前回投稿分からの続き物。
異世界に拠点を持つ巨大組織の、「世界多様性機構」がこっそり主催して、企画展を開催しました。
開催地は都内某所。某レンタルイベントスペース。
名前は、「AIで描く空想花展」。
「これはAIで出力されました」とウソをついて、
実はそれらは、既に滅んだ世界の思い出、既に存在しない故郷の存在証明。
多様性機構が東京に、「密航」の形でもって避難させてきた異世界の難民たちが、自分たちの世界の形見として持っておった写真データ。
異世界を知らぬ都民は、その多くが、「最近のAIってスゴイね」と、空想に思いを馳せるでしょう。
それこそ夢見る少女のように。
ところでこの企画展、実は裏の顔がありまして。
というのも世界多様性機構、活動理念が
「すべて発展途上の世界に先進世界の技術を」、
「すべての滅亡世界の難民に新しい故郷を」、
つまり、あっちの世界で活動したり、こっちの世界で救助したりと、アレコレ忙しくしておるので、
要するに、活動資金が常時カッッツカツなのです!
多様性機構は、カネが無い!!
そこで多様性機構、AI画像展の名目でイベントを開いて、各額縁の下のキャプションの、隣にいわゆる2次元コードに似たものを設置。
現地住民たる東京都民、日本人、外国籍の観光客、ともかくあらゆるスマホ持ちに、それを読み取らせようと画策したのでした。
で、 その妙な2次元コードの役割は?
前回投稿分では突然数秒停電が発生して、
その数秒の間に、全部のコードが行方不明に。
「世界多様性機構」の活動を監視・取り締まりしている別組織、「世界線管理局」が接収したのです。
――「どうですか、部長。コードの解析は」
機構が読み取らせようとした2次元コードです。
世界線管理局の法務部執行課、ビジネスネーム「ツバメ」という若者が、
全部ぜんぶ取ってきて、管理局にお持ち帰り。
「まさか連中、現地住民の財産を盗もうなど、」
財産を盗もうなど、していませんよね?
ツバメはコーヒー片手、自分の上司に聞きました。
「直近2年、スマホを使った決済の取り引き履歴を吸って、機構に送信する予定だったらしい」
「もう解析完了していたのですか?連中、我々に解析されるのなんて、見越しているハズでしょう?」
「解析はシジュウカラに回した」
「シジュウカラさん?!彼女は長期休暇でしょう!
法務に帰ってきたのですか!どうして!?」
「『充電完了』だとさ」
「ああ、ああ……帰ってくる、
あのひとが、 あのひとが、 帰って くる」
「しっかりしろツバメ」
あわあわ、ああわあ。 なにやら頭を抱えて天井見上げて、法務のツバメ、完全に動揺しています。
気にしません。おはなしを進めましょう。
要するに「AIで描く空想花展」の主催者は、都民のスマホに潜り込んで、
どこのお店の何がイチバン安いか、コスパが良いか、そんなデータを根こそぎ収集したかった様子。
多様性機構は、カネが無い!
とはいえお金を吸い上げては盗っ人になってしまうので、データだけ貰っていく予定だったのです。
「オカルト系のサイトやスピリチュアル動画なんかの閲覧履歴も、収集しようとしていたらしいな」
「はぁ、 そうですか へえ たいへんですね」
「どうせ異世界の存在を信じそうな金持ち都民を探して、接触して、寄付を頼もうとしたんだろうさ」
「そうなんですね はい たいへんですね」
「いずれにせよ、2次元コードの回収、ご苦労」
「はい、 がんばりました たいへんですね」
「ツバメ。 ツバメ? 無事か?大丈夫か?」
「だいじょうぶです」
「おっ、あそこにシジュウカラ」
「ふゎああああああッッ!!!!!
ッ部長!! からかわないでください!!」
「いや、あのな、事実として、そこに」
「おわぁああああああああ!!??
っっッ部長!!!!」
もう!私で!遊ばないでください!!
