<3月4日のお題が「約束」でした>
<新しい物語投稿まで、当時分を再掲載します>
――――――
「約束」と「お約束」では、意味が変わってくるような気がしないでもない物書きです。
その約束がお題ということで、今回はこんなおはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某アパートの一室の、部屋の主を藤森といいまして、花咲き風邪吹き渡る雪国の出身。
3月から友人の誘いで、前々職の私立図書館に、復職してきたところでした。
その日は復職吹き込んだ友人と、前職でずっと藤森を支えてくれた親友とを招いて、
藤森のお部屋で、お疲れ様会と、これからよろしくお願いします会を、ささやかに開く予定。
いつもコスパと塩分と、糖質とを注意深く確認している藤森が、その日は少しだけハメを外して、
親友と友人が好きなお肉&お魚を、それぞれ、値引きしてない値段で買ってきたのでした。
「付烏月さんの甘い菓子に合うように、甘じょっぱいものと、サッパリしたものを作ろう」
付烏月、ツウキとはつまり、藤森の友人です。
「宇曽野のやつは酒が好きだから、やはり、塩味の効いたやつが良いだろうな」
宇曽野、ウソノとはつまり、藤森の親友です。
「本当に、良い友人に恵まれた。ありがたい」
双方が藤森の部屋に来るまで、あと2時間。
藤森はこの2時間で、美味しい、温かい、良い料理を2〜3品、可能なら5品、作る予定なのです。
少なくともお肉いっぱいの鍋はひとつ出すと、藤森、ふたりに約束しておりました。
シメを雑炊にするか、そうめんにするか、スープを吸わせてスパゲッティーにするか悩みますが、
まぁまぁ、そのへんは、ワイワイ食いながら決めれば良いのです。気にしない。
「そうだ。宇曽野が酒を飲むから……」
宇曽野が酒を飲むから、彼に「部屋に来る前にしじみを買ってこい」と伝えて、彼のための吸い物を作ってやっても、良いかもしれない。
考えながら藤森が、自宅のドアを開けると……?
どたんどたん、バタンバタン!
ドンガラガッシャーン!!
そうです、お約束です。
突拍子も無いことが発生したのです。
ぼっち暮らしの藤森の部屋で、誰かと誰かが取っ組み合いのケンカをしています!!
「なんだ!なんだ!?」
藤森が慌てて、買ってきたお肉も野菜もお魚も玄関に置いて、音がするリビングへ走っていくと、
「くっ、不法侵入者のくせに、なかなかやるな」
「お前こそ。人間にしてはスジがいい。藤森と俺達の敵でなければ、スカウトしているところだ」
あーあー、あーあー。
親友の宇曽野と、それから、3月から隣の部屋に越してきている「条志」と名乗るひとが、
どたんどたん、バタンバタン!
藤森の部屋でなにやら、取っ組み合って、妙な友情まで芽生えていそうではありませんか。
多分宇曽野は合鍵で、藤森の部屋に入ってきたのです。条志の方は知りません。
藤森の手伝いをしようと2時間前に部屋に来た宇曽野を、お隣さんの条志が見つけて、
「藤森と自分の敵」と認識して縄張りから出そうと攻撃したのでしょう――縄張り意識がバチクソに強いヤマドリやルリビタキみたいに。
で、藤森の親友の宇曽野は、そんな条志を「不法侵入者」と認識して、藤森の部屋から云々。
双方、悪い人ではないのです。
条志も、時折藤森がシェアディナーに誘ってやったり、条志自身がベランダ(……「べらんだ」?)にやって来て、ディナーのお礼を渡したり、
仲間には、本当に優しいのです――それこそヤマドリやルリビタキみたいに。
「条志さん……宇曽野、」
ひとまず、この縄張り喧嘩を止めなければなりません。藤森は大きく息を吸って、室内が防音防振加工されているのを良いことに、
お約束の言葉を、叫びました。
「ステイ!!!」
藤森の声を聞いて、宇曽野も条志もしずまります。
「状況!!」
藤森が腕を組み、また声を張り上げると、
「お前の部屋にこいつが、」
「機構の連中を部屋から追っ払った後、こいつが」
双方が双方で、双方を指差し、言ったとさ。
はてさて、条志が言った「機構」とは……?
