完全フィクションでファンタジーなおはなし。
「ここ」ではないどこかの世界に、
お題回収役の後輩、もとい高葉井という東京都民が諸事情によって連れて行かれまして、
ふわふわ、ぷかぷか、ふわふわ、ぷかぷか。
気絶して、自分の意識の中を漂っておりました。
(あれ。私、そもそもなんで気絶したんだっけ)
気絶中の高葉井は、文字通り夢ごこち。
「青く深く」、美しい意識の水底で、気持ち良く、浮き沈みしておりました。
(そもそも私、今どこに居るんだっけ)
さぁさぁ、青く深くプカプカな意識の底から、頑張って脱出してゆきましょう。
まずは状況整理です。
お題回収役の高葉井、ひょんなことから「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織に連れてこられ、
あちこち、潜入したような気がします。
潜入当初は意識があった気がする高葉井。
すごく興奮しつつ、スマホを取り出そうとして、
結局どこかに逃げた記憶が、ぷかり、ぷかり。
(そうだ。私、管理局に来たんだ)
だって「世界線管理局」は、高葉井の推しゲーの舞台にして、高葉井の推しカプ双方の勤め先。
あっちこっちでマルチメディアミックスやら、コラボグッズやら出しておるようなゲームなので、
この「世界線管理局」の建物も、いわゆる「ゲームの舞台を完全再現したアトラクション」のひとつだと、思っておったのでした。
その管理局の中で高葉井、何をしたのでしょう?
(たしか、図書室に入って、その図書室でホト様にすごくよく似たひとに出会って……)
さぁさぁ、青く深くプカプカな意識の、状況整理を続けましょう。
管理局内で推しカプの左側を見つけた高葉井は、
彼の写真を撮りたかったのですが、
高葉井を管理局に連れてきた女性に手を引かれて、
推しから逃げて、図書室に転がり込んだのです。
図書室に高葉井と女性を招いたのは、ゲームキャラ「ドワーフホト」、通称ホト様にドチャクソよく似た顔と声の、おっとりした女性。
まだまだ、この頃は意識がありました。
それからドワーフホトに案内されて、図書室中央の焚き火を見た記憶が、ぷかり、ぷかり。
(そうだ。焚き火が何かの映像を見せてきたんだ)
その焚き火を見た後、高葉井、何をしたでしょう?
(たしか、他の世界からの技術介入で滅んじゃった世界の映像を見て、そのことをホト様たちと話し合って、えーと、えーと……)
そろそろ、青く深くプカプカな意識の、水底から浮上してきましょう。
管理局の図書室で不思議な焚き火を見た高葉井は、
その焚き火があんまり現実離れしておって、
まるで魔法か魔術か、地球とは別の世界のオーバーテクノロジーのように見えたので、
そうです、
「まるで本物の管理局みたい」
と、
ポツリ、言ったのでした。
(そのあと、どうしたっけ)
推しゲーによく似た施設の中で、推しカプの左側の男性に、再度、遭遇したのです。
すなわち図書室の中に推しが入ってきたのです。
(そのあと……どうしたっけ……)
あんまりその人が推しキャラそのまんまの声と顔だったので、尊み成分を急速に、一気に、過剰摂取した格好となったのです。
(それから、 それから……)
ぷかり、ぷかり。青く深くプカプカな意識の底での状況整理は、これでおしまい。
そうです。図書室に来た推しが、推しそのものの表情と声と抑揚とで、自己紹介したのです。
『言っただろう。私は法務部執行課、特殊即応部門のツバメ。 本物だ。君が考えるようなコスプレでも、フェイクでもない。 本人だ』
推しが、実在する。そこで高葉井、尊みがパンクして、気絶してしまったのでした……
(なるほどな。私、本物のツー様と遭遇したから、気絶しちゃったんだ。そっか。そっかぁー……
って!!気絶してる場合じゃないじゃん!!」
ガバチョ!
青く深くプカプカな意識の水底から、高葉井、一気に浮上です。だって推しが目の前におったのです!
