かたいなか

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9/20/2025, 9:30:58 AM

秋らしい気配のことを、せきしゅう、秋色というそうですが、東京はまだまだ天気予報に最高気温30℃以上が続くようです。
近い未来に「秋を浴びに雪国/北国/標高高い県へ行こう」なんてツアーが来るんじゃないかと危惧しておる物書きが、こんなおはなしをご紹介です。
最近最近の都内某所、夜の某私立図書館は、とあるスマホゲームの聖地にして生誕地でありまして、
このたびその私立図書館、ゲームと合同で、ラストアップデートまでのカウントダウンコラボが開催される運びとなりました。

約10年、リリース当初からずっとずっと、
アップデートと調整と、それからコンテンツの追加に整理を続けてきた長寿ゲームは、
コードやソースがごっちゃごちゃ、かつそこそこの容量となっており、メンテナンスもひと苦労。

ゆえに運営元、「世界線管理局広報部広報課 企画・運営班」略して管理局広報課は、
ゲームリリース10周年を節目として、ラストアップデートすなわち更新終了までの予定を告知し、
そして、次回作とも言うべきリニューアルアプリへの引っ越しコード配布キャンペーン開催を決定。
これまでの課金額に応じた質と量の強化素材、ゲーム内通貨、キャラクター確定引換チケットを、
引っ越しキャンペーン参加アカウント限定キャラ複数体込みで、貰えるそうなのです。

ティザーサイトのトップに置かれたホワイトボードには、以下の文言が書かれておりました。

【重要】
ラストアップデートと
次回作引っ越しセット配布のお知らせ

「良かった、よかったぁ、サ終だけどサ終じゃなかったうわぁぁぁん、管理局バンザイ」
「分かった。わかったから。手を動かせ」
「動かしてるぅぅわぁぁぁん」

さて。翌日のカウントダウンコラボイベントまで残り10時間程度の、某私立図書館です。
事情を知った後輩、もという高葉井という微課金(【ごにょごにょ】万までは切り捨て)が、
ゲームへの愛と感謝と欲望でもって、
コラボ用の書籍・刊行物・過去頒布物コーナーを、整備しておったのでした。

「私ッ、一生、ツー様とルー部長についてくぅ」
「はいはい」
「だって先輩、引っ越しだよ、サ終じゃないよ、引っ越しだよ。今までのデータも見れるんだよ」
「はいはい」
「わぁぁん管理局広報課バンザイ」

カンカンカン、とんとんとん。
翌朝から始まるイベントに向けて、私立図書館の大改造が、進む、すすむ。
カンカンカン、とんとんとん。
その日の閉館から翌日の開館まで、大急ぎの大改造が、進む、すすむ。

「お疲れ様です!」
図書館職員たちの大忙しをねぎらって、なにより今回のお題回収がありまして、
「そろそろ少し、休憩にしませんか!」
管理局から高葉井の推しが、職員たちのための夜食たる秋色スイーツを持って堂々登場。

マロンマフィンとマロンケーキと、スイートポテトとさつまいもチップスと……
ともかく、秋色お菓子の大箱詰めです。
栗とサツマイモといえば、東京からはまだまだ遠い、秋の気配、秋の風景、秋の景色。
「秋色」です。

「明日から来月まで、忙しくなるとは思いますが、
私達もカバーに来ますので、宜しくお願いします」
高葉井の推しが言いました。
推しの後ろにはコンコン、おやおや、稲荷子狐がおりまして、稲荷印の風呂敷をくわえておりました。
どうやら中身は狐の好物、柿を使ったスイーツが、小ちゃく複数個、箱詰めされておるようでした。

「お疲れ様です」
高葉井の先輩は、高葉井の推しと会ったことがあったので、秋色スイーツボックスを受け取りました。
「秋物のお菓子ですね。ありがとうございます」
そして、夜間作業を急ピッチで進めている副館長やら高葉井やら、それから他の職員なんかも呼んで、
そして、皆で少しだけ、秋色の休憩をとることに、
一応、したのですが。

「ツー様だぁ……はわぁ……」
推しのサプライズな登場と、ゲームではゼッタイ見られない本物の推しの晩夏夜間コーデを目撃して、
「ありがとう……ありがとう、ございます……」
合掌ののち、急激な推し成分過剰摂取によって、急性尊み中毒を発症。
無事、心が昇天しましたとさ。 おしまい。

