「今回のお題が『ふとした瞬間』で、前回のお題が『どれだけ離れていようと』って、
あの歌しか思いつかねぇんだが?」
そういえば「踊りませんか」なんてお題もあった。
某所在住物書きは30年以上前の某名曲を、音楽ライブラリから引っ張り出して、スマホで鳴らしてため息をひとつ――30年である。歳もとる。
「まさしくコレだろうね。『ふとした瞬間』に自分の年齢を再認識する、っていう」
某二次創作を始めたのも■■年前、それを掲載していた個人サイトの提供元たる森頁が閉鎖したのだって早くも■年前。
時間、時間、時間。時の流れは早いものである。
この連休とて、「ふとした瞬間」に、早々と流れて終わることだろう。
――――――
前々々回、3日前投稿分の続き物。
最近最近の都内某所、某「本物の魔女」が店主をしているという喫茶店は、その日、臨時休業。
店内には椅子に両手を縛り付けられ、申し訳程度の拘束を受けている女性と、
その女性を心配そうに見る雪国出身者、
それからその雪の人と相対して、席につき、タバコに火を付けようとして店主の老女とその使い魔猫に、ギラリ睨まれている男性。
ハムスターが1匹カラカラと、ネズミ車式の不思議な珈琲焙煎器を回している。気にしてはならない。
「その女が所属してる『世界多様性機構』は、」
渋々タバコをしまう男性は、「条志」と名乗った。
「『この世界』にせよ別の世界にせよ、途上世界を先進世界の技術で開発して、滅んだ世界の難民を密航させる。強引な違法行為で有名な組織だ」
条志が本名か偽名か、雪の人にはもはや分からぬ。
というのもこの条志、まさかの前々回投稿分に登場して建物の両開きドアを吹っ飛ばしたドラゴン。
当時は「ルリビタキ」と名乗っていた。
「世界多様性機構が東京を滅亡世界の難民用シェルターにするため、支援拠点を建てた。
この世界を異世界の技術で勝手に開発するのは違法だ。それで、俺達が調査をしていたんだが」
世界多様性機構に、ドラゴン、滅亡世界と難民。
完全にフィクションファンタジーだと雪の人。
どうやら自分はいつの間にか、物語か夢の世界に迷い込んでしまったらしい。
白昼夢か。それとも明晰夢かな。 小さなため息を吐く雪の人は、名前を「藤森」といった。
「ルリビタキに騙されちゃ駄目です、藤森さん!」
柔らかい布でやんわり椅子に縛られている女性は、条志――ルリビタキに反論する。
「その男の正体は、私の両親の世界を壊しかけた、悪いドラゴンです!話を信じちゃダメです!」
やんわりとした拘束なので、その気になって一生懸命もがけば、簡単に抜け出せる。
ふとした瞬間に布が切れることもあるだろう。
それでも律儀に拘束され続けているのは、自分の実力差を理解しているためだ。
今椅子から脱出したところで、すぐ、目の前のドラゴンに制圧されてしまう。
女性は「機会」を待っているのだ。
ところで、条志にせよルリビタキにせよ、
タバコを吸えず渋々した表情をしているこの男が、女性の両親の故郷を滅ぼしかけたとは、
一体全体、どういうことだろう?
詳細は前々回投稿分参照だが、スワイプが面倒なので細かいことを気にしてはいけない。
「『条志』と名乗ったそのドラゴンは、」
女性が言った。
「私の両親が子供の頃、両親が住んでいた世界の、インフラもエネルギー網も、食べ物の生産プラントも、全部ぜんぶ、壊し尽くしたんです」
ルリビタキは一切反論しない。
ただタバコをしまったケースを、ぼんやり見て、女性の主張をそれとなく聞いている。
「このドラゴンが壊した世界から、私の両親は世界多様性機構に助けてもらいました。
彼はきっと、藤森さん、あなたの世界も同じように、炎と光で壊すつもりです!」
「このドラゴン」が東京を壊す?
今年の3月から藤森の隣に越してきて、時折藤森の部屋に来て、藤森が出す料理を「美味い」と食っていた「このドラゴン」が??