「花のお題はけっこう多く書いてきたんよ。なんなら花ネタの投稿、複数回書いてるのよな……」
某所在住物書きは、今回ばかりは物語の書きづらさを、己の失態によるものと認めた。
これまで桜吹雪を流れ星に見立てたり、
ポットの中に工芸茶の花を咲かせたり。
季節の花をそのまま登場させたこともあった。
花はこの物書きにとって書きやすかったのだ。
「去年は星空を花畑に例えたっけ」
なかなかの苦しまぎれよな。物書きは回想する。
「まぁ。今年も今年で、強引なネタ書くけど」
そろそろネタを発掘する必要がある。今まで考え付きもしなかった、一度も擦っていないネタを。
――――――
過去作3月16日投稿分あたりの頃に、「先」に一度進みかけて、そのまま停滞した「その後」。
異世界要素をガッツリ挟んだ、厨二ふぁんたじーで前回投稿分とも繋がりそうなおはなしです。
最近最近の都内某所、某不思議な稲荷神社には、
かつて昔の美しい花、可憐な花、今となっては見るのも難しくなってしまった花が、
稲荷の狐に見守られながら、あるいは稲荷神社の花畑を未来に残したい人々に保全されながら、
今年も早春の花をいっぱい、咲かせておりました。
稲荷の花々はしあわせもの。
それを見に来た参拝者に、それを保全する全員に、
少しずつ、稲荷のご利益を分け与えます。
稲荷の花々はしあわせもの。
「そこ」に在ることを願われて、「そこ」で増えることを望まれて、大事に大事にされています。
「同じ花が、実はこの近くの自然公園にもある」
今回の物語の進行役の1人、花咲く雪国から上京してきた藤森が、小さな黄色の花をつけたランの仲間、キンランのまわりの草を整理してやりながら、
「全部事務的に、刈り取られてしまうんだ。
花の知識を持たない公園の管理者によって」
ため息ひとつして、言いました。
「公園に咲いている絶滅危惧種を、行政が認識しておらず、他の雑草と一緒に草刈り機で。
……多くの都道府県で、よくあることらしい」
キンランとは、小ちゃい特徴的な黄色い花をポツポツ咲かせる絶滅危惧Ⅱ類。今もどこかで数を減らしている、保全されるべき花なのです。
「コピーできないんですか?」
私の世界の技術なら、簡単そうに見えるけど。
そう付け足すのが今回の、物語の進行役のもう1人。ビジネスネームを「アテビ」といいます。
アテビはココではないどこか、別の世界から来た異世界人。「世界多様性機構」なる組織の職員。
低コストの高タイパ、ただ1輪の絶滅フラワーを、たちまち100本増やすなど、朝飯前なのです。
「こいつは、ここから動けない」
藤森、小さく首を振りました。
「特定の木の根っこから栄養を、ごはんを貰っている。それを知らずに鉢植えなんかに入れると、キンランはごはんが貰えないから、死んでしまう」
絶対、ぜっッたい、自分からは働かないんだ。
藤森は言って、微笑しました。
「この花も、私の世界の技術じゃ増やせないんだ」
異世界人にして、異世界の職場で働くアテビ。
深くふかく頷いて、さらり、メモに記します。
東京より文明の進んだ世界を故郷とするアテビは、
最初、東京の問題なんて全部ぜんぶ、異世界の技術で簡単に一瞬で解決可能だと思っておったのです。
実は過去作3月10日投稿分で、アテビ、東京の花を数輪「異世界の技術」で枯らしてしまいまして。
前科持ちなのです。
今回も、危なく花を枯らすところだったのです。
「この花も、私の世界の技術じゃ、枯れちゃう」
「いや。どうだろう」
「『どうだろう』、というと?」
「ある人から情報を貰った。あなたが勤めている組織には、たくさんの異世界の技術や道具がたくさん存在していて、私達の技術の先を行っていると」
「そうですね。 そうだと思います」
「アテビさん。あなたの組織のチカラを使えば、
もしかしたら、この地球全部とは言わずとも、東京の貴重な花を少しずつでも増やせるかもしれない」
あなたの職場に、連れていってほしい。
日本の花を愛する藤森、アテビに頭を下げます。
どうぞ、ぜひ私達を知ってください。
異世界から来たアテビ、藤森に頭を下げ返します。
アテビと藤森が一緒になって、稲荷神社から出ていって、これにて物語の新しい花が、さっそく開花。
ここから先どういう結末になるかはお題次第。
ところでその頃、藤森の高葉井、もとい後輩の高葉井が、アテビの敵対組織に勤めている「推し」と、
とうとう、ようやく、エンカウントしまして……?
