かたいなか

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5/19/2025, 10:05:36 AM

<去年1月14日のお題が「どうして」でした>

<新しい物語投稿まで、当時分を再掲載します>

――――――

日曜日の朝のハナシ。
土曜日に職場の先輩のアパートで、互いの生活費節約術としてシェアディナー食べて、丁度初雪が降って、
私は、雪道用の靴を履いてなかった。
路面凍結が怖いから、その日は先輩のアパートに宿泊避難。翌日気温が上がりきってから、自分のアパートに帰ることにした。
先輩は土曜日のうちに日曜の朝ごはんの仕込みをしてくれてて、白米より低糖質なオートミールを使った鶏雑炊風の予定。おいしそう。
雑炊だし、普通に食べられると思ってた。

で、翌朝。日曜日。
寒暖差か、ホルモンバランスだの自律神経だのの乱れか、完全に、ベッドから起きられなくて、食欲も全然無くて、バチクソなダルさとともに目が覚めた。
起きられない。 どうしても、起きられない。
気合いが足りないとか早寝早起きの習慣の崩れとか、そんなんじゃない。これはきっと分かる人にしか分からない。ともかく、どうしても、胃も体も動かない。

「なんだ、もう起きたのか」
ジャパニーズアロマポット、茶香炉に火を入れて、本棚のなんか難しそうな本を読んでた先輩が、私のウーウーなうめき声に気付いた。
「お前にしては早い。飯はどうする?もう食うか?」
サーセン先輩。今はそれどころではないです。

「からだうごかない」
「例の、突発的な酷い倦怠感か。食欲は?」
「ない。胃が、うごいてない。きのうから仕込んでくれてたのに、なんか、ごめん」

「問題無い。鶏雑炊から雑炊を抜けば良いだけだ」
「へ?」

「どうしてオートミールを選んだと思う?」
ちゃぷ、ちゃぷ。
小さなスープカップに、キッチンの小鍋から何かすくって入れて、先輩はそれを私に持ってきた。
「白米は炊いて、食わなければ余るが、オートミールは食う直前に食う量を、熱湯なりスープなり、牛乳なりを入れて混ぜるだけで良い。よって急なキャンセルに比較的強い」
ひとまずそれでも飲んで、温まっておけ。
先輩から渡されたのは、具材少なめの、コンソメみたいな琥珀色した、ぬる過ぎず熱過ぎずなスープ。
本当は、これにオートミールが入って、雑炊風になる予定だったんだろう。
ひとくち飲むと、なんとなく、ため息がもれた。
「つまり、お前の体調に合わせやすいわけだ。食えそうならそこそこの量ブチ込めば良いし、食えそうにないなら、雑炊風ではなく、スープとして出せばいい」

「おいしい」
「そりゃどうも」
「コンソメだ。ちょっと洋風だ」
「オニオンコンソメと、少しのめんつゆで味付けしている。不評であれば今後は控える」

「鶏肉入ってない」
「胃が動いていないと自己申告しなかったか?」

2杯目が必要になったら、いつでも呼べ。
言い残した先輩は定位置に戻って、また本棚の本をバラリ、ぱらり。
ダルいのはダルいし、冗談抜きでまだ動けないけど、
スープで体がちょっと温まったおかげで、心の方は、なんかほっこりできた、気がした。

「先輩おかわり。鶏肉多めで」
「無理をするな。後で苦しむのはお前だぞ」
「無理じゃないもん。多分大丈夫だもん」
「あのな……?」

5/19/2025, 5:41:54 AM

とうとう火曜日から最高30℃予想の東京である。
今回のお題回収役は藤森といい、花咲き風吹く雪国の出身であったので、
東京が本格的な初夏もとい「暑夏」を迎える前に、
水出し日本茶のティーバッグをストックしようと、
休日を利用して、馴染みの茶葉屋へ来店。

藤森は某私立図書館の職員であった。
すなわち、月曜は休館日。休日であった。

「こんにちは」
くもり空の影響か、その日は先日に比べて涼しく、
藤森としては、そこそこ過ごしやすい気温帯。
「水出し用の茶葉は、もう……」
しかしこれが、24時間後には30℃を超えるのである。完全に真夏日である。
氷をたっぷり入れた水出し茶の1杯でもなければ、
でろるん、藤森は溶けてしまうのだ。
「……飲食スペース? バーカウンター?」