藤森は女性の発言が信じられない。
これまでずっと「条志」と名乗っていたルリビタキに、ちらり、意思確認の意味で視線をやると、
藤森の目に気付いたルリビタキが、一瞬だけ、それこそ「ふとした瞬間」にたまたま目が合った程度の感覚で、視線を返した。
「あなたの話も聞きたい」
藤森が言うと、
「俺がそいつの世界を壊しかけたのは事実だ」
ルリビタキは淡々と、ただ、言い訳もせず。
「なぜ、」
「聞いてどうする」
「あなたがただ、理由も経緯もなく悪いことをするようなひと……ドラゴン? には、見えない」
「そりゃどうも。ただ、」
ただ、「こいつ」が居る前では話したくない。
女性を拘束していたハズの椅子をルリビタキがチラリ見ると、 おや、いつの間に。
「お帰りになったわよ」
喫茶店の店主たる老女がコーヒーカップを磨いて、椅子のロープを片付けている。
「上司の方でしょうね、迎えに来たみたい」
「話してください」
藤森が喫茶店のメニューを開きながら、ぽつり。
「長くなるようであれば、お茶でも飲みながら」
「ぐあぁぁぁぁぁ!!いそげ!急げ!!」
パタタタタタ、カタタタタ!Bluetooth接続の物理キーボードに指を滑らせて、某所在住物書きの指先はいつになく、忙しい。
「寝過ごした!時間!着替え!やべぇ!」
諸事情により、いつも「この時刻を目指して投稿したい」と思っている時刻ジャストに、
抜け出せない、用事ができてしまっていたのだ。
投稿内容は昨晩の時点でだいぶ整っていたものの、時間がどれだけ離れていようと、
寝坊してしまっては、意味がない。
「おぉぉりゃぁあああああ!完成!投稿!」
タタタタタ、パタタタタタ!タン!
なんとか正午に仕上げが終了した文章を、「書く習慣」に貼り付けて、用事の準備へ。
昔々にブラインドタッチを覚えて良かった。物書きはよくよく再認識したとか、なんとか。
――――――
前々回投稿分の裏でひっそり展開していたハナシ。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織があり、
そこの経理部の万年コタツムリは、ビジネスネームを無毛の猫、「スフィンクス」といった。
スフィンクスは収蔵部の「ドワーフホト」と大の仲良し。というのも、同期なのである。
その日のスフィンクスはいつもの自作コタツ、「Ko-Ta2」の中で、熱心にどこぞの世界の新聞と、
それから、その世界でその日発売した雑誌などを、珍しく真剣に、双方読んでいた。
「スフィちゃん、スフィちゃぁ〜ん」
熱心スフィンクスに声をかけたのがドワーフホト。
「あのねぇ、5月の最初に、3日連続で一緒の日に、お休み取ろうよ、って思って〜」
別に、スフィンクスのコタツに入るでもなく、
特に、スフィンクスの新聞を取り上げるでもなく。
その新聞で顔の隠れたスフィンクスに、お構いなし。コタツのテーブルの上に1枚、チラシを置いた。
「こんなお祭り見つけたの。一緒に行こうねぇ」
それは、スフィンクスが大好きな、ミカンに関する花祭り。ミカンフェスティバル。
法務部執行課のルリビタキに、開催される該当世界のチラシを、無理言って送ってもらった。
5月に咲くというミカンの花は、白く小さく、観光にもってこい。
当日はミカンで香り付けした酒や、ミカンのジャムで甘みをつけた鶏の照り焼き、
それからミカンのジャンボタワーパフェ大食いチャレンジにミカンのアイスケーキプレゼント等々、
ミカングルメが、よりどりみどり。
ドワーフホトとしては、タワーパフェがイチバンの狙いであった。
「チラシ、置いといたからねぇ」
じゃ。お仕事頑張ってー。
ドワーフホトはそれだけ言って、自分の仕事たる収蔵品の管理作業に戻ってゆく。
スフィンクスがこのあとどんな行動に出るか、長い付き合いの親友ゆえに、理解しているのだ。
だいたいその後の返答が分かる。
だいたいその後の行動も分かる。
双方の部署、双方の物理的距離が「どれだけ離れていようと」、スフィンクスは就労時間内にドワーフホトを見つけ出す。
そして、あーだこーだ、云々、かんぬん。
最終的に、双方の予定を確認して、花祭りとグルメ巡りは行くことに決定となるだろう。
ただ今回は少しだけ、ほんの少しだけ、
ドワーフホトの想定シナリオからズレた。
「あのなぁ」
ぱたん。ドワーフホトが消えてから、スフィンクスは新聞を倒し、雑誌も倒し、
長い、大きなため息を、ひとつ吐いた。
「情報が遅いっつーの。
あと俺様もありがたい返答も聞けー」
スフィンクスが見ていたのは、
新聞の天気予報枠と、
本日発売の雑誌に掲載されたミカンの花祭りの見どころと周辺地域の宿情報と割引クーポン。
もう見ていたのだ。
もう、読んでいたのだ。
「ホト。 ほとー。 おーい」
ったく。今日に限って要件だけ言ってすぐ消えて。
収蔵庫かな。
スフィンクスは再度ため息ひとつ吐いて、
ドワーフホトの予想通り、彼女を探しに席をたつ。
ミカンまつりが開催される世界と、2人が働いている世界が、どれだけ離れていようと関係無い。
異世界渡航技術は昔々に既に確立されており、
なにより、彼女たちはその異世界渡航申請を許可したり規制したり、滅亡世界への航路を封鎖したりする立場の組織に属する職員。
その世界が「その世界」で在り続けられるように、
その世界が「その世界」としてどこからも侵略されず、搾取されず、尊重されるように。
世界線管理局は世界の独自性を、保全し続ける。
「おい、ホト!おまえ、このジャンボタワーパフェ、2個食う予定だったのかよ?!
