かたいなか

Open App
8/10/2025, 6:30:23 AM

最近最近、都内某所のおはなし。
某深めの森の中にたたずむ不思議な不思議な稲荷神社の、木漏れ日落ちる涼しめな前庭で、
稲荷子狐とその友達、すなわち化け子狸と化け子猫と、子猫又と子カマイタチとが、
サラサラ風を感じて暑さを追いやり、
わいわい、きゃんきゃん、会合を開いている。

稲荷子狐がこの世界の平和を守ったらしいのだ。

「それでね、キツネ、わるいやつに、つかまっちゃったの。だからキツネ、ほえたの!
『おのれ、わるいやつめ!このキツネがセーバイ、成敗してくれるぞ!』
そしたらキツネのしっぽが、ぶわわーって、チカラがバンバンわいてきたから、
キツネ、わるいやつを、ズバババーン!したの!」

子狐は目を輝かせて、尻尾をぶんぶんぶん!
おててを振り、あんよでステップを刻み、
それはそれは、もう、それは。
楽しそうに語っている。

友人たちは子狐の言葉に興味津々。
化け子狸などは完全に崇拝の領域にある。

「わるいやつを、やっつけてから、キツネ、あなをフーイン、封印したの。
キツネ、こう、フワーって上がってって、
キツネ、かぜ、きもちよかった」

おお……。 子狸が感嘆のため息を吐く。
穏やかで大人しく、怖がりな子狸である。その自分が悪者を、子狐が言うようにやっつけられたら!
その勇ましい姿を自分に重ねているのだ。

子狐と友人たちの会合を遠くから聞いておった異世界ハムスターは、子狐の「事実」を知っていた。
「実はけっこう誇張されてるんだ」

子狐は自分ひとりで「悪者」をやっつけたように話しているが、実際は少々違うのである。
「といっても、それを指摘しに行ったら……
ほら、僕、ハムスターだから」
ナイショ内緒。異世界ハムスターは口に指を当て、
しぃっ。子狐や子猫にバレる前に、退散してゆく。

…――不思議ハムが撤退した先に居たのは、
絶品和牛串のドチャクソに良い香りがする車、
車を必死に消臭クリーニングしている人間2名、
大きなあくびをして昼寝を始めるドラゴン、
そのドラゴンのそばに数株だけ植えられた、赤い彼岸花色したトリカブト。

「アカバナ エド トリカブト。サンヨウブシの変種で、東京の固有種。完全無毒な花さ」
車内の拭き掃除を為している2人のうちの、ひとりが不思議ハムに説明した。
藤森という名前の、雪国出身者である。
「数年前に、最後の群生地が潰されて、完全に絶滅した花だ。本来は秋に咲く花だよ」

条志さんが昼寝したら、途端に育って咲いてしまった。不思議なことだ。
そう付け足してドラゴンを見て、二度見して、
三度見あたりで気付いたのが、「花が増えた」。
「……ん?」

妙な経緯から「願いを叶える魔法」を得た藤森。
回数制限付きで、本来は3回使えるハズだったものの、稲荷子狐に1回使われ、稲荷子狐に1回使い、結果として借りたレンタカーが牛串まみれ。
残った1回の「魔法」を、
レンタカーの清掃ではなく、絶滅したハズの赤いトリカブトに使った。

赤花江戸附子の最後の花畑を守っていたのは優しい優しい老婆だった。

過去を覗いて絶滅前のトリカブトを採取し、
稲荷神社の厚意でそれを神社の庭に植えた。
藤森が持ってきた株はまだツボミであったが、
はて、いつのまに花を咲かせたのか。

「ほら藤森。気にしてる場合じゃないでしょ」
「えっ」
「最後の1回をトリカブトに使っちゃったんだ。
返す前に、レンタカー、原状回復しなきゃ」
「あっ。 そうだ」

脂と匂いは、なかなか取れないものだなぁ。
稲荷神社に拭く風を感じて、藤森は短く息を吐く。
「……ところで条志さん、ドラゴンの姿を他の人に見られでもしたら、どうするつもりだろう」
はぁ。忙しい忙しい。
藤森は不思議ハムから離れて車の方へ。
残って黙々作業していた方と一緒に、クリーニングの続きを始めたとさ。