「ケームじゃないって、ナンデ?!」
そこはほら、フィクションでファンタジーなおはなしなので。 しゃーない、しゃーない。
今回のお題は「夏の気配」とのこと。
「ここ」ではないどこか別の、遠くとおく離れた、
夏の気配する頃に滅んだ世界のおはなしをご紹介。
「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織には、あらゆる知識と情報と、それから技術と法則とが収蔵された、大きな図書館がありまして、
その図書館の中央に、あらゆる記録と現在と可能性を映し出してくれる、物語のたき火がありました。
それは、
滅んだ世界の過去と、
生存している世界の現在、
やがて生まれる世界の可能性がすべて、
ごっちゃごちゃに混じり合って不思議な魔法の炎を燃やす、「どこかの事実」、物語の神様のたき火。
名前は、タキビ・フシギ・ナンヤーカンヤー。
これからご紹介するのは、このタキビ・フシギ・ナンヤーカンヤーが見せる、滅んだ世界の記憶です。
昔々、だいたい十数年ほど前のことです。
その世界にも四季がありまして、
ことの発端は、春の真っ盛り。
その世界は、環境汚染や人口爆発、食糧不足に資源不足と、大量の問題が完全に山積み。
いわゆる、「発展途上」に分類される世界でした。
なにより魔法資源を過剰に、100年の短期間で抽出しまくってしまいまして。
魔力を取り込んで生きる魔法生物がことごとく、絶滅の危機を迎えておったのでした。
『ああ、暑いな、暑いな』
これ以上、魔力資源を使うのはやめましょう、
今後はすべて、物理資源に頼りましょう。
その世界が打ち出した解決策は、節約・節制。
その世界なりに、解決策を模索しておりました。
『魔力さえ使えれば、こんな温暖化だって、
簡単に気候を調節して、春らしく戻せるのに』
ところでそんな途上世界に、
春の真っ盛りの頃、別の世界から救世主。
いわゆる「先進世界」の技術を引っ提げて、
「世界多様性機構」なる大きな組織が、
その世界の問題を、全部、まるっと、一気に、
解決して、去ってゆきました。
環境汚染は高度な回収・分解技術で。
人口爆発と食糧不足は別世界のスーパーフードとハイテク野菜工場のノウハウで。
資源不足、特に魔力枯渇は、不要な生物の心魂を魔力に変換する魔力炉の導入により潤沢に回復。
『あなたがたの問題は、すべて、別の世界の先進世界が既に経験して乗り越えた問題なのです』
世界多様性機構の職員は言いました。
『先進世界は、問題の解決方法と技術を既に持っている。あなたがたにもそれを共有しましょう』
既に答えの存在する問題で、無駄な犠牲が無駄に生まれないように。
過去に苦難を経験した世界の努力が、今まさに同じ苦難を経験している世界をも、救えるように。
春の盛りに「途上世界」に導入された先進技術は、
すぐにその世界に馴染み、改良や量産も為されて、
そして、世界全体に浸透してゆきました。
ここからがお題回収。
前兆無く、歯車が一気に一瞬で狂ったのは、
春の終わり、夏の気配する頃でした。
『たいへんだ、大変だ!』
環境汚染も資源不足も無くなったその世界が、次に直面したのは世界バランスの崩壊でした。
不要な生物の心魂を魔力に変換する魔力炉を、
大量に、長期間、広範囲で使い過ぎたせいで、
この世界の魔力循環の経路と総量と、なにより均衡とが全部ぜんぶ、一気に崩れてしまったのです。
どうしてでしょう?
この世界は「この世界」であり、
この世界は「炉の技術を開発した先進世界のコピー」ではなかったのです。
どうしてでしょう?
最初から魔力炉の技術を与えられたので、
その世界独自にして、その世界特有の、すなわち「他の先進世界が経験してこなかった問題」を、
完全に、見逃してしまっておったのです。
他の世界では「その技術」を使っても問題なかった魔力の過剰消費と心魂の魔力変換が、
その世界では、宇宙全体を巻き込んで真空崩壊を発生させる引き金となってしまっていたのです。
それは、外の世界が用意した「正解」に頼らず、
自分たちの世界で「解法」を探して、工夫して、失敗して、工夫してを繰り返しておれば、
簡単に、いつかどこかで、判明していたハズのケアレスミスが蓄積しまくった結果でした。
『逃げろ、みんな、逃げるんだ!』
一度崩れたドミノは元に戻りません。
一度崩れたジェンガも元に戻りません。
その世界は一気に崩壊して、滅びました。
すべては春の終わり、夏の気配する頃でした。
他の世界に頼らないこと。
自分のチカラで、自分の問題を解決すること。
このおはなしは、その教訓を、現代の生存世界に伝える良い例として、
不思議なたき火、タキビ・フシギ・ナンヤーカンヤーの炎の中で、ゆらめき続けているのです。
おしまい、おしまい。
前回投稿分からの続き物。
「ここ」ではないどこかの世界に、
全部の途上世界を先進技術で発展させて、全部の滅んだ世界の難民に新しい世界を用意しようとする「世界多様性機構」なる組織と、
そういう過度な技術的侵略、過剰な難民流入「も」取り締まっている「世界線管理局」なる組織が、
それぞれ存在しまして、
機構の方が一方的に、管理局を敵視していました。
というのも「すべての世界を平等に」をモットーに掲げる機構の、やること為すこと全部が「違法」。
滅びそうな世界の生存者を、別の世界へ連れていくのは「密航」にあたるし、
「こっち」の地球が存在する世界のような途上世界に先進世界の技術を普及するのは「密輸」です。
「それ」で誰かが助かるのに、
管理局の連中は「それ」を取り締まるのです。
何故でしょう?