やめとけ!無理!総重量!そーじゅーりょお!!」
なお時折保全対象のに立ち寄っては、その世界の独自性と独立性に、舌鼓を打っているようである。
「以前、きっと合言葉にかけてだろうな、『愛言葉』ってお題なら見た記憶があるわ」
今回の恋と愛にせよ、先日の「big love!」にせよ、更に過去のお題としては「I LOVE...」に「cute!」、「愛情」、「秋恋」に「愛を注いで」。
出題者のクセや生活の結果であろう、「書く習慣」は恋愛系・エモ系のお題が比較的多い傾向にある。
ひとつのジャンルへのかたよりは、ネタの枯渇を誘発するものの、「いかに多角的に『それ』に切り込めるか」のトレーニングにはなるだろう。
「……出題者としては『こっちに来い』と『恋』をかけてほしいんだろうな」
物書きは再度、お題を確認する。
「愛にきて」に関しては、「愛」という名前の人物に会いに行くよう誘わせれば、どうだろう?
――――――
前回投稿分の背景に繋がるおはなし。
昔々のおはなしです。「ここ」ではないどこかに、地球のどの国よりも、どの組織よりも、はるかに文明の進んだ世界がありまして、
特に今回のお題回収役の少女と少年――前回投稿分で登場した「アテビ」の両親が住んでいた国では、
成体ドラゴン1匹を炉心に使うことで、
全世帯7000万の消費エネルギーを余裕で供給しながら、なお余りある分を他国へ融通・売却して、豊かに暮らしておったのでした。
ところで今回のお題は「こっちに恋」「愛にきて」ですが、まさしくその日は春の恋、愛の祭典。
愛するひと、恋するあのひとと黄色い花のジュエリーを交換して、翌年に再度そのひとを見つけられたら、ふたりの恋愛は成就するでしょう。
そんなおとぎ話を、商業利用したフェスティバル。
こっちに恋、あっちに恋、そっちに恋で向こうも恋、どこでも恋。あの恋はどこの恋?