「カーナビはWi-Fi繋ぐの面倒で、全然新しい地図に更新してねぇから、それはネタにできるわな」
意外と「新しい◯◯」、「◯◯の地図」みたいなお題が来ていなかったらしい。
某所在住物書きは過去のお題を確認しながら、その意外性に、ふーん、鼻を鳴らした。
新しい地図、新しい勢力図、新しい配管図。
書こうと思えば新しい人間関係の再構築も、書けるかもしれない、かもしれない。
「新しい防災マップ?」
そういえば朝、千葉県東方沖震源で地震があった。
防災マップをチラリ、見ても良いかもしれない。
――――――
前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某不思議な稲荷神社には、
人間に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く住んでおりまして。
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、絶賛修行中。
稲荷のご利益ゆたかなお餅を作って売って、人間の世界を勉強しておったのです。
前回投稿分では、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織にお餅を巡回販売。
法務部で七色に光り輝く宇宙的なたこ焼きを盗み食いした結果、七色に光り輝くゲーミング子狐が堂々爆誕してどうしましょ、というおはなしでした。
はてさて、今回はどうなることやら。
――前回投稿分から、少し時が進みます。
「ここだ」
子狐がお餅の巡回販売に来た管理局に、なにやらタブレットを持って、こそこそ、こそり。
「気をつけろ。勘付かれるな」
不法侵入する敵対組織が、数人おりました。
「管理局に収容された難民の開放ミッションだ。
定刻になった。これより潜入を開始する」
敵対組織は、「世界多様性機構」といいました。
機構は管理局をバチクソに敵視しておりまして、
というのも管理局、滅んだ世界から脱出して生き延びてきた難民を、皆みんな、難民シェルターに押し込んでしまっておるのです。
どれだけシェルターが広かろうと、シェルターに花や水や娯楽施設や、なんなら三食昼寝とおやつとお酒と、無料のレジャーまで揃っていようと、
閉じた世界で与えられるものなど、いつわりの平和であり、いつわりの幸福なのです!