その世界が「その世界」として在るためです。
何故でしょう?
その世界の「その世界」を塗り潰さないためです。
『別の世界に「その世界」で起きている問題の解決策が存在するのに、管理局はどうして「それ」を許さず、取り締まるのかしら』
機構の新人「アテビ」は、気になって気になって、
理由を知るために、管理局に忍び込んだのですが、
そうです、前回投稿分で、潜入がバレたのです。
「逃げなきゃ、逃げなきゃ!」
管理局の法務部に捕まらないように、機構の新人のアテビ、必死になって走りました。
「逃げて、隠れなきゃ!」
だって、自分は機構の職員です。
捕まったら、きっと酷いことをされるのです。
「大丈夫だよ、話せば分かるよ!」
道案内用に一緒に来てもらった女性、高葉井がアテビに言います。けれど、アテビは女性の手を引き、
ともかく、遠くへ、遠くへ。
「ねぇ、管理局のこと、知りたいんでしょ!
そう言いなよ、きっと、分かってくれるよ!」
「高葉井さんは知らないんです、管理局は、とっても恐ろしいところなんです」
「その管理局が、どうしてアテビさんの言う『密航』と『密輸』を取り締まるのか、知りたいんでしょ。逃げてばっかりじゃ何も、」
「だって、捕まったら……!」
管理局に捕まったら、絶対、ぜったい、
機構の自分は、捕まって、拷問を受けるから。
言おうとしたアテビが、口を開いたその時です!
「高葉井ちゃーん、こっち、こっちぃ〜」
おっとりした女性の声が、もちろんそれも、アテビが怖がる管理局員のものでしたが、
逃げるアテビと高葉井を、両開きのドアの向こうから、手招いて、呼んだのでした。
「だいじょーぶ、信じて〜、
あたし、取って食べたりしないからぁ」
「行こう、アテビさん!」
「ダメ、だめです、高葉井さん……!」
ここでようやく、お題回収。
「世界線管理局」なる組織を敵視している「世界多様性機構」のアテビは、
敵視している組織の行動理由を知るために、
まさしく、それをイチバンよく知る者の部屋へ、
東京都民、高葉井とともに、飛び込みました。
さぁ、「まだ見ぬ世界へ!」
「ヒクイドリさん、ヒクイドリ図書室長さ〜ん、
世界多様性機構のアテビさんとぉ、『東京』の高葉井ちゃん、連れてきたよー。
これから勝手に、室内案内するからぁ、見張り、よろしくお願いしまーす」
アテビと高葉井が管理局員に招かれて飛び込んだのは、規格外に大きな図書室。
大量の本がところ狭しと並べられ、
あっちでぴょこぴょこ、そっちでぴょこぴょこ、
魔法のカピバラや機械仕掛けのハタネズミ、宝石でできた木ネズミ等々が、
パタパタ羽ぼうきを使って、掃除をしています。
「収蔵部収蔵課の、ドワーフホトと申しまぁす」
アテビと高葉井を引き入れた管理局員は、名刺をふたりに手渡しして、言いました。
「世界多様性機構のアテビさんと、『東京』在住の、高葉井ちゃんだよね、
図書室長のヒクイドリさんが見張ってくれてるからぁ、もう大丈夫だよぉ。
ようこそ、まだ見ぬ世界へ〜!」
さぁさぁ、あなたの疑問に答えましょう、
さぁさぁ、管理局のモットーを答えましょう。
ドワーフホトは部外者の2人を、
図書室の奥深くへ、案内しました。
「あのねぇ、滅んだ世界の生存者を、全員他の世界に何度も何度も、ずーっと輸送し続けてるとぉ、
かならず、ぜーったい、どこかで『生きてたハズのその世界』が、他の世界の生存者で、パンパンになっちゃうんだぁ」
ドワーフホトが言いました。
それはまさしく、アテビが管理局に忍び込んででも、知りたかった疑問の答えの、ひとつでした。
「あたしたち管理局は、そうならないように、他の滅んだ世界からの密航者を取り締まってるのー。
滅んだ世界の生存者を、見捨てるのかって言われることもあるけどー……
『その世界』が、大勢の『別の世界』のひとに、食いつぶされちゃうのは、違う気がするんだぁ……」
前回と、前々回投稿分から繋がるおはなし。
最近最近、「ここ」ではないどこかの世界に、
「世界線管理局」と「世界多様性機構」という、ガッツリ厨二ふぁんたじーな組織がありまして、
別に管理局の方は、それほどでもないのですが、
機構の方は、管理局を、親の仇も同然に、
それはもう、ドチャクソ敵視しておりました。
打倒管理局!管理局を許すな!