誰もが大きなフェス会場で、黄色い花の宝石を消費して、恋と愛を交換しあって、
あるいは、昨年宝石を交換しあった愛を探して。
楽しく、幸福に、エネルギー枯渇の心配も経済停滞の不安も無い世界を、謳歌しておりました。
「事故」が起きたのはまさにその日でした。
炉心に用いていたドラゴンの、魂の暴走。
制御を外れたドラゴンは、エネルギー炉を焼き、建物を溶かし尽くして、
そして、愛と恋の祭典をも、破壊しました。
「こっち、こっち!」
正気を失って周囲に炎を撒き散らすドラゴンに、
フェスの参加者は完全に大混乱。
お題回収役の少年が、恋する大好きな少女の手を引いて、彼女だけでも守ろうと走り出します。
少女は目の前の惨劇を現実と理解できなくて、
ただただ、手持ちの端末でそのドラゴンを、暴力と暴走の権化を映してばかり。
「逃げよう、はやく!!」
大人たちはドラゴンをエネルギー炉へ再収容しようと捕獲銃を連発しますが、
なにせ、相手は一国全世帯のエネルギーを供給してなお余りあるチカラを有する、最強のドラゴン。
科学という科学、技術という技術、すべてが炎に包まれて、焼けて、崩れて、溶け落ちてゆきます。
少年少女の両親は、壊れゆくこの世界から安全な別の世界へ、脱出を決意しました。
それぞれがそれぞれの渡航船を割り当てられて、少年と少女は一時的に、引き離されました。
「来年、必ず会いにきて」
難民をその世界から別の世界へ、密航の形で避難させる組織、「世界多様性機構」が用意した別々の渡航船に乗り込む前に、
少女は少年から貰った黄色い花のネックレスを、少年に見せながら言いました。
「絶対、ぜったい、このネックレスに、
プレゼントしてくれたこのネックレスに、愛に、
来て。約束だよ。ぜったいだよ」
「約束する。絶対、絶対、見つけて会いに行く」
少年も、少女から貰った黄色い花の指輪を、少女に見せながら言いました。
「そのネックレスに、愛に、行くよ」
こっちに恋、そっちに恋、あっちにも恋の祭典は、
一瞬にしてドラゴンに壊されてしまいましたが、
少年と少女の美しくまぶしい恋は、ずっとずっと、避難先の世界へ渡った後も残り続けて、
そして翌年、少年は少女の「愛にきて」の約束を守り、巡り逢い、
そして大人になった十数年後、めでたく結ばれて、
そして前回投稿分の登場人物「アテビ」が黄色い花咲く季節に、無事、生まれました。
エネルギー炉の暴走ドラゴンが、その後どうなったか、お題回収役の少年少女は知らないまま。
捕獲を断念して討伐に切り替えられたとか、
誰もそのドラゴンにとどめを刺していないのに、いつの間にかドラゴンが姿を消したとか。
真相が判明するかしないかは、次回のお題次第。
しゃーない、しゃーない。
「以前は『衛星列車ともう一度巡り逢えたらどうする』みたいなハナシを書いた記憶がある」
「誰か」と、巡り逢い、
この人と巡り逢い「やりたいこと」、
巡り逢えたら幸運/悪運な「何か」、
巡り逢え、タラ。 巡り会えた、らっこ。
他に何か書けそうな案あったっけ。某所在住物書きは焚き火のアプリでパチパチ、ぱちぱち。
ものの試しで思考を文章化などしている。
個人的に欲しい「巡り逢い」は勿論宝くじ。
当たればガチャの自爆など気にもしないのだ。
勿論すり抜けも。確率操作を疑いたくなる結果も。
パチン。焚き火アプリの効果音が弾ける。
もう少し簡単に投稿しやすいネタと、複数巡り逢えたら、どれだけラクができることだろう。
――――――
前々回あたりから続いているおはなしも、これでようやく一区切り。
最近最近の都内某所、某深い深い杉林の中に、
「世界多様性機構」なる異世界組織が支援拠点を建てておりまして、その拠点を異世界人は「領事館」と呼んでおりました。
今回のお題回収役は、この「領事館」の新人さん。ビジネスネームを「アテビ」といいます。
アテビは滅んだ世界から脱出してきた、いわゆる異世界の難民。両親の故郷も、アテビの出身世界も、どっちも滅んでしまいました。
「領事館」の仕事ははアテビのような難民を、
密航の形で避難させて、その場所でまた生きてゆけるように、アレコレ、それどれ、支援すること。
故郷より開発レベルの劣っている東京に、アテビは去年赴任してきましたが、
フタを開けてみれば、あらあら、まぁまぁ。
東京には美しい花があり、物を大事に扱う文化があり、素晴らしい伝統が息づいています。
アテビは「藤森」という名前の現地住民から、この世界の美しさを教えてもらいました。
アテビはお礼に藤森を、
そうです、本当は、お礼のつもりだったのです、
藤森を、異世界の技術がたっぷり使われている、領事館に招待したのでした。
「藤森さん!耳!みみ、ふさいでください!!」
「えっ?」
アテビはそのつもりだったのですが、
アテビの上司――すなわち領事館長の「スギ」にとって、現地住民の藤森はいわゆる「駒」の候補のひとりに過ぎなかったようで、
チリン、ちりん。 チリン、ちりん。
スギは藤森を、無理矢理領事館の職員にしてしまおうとして、人の心を操る異世界アイテムを藤森にこっそり使っておったのでした。
「『闇堕ちの呼び鈴』っていうアイテムの音がします。聞いた者の魂を、闇堕ちで無理矢理こじ開けてしまうんです!耳ふさいで!」
「やみおち???」
にげて。 呼び鈴の音が聞こえないところまで。
アテビ自身も耳をふさいで、現地住民の藤森に力いっぱい叫ぼうとした、そのときです!