機構は彼等を、開かれた、自由な、まだ生きている世界へ開放してやるために、
管理局に、潜入したのです。
「ここを右に曲がるぞ」
機構の工作員が持ってきたタブレットは最新型。
難民たちが閉じ込められている難民シェルターに続くルートを示した、新しい地図が入っています。
「慌てるな。周囲に気を配れ」
暗いくらい、管理局員の警備の穴を突くルートは、
静かで少しの小さな声でも、壁が拾って反響させるくらいの無人ルート。人間は誰もいません。
ところで、
「何か音がする」
その、人間が誰も居ないハズのルートで、
ドゥンドゥンドゥン、ドゥンドゥンドゥン。
カッコつけた車から漏れてきそうな重低音が、
遠くから七色の光を放ちながら、近づいてきます。
そうです。前回投稿分のゲーミング子狐です。
「おじちゃん!ホントに、ほんとに、何かみつけたら、たこ焼きのおかわり、くれる?」
ドゥンドゥンドゥン、ドゥンドゥンドゥン。
前回投稿分で爆誕した、七色に光り輝くゲーミング子狐が、誰かと通信で会話しながら、
ふわふわふわ、ふよふよふよ。
高さのZ軸がバグったように浮きながら、犬かきならぬ狐かきでもって、進んできます。
『ちょっと失礼ね!アタシのこと「おじちゃん」なんて。アタシはいわゆる「オネェ」よ!』
通信相手はどうやら、子狐に宇宙の七色たこ焼きを食われてゲーミング子狐を爆誕させてしまった、法務部のオネェな宇宙タコ。
『いいこと、見つけるだけで良いんだからね。
見つけたらすぐ逃げる。噛みつくんじゃないわよ』
どうやら機構の人間が入り込んだことは勘付かれていたらしく、子狐を調査に向かわせた様子。
『撤収』
指文字でもって機構のリーダー、作戦中止を告げます。だってバレて捕まっちゃ困ります。
『ミッション失敗。プランC。総員、透明化装備を起動しつつ、回収ポイントAへ移動せよ』
「おじちゃん!おじちゃん!人間みつけた!」
新しい地図が入ったタブレットをしまって、機構の工作員は散り散りに、脱出ポイントへ逃げ出しますが、どうやら狐の鼻は誤魔化せない様子。
「キツネ、わるいやつ、やっつける!」
ドゥンドゥンドゥンドゥン!
ゲーミング子狐、工作員ひとりの右腕めがけて、
がぶーっ!ぶんぶんぶん!
七色の500ルーメンと狐の野生を開放し、噛みついて、振り回します!
「チッ、こいつ、」
この狐畜生め!噛みつかれた工作員が子狐を、機構の技術で作られた強いつよい銃で撃ち殺そうと、
「え?」
カチリ!子狐に狙いを定めた、その時です!
なんということでしょう。子狐から七色の光が消え去って、かわりに噛みつかれた方の工作員が、
ドゥンドゥンドゥン!ドゥンドゥンドゥン!
七色の光と重低音をまとい、ゲーミング工作員になってしまったのです!
「ウソだろぉ!?」
その後の物語の詳細は、いちいち書きません。
子狐は逃げたし、工作員はドゥンドゥンだし、
ゲーミング工作員さんは捕まって尋問です。
新しい地図は管理局に没収されたとさ。
「大好き、好きな色、好きな本、好き嫌い、大好き、好きじゃないのに、大好きな君に。
けっこう『好き』が付くお題多いわな」
「好きだ、ようかん」とか「好きだ要求」とか、そういうハナシも書けそうではある。
某所在住物書きは過去投稿分を確認しながら、「よ」で始まる言葉をアレコレ考えた。
ネット検索によれば「だよ」で始まる言葉は無い。「好き。だよ◯◯」は書けないということだ。
「ゴールデンとかハスキーとか、人懐っこい動物のハナシを書くなら、『好きだ要求』書けるか」
そういや以前、「愛言葉」なるお題が来て、「愛してると言え」みたいなネタを、考えたことが。
物書きは思い出す。
そういえばこのアプリ、恋愛系のお題も多い。
――――――
前回投稿分からの続き物。最近最近の都内某所、某不思議な稲荷神社に、人間に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く住んでおります。