何やらギャーギャー叫ぶツバメです。
多様性機構が企画展をしていたレンタルスペースの電源を強制的に落として、
数秒の間に異世界の道具でもって怪しい2次元コードを全部ぜんぶ回収してきて、
それらをすぐ、管理局に持ってきたツバメです。
疲れておるのです。ヘトヘトなのです。
なので、自分でイジってほしくないのです。
でもツバメ、気付いていないのです。
上司の部長の言葉は、真実だったのです。
確かにツバメが恐れている「シジュウカラ」は、ツバメの近くでフワリふわり、しておったのです。
夢見る少女のように、まさしく、そのように……
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。お題回収役その1は、名前を藤森と言いまして、花咲き風吹く雪国の出身。
近所の稲荷神社は深い森の中で、いつか昔の東京を残すように、日本在来の美しい花がとても多く残っておりますので、
たとえば早春のフクジュソウ、あるいは初夏のアヤメやカキツバタなんかのシーズンには、
お参りがてら、お稲荷様を讃え飾る季節の花々を、パチパチ、スマホで撮っては愛でるのでした。
ところでそんな藤森、最近気候変動等で、美しい花々が段々日本から姿を減らしてゆくのを、とても寂しく思っておりまして。
花の保護、種の保存、生育環境の整備改善方法を、
なんと、異世界の技術に求めました。
というのも藤森の知人に「世界多様性機構」なる異世界から来た組織の女性がおりまして。
(このおはなしは こんな系のフィクションです)
多様性機構なる厨二ふぁんたじー組織のその女性は、お題回収その2。ビジネスネームを「アテビ」といい、機構のひよっこ新人さんでした。
さて。 藤森がその日も稲荷神社の森で、最高30℃の真夏日から逃げておると、
藤森がそこに居ると予想しておったアテビが、3枚のチケットを持って、明るく走ってきました。
「藤森さん、藤森さん!」
アテビが持っておったのは、その日の静かなアートイベントの入館チケットでした。
「一緒に行きませんか、藤森さんと、藤森さんの後輩さんもさそって、ぜひ!」
「『AIで描くリアルな空想花展』?」
チケットを受け取った藤森、最初はそれを、アテビに優しく丁寧に、返そうとしておりました。
「申し出は嬉しいが、私は芸術にうといんだ」
「大丈夫ですよ、藤森さん!これ、『AIで描いた』っていうのはウソで、本当は写真展なんです」
「しゃしんてん??」
「本当は、世界多様性機構が企画した、東京在住の異世界人さんの故郷の花を集めた写真展なんです」
「異世界人の故郷の花……」
「最近、この世界もリアルな動画や画像を生成できるようになってきたでしょう?」
他の世界の、本物の花か。 そう言われるとチケットを返すわけにもいかない藤森。
アテビは企画展のからくりを、藤森に説明します。
「だから、『これは自動生成の空想です』ということにして、AIを隠れ蓑に、異世界の花を集めて異世界人同士の交流会を、こっそり、やろうと」
アテビいわく、東京には複数の、異世界人がこっそり隠れて、住んでおるそうです。
彼等は滅んだ世界から逃げてきた難民。
彼等は故郷が亡くなってしまった異世界人。
世界多様性機構は「密航」のカタチで彼等を「こっち」の世界に連れてきて、東京に新しい家、新しい生活基盤を、提供しておるのでした。
なお、もちろんギリギリどころか結構違法です。
(違法渡航・定住、ダメ絶対 by 世界線管理局)
「異世界の花か」
ぽんぽんぽん。後輩に一応、お誘いのメッセージを打って、送って、スマホをしまって。
「今日これから、もう、行くのか?」
ソッコーで「ノ∀`) ムリポ」が来たので、藤森、後輩のことは放っておくことに。
「後輩さんが無理なら、ぜひ、もう行きましょう」
藤森が異世界の花に興味を示してくれたので、アテビはもう大感激!さっそく案内します。
さあ行こう、さあ行こう。
隠れ蓑の下に集まった、滅亡世界の花の写真展。
藤森とアテビがレンタルイベントスペースに設置された「空想花展」の会場に到着しますと、
見た目は普通の人間にしか見えない異世界人も、
普通に日本で生まれた日本人も、
なんなら観光に来ていた外国人も、
当日券を購入して、「AIが出力した異世界の花」という名目の写真を、楽しんでおりました。
「ん?」
ところで、飾られた額縁の下、キャプションの隣に、スマホで読み取れそうな二次元コードが。
「これは?」
藤森がスマホを取り出して、コードを読み取ろうとカメラを起動した、その、直後でした。
バン!
大きな音が鳴って、数秒の間だけレンタルイベントスペースは、停電の完全真っ暗!
