前回投稿分からの続き物。
世界線管理局員が、後ろに女性をひとり乗せて、
風吹き花咲く夏の雪国の夜、静かなバイクを駆って大きな大きなイチョウを目指しておりました。
管理局員はビジネスネームを「ツバメ」といい、既に滅んだ異世界の出身。
ツバメの後ろに乗ってツバメのおなかに腕を回している東京都民は名前を後輩、もとい高葉井といい、
なんということでしょう、