9/19/2025, 4:18:38 AM

私、永遠の後輩こと高葉井の、日課になってるソシャゲに、ラストアップデートの予告が来た。
アプリ内では先週から、アプリからしか辿り着けないティザーサイトのリンクが公開されてた。
推しが勤務してる部署っぽい場所で、推しーズが日に日に色々なものを、段ボール箱の中に詰めてって、
そして今朝になって、その部署にひとつだけ残ったホワイトボードに、推しの筆跡でもって

【重要】
ラストアップデートと
■■■■■■■■■■■■のお知らせ

って書かれてた。

■の部分は分からない。いろんな憶測が出てる。
推しゲーの運営から、ひとまずここに入る文字は「サービス終了」ではないことは明言されてる。
■の1個に1文字入ることも、判明してる。
文字数的に「今後のロードマップ」でもないし、
「課金停止と返金方法」でもなさそうで、
今のところ界隈では、「『有料メモリアル版リリース』のお知らせ」だろうってのが有力候補だ。

■で隠された文字については今日の夜、21時から配信の公式動画で先行公開。
明後日日曜日の午前0時0分ジャストにティザーで正式発表、とのことだった。

皆みんな、界隈は阿鼻叫喚だ。
この約10年で散々更新を重ね続けて、システムとかコードとかがゴッチャゴチャになってるってリークは、2年前から表に出てた。
私も何回も何回も、今朝公開されたラストアップデートの内容を読んで、読んで、読んで、
気がついたら、停留所をひとつ乗り越してた。

私の職場の私立図書館は私の推しゲーの生誕地で、
私の推しゲーの聖地だから、
その日は、十数人の来館者が開館前から並んで、
そして、一部のひとは推しぬいを連れてきてた。

皆みんな、再度言うけど、阿鼻叫喚だ。

「顔色が悪いぞ。高葉井」
推しゲーの聖地であるところの自分の職場の中に入ると、いろんな思い出が頭をよぎって、
気が付けば先輩が心配そうに、私の顔を見てた。
「世界が終わるような顔をしてる。
苦しいなら、副館長に相談してみたらどうだ」

世界が終わるような顔。
世界が、終わるような顔。
そりゃそうだと思う。
もしも世界が終わるなら、
私はきっと、今みたいな顔をしてるんだと思う。

事実、ホントに私の推しゲーの世界が、もしかしたら近い未来、終わっちゃうかもしれないのだ。

約10年くらい続いたゲームだった。
良心的で、ガチャはよく引けるし、
ピンポイントでピックアップキャラを選択指名できるチケットも、マンスリーパスで数枚貰えた。
他のゲームより凸の条件は緩くて、ミニゲーム豊富で、新規コスも新規ボイスも多かった。
それが、ラストアップデートを迎えるんだ。

最後の告知が配信されるまでの数時間を、
この感情を抱えたまんま、
私は自分の推しゲーの聖地で、生誕の地で、
仕事しながら、過ごすことになった。

そりゃ、「もしも世界が終わるならこんな顔になるだろう」って顔にもなると思う。

「はーい、おはようございます」
朝礼が始まって、オネェな副館長が職員室に入ってきて、席に、つく前に念入りに周囲を確認してた。
ホントに職員以外誰も居ないでしょうね、と。
「もう知ってる人も多いと思うけど、アタシたちの図書館が聖地になってる例のゲーム、ラストアップデートの告知が入ったわ。
当館でも明日から、コラボイベントを始めるから、
閉館後21時から手伝える人、残ってちょうだい」

アナタどうする?
私が推しゲーやってるのを知ってて、副館長が私の方をチラッと見てきた。
21時といったら、公式が動画を出す時間だ。
パスします——私は副館長に、小さく首を振った。

「酷い顔ね高葉井ちゃん。世界が終わるみたいな形相になってるわよ」
「藤森先輩にも言われました」
「コラボ準備、本当に手伝わない?」
「予定があるのでちょっとパスです」

「公式より先に引っ越しセット配布するわよ」
「すいません待ってください何ですかその引っ越しセットってどういうことですか」
「うふふふふ」

気が変わったらいつでも言いなさぁい。
オネェ副館長はニッコリ笑って、朝礼を進めた。
私は副館長が言った「引っ越しセット」っていうのが分からなくて、混乱してて、
もう「もしも世界が終わるならこういう顔」っていう顔じゃなくて、「もしも謎解き世界に迷い込んだらこういう顔」って顔になってた。
副館長は、まだニヨニヨしてる。
悲しめば良いのか、喜べば良いのか、悩めば良いのか、私はその日のお昼休憩まで、混乱してた。