機構はあの手この手で管理局を襲撃して、
しかし結局阻止されるので、
最後の声は、だいたい決まっておりました。
『おのれ管理局!』
というのも世界多様性機構、
滅びゆく世界に取り残された難民を、まだ生きている世界に「密航」の形で渡航させて、
全員、もれなく、余さず救助したり、
発展途上の世界に先進世界の技術を、「密輸」も同然の形で堂々と導入して、
皆に、平等に、先進技術の恩恵を与えたり、
そういうことをしておるのですが、
「その世界はその世界として」のモットーをつらぬく巨大で強大な組織、世界線管理局は、
救助の密航も支援の密輸も全部ぜんぶ取り締まって、機構の邪魔をしてくるのです。
ゆえに、機構の最後の声は「おのれ管理局!」
滅ぶ世界の生き残りを他の世界に移送したり、
貧しき世界を富める技術で発展させたり、
それらの、何が悪いことなのでしょう――?
「私、それを知らなきゃいけない気がするんです」
途上世界に先進世界の技術を大量導入することが善良なことだと思っていた新人機構職員が、
機構の理念に疑問を持ってしまったので、
「こっち」の世界の東京、つまり異世界渡航技術も確立してない途上世界の現地住民ひとりを連れて、
管理局に、答えを探しに行くことにしたのでした。
機構職員は、ビジネスネームを「アテビ」、
東京都民は名前を後輩もとい高葉井といいました。
「わぁ、すごい、ホントに管理局だ」
一緒に管理局に行きましょうと言われた高葉井。
アテビに連れられて、収蔵庫みたいなところからこっそり潜り込んで、アテビの組織の敵であるところの管理局に着きました。
「すっご、すっご。ゲームで見たとおり」
管理局は資金集めや情報発信の目的で、
「こっち」の世界ではいわゆる「マルチメディアミックスな元同人ゲーム」、
「だいぶガチャが優しいソシャゲ」、
「コスメや事務用品等々のコラボグッズが完全に普段遣いできるガチ仕様」のシリーズを展開中。
なので高葉井、異世界の組織に来た認識がありません。完全に「管理局を再現しました」みたいなアトラクション施設にでも招待された気でいまず。
そりゃそうです。
だって異世界も世界間航行も滅亡世界も、
全部ぜんぶ、アニメやゲームの世界のハナシ。
それが実在するなんて、誰も、だれも。
「私達の侵入は、もう管理局にバレてます」
高葉井と一緒に透明マントをかぶって、抜き足。
「『図書室』だけ、行ければ良いんです」
管理局員を避けながら廊下を、差し足。
「図書室には、管理局のほぼほぼ全部の情報が、集まっているそうです。それを、見たい」
なぜ、管理局が私達機構を取り締まるのか、
なぜ、たとえば東京のような途上世界に、先進世界の技術を持ち込んではいけないのか、
アテビはそれが知りたくて、
アテビはその場所に行きたくて、
道案内役として、「ゲームとしての管理局」を熟知している高葉井を、連れてきたのでした。
「あのさ、アテビさん、普通に受付に行って、見学申し込むのはダメなの?」
「無理です。私は、管理局と敵対している、機構の組織の職員なんです。捕まっちゃいます」
「ただの観光施設でしょ、ここ?」
「違うんです。ここは『世界線管理局の』。
本当に、本物の、異世界関係の違法とか航路とかを管理する、大きな組織の中なんです」
「管理局って、ただのソシャゲだよ?元々同人ゲーだったのが、有名になっただけだよ?」
「だから、 違うんです。それから……、
ここには今、高葉井さんの先輩が、藤森さんが、管理局の手によって、連れてこられています」
「んんんんんん????」
なんか、よく分かんない。
異世界渡航をしたことがない高葉井には、アテビの言葉が完全に、ちんぷんかんぷん。
行きたい場所があるなら予約とれば良いのに。
なんでわざわざ、こんなことするんだろう……
と、高葉井が色々考えておった、そのときです!