8/9/2025, 9:33:42 AM

7月27日投稿分から続いた一連の物語も、今回でようやくのエピローグ。
異世界から来た組織その1、「世界多様性機構」の職員さんが、小物感ある負け惜しみを吐き捨てて、
前回までの物語の舞台であった夏の雪国から、都内某所に戻って来ておりました。

世界多様性機構は、発展途上であるところのこの世界を、他の世界の難民のために狙っておりました。
この世界を難民シェルターにしてやろうと思って、
日本の某雪国に存在する、大きな大きな大イチョウ、その下の「異世界に通じる黒穴」を、
封印から、解き放とうとしておったのでした。

なお、この世界の難民シェルター化計画ですが、前回投稿分のおはなしで失敗した模様。
せっかく異世界に繋がる黒穴の鍵を持ってきてもらえたのに、その鍵でもって黒穴を、
開けるんじゃなく、閉められてしまったのです。

「黒穴を閉められるとは、予想外だったぜ」
さて。多様性機構の支援拠点、「領事館」に戻ってきた小物さんです。
この世界の現地住民をそそのかして、せっかく良いところまで計画は進んだのに、
そそのかした現地住民本人に裏切られるとは。
小物さん、思わなかったのです。

「まぁ、良い」
しょせん、別世界とこの世界を繋ぐ穴の、鍵を閉められただけのハナシだ。小物さんは言います。
「黒穴の場所は分かった。あとは……」

あとは、閉められた鍵を壊すなり、ピッキングするなり、小物さんが所属する「世界多様性機構」のチカラを使えばどうとでも。
そう思っておった小物さんは、ひとまず本部に黒穴の情報を提供しようと思って、

こっちの世界の領事館と、向こうの世界の世界線管理局本部とを繋いでいるドアを、
くぐって別の世界に行こうと思ったのですが、
「あれ?」
何故でしょう、ドアのメンテナンス中でしょうか、
いつもは簡単に向こうの世界へ行けるのに、
今日はドアが向こうの世界に、ちっとも、少しも、繋がっていません。ドアが完全に閉じています。

「ウソだろ?」
小物さん、ここでお題回収です。
「夢じゃないのか? えっ? なんで??」

「不思議ですよね。あなたが帰ってくる数時間前から、ずっとその状態なんですよ」
領事館で一緒に仕事をしている、「アスナロ」というビジネスネームの女性が言いました。
「問い合わせてみたら、こちらの世界と向こうの世界の繋がりが、完全に封鎖されてしまってるとか」

なんなんでしょうね。まったく。
首を傾けるアスナロです。
小物さんは「自分が帰ってくる数時間前から」の異常に、心当たりがありました――…

…――いっぽう、この世界を別の世界と繋ぎたい「世界多様性機構」と反対に、この世界を別の世界から守るポジションの異世界組織もありまして、
そちらは名前を「世界線管理局」といいました。

世界多様性機構による侵略まがいの計画が、一時的に阻止されたのを見届けた法務部局員が、
報告書を作るため、こっちの世界から向こうの世界に、戻ろうとしておったのですが。

「そうなんですよ、戻ろうとしていたのですが、
私達がこっちの世界から、私達の世界へ行き来するためのゲートが、完全にフリーズしてまして」

そうです。
世界多様性機構の異世界ドアが使えなくなって、
この世界と別の世界が通行止めになったように、
世界線管理局の異世界ゲートも使えなくなって、
この世界と別の世界が通行止め状態なのです。

「最初は緊急メンテナンスかと思ったのですが」
この世界を守る方の局員、黒穴の封印を守る派の男性が、頭をガリガリ言いました。
「そもそも論として、どうも、世界と世界を繋いでいるゲートに、なにか協力な『封印』のようなものが為されてしまっているようでして」

多分というか十中八九、「このコ」の影響ですね。
そう続けて男性は、思い当たるフシを見ました。
「『この世界と別の世界を繋ぐ穴』を全部ぜんぶ封印してしまったんだろうな……」

男性の視線の先には、「大イチョウの下の黒穴」を封印した稲荷の子狐。
別世界からの侵略を阻止して、管理局から褒められて、ご褒美のジャーキーや稲荷寿司もどっさり!
「おいしい。おいしい」
その子狐は神秘のチカラで、異世界とこの世界を繋いでいる日本中の「穴」という「穴」を、
全部、閉じてしまったのです!

