪だ!ボクじゃない!ギーギーギー!
喫茶店の椅子をカジカジしていた不思議ハムスターをお仕置きして、
魔女のおばあちゃんは手っ取り早く、オルゴールを直してくれそうなエンジニアに連絡です。
『あ?例のオルゴールが壊れた?』
エンジニアはミカンが大好き!
魔女おばあちゃんが手作りのシトラスティーを、それとなくチラチラさせると、
エンジニアは秒で飛んできました。
「おう俺様にまかせろ。で 何だって?」
トントントン、こんこんこん。
整備用拡大メガネを付けたエンジニア、優しくオルゴールの外枠を外します。
「音を鳴らす機構は、特に、なんともねぇな」
柔らかいブラシとクロスでチリを取り除いて、
少しだけオルゴール用に持ってきた油をさして、
エンジニアはたちまち、オルゴールのトラブルを発見しました。
「コレだ」
それは、鍵穴に入り込んだシュガーの塊でした。
「『いまオルゴールにどの鍵が差し込まれてるか』を読み込む機構に、シュガーが挟まったんだ」
その挟まったシュガーが特定の鍵のカタチ、優しさのカタチに圧縮固着しちまって、
結果として、優しさだけで、きっと感情採集が為されてたんだろうなぁ。
エンジニアは鍵穴にメンテナンス用の針を差し込んで、コンコンコン。
鍵穴から原因のシュガーを取り出して、ひととおり、お手入れなど為したのでした。
「問題は、なんでシュガーが鍵穴に入り込んだかなんだわな。 なんでだろな」
まぁ、ちょっくらこの俺様に預けろ。
エンジニアは綺麗な木箱にオルゴールをしまって、
手入れの前金として、魔女おばあちゃんからシトラスティーの1箱を受け取ります。
優しさだけで、きっと鍵穴の読み取り口が固着していたオルゴールは、それから2日もせず、
綺麗にお化粧も直されて、おばあちゃんの喫茶店に戻ってきたそうな。