「そこの女性ふたり、止まりなさい」
敵意の無い敵対組織の人間が管理局に侵入したとの通報を受けて、管理局の法務部局員が、
アテビと高葉井を、見つけてしまったのです!
アテビたちを見つけた局員が、淡々と静かに、どんな温度も無く言った最後の声は、これでした。
「法務部執行課、特殊即応部門のツバメだ。
1人は『東京』の現地住民として、そっちは世界多様性機構の構成員だな。ここに来た目的は?」
さぁ、逃げなきゃ、逃げなきゃ。
アテビは高葉井の手を引っ張って――
愛情、愛憎、友愛、情愛。
愛と言っても色々な種類があるようです。
愛は食卓にもあるし、そのひと手間にも、あいらびゅーがあるのです。
今回はお菓子とお茶と、大量の厨二要素を仕込んだおはなしをご用意しました。
最近最近、「ここ」ではないどこか、別の世界に、
「世界線管理局」という大きな組織がありまして、
その名のとおり、いろんな世界の違法な渡航を取り締まったり、滅んだ世界への航路を封鎖したり、
あるいは、世界Aが世界Bを技術的に侵略したり、大量に移民を流入させたりするのを、阻止したり。
要するに、すべての世界が「自分の世界」として、独立して、自立して、尊重されるように。
世界に関する色々な仕事をしておるのでした。
で、そんな世界線管理局の「小さな愛」ですが、
丁度、収蔵部収蔵課なる部署の、数ある収蔵庫の中のひとつで、収蔵部の局員が、
キレイなクロスをテーブルに敷いて、1杯のお茶を用意しておりました。
茶っ葉をブレンドしている女性局員は、ビジネスネームを「ドワーフホト」といいました。
「おいし〜お茶を、淹れましょー、とんとん、
もてなしのお茶、淹れましょー、たんたん」
ティースプーンで目分量、しゃっしゃパッパとティーポットに、入れて熱湯を落とすドワーフホト。
「あっためた〜ポットの中は、
小さな愛が、とんたんた、とんたんた〜」
その日、ドワーフホトは幸福でした。
というのも今朝、ドワーフホトが管理している担当の収蔵庫に、敵対組織から高級お菓子のスイーツボックスが届いたのでした!
法務部に通報したら、お菓子が取り上げられてしまいますので、自分でトラップや毒の有無を調べて、
けっきょく、完全に、確実に、まったくの無害であることが判明しましたので、
中身をつぶさに確認して、なかなかの量のプチケーキが入っておりましたので、
収蔵庫からテーブルを引っ張り出して、美しいクロスを選んで敷いて、
そして、お茶の用意を始めたのでした。
なんでも現在、管理局に、「攻撃意志の無い敵対組織の構成員」が、忍び込んでおるそうです。
きっと、ドワーフホトの収蔵庫を侵入経路にして、忍び込んだのでしょう。
お菓子が大好きなドワーフホトのことを知っていて、ドワーフホトがお菓子に気を取られている間に、
ドワーフホトの収蔵庫を通って、管理局に入ったのでしょう。
毒も罠も魔法も薬品も何も検出されないプチケーキを置いておくあたり、忍び込んだ「敵対組織の構成員」は、本当に、攻撃意志が無い模様。
であればドワーフホト、今回ばかりは見逃します。
それがドワーフホトの、小さな友愛なのです。
「法務部の即応部門さんに見つかってぇ、あたしの収蔵庫に逃げてきたらー、
そのときは、隠してあげても、やぶさかでな〜い」
いつでも逃げてきて良いよ、
でも早くしなきゃ、お茶もお菓子も食べちゃうよ。
ポットをお湯で満たしたドワーフホトは、キレイな宝石の砂の砂時計をくるりんぱ。
茶っ葉がお湯の色を染めてゆくのを、鼻歌うたいながら、見つめておりました。
ところで「攻撃意志の無い敵対組織の構成員」って結局誰だったのでしょう?
それはほら、「小さな愛」とは関係無さそうなので、
次に配信されるお題次第ということで。
しゃーない、しゃーない。