「え、じゃあ、これからどうするんですか」
管理局を推している女性が聞きました。
「こちらからは、どうにもなりません」
管理局の男性が秒で即答しました。

仕方ないのです。稲荷の御狐様が、高度かつ上位の秘術でもって、キツく扉を閉じてしまったのです。
解除するには相当の魔力なり、相応の代償なり、
ともかくドチャクソなコストがかかるのです。

「こちらの世界と私達の世界を、再度接続して、ゲートを再起動して、安全確認とチェック。
数日から数週間、場合によっては数ヶ月です」
「すうかげつ」
「さすがに無いとは思いますが、向こうの世界の同僚が、『この世界とのゲートが使えない』ということに気づかなければ、数年でも、数十年でも」
「すーじゅーねん」

「つまり私達はこの世界から出られない。
当分こっちの世界にご厄介です」
「ツー様と、ルー部長が、こっちの世界に。
夢じゃないよね」
「夢じゃないですね……」

ということで、よろしく。
管理局員が言いました。
管理局員推しの女性はただただ、カッチカチに固まって文字通り「フリーズ」してしまって、
その静寂を子狐の、ご褒美ジャーキーを食べる音だけが、ちゃむちゃむ、邪魔しておったとさ。

8/8/2025, 3:15:15 AM

7月27日頃から続いているおはなしも、ようやく今回投稿分で、一段落がつきそうです。

前回投稿分からの続き物。東京から遠く離れた、神秘と秘匿がまだ少しだけ残っている雪国の、真夏の夜の大イチョウの前で、
フッサフサかつモッフモフな、ビッグ狐尻尾を3本生やしたファンタスティック稲荷子狐が、
銀色の光の粒をまとって、こやん、こやん。
イチョウの下にある黒穴を、封印し直して、更に封印を重ねて重ねて、重ねまくっておりました。

黒穴は、異世界とこの世界を繋いでおりました。
黒穴は、異世界の組織に狙われておりました。

「かけまくもかしこき ウカノミタマのオオカミ」
こやん、こやん。
稲荷子狐の光を浴びて、イチョウの葉っぱは銀色に、美しく、まぶしく輝きます。

「キツネのねがい、かなえたまえ。
シモベのことば、ききとどけたまえ。
かしこみ、かしこみ、まをす」
こやん、こやん。
稲荷子狐は光をまとって、大イチョウの木をバックに、美しく、まぶしく輝きます。

「世にマガツコト、ケガレ、モロモロまねく黒穴、
とじたまい、むすびたまえ、かくしたまえ。
かしこみ、かしこみも、まをす」

稲荷子狐が尻尾を振ると、大イチョウの根本から、銀色の光が溢れ出します。
「くそっ、ちくしょう!管理局め!」
黒穴の封印を解いて、この世界と異世界を繋ぎたかった組織の職員が、忌々しそうに叫びます。

「これで安心と思うなよ。俺達は必ず、この世界を滅亡世界の、難民シェルターにしてみせるぞ!」
おぼえてろ!
なんて断末魔を残して逃げていくあたり、すごく小物感ある組織の職員さんを、
別の組織、管理局の局員が追って、闇に消えます。

大イチョウの前に残ったのは、
稲荷子狐をここまで連れてきた藤森と、
その後輩の高葉井と、それから子狐だけ。

ひとしきり宙に浮かんで、かわいらしい舞を踊っておった子狐は、イチョウの封印の術が終わると、
3本だったモフモフ尻尾も、キラキラ輝いていた光のエフェクトも、全部ぜんぶ、
いつもの稲荷子狐に、戻ってしまったのでした。

「ねむい。つかれた」
子狐が特等席の、藤森の腕の中に戻って、ひとつ大きなあくびをして、すぴぃ、すぴぃ。
この世界と別世界を繋ぐ黒穴は、大イチョウの下の異世界は、こうして、閉じられたのでした。

…――さて、そろそろお題を回収しましょう。

翌朝、雪国の田舎を涼しい朝日が染め上げる頃、
朝日の美しい、黄金色ともキツネ色ともつかぬ輝きに当たった大イチョウを、
藤森と高葉井が、ふたり並んで、ドアを開け放ったレンタカーの後部座席に座って、
心地よく、穏やかに、眺めておりました。