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、絶賛修行中。
稲荷のご利益ゆたかなお餅を作って売って、人間の世界を勉強しておるのです。
さて。そんなコンコン子狐、
その日は2番目のお得意様にして、初めての大口顧客、「ここ」ではない別の世界の職場、
「世界線管理局」に、訪問販売の日です。
お餅は1個200円ですが、別の世界への売り込みなので、日本のお金を貰えません。
なので、対価としてキレイなガラス玉、おいしいジャーキー、楽しく10分遊んでもらえる券等々。
物々交換でお餅を売っています。
「こんにちは!こんにちは!」
尻尾をぶんぶん振り倒して、とてとて、ちてちて。
子狐は管理局の、犬耳受付係さんに桜餅を2個、獣人広報部さんにイチゴとあんこのお餅を2個、それから収蔵部のアイコスメにすごく詳しいお得意さんに惣菜お餅とスイーツお餅と以下略、以下略。
「ウカサマのごりやくたっぷり、イナリのキツネのおいしいおもち、いかがですか」
60個くらい用意したお餅のうち50個を、ガッツリ、売り終えました。
「まいど。まいど」
「おいしいよぉ。イチゴ大福、市販のよりおっきいし、あたし、大好きだよぉ」
収蔵部の上客さん、子狐にチップを渡しながら、頭をなでなでしてやりました。
「ミカン餅もなかなか上達したじゃねぇの」
上客の友達さんも、子狐のお餅を食べて上機嫌。
お餅のお代として、ジャーキーをくれました。
残っている「子狐が売り歩いても良い部署」は、法務部たったひとつだけ。
最後の10個を売り切るべく、とってって、ちってって。狐特有の軽い足取りで歩いていきます。
ところでその法務部から、稲荷の狐の本能を刺激する香りがポワポワ、ぽわぽわ。
「んん。おいしそうなにおい」
コンコン子狐は子狐なので、本能を抑えることができません!狐の本能が命じるまま、とたたたた!香りのする部屋に突撃してゆきます。
部屋にはロックがかかっているようですが、
稲荷の狐にロックもセキュリティーも、暗号だって鍵だって、何の意味も持ちません。
尻尾をぶんぶん振り倒して、狐の本能を刺激する香りの発生源を、特定します。
「あれだ!」
それは、宇宙の七色に輝き揺らめく、不思議な不思議な、10個くらいのたこ焼きでした。
「たべたい!たべたいッ!」
あきらかに非現実的で冒涜的、不遜で純粋な不思議たこ焼きでしたが、そのたこ焼きは子狐の魂に、「わたしを食べなさい」と命じておりました。
ああ、ここでダイスですか?
何のスキルで対抗しますか?
「好きだよ」のお題にちなんで、好感度補正?
はい、はい。そういう物語ではありませんね。
失礼しました。
「いただきまーす!!」
がぶがぶがぶ!ちゃむちゃむちゃむ!
コンコン子狐、器に盛られたたこ焼きを、一気に3個4個、胃袋におさめてしまいました!
「おいしい。おいしい」
七色に輝くゲーミングな見た目に反して、たこ焼きの味は至高にして絶品!素晴らしい味と食感。
なにより子狐の本能が、「これを食べなさい」と、「すべて食べなさい」と命じるのです。
「おいしい。おいしい」
きっとこの味、ととさんもかかさんも、好きだよ。
子狐が夢中になってたこ焼きを、がぶがぶがぶ、ちゃむちゃむちゃむ、一心不乱に食しておると、
「あら、ちょっと!どうやって入ったの」
たこ焼きの部屋の主さん、人間くらいの大きさのオネェな宇宙タコが、うにゅうにゅうにゅ!
「まぁー。たこ焼き全部食べちゃって」
部屋のロックを解除して、入ってきて、たこ焼きを食べる子狐に気づいて言いました。
「たこ焼き好きなの?アンタ、もっと食べる?」
「たべる!」
尻尾を高速回転して喜ぶ子狐です。
ところでその子狐、いつの間にか七色に輝いて、ゲーミング子狐が爆誕しておるようですが……?