急展開はそのお昼休憩に起こったけど、
まぁまぁ、以下略、以下略。

9/18/2025, 3:00:37 AM

前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某深めな森の中にある不思議な不思議な稲荷神社に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は、ちょうどお母さん狐から、おつかいを頼まれ、それを成し遂げたところ。

途中、「うぃんうぃんさん」なる掃除ロボットと空気清浄機が合体した妙な機械と遭遇しまして、
こいつを子狐、友達と思っておりましたので、
一緒に、おつかいの品物を運んで、神社の自宅兼宿坊まで、帰ってきたのでありました。

コンコン狐は夜行性。
真夜中に出発したおつかいは、ゆっくり進んでじっくり時間が経って、夜明けの頃に終わりました。

「あら。お友だちを連れてきたのですか?」
子狐を愛情深く、丁寧に撫でながら、うぃんうぃんさんの汚れ具合を見て、お母さん狐が言いました。
「ととさんに、キレイに拭いてもらいましょう。
かかさんはこれから、美味しい美味しいローストポークを仕込むから、ちょっと遊んでらっしゃい」

はい、かかさん!
またあとでね、うぃんうぃんさん!
コンコン子狐、尻尾をビタビタぶん回して上機嫌。
友達マシンがお父さん狐に連れられてゆくのを見送って、お外へ飛び出してゆきました。

子狐には、人間のお得意様がおります。
藤森という名前で、真面目な雪国出身者。
稲荷狐の修行で作ったお餅を買ってくれる人です。
「おとくいさん、おとくいさん」
コンコン子狐、藤森のアパートに直行して、
(セキュリティもロックもどうやって通過したか知りませんが、ともかく狐の不思議なチカラで)
藤森の部屋に、堂々出現。
「おとくいさん?」

おやおや?偶然ながら藤森も、子狐のお母さんと同じように、ローストポークを作り始めています!
「おとくいさん!」
コンコン子狐、尻尾をピンと立てました。
上機嫌なのです。興味があるのです。
「キツネ、てつだう!」
お母さん狐が仕込んでいるであろう料理を、コンコン子狐も擬似的に、作ってみたくなったのです。

「手伝う?」
もはや、稲荷狐が突然自室に出現したことなど、藤森は気にしませんし、驚きません。
「ああ、私の料理を?」
藤森のキッチンの上は、もう終盤も終盤。
あとはお肉の塊を紐で縛って、じっくりじんわり、適切な熱を1〜2時間、通すだけです。

ということで、お題回収に参りましょう。
「よし、それじゃあ子狐、紐を持ってきてくれ」

藤森は既に、必要な長さの料理用タコ糸を、キッチンの上に用意していました。
だけどせっかく子狐が、料理を手伝いたいと言っておるので、新しく糸を切ってキュッキュ、
肉を縛る作業を、一緒にやろうと思ったのでした。

ところで今回のお題は「靴紐」です。

「ひも、ひも!」
コンコン子狐、キッチンから離れて、ばびゅん!
なにやらガタンガタンと音を出して、キャッキャ!
楽しそうな声がしたと思ったら、
「ひも!」

そうです。藤森の靴でひとしきり遊んで、
そして、靴紐を持ってきたのです。
藤森、これにツボってしまいました。
「紐ッ……そうだな、たしかに、『紐』だな。
違うんだ、肉を縛るための紐を持ってきてくれ」

「ひも!」
コンコン子狐、キッチンから離れて、ばびゅん!
またまたガタンガタンと音を出して、キャッキャ!
どこかで遊んでいる声がしたと思ったら、
「ながいひも!」

そうです。藤森の靴の紐をもう1本取ってきて、
そして、2本の靴紐を結び、長くしたのです。
藤森、これにもう轟沈してしまいました。
「そうだな、たしかに、……くぅッ!」
藤森は笑いのツボの中に、落ちてしまいました。
「ありがとう、子狐、その靴紐で遊んでおいで」