『――なるほどな、そういうことか』
ダーン!! ドォン!!
アテビと藤森と、それからアテビが居る部屋の、
両開きのドアが炎で弾け飛んで、
どん、ドスン。 どん、どすん。
轟音と業火と、それから煙を押しのけるように、
見覚えのあるドラゴンが、入ってきたのでした。
『世界線管理局、法務部のルリビタキだ。
現地住民拉致疑いの通報を受けて来たが、
どうやら、事実のようだな』
それは、アテビがまだ生まれていなかった頃、
「アテビの両親の故郷を滅ぼしかけたのだ」と両親自身から聞かされた悪竜に、
すごく、よく似たドラゴンでした。
世界多様性機構の新人アテビはこうして、
最初の赴任地で、両親の故郷の仇敵と、バッタリ、偶然、あるいは必然的に、巡り逢いました。
悪しきドラゴンが、藤森をくわえて、背中に放り投げて、領事館の外へ連れて行こうとしています。
アテビの両親の世界を滅ぼしかけた悪竜は、
アテビに東京の良さを、赴任世界の美しさを教えてくれた善き人たる藤森を、自分の巣に持ち帰って食べてしまうかもしれません!
「ダメ、だめ!!藤森さんを連れて行かないで!」
アテビは勇気を振り絞り、領事館の扉を壊したおそろしい悪竜にしがみついて叫びました!
「これ以上、誰の何も滅ぼさないで!」
『……だから領事館の緊急出動は俺じゃなくカナリアが良いと言ったんだ』
ああ、やはり、お前は「あの世界」の。
ルリビタキと名乗ったドラゴンは、アテビがどういう境遇か、よくよく察したようでした。
藤森を助け出そうと、背中によじ登るアテビを、悪しきドラゴンは振り落とそうとしますが、
『くっ、 この、』
藤森を助けたいアテビを、なかなか捕まえられず、
『仕方ない。このまま』
最終的に、アテビと藤森を背中に背負ったまま、
大きな翼を広げて領事館から、一気に、一瞬で、飛びたってゆきました。
悪竜と巡り逢ったアテビと、悪竜に捕まった藤森は、どうなってしまうのでしょう?
それは次回のお題次第。しゃーない、しゃーない。
「最近、ハナシが2部構成っつーか、3部構成っつーか、ともかく1個の投稿スペースに収まらなくなってきてるんよ……」
このアカウントの文量、最終的にどこへ行こうとしてるんだろな。 某所在住物書きは過去投稿分を確認しながら、ため息、ため息。
「書く習慣」をインストールした当初は、400字詰め原稿用紙1枚でおさまる文量であったのだ。
それが投稿を続けるにつれて、段々2枚になり、3枚になり、今日はほぼほぼ5枚分。
どこへ行こうというのだろう。
「物語だけじゃなく、『ここ』も合わせれば、文字数だけで2300字だぞ……」
物書きは想像する。 来年の文量やいかに。
――――――
最近最近の都内某所、某深いふかい杉林の中に、
異世界に本拠地を置く秘密の組織の領事館があり、
館長のビジネスネームを「スギ」、
部下のネームを「アスナロ」と「ヒバ」、
そして、領事館の新人を「アテビ」といった。
異世界から赴任してきた彼等の仕事は、
滅んだ世界から密航させてきた異世界の難民を、この辺境の地で行きてゆけるよう支援すること、
そして、1人でも多くの現地住民――この地で言うところの東京都民、あるいは地球人に、
領事館の協力者となってもらって、
そして、領事館の支援活動を妨害する「敵対組織」の邪魔をするための、
駒に、なってもらうこと。
どの世界の、どこへ行こうと、何をしようと、
敵対組織、「世界線管理局」は領事館の活動の一部を取り締まってくる。
それはそうだ。滅亡世界の難民を発展途上の世界に密航させ、支援する領事館の活動は、
いわば違法に限りなく近いグレーであった。
「はじめまして。藤森と申します」
その日は、領事館の仕事の「後者」を十分に理解していない新人「アテビ」が、「藤森」という現地住民を、領事館にご案内。