数秒の停電だったので、照明はすぐ元に戻ったのですが、おや、二次元コードが有りません。
「んん???」
結局のところ、コードは何だったのでしょう?
数秒で回復した停電は、何だったのでしょう?
さあ行こう、さあ行こう。
多分次回のおはなしで、裏側が判明、
多分、多分。 すると、思います(予防線)
前回投稿分の、その先に続くおはなし。
「ここ」ではない別の世界に、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこは、たとえば世界間の渡航用一般航路を開通したり規制したり、あるいは閉鎖したり、
侵略されそうな世界を守ったり、逆に侵略しそうな世界を監視したり、
滅んだ世界からこぼれ落ちたチートアイテムが、他の世界に悪さをしないように収集・保管したり。
要するに、世界のために、色々やっておりました。
今回のお題を回収できるチートアイテム、「空繋ぎの水たまり」も、管理局の収蔵品。
元々はドチャクソにデカい水たまりであったのが、
水たまりを保有していた世界がその水たまりのせいで隣の世界も巻き込んで滅んでしまいまして、
結果、ちょっとだけ残った文字通りの「みずたまり」だけが、残って管理局に収蔵されました。
小ちゃい分には、何も、悪さをしないのです。
ただ独自の魔導プログラムによって設定された別の世界、設定された座標の空と、
水たまりを、繋ぐだけなのです。
水たまりに映る空は水たまりの上の鏡像ではなく、
すなわち、「空繋ぎの水たまり」と繋がった、別の世界、別の座標、別の空。
何が困るって、ただの水たまりだと思って「空繋ぎの水たまり」を踏んづけると、
スポン! 繋がっている空に落っこちるのです。
あら大変。 まぁ大惨事。
で、ここからがお題回収と前回投稿分への接続。
そうです。世界線管理局の1名、やらかします。
妙な理由でこの「空繋ぎの水たまり」、管理局内の難民シェルターに落っこちておりまして。
「久しぶりの晴れ間だ」
難民シェルターというのは、故郷の世界が滅んでしまった異世界人を、住まわせるための空間。
規格外の大きさに、空も太陽も雨も季節も、全部、ぜーんぶ、あるのです。
「なにも日本と同じ時期に、シェルター側の季節まで雨季に設定しなくてもさ……」
今回「空繋ぎの水たまり」にドボンするのは、
「こっち」の世界の東京、奥多摩出身、ひょんなことから管理局に入局した通称「奥多摩君」。
ちゃんとビジネスネームも貸与されていますが、
皆みんな、「奥多摩君」と呼んでおるのです。
その日、奥多摩君は難民シェルターの、美しい本物の植物園の中で、気分転換に散歩中。
シェルター世界は人工ですが、そこに植えられている植物、生きている動物、悪さをしている宇宙蚊や雷々虫は、命ある本物なのです。
「おっ。水たまり」
いつもなら家族連れや散歩中の宇宙タコ、花を愛でたい花の妖精竜人なんかがチラホラおる植物園。
今日は諸事情で、奥多摩君の貸し切りです。
「懐かしいな。ガキの頃、飛び越えたり、わざと水たまりに入ったりしてた」
その諸事情こそ「空繋ぎの水たまり」。
『敵対組織によるテロ行為により、収蔵品「空繋ぎの水たまり」が落ちています。
ただちに退園し、避難してください。』
奥多摩君にはお題を回収してもらいますので、
緊急放送を「偶然」シャットアウトしましょう。
「キレイだよなぁ」
植物園で「空繋ぎの水たまり」を見下ろしておった奥多摩君が、言いました。
水たまりに映る空は、別の世界、別の空。
難民シェルターの空ではありません。
奥多摩君はそれに気付かない!
「おりゃ」
そのまま、ジャンプして、水しぶきを散らそうと水たまりに、着地
「おお!?おわぁぁぁ?!?!?」
できない! だって、水たまりは「空」に繋がっておるのですから!