まって、待って。
藤森の視線が、少しの好奇心でもって固定された。

「あら。こんにちは」
黒髪の美しい女店主は、相変わらず穏やかな笑顔。
藤森が興味津々に、テイクアウトブースを取っ払って作られたスペースを見ているところで、抱えていた看板子狐を床に降ろし試飲の準備。
「今までテイクアウトだけであったものを、ティースタンドも兼用にしましたの」

それは、先週までは存在しなかった、立ち飲み形式の飲食スペースであった。
元々この茶葉屋には、常連専用の個室が複数個、飲食スペースとして用意されていたものの、
テイクアウトを別として、非常連客に向けた飲食サービスは、これが初めて。
「盛況ですよ」
女店主はにっこり笑った。
「突然寒くなったり、暑くなったり。
そういうときに1杯でも、2杯でも」

さぁ今年の水出し緑茶と水出しほうじ茶をどうぞ。
女店主は小さなコップに、キンと冷やされた翡翠色と、べっこう色とを注ぐ。
詰まっておるのは、前者は緑茶的な甘さ、後者はほうじ茶的なすっきり感。
「今年は、去年の柚子風味緑茶とレモン風味ほうじ茶が、更に改良されたそうですよ」

何袋お買い求めなさる?コンコン、5袋?
店主は特にそんなことを、言うでもなく、強制するでもなく、ただ藤森の紙コップが空になる様子だけを見つめていたものの、瞳は正直。

「緑茶2袋と、ほうじ茶3袋で」
店主の静かな視線などいつものことなので、藤森は気にしない。ただ好ましかった方を多めに、必要と思った分だけを、少しずつ手に取った。

くぅー、くっくぅ。くわぁ。こやん。
床に降ろされた看板子狐と目が合って、尻尾を振る子狐が「もっと買って」とアイコンタクト。
強まっていく瞳の輝きは、藤森が子狐を見つめ返しつつ、もう1袋、水出し緑茶に手を伸ばしたから。

くわー、くわぁ。 まいど、まいど。
追加お買い上げ、ありがとございます。コンコン。

「1袋だけだぞ」
こやん。もっと買って、おとくいさん、もっと。
「3と3。今日はこれだけだ」
こやん。あと2コずつで、コンコン、キツネだよ。
「店主さん。これで、会計をお願いします」
ぎゃぎゃっ!まって!もっと!かって!もっと!

「来週には、水出しハーブティーも増えます」
ぎゃぎゃん!買って買ってぇ! 藤森のリネンのサマーコートに、がぶちょ、噛みついて離さない子狐を、一旦置いといて会計に入る。
「梅雨の低気圧にともなう不調にオススメな水出しも出ますので、ぜひ、ご友人にも」
情報提供、お願いしますね。
穏やかに笑う店主がレシートを藤森に、
渡して、子狐を抱いて、ポンポン、ぽんぽん。
コートを放すよう、おしりを叩く。

「ほら。お得意様を、放しておやりなさい」
うーうー!やだ!お買い物おわったら、おとくいさん、キツネとあそべ!あそべっ!
「良い子だから」
うぅぅ!やだ!おとくいさん、もっと、ショーバイハンジョ!もっと、おさいせん!

ふーん。そう来るか。
店主と藤森は視線を交わして、軽く会釈しあって、

藤森が近くの茶っ葉缶に手を伸ばしたのを
子狐が瞳キラキラ輝かせて、口を開き、
サマーコートから牙が離れたのを見計らって
店主が サッ! と子狐を、藤森から引き剥がす。

「では。また来ます」
藤森が茶葉屋から出ていくのを、看板子狐は寂しそうに、くぁー!くぁー!ここココンコンコン!!
待って待ってと大音量で、鳴いておったとさ。

5/18/2025, 3:11:24 AM

前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某深めな森の中の稲荷神社には、本物の稲荷狐が家族で住んでおりまして、
そのうち末っ子の子狐に、最近、異世界の技術で作成された魔法生物、陽キャドッグの友達が爆誕。