「先輩、よく黒穴の封印の方にカジ切ったね」
高葉井が言いました。
「てっきり、『黒穴で繋がった別の世界から、先進技術を持ってきて、気候変動とか希少植物の減少とか、そういう問題を解決しよう!』って立場と」
そういう立場だとばかり、思ってたから。
高葉井が言い終わると、藤森も藤森で、
ため息をひとつ、小さく吐きました。

「そうだな」
藤森は大イチョウの木の下を探検する子狐を見て、
「今でも、バカなことをしたと思っている」
稲荷子狐が土を掘ったり、何か食べたり、その食べたものを慌てて吐き出したりしているのを、ただただ、観察しておりました。

「あのとき子狐に『黒穴を閉じろ』じゃなく、『開けろ』と言っておけば、絶滅危惧種の花を一気に救う技術が手に入っていたかもしれないのに」
「またそんなこと言って」
「だけど、
付烏月さんを撃って、子狐を乱暴に扱うような男の手に、あの黒穴が渡るのは、違うと思ったんだ」

藤森は再度、ため息を吐きました。
「花が好きで、愛した花畑を壊されて、花畑の跡地に今も居る幽霊と会った」
藤森は言いました。
「彼の話を聞いて、彼の後悔を聞いた。
私の心の羅針盤は、それから狂ったんだと思う」

「どういう風に?」
「黒穴の封印を『絶対に解きたい』方から、『本当に解いて全部が解決するのか』という方に」
「どんな話を聞いたの?」
「いろんな話だ」

うん。
心の羅針盤は、それで狂ってしまったんだろうよ。
藤森は小さく、再確認するように呟きます。
藤森の心はまだ揺れて、満足を指したり後悔を指したり、どっちつかずにしておりましたが、
その後悔は、心地よい後悔でした。

「さて。用事も済んだし、東京に戻ろう」
藤森は高葉井に言いました。
「子狐を稲荷神社に返さないと」
肝心の子狐は、さきほど口に入れたものがよほど酷かったらしく、どったん、ばったん。
「イタズラ狐の大イチョウ」と呼ばれた木の下で、激しく悶絶しておったとさ。
しゃーない、しゃーない。

8/7/2025, 9:58:28 AM

前回投稿分からの続き物。
世界線管理局員が、後ろに女性をひとり乗せて、
風吹き花咲く夏の雪国の夜、静かなバイクを駆って大きな大きなイチョウを目指しておりました。

管理局員はビジネスネームを「ツバメ」といい、既に滅んだ異世界の出身。
ツバメの後ろに乗ってツバメのおなかに腕を回している東京都民は名前を後輩、もとい高葉井といい、
なんということでしょう、ツバメのことを、推しとして崇拝しておったのでした。

推しが駆るバイクに乗って合法的に推しにお触りできるって何のご褒美でしょうね(しりません)

「誰か居る」
紅葉してない緑の大イチョウの、輪郭がバイクのライトでぼんやり浮かんだ瞬間、ツバメはイチョウの下の2人+αに気付きました。
「藤森と稲荷子狐と、 カラス査問官??
いや、あれは、『アレ』は……??」

2人のうちの1人は、ツバメが管理局員として、行方を追っていた藤森でした。
藤森の目的は、故郷の雪国に生えている大イチョウの、その下に封印されている黒穴の封印を解いて、
そして、「この世界」と異世界を繋ぐこと。
異世界の先進技術をこの世界に持ってきて、この世界の環境問題を解決すること。

「現在のこの世界」にとって、異世界は「まだ」、非現実的なフィクションの領域。
藤森が異世界の穴を開けば、たちまち大混乱です。
なにより最初から異世界の先進技術に頼っては、せっかくの「この世界独自の技術」が、その成長の道が、ぱったり、閉ざされてしまうのです。
ツバメはこれを阻止するために、藤森を追っておったのでした。

ところで藤森と向かい合っている「カラス査問官」は「誰」でしょう……??

「ツーさま……ツバメさん、あそこ!」
ツバメが「カラス」に気を取られているところに、高葉井が声を張り上げました。
「誰か隠れてる!」

高葉井が見つけたのは、カラスと藤森がなにやら会話をしている地点から、少し離れた暗がりの中。
高葉井の知らない人影が、2人を観察しています。

「おそらく、世界多様性機構の構成員です」
ツバメが言いました。
「藤森さんに異世界のことを吹き込んだ組織です。
イチョウの封印が解けたら、異世界から移民なり船なりを問答無用で呼び寄せる魂胆なのでしょう」
急がないと。手遅れになる。
ツバメはバイクの速度を一気に上げて、ぎゃん!