「ちょ!え!?深いぞ!なんだこの水たまり!」
その水たまりが「空繋ぎの水たまり」です。
その水たまりが、お題回収なのです。
「あれぇ。奥多摩君だぁ」
水たまりが繋がった先は、ちょうど、前回投稿分の舞台であるところの都内某所、某アパート。
「なにしてるのぉ?奥多摩君の分のきりたんぽ、もう、無いから食べられないよぉ?」
アパートのベランダに落っこちた奥多摩君を見ておったのは、以前同じ部署に居た、ビジネスネーム「ドワーフホト」のお嬢さん。
「くぅぅ、背中、うった……!」
何がなんだか分からない奥多摩君は、ひとまず奇跡的に同僚に発見されましたので、
その同僚のおかげで、職場に帰ることができましたとさ。 おしまい、おしまい。
前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某深めの森の中に、本物の稲荷狐の家族が住まう稲荷神社がありまして、
遊び盛りの子狐は、食いしん坊でもありました。
特に子狐、ご近所のアパートに住む雪国出身者の藤森が作ってくれる料理が、
お母さん狐とおばあちゃん狐が作ってくれる料理の次の次くらいに大好き!
前回投稿分でも、どっさりの親鶏もも肉を買って、藤森に絵本の中の料理を作ってもらいました。
きりたんぽ鍋というそうです。
五穀のひとつ、お米を使った郷土料理なので、
子狐、ぜひ食ってみたかったのです。
だってお稲荷様は五穀の神様でもありますから。
で、そこからどのように「恋か愛か」に繋がるかと申しますと、子狐、食いしん坊仲間がおるのです。
「おいしい。おいしい」
それは雨が降って、とても涼しい夜でした。
「きりたんぽ、おいしい」
子狐は藤森に作ってもらった、400g以上の鶏肉と200g+αのきりたんぽと、200g超のお野菜と200gの無縁お蕎麦(予定)が入った(あるいは入る予定)の、
きりたんぽ鍋を幸福に、あむあむ、ちゃむちゃむ!
胃袋に収めておりましたが、
「おねーちゃん、おねーちゃん!」
突如、これを1匹だけで食べるのはもったいないと本能的に思い至りまして、
「おけしょーの、おねーちゃんも、よぶ!」
食いしん坊仲間たる「お化粧のお姉ちゃん」をも、この藤森のアパートに呼ぶことに、したのでした。
「おねーちゃん、おねーちゃん!」
コンコン子狐、稲荷狐の不思議なチカラで、かわいらしい折り紙の狐を、びゅーん!
食いしん坊仲間のお姉ちゃんに、飛ばしました。
「いっしょに、きりたんぽ、たべる!」
ここからようやく、お題回収。
折り紙子狐の稲荷お手紙を受け取った「お化粧のお姉ちゃん」は、異世界の出身で、ビジネスネームを「ドワーフホト」といいました。
「うぅぅ〜。これは……悩むぅ」
子狐からお手紙を受け取ったドワーフホトです。
ぜひ子狐へのお土産に、もちろん料理を作ってくれた藤森のためにも、あと自分も食べたいので、
東京の某洋菓子店で開催中、ジューンブライドフェアのお菓子、2択のうちの1種類を、
是非、ぜひ、持ってゆきたいのです。
ひとつは、「恋するスフレ」。
初恋をイメージしたイチゴジャムが生地に練り込まれていて、キレイなピンク色をしています。
もうひとつは、「愛するフロマージュ」。
愛情をイメージしたカスタードも一緒に使われていて、優しい口当たりをしています。
恋か、愛か、それとも。
ちなみに隠しメニューとして「本能のマカロン」なんてのもあるとのウワサ。真偽は知りません。
「どっちにしよう、どっちを持っていこう。
ううー、 どっち、どっちぃ……」
恋か、愛か、それとも。
早く行かないと、子狐がきりたんぽを、全部先に食べてしまうかもしれません!