「ちがうやい!キツネも、てつだうの」
「もう十分、手伝ってもらったよ。
おかげで今日は、楽しく仕事に行けそうだ」
「おしごと!」
「だから、その靴紐で、遊んでおいで」

何故だ、何故ただの、長くした靴紐程度で。
藤森は妙にツボってしまって、おなかを時々押さえながら頑張って、お肉を料理用の紐で縛りました。

「えいっ、えい!」
子狐はとりあえず、藤森が幸福そうなので、
言われたとおり靴紐で遊んで、暴れて、くるくる回って長い靴紐に絡まって、
いつの間にか、狐団子になってしまって、

「おとくいさん!おとくいさん、たすけて!」
「どうしたこぎつっッ、こぎつね……!!」

そして最後に、藤森の腹筋を崩壊せしめたとさ。
おしまい、おしまい。

9/17/2025, 7:35:27 AM

前回投稿分に繋がるかもしれないおはなし。
最近最近の都内某所、某深い深い杉林の奥に、
「世界多様性機構」の「領事館」という厨二ふぁんたじー組織の建物がありまして、
これがまさかの、「ここ」ではない別の世界からやって来た組織でありました。

多様性機構の目的は、先進世界の技術を発展途上世界に導入して、発展を手助けすること。
そして、滅亡した世界の生存者を発展途上世界に避難させて、新しい生涯のスタートを支援すること。
領事館は、機構が設置する支援拠点でした。

ところでこの領事館の館長、可哀想なことに、日本に来てから重度も重度のスギ花粉症を発症。
この世界のお掃除ロボットと空気清浄機とを別世界の技術でもって合体させて、自動で動いて空気をキレイにしてくれるロボットを爆誕させました。
その通称を頑張◯ンバといいます。

頑張ル◯バは機械ですから、心がありません。
だけど頑張ルン◯"は妙なことに、
チョウチョを視認すれば追跡するし、
子狐を視認すれば上に乗るまで停止します。
領事館の扉が開いていれば、勝手に外に出ていってしまうことだって、あるのです。

うぃんうぃん、うぃんうぃん。
その日の夜の頑張◯ンバは、頭の上にコンコン、稲荷神社に住まう子狐を乗せておりました。
うぃんうぃん、うぃんうぃん。
その日の夜の頑張ル◯バは、稲荷子狐と一緒に1台1匹で、人の少ない道路を移動しておりました。

「うぃんうぃんさん、まだだよ、まだだよ」
稲荷子狐はお母さん狐にお願いされて、喫茶店の魔女の店主さんから、月のハーブティーを15パック入り1箱でどっさり、仕入れてきたのでした。
「うぃんうぃんさん、おうち着いたら、いっしょにおあげさん食べようね」

子狐が大きな大きなキャリーケースを、ガラガラガラ、引きずっておると、うぃんうぃんうぃん。
領事館から脱走してきた頑張ルン◯"が、何をどうやってそこまで来たのか、
ともかく、子狐の前に来て、そして、一旦停止。
牽引用に付けてもらっておったらしい背面のフックにキャリーを固定して、子狐を頭の上に乗せて、
そして、再発進したのでした。

コンコン子狐はすぐ分かりました。
頑張◯ンバは子狐が、重いキャリーケースに苦戦しておったのを検知して、助けようとしてくれているに違いないのでした。

「まだだよ、まだだよ」
稲荷神社までの道案内をしながら、子狐は頑張ル◯バの汚れを、少し拭いてやりました。
「キツネのおうち、まだだよ、まだだよ」

頑張ルン◯"は元々、屋内用の掃除ロボットであり、屋内用の空気清浄機です。それらの合体物です。
都会のアスファルトの上を走行して、土とホコリでだいぶ汚れてしまったので、
子狐は稲荷神社に到着したら、頑張◯ンバをよくよく拭いて、キレイにしてやろうと思いました。

さてさて、稲荷神社までは、もう少しでしょうか?
「まだだよ。まだ、まだだよ」
魔女の喫茶店から、ずいぶん遠くまで来ました。
稲荷神社はもうすぐでしょうか?
「まだだよ。答えは、まだだよ」

まだ、まだ。 まだ、まだ。
しれっとお題を回収して、うぃんうぃんうぃん。
頑張ル◯バと稲荷子狐は、稲荷神社まで1台と1匹、ゆっくり穏やかにキャリーケースを牽引して、車椅子用のスロープ階段をゆっくり伝って、
そして、子狐のお母さんとお父さんと、おじいちゃんとおばあちゃんが待つ自宅件宿坊まで、移動していったとさ。