藤森は都内の貴重で希少な花々が、年々数を減らしてきていることに心を痛めて、
領事館が保有する「異世界の技術」に、希少在来種の保全という希望を見出したという。
「はじめまして」
へぇ、そうかい、そうかい。
自己紹介を為す藤森に、自己紹介で返す領事館の館長は、内心暗い笑いをしており、
藤森を連れてきたアテビ自身も、上司たる館長の暗さに気付いていない――双方、おめでたいことだ。
「アテビからハナシは聞いてある。
この世界の『絶滅しそうな花』を、俺達が持っている異世界の技術で、救いたいんだってな」
まぁ、まずは茶でも。
領事館の館長「スギ」は、そう言って、お茶と茶菓子など用意させつつ、さっそく「地球には存在しない、先進世界の技術」を、藤森に披露。
「現実の3次元にあるものを、本の2次元で保管して、『影絵』に投影してコピーするのです」
藤森の頭の上のはてなマークを置き去りに、館長のスギが異世界の複製機を説明すると、
「ゆえに、『影絵変換器』。影絵にしてコピーして、そのコピーを3次元に再変換すれば、クッキーは2個に、蝶は2匹に、絶滅危惧種の花は2輪に」
なかなか頭が良いのか、勘が鋭いのか、
あるいは、「領事館の『敵』」から事前に何かを吹き込まれていたか。
藤森は、スギのハナシをじっと聞いて、数秒の長考を経て、スッと顔を上げて、
「なるほど」
まるで、スギの隠し事を見抜こうとするような視線でもって、藤森はスギに問いかけた。
「素晴らしい技術だと思います。さすがだ。
ところで、こんなに素晴らしい技術にも、たとえばデメリットとか、注意点とか、禁忌とか。
そういう側面は、存在するのですか」
スギは藤森の視線に既視感があった。
似た視線でもって、スギの同僚を尋問して情報を根こそぎ奪った「敵」が居たのだ。
たしかビジネスネームを「カラス」だか、「ハシボソガラス」だか。
そいつの入れ知恵かもしれない。
(おのれ。忌々しい世界線管理局)
アテビめ。面倒な現地住民を引き込んできたな。
スギは内心で舌打ったが、
まぁ、まぁ。すべては些細なこと。
逆に領事館の敵対組織と通じている藤森を領事館の手中に収めることができれば、
敵のあんな情報も、こんな情報も。
「この技術にデメリットは、」
デメリットは、特にありません。
スギが藤森の質問を受け流そうとしたところで、
「複製するものの材質によっては、電力とか魔力とかの消費がすごいことになります」
藤森を領事館に呼び込んだ新人、アテビが割り込んだ――彼女は正直過ぎた。純粋過ぎるところもある。
これ以上アテビにボロを出されては、藤森が異世界の技術に無条件の盲信を為さなくなる。
(仕方ない。「アレ」を使うか)
スギは隠し持ってきていた耳栓をこっそり付けて、
同じく隠し持ってきていたハンドベルタイプの呼び鈴を小さく小さく鳴らしながら、
アテビを「茶菓子の追加」という名目で退室させ、
チリン、ちりん。 チリン、ちりん。
藤森の耳に届くような、届かないような、かすかな音量で呼び鈴を鳴らし続けた。
それは聞いた者の魂から――
「藤森さん!耳!みみ、ふさいでください!!」
「えっ?」
退室前のアテビが、呼び鈴の音に気付いた。
「『闇堕ちの呼び鈴』っていうアイテムの音がします。聞いた者の魂を、闇堕ちで無理矢理こじ開けてしまうんです!耳ふさいで!」
「やみおち???」
ああ、藤森がスギの手元に気付き、席を立とうとしている……どこへ行こうというのか。
「藤森!」
こっそり藤森を闇堕ちさせて、操り人形同然にして、管理局に潜り込ませようと思っていたが、
バレてしまっては仕方がない。
リリン!チリン!
隠さず騙さず、スギが手元の呼び鈴を、強くつよく鳴らして藤森の魂を揺さぶっていると……
『――なるほどな、そういうことか』
ここで前回投稿の物語が合流。
「前回投稿」とは? それに関しては、文字数……