「んん〜〜〜、んー、決ぃめたー!」
ストロベリースフレと、カスタードフロマージュ。
ドワーフホトは悩んでなやんで、
最終的に、どっちもお土産に買っていって、
どっちも一緒に、子狐や藤森と、楽しむことにしましたとさ。 おしまい。
最近最近、都内某所のおはなし。
生活費(主に食費)の節約術の結果として、低糖質低塩分食に行き当たった雪国出身者の、名前を藤森と言いまして、今回のお題回収役。
要するに、たくさん品数を作るから、
個々の味付けで塩分と糖分と出費が重なるのです。
ひとつの料理に味付けも食材も集約すれば、
塩分も糖分も、食材費も少なく済むのです。
結果として、低糖質低塩分、食費節約。
藤森はこの方針で、■■年の東京を生きています。
ところでそんな藤森のアパートは、まぁまぁ、フィクションふぁんたじーな物語ゆえの醍醐味で、
近所の稲荷子狐から異世界組織の職員、
それからガチャのために生活費を節約したいシェアディナー&シェアランチ希望の後輩まで、
チラホラ、何度かご来店……もといご訪問。
今回のお話はそんな彼等に食材調達を頼む藤森のおはなしを、ひとつご紹介しましょう。
雨で涼しかったある夜、藤森のアパートに、
善き化け狐、偉大な御狐となるべく絶賛修行中の、餅売り稲荷子狐が、コンコン、遊びに来ました。
藤森は餅売り子狐の、いわばお得意様でした。
「おとくいさん!おとくいさん!」
コンコン子狐、大好きな絵本を示して言いました。
「このえほんの、コレ、つくって!」
そして子狐、代金のつもりの500円を、かわいいお手々で藤森に差し出しました。
「このごちそう、おとくいさん、つくって!」
どうやらおなかがペッコペコの様子。
子狐が所望したのは、きりたんぽ鍋でした。
「おねがい、おねがい、ごちそう、つくって!」
今の時期、鍋料理の素なんて、あるかしら……?
「鶏肉と、糸こんにゃくを買ってきてくれ」
さぁさぁ、お題回収。 1人用炊飯器の中身を冷ましながら、藤森、子狐にお願いしました。
「きりたんぽと、スープは私が準備しておく。
良いかい。若鶏のお肉と、糸こんにゃくだ。しらたきでも良い。それを買ってきてくれ」
「わかった!」
「約束だよ。やわらかい、若鶏だ。それから糸こんにゃく、あるいは、しらたきだ」
「わかどりと、いとこん!キツネ、おぼえた!」
「何度も言うようだが、親鶏ではないし、角こんでもない。 頼んだぞ。約束だよ」
「おぼえた、おぼえた!いってきます!」
くぅくくく、くわぅ!くわぁ!
さっそく稲荷子狐は、狐耳も狐尻尾もしっかり隠して、人間の子供に化けまして、
藤森のアパートの近くの地域密着型スーパーへ。
「おにく、こんにゃく、おにく、こんにゃく、」
馴染みの店員さんから小ちゃい買い物カゴをもらって、精肉コーナーへ向かいます。
「おにく!とりにく!わかどりにく!」
まずは鶏肉をゲットしましょう。子狐が鶏肉のスペースを見ると、なんと半額お肉が残っています!
半額鶏肉お肉には、こうラベルされていました。
『奉仕品 国産 親鶏もも 切り身 425g』
「もも、り、サンキュッパ、G?」
子狐はまだ子供なので、「親鶏」が読めない!
そもそも「親」が「おや」と分からない!
「やすい、やすい、それに、いっぱい……!
おにく、たっぷり、はんがく、おにく!」
やった、やった!コンコン子狐は大喜び!
約400gの親鶏もも肉の切り身を確保して、
ぴょーんぴょーん、幸福に帰ってゆきました。
……あれ、糸こんは? しらたきは??
「ただいま、ただいま!おにく、買ってきた!」
「随分、多く、持ってきたな……」
親鶏もも肉のラベルを見た藤森です。
子狐が買ってきたのは、「約束だよ」と言っていたハズの物ではありませんでした。
なんなら糸こん、子狐しっかり忘れていました。
「良いかい子狐。これは、親鶏だ。けっこう、その、歯ごたえが、あるぞ。 それでも良いか?」
まぁ、たしか親鶏の方が、若鶏より良いダシが出るらしいし。固い肉質は鶏団子にすれば良いし。
藤森すぐに修正案を考えました。
「おやどり? これ、おやどり?」
子狐はちょっとだけ、しまった、と思いましたが、
藤森はちっとも怒らなかったし、なにより1人でお買い物できたことを、ちゃんと褒めてくれました。
「鶏団子を作ろう。子狐、手伝ってくれ」
「とりだんご!とりだんご!キツネ、てつだう!」
約束だよと言って送り出した子狐は、約束の若鶏と糸こんを買ってきませんでしたが、
どっさりの親鶏もも肉のおかげで、良いダシの良いきりたんぽ鍋が、幸福に、完成しましたとさ。
おしまい、おしまい。