「飛ばします。しっかりつかまって」
「飛ば、……え、え??」
「口閉じて!」

そして、ショートカットよろしく雪国の夜空に、
駆るバイクを、とばしました。

「ぎゃー!!死んじゃう死んじゃう死んじゃう!」
「そのまま騒いで。隠れている機構のやつを、慌てさせましょう」
「いーーやぁぁぁぁぁーーー!!!」

道路のルートを無視して、慣性の法則に従って、ツバメのバイクが宙を行きます。
「高葉井?!」
自分の後輩たる高葉井の悲鳴に、藤森が空を見上げて、カラスが物陰の中の機構職員に気付き、
しかしどうやら対処が遅かったようで、
『ぐっ、ぅ』
「付烏月さん!」
ドン! 機構職員に何かを撃たれたらしく、藤森に「付烏月」と呼ばれたカラスは、みかん色の光の粒になって、パッと消えてしまいました。

『大丈夫。また、会えるさ』
藤森とカラスの間に何があったか、ツバメも高葉井も知りませんが、
カラスはカラスらしくない、穏やかな口調でもって、おわかれの言葉を藤森に残しました。
『私の憑依先が壊れただけのことだ。

またね、藤森。 かならずや大イチョウを――』

大イチョウを、どうしてほしいのか。
ツバメの同僚、カラスによく似た「誰か」は、
肝心の「そこ」を言わず、ガッツリ今回のお題を回収して、そして、静かに消えました。

「くそっ。やはり管理局にバレてたか」
カラスを撃った機構職員が、暗がりの中から出てきて、そしてササっと大イチョウの封印の鍵を――つまり稲荷子狐を、少し乱暴に掴みました。

「いたい!いたいっ!はなせ!」
ぎゃん!ぎゃん!ぎゃぎゃん!
稲荷子狐がチカラいっぱい威嚇します。
だけど機構の職員は、そのまま稲荷子狐を連れて、
異世界と繋がる黒穴が封印されている、大イチョウに近づいてゆきます。
「稲荷狐さえ手に入れば、こっちのものだ」
機構の職員は勝ち誇って、高らかに、笑いました。

そこに丁度着地したのがツバメのバイク。
「世界線管理局だ、おまえの――!」
おまえの行為は、法に反する可能性がある。
ツバメが大きな声で機構職員に叫ぼうとした、
そのとき、でした。

藤森が前々回投稿分で付烏月から託された「小さな願いが叶う銀色インク」のボトルを開けました。
「こぎつね!」
藤森が叫ぶと、銀色インクが強い光を放ちました。
「大イチョウの黒穴を封印してくれ。
今後、誰も手を出せないように!
どの異世界人もイチョウの下の黒穴を通って、この世界に来れないように!」

「おお、おおお、キツネ、チカラ、わいてきた」
光に包まれた稲荷子狐は、途端にフサフサ狐尻尾がモッフと伸び、2本になり、3本になって、
そして、機構の構成員を、稲荷狐のチカラでもって、弾き飛ばしてしまいました!
「キツネ、くろあなのフーイン、やる!」

そこから先はお題と関係ありませんので、以下略、以下略。それこそ「またね」、なのでした。

8/6/2025, 9:58:41 AM

前回投稿分の続きをご紹介する前に、ササっと今回のお題を回収しましょう。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
その世界が「その世界」で在り続けられるように、他の世界から侵略を受けたりしないように、
あんな仕事やこんな仕事、そんな仕事なんかを、たくさん、引き受けておりました。

特に先進世界から発展途上世界への技術的侵略や、
滅亡世界から生存世界への大量の難民流入、
他の世界から自分の世界への略奪行為、
「その世界」で「それが常識」とされている概念を破壊したり、改変したりするのは、
違法として、徹底的に取り締まっておりました。