「桜肉は馬肉、桜桃と書いてさくらんぼ、桜鯛は産卵期を迎えた真鯛、あるいはスズキ目ハタ科の別の魚。警察のエンブレムは桜の代紋。
まぁまぁ、『桜』以外のハナシも書けるわな」
いつぞやは「桜散る」なるお題が来ていた。
某所在住物書きは桜と柚子の台湾茶を飲みながら、過去投稿分をスワイプ、スワイプ。
花と食い物のネタをよく投稿する物書きは、これまで何度か桜を書いてきた。
たとえば桜の塩漬け。たとえば桜吹雪を流れ星に見立てた「流れ星に願いを」のお題。
同じバラ科ではリンゴの花も書いた気がする。
「だいぶ書き尽くした感は、まぁ、まぁ……」
来年は桜肉をネタにするかもしれない。
――――――
ふぁんたじーで非科学的。
たった1回しか花を付けず、その1回きりで枯れてしまう、不思議な不思議な、稲荷神社の桜のおはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。深めで不思議な森の中の、不思議な不思議な稲荷神社に、ソメイヨシノでも八重桜でもない桜が1本、ぼっちで美しく咲いておりまして、
それはシモジモの人間には、「夢見桜」とか、「ぼっち桜」とかいう名前で紹介されておりますが、
実はこの桜、人間には知られていない、この神社に住まう稲荷狐だけが知っている秘密があるのです。
「名付けの桜」です。
「さかない。まださかない」
名付けの桜は樹齢不明。神社に子狐が生まれるたびに、親木であるところの「夢見桜」から、
挿し木して、お世話して、生まれた頭数分、大事にだいじに、育てるのです。
「まだ、まだ、さかないなぁ」
咲かない。まだ咲かない。
稲荷神社に住まう末っ子子狐が、今日も自分の「桜」――葉も花も無い夢見桜の子木を見ながら、
ぴたん、パタン。 ぴたん、パタン。
小ちゃい尻尾を、揺らしています。
しばらくするとコンコン子狐、自分の桜の木のまわりを、くるくるくる、歩いてまわり始めました。
大きな大きな夢見桜の、挿し木された子供の枝は、
「名付けの時」まで、葉っぱも、花も、なんにも出しませんし、なんにも咲かせません。
自分に対応した子狐に「名付けの時」が訪れると、名付けの桜の子木は夏だろうと、冬だろうと、
美しい花を一夜で咲かせ、たった5日で全部散り、
そしてたちまち根本から、枯れてしまうのです。
「名付けの時」とは何でしょう?
それは神社に生まれた子狐が、一生懸命修行して、
稲荷神社の神様から頑張りを認められて、
ご褒美に、「稲荷の御狐」としての名前が、その子狐に与えられる時のこと。
その子狐が御狐として、稲荷の神様に気に入ってもらえたことを告げる、その時のことなのです。
名付けの時を知らせる、名付け桜の子木の寿命は、
その子狐が名前を授かるまでの数年、十数年。
親木の寿命は不明なくらい、大きな大きな桜ですが、その枝はとっても短命で、一度花を咲かすと夢のように、すぐに散って枯れるのです。
だからこそ「夢見桜」。
だからこそ「名付けの桜」なのです。
「さかない。さかない」
くるくるくる、くるくるくる。
末っ子子狐が生まれたときに挿し木された「夢見桜」の枝、「名付けの桜」は、まだ咲きません。
「キツネのなまえ、まだ、もらえない」
くるくるくる、くるくるくる。
名前を貰えない子狐は、善き化け狐、偉大な御狐になるための、長いながい修行の途中。
稲荷のご利益ゆたかなお餅を作って売って、
人間と人間の世界をよくよく勉強して、
狐の秘術を使いこなせるようになったその時こそ、
稲荷神社の神様は末っ子子狐を「御狐」と認めて、
子狐に御狐としての名前を授けるのです。
子狐の名付けの桜が、最初で最後の美しい花を、たった5日だけ咲かすのです。
「どんななまえ、もらえるのかな」
待っていても、回ってみても、桜はちっとも、花を咲かせません。葉っぱも出しません。
退屈になった子狐は、すっかり興味を失って、明日売る分のお餅の仕込みに向かいます。
「たのしみだな。たのしみだなぁ」
子狐の修行は、道なかば。
いつ修行の成果が認められて、「名付けの桜」が開花するかは、今後配信されるお題次第。
しゃーない、しゃーない。