9/16/2025, 8:41:56 AM

海外小説の題名、邦楽の曲名、洋楽の曲名等々、
ネット検索してみるに、どうやら色々な「センチメンタル・ジャーニー」が存在するようです。
今回は普通に、センチメンタルな境遇のハムスターが、都内某所の深夜のおでん屋台まで、
とことこ、ジャーニーしてくるおはなしをご紹介。

「うぅ、まったく、酷い目に遭った」
とととと、とててて。
言葉を離す、なんなら別の世界で労働もしている、不思議なオスのハムスターが、
とっぷり暗くなった真夜中に、人通りの少ない路地をせわしなく歩いておりまして、
ビジネスネームを、カナリアといいました。
「なんで僕ばっかりこんな目に……」

とっとこカナリア、どうやら最近自分の職場で、というのも某管理局の法務部なのですが、
ぽぉん!2回以上、立て続けに高速で打ち上げられてしまうトラブルに遭っておりまして。
そうです。前回投稿分と、前々回投稿分です。
都内で1回、自分の職場で1回。
とっとこカナリア、打ち上げられたのです。
「酷いやい。ひどいやい……」

もとより、体の小さなカナリアです。
前々回投稿分では強いつよい風に吹かれて、
前回投稿文では何がどうなったやら。
ぽぉん!射出も同然に打ち上げられて、帰ってきたら別の場所でまた打ち上げられて。
その日のカナリア、本当に運が悪かったのでした。

「もう、今日は、飲もう。この近くに、深夜だけ開いてる、人外向けのおでん屋台があったハズだ」

飲もう。飲んで気分を少しでも上げよう。
ここ最近運が悪い気がするとっとこカナリア、センチメンタルなジャーニーです。
枝豆といくつかのチーズも貰おう。
ここ最近理不尽に遭ってる気がするとっとこカナリア、おでん屋台に向けてジャーニーです。

「店主さん、こんばんは——」
やがて、人間に化けた大古蛇のおやっさんの、おでん屋台が見えてきましたので、
カナリアは椅子をよじ登り、カウンターにもよじ登り、支払いリングを見せまして、
「——あれ?敵対組織の領事館の館長さん?」
隣の席を見ますと、わお、びっくりしたのでした。

カナリアの職場をドチャクソに敵視しておるところの人間の男性が、突っ伏して、寝ておるのです。

「領事館って職場から、歩いてきたそうだよ」
小ちゃなコップにお酒を入れて、店主が言います。
「なんでも、東京に来てから重度のスギ花粉症で、
その花粉症を軽減するために移動式の空気清浄機ロボットを作ったらしいけれど、
そのロボットが黒いアゲハチョウを追いかけてどこかに行っちゃったらしくて」

ロボットを探して、ジャーニーしてきたらしいよ。
センチメンタルなお客さんの背中を見ながら、
店主さん、ぽつりと続けたのでした。

「はぁ。空気清浄機が」
「目を離したスキに出てったらしいよ」
「空気清浄機が?」
「そう。空気清浄機が」
「じゃあ僕のハナシも聞いておくれよ。
僕なんか、すごい理不尽を被ったんだ」

あのね、まず喫茶店に行ったんだけどね。
おでん屋台で燻製チーズと、枝豆とお酒を堪能しながら、とっとこカナリア言いました。
こうなって、ああなって、この屋台に歩いてきたのだと、センチメンタル・ジャーニーを語りました。
だって2回も、ぽぉん!空を飛んだのです。
酷いったらないのです。

「労災って降りるのかな」
「さぁ?お客さんのボスに聞いてみたらどうだい」
「僕のボス、タコだもんなぁ……」

「お水飲む?」
「酔ってないよ。ホントにタコなんだ」
「お水にしておくよ」
「ホントだよ。信じておくれよ……」

ちゅーちゅー、ちゅーちゅー。
とっとこカナリアは抗議をしながら、しかしチーズが美味いので、お酒が進む、進む。
「はぁ……」
自然と出てくるため息は、最近のカナリアの苦労を、表しておったとか別に何でもないとか。

ちびちびコップに舌をつけるカナリアの背後を、
うぃんうぃん、何かが通っていったとさ。
おしまい、おしまい。

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