たとえば異世界渡航の技術が確立してない科学の世界で、魔法によって異世界を持ってきたりとか。

で、
そんな管理局の昼休憩。
収蔵部の女性局員、ドワーフホトが、
キンキンのに冷やしたコーヒーポーションとマーマレードジャムを混ぜ合わせ、
トポポポしゃわわわ!よく冷えた炭酸水を、上から注ぎ入れて、コーヒー色に泡立てておりました。

「んんー、最高だよぉ」
コーヒーの苦さと、マーマレードの柑橘と、それらに清涼感を与える炭酸。
それらが調和して、ドワーフホトを冷やします。
なにより、コーヒー色した泡です。
この泡が、スモーキーな風味でドワーフホトの鼻と喉と、なにより舌とを楽しませます。

「泡になりた〜い!
ほろ苦いマーマレードコーヒーからのぉ、
濃厚で甘いティラミスからのぉ、
更に、ほろ苦いマーマレードコーヒーぃ」

ああ、ああ!なんと幸福!なんと大人な味!
ドワーフホトがコーヒー色の泡を堪能しておると、

「ほいっ。みやげ」
ドワーフホトの大事な親友、経理部のスフィンクスが、なんということでしょう!
ドチャクソに高い水晶糖のキャンディーケーキを、
それが確実に入っていると分かる紙箱を、
ドワーフホトの前に、差し出したのです!

泡立つマーマレードコーヒーに確実に合います。

「スフィちゃん!どーしたの、それぇ!」
「臨時収入入った」
「『臨時収入入った』、じゃないよー!臨時ボーナスの金額だよぉ。どーしたの、何があったの」
「だから、臨時収入入った。

法務部のカラスのやつが、俺様に『水晶文旦内蔵の人形を、1回使うだけの脆弱強度で良いから、大至急仕立ててほしい』ってよ。
法外吹っ掛けたら、普通に法外持ってきた」
「ほーがい」

わぁ、わぁ。何がどーなったの。
ドワーフホトは幸福と混乱がごっちゃごちゃ。
だけど目の前のケーキがドワーフホトを、上品な香りで呼んでいます。
ひとまずスフィンクスの分のマーマレードコーヒーを作ってやって、ケーキを一緒に食べました。

と、いうことで、
しっかり「泡」のお題を回収したので、ここからが前回投稿分の続きのおはなし。

…――日本から姿を消しつつある希少な花々を救うため、故郷の大イチョウの封印を解除して、
そして、この世界に発展世界の技術を呼び込もうとしている雪国出身者、藤森です。

このたびようやく目的の、大イチョウの前に到着。
紅葉シーズン前の夜ということで、観光客の姿はどこにもありません。

「さあ、着いた」
レンタカーから降りた藤森、封印の鍵であるところの、稲荷子狐を外に出しました。
「巻き込んでしまって、本当に、ほんとうに、すまない。お前の母さんに叱られたら、私に脅されて仕方なかったんだと言ってくれ」

藤森は子狐を撫でました。
子狐が大イチョウの封印を解いて、イチョウの下にあるという黒穴を使用できる状態にしてくれれば、
この世界と先進世界が繋がって、その先進世界の技術が気候変動と環境問題をたちまち解決して、
そして、今もジリジリと数を減らしつつある、藤森が大好きな日本の在来花を、救ってくれます。
「たのんだぞ。子狐」

これ以上、日本の自然が消え去る前に。
先進世界の技術でも取り返しのつかないほど、完全に日本の自然が破壊し尽くされてしまう前に。
どうか、どうか。
藤森は子狐に、祈りました。

「ん!ゆーれーの、におい!」
そんな藤森の祈りもなんのその。
稲荷子狐、知ってる魂の匂いを察知して、藤森の腕の中から脱走、疾走、突撃!
「はなのぼーれー、花の亡霊の、におい!」

子狐が突撃して、飛びかかり、「誰か」の腕の中にスッポリ収まる様子を、藤森は見ました。

「あれ?」
藤森は首を傾けました。
「つうきさん、……付烏月さん?」
その「誰か」は、さきほど祭り会場で別れた同僚で、友人で、実は管理局員だった付烏月でした。

でも様子がヘンです。

『やあ。こんばんは』
「付烏月」が言いました。
『いわゆる憑依というやつだ。この体を借りてでも、どうしても、あなたに伝えたいことがあって』
その口調は、付烏月とは完全に別人で、穏やかな静かさを秘めておったのでした……

Next