拝殿のガラガラ鈴緒で2匹して、ぶらぶらスイングして遊んで、子狐のお母さんが作った絶品お肉料理と稲荷寿司を分け合いっこして楽しんで、
そして、お母さんから丁寧に抜け毛取りとブラッシングとを、してもらったのでした。
陽キャドッグも子狐も、5月は丁度換毛期。
すっぽすっぽ冬毛が抜けて、それはそれは、もう、それは。気持ち良いったらありません。

「さぁ。そろそろ今日は、おしまいですよ。
この犬の飼い主も、この犬の帰りを待っていることでしょう。送っていっておやりなさい」
「はい、かかさん、いってきまーす」
東京の独特な、夕陽の見えない夕暮れと一緒に、
コンコン子狐は陽キャドッグの、お家が存在する世界へ渡ってゆきました。

「おかえり。向こうの世界は楽しかった?」
「あら、その子狐とお友達になったの?」
「ちゃんと家に戻る前に、ジャーキー、貰っていくんだぞ。ああ、良い子良い子」

わふ!わふ!わうわう!わをん!
飼い主が勤務している異世界の組織に戻ってきた陽キャドッグは、歓喜で尻尾を高速ぶんぶん!
帰ってきた証拠として、飼い主の職場の受付係さんから撫でてもらい、遊んでもらい、
そしてなにより、ジャーキーを貰うのです、
が、 どうやらその日に限って、受付係さん、ジャーキーの在庫が尽きておったようで。

「すまない。丁度、さっき補充の注文をしたんだ」
わふわふ。わうわう。
陽キャドッグ、いっつもジャーキーのパックをくれる犬耳のお姉さんに突撃します。
「明日には届く。だから今日は、すまないが直接、工場に行って、できたてを貰ってきてくれ」

工場にはちゃんと、ハナシを付けておいたよ。
犬耳お姉さんはそう言うと、陽キャドッグと子狐に、
工場までの単発往復セキュリティーパスを、それぞれ首から下げてやりました。

「ジャーキー……できたて……!」
子狐のまだ知らない、できたてジャーキーの世界!
ああ、なんと甘美で、なんと幸福な世界でしょう!
コンコン子狐はキラキラと目を輝かせて、
陽キャドッグの先導に、ついてゆきました。

え?ナレーションが男性で脳内再生?
オネェ?火曜日?テーマ曲が英語?
さあ。ナンノコトデセウ。

ということで、子狐のまだ知らないできたてジャーキの世界です。さっそくお題回収です。
飼い主の職場のエントランスから、あっちの自動扉を通り、そっちの職員専用食堂を通り、
食堂に食品を供給している、大きなおおきな、屋外・屋内両対応の、食料製造プラントへ。

「やぁやぁ。まいど」
食料プラントのエントランスフロアでは、小さなカゴに入れられたホカホカのジャーキーが、
2個並んで、子狐と陽キャを待っておりました。
「完全にできたてのジャーキーや。持って行きぃ」

ニセ関西弁の二足歩行ニホンホンドタヌキが、
緑の腰巻きエプロンして、子狐と陽キャドッグの口にそれぞれ、ジャーキーのカゴを差し出します。
ジャーキーは、まだ少しの熱をもって、まさについさっき温風乾燥を終えたのだと分かります。
ジャーキーは、まだ少しのフワフワをもって、確実に柔らかくホロホロ解ける肉だと分かります。

「これがッ、これが、できたて、ジャーキー」
子狐のまだ知らない、できたてジャーキーの世界!
コンコン子狐はカゴから咲く、かぐわしい干し肉の匂いに、どうしても我慢できません!
だって、目の前にご馳走です。お肉です。
コンコン子狐は狐なので、お肉、大好きなのです。

「あんな、おばちゃんな」
緑のエプロンのホンドタヌキ、すごく悪い顔して子狐と、陽キャドッグに言いました。
「実は今、試作品持って来とってん……」

どない? おばちゃんのこと、手伝ぅてくれへん?
緑腰エプロンのホンドタヌキが、次に取り出したのは、試作ジャーキーの味見アンケート。
「ちょこーっと、舌、貸してほしいんよ。タダで」
食料プラントのおばちゃんが、また笑いました。

2匹のまだ知らない、試作品の世界!
陽キャドッグと子狐も、2匹して顔を見合わせて、
そして、目を幸福に輝かせたのでした。

5/17/2025, 7:10:32 AM

使い古したタオルを手放す勇気というのは、タイミングが独特のような気がする物書きです。
使えば使うほど吸水力が増える気もするし、
しかし使えば使うほど汚れていくし、
なにより、いずれ破れてゆくのです。
と、いうお題回収はそのへんに置いといて、今回のおはなしのはじまり、はじまり。

最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりまして、
そのうち末っ子の子狐は、最近、拝殿の鈴緒、すなわちガラガラの房にジャンプで噛みついて、
びょんびょん、ぶらんぶらん!
振り子遊びをするのが急上昇マイトレンド。

勢いをつければ小さなメリーゴーランド、
そこから手ならぬ牙を放せば横ジャンプ。
一人遊びには丁度良く、なかなか、楽しいのです。

で、その稲荷子狐の遊びと「手放す勇気」が、どう合体するかといいますと。
そうです。この、「牙を放す」のが、そこそこスリル増し増しなのです。ゆえに、勇気がいるのです。

「んんん、んううううう!!」
その日はコンコン、稲荷子狐、前回投稿分でまさかの陽キャわんこの友達が爆誕したので、
この陽キャわんこを勝手に「ワンワンさん」と名付け、彼といっしょに鈴緒でぶんぶん。

「うぅぅううおりゃぁぁぁぁぁ!!」
房をしっかり噛み、体を揺らして左右にゆらゆら。
十分運動エネルギーを生成できたら……かぱっ!!
房から牙を放す……もとい、房を手放すと、子狐の体は弧を描き、慣性の法則か何かで回転して、
そして、ぼふっ! 子狐が神社の中から持ってきた大きなクッションの上に、丁度、着地するのです。

それを見ていた陽キャドッグ、頭が良いらしく、
稲荷狐のスイングを見てガッツリ仕組みを学習。
自分も早くやりたくて、上げた尻尾を歓喜と興奮で、ぶんぶん回しています。
ところで稲荷神社の拝殿、鈴緒が2本ありますね。

わをん! がぶっ!!
陽キャドッグはとうとう、子狐の真似をして神社の鈴緒に、飛びかかり、噛みつき、房を噛みます。
ガランガラン、ガランガラン!
神社の鈴緒のひとつは、陽キャの体重と勢いによって、大きな、良い音をたてました。
が、陽キャドッグ、房に噛みついてぶらんぶらん、それは楽しいものの、房を手放す勇気が無い!

うう、うぅー。 飛べば確実に楽しいでしょうけれど、陽キャドッグ、踏ん切りがつきません。
陽キャドッグの鈴緒は段々、揺れの勢いを失って、
最終的に、元の位置に静止しました。
わふ。 わふ。 ワンコはまた、学習しました。
鈴緒、意外と房を手放して放り投げられなくても、
揺れてるだけで結構楽しい。

「あらあら。なにごとですか」
ガランガラン、ガランガラン!
その後もコンコン稲荷子狐と、わんわん陽キャドッグは、それぞれ思い思いに鈴緒スイングを楽しんでおりましたが、鈴緒の断続的な音が気になった子狐のお母さんに、発見されてしまいました。
「まぁ」

音の発生源たる拝殿に行ってみれば、
子狐と不思議な大型犬とが、仲良くそれぞれ鈴緒の房に噛みついて、ぶらんぶらん、ぶらんぶらん。
ケンカせず、遊んでおります。
「あんまり、やり過ぎてはなりませんよ。鈴緒が傷んで、壊れてしまいますからね」
子狐のお母さん、言いました。
「おやつにしましょう。今日はおまえの大好きな、稲荷寿司と油揚げと、お肉ですよ」

「んん!!んんん!!」
おあげさん!おあげさんだ!
コンコン子狐は鈴緒に噛みついたまま。
もっと遊びたい心と、油揚げを食べたい心とが、ごっちゃになってぶつかって、葛藤しています。
「うー!!」
たべたい!あそびたい!
コンコン子狐の葛藤は、まさに、「手放す勇気」のお題に、相違ありませんでしたとさ。

5/16/2025, 4:28:39 AM

最近最近、都内某所、某稲荷神社のおはなしです。
その稲荷神社は不思議な神社で、本物の稲荷狐が家族で仲良く、住んでおりました。

「あっつい。 あっつい」
その日、稲荷神社の稲荷子狐は、人間に化けて人間の社会を勉強しに行こうとしましたが、
気候変動の影響か、そもそもそういう時期だったかしら、ともかく神社の外を暑く感じましたので、
都内にしては深めな森の中の、実家たる稲荷神社で、風と木陰を涼しく堪能しておりましたが、
コンコン稲荷子狐は、更に涼しい場所を知っておったので、そこへ急行したのでした。

「おねーちゃん、おねーちゃん、キツネと遊んで」

子狐コンコン、神社の宿坊兼自宅の中の、お父さん狐の隠し部屋に入りまして、
そこから不思議な不思議な黒い穴の中に入り、
ゆっくりゆっくり落ちていって、スポン!まさかの「ここ」ではない異世界に到着します。
そこは、色々な世界が「その世界」として尊重されるように、別世界との調整をしたり、調停を為したり、そういうことをしている組織の建物の中。
そして、既に滅んでしまった世界に他の世界から間違って渡航者が向かわないように、交通整備のようなものもしている組織の建物の中。
「世界線管理局」といいます。

「おねーちゃん、おねーちゃん、キツネをなでて」

この管理局には、子狐をチヤホヤしてくれる者が、子狐に接待てくれる者が、たくさん居るのです。
今日はその中でも、食いしん坊仲間な収蔵部の従業員さんに、会いに来たのです。
きっと彼女は子狐を、たくさん撫でて、たくさんかわいがって、そして、子狐と一緒に冷たいつめたい、アイスクリームを堪能するのです……
が。

「むむっ!」
子狐が管理局の収蔵部に辿り着いたそのとき、
「ワンワンさんだ、ワンワンさんだ!」
滅んだ世界のチートアイテムを収蔵している収蔵庫のひとつから、魔法の大型ワンコが現れて、ご機嫌に子狐に突進してくるのを見つけたのです!!

「やいっ!ワンワンさん!
おつとめ、ごくろーさまです!」
稲荷狐は基本的に、犬を好ましく思いません。
だけど子狐は稲荷狐なので、その大型犬がどのような大型犬か、魂のニオイで理解したのです。

それは、人間の生活を豊かにするために作られた、魔法生物。魔法の犬でした。
それは、呼吸で大気中の魔力を体に取り入れ、呼気の水蒸気を魔法で光らせる、照明犬でした。
ワンコをワンコと考えぬ、非情で冷血な研究員が、人間のためだけを考えて作り出した、
既に滅んだ世界の遺物。滅んだ世界の遺品でした。

光り輝け、暗闇で。
周囲を照らせ、自分の魂で。
それは照明犬が短命である理由でもありました。

で、そのワンコを世界線管理局が引き取りまして。
良いジャーキー、良いクッション、良い遊び道具に新しい飼い主たる職員を与えたところ、
一気にラブラドール系ワンコに覚醒しまして。
寿命を縮めない光り輝き方も体得しまして。

わふ! わふ! わをん!わうぅん!
陽キャドッグに覚醒した照明犬、同じネコ目イヌ科の匂いを感知して、しかしキツネ属を知らぬので、
てっきり新しい仲間だと勘違い!
子狐に突撃して、 遊ぼう、 遊ぼう!
身を低くして尻尾を上げ、誘うのでした。

わふ! わふ! わをん!わうぅん!
暗闇に光を掲げる陽キャドッグ、陽キャパワーを全開にして、コンコン子狐にじゃれ付きました!
「なんだなんだっ、キツネ、きつねずもうなら、まけないぞッ! やーやー!」
ぎゃぎゃっ!きゃきゃっ!ぎゃん!ぎゃん!
稲荷子狐も子供なので、遊ぶのは大好き!
陽キャドッグのタックルをジャンプでかわし、
陽キャドッグの抱きつきもジャンプでかわし、
背中に跳び乗って、カジカジ、かじかじ!
激しい毛づくろいごっこです。
あんまり楽しく、興奮して、照明犬は大光量!

光り輝け、暗闇で。
周囲を照らせ、自分の歓喜で。
稲荷子狐と照明犬は、周囲の管理局の備品をちょっぴり破壊しながら、楽しく楽しく遊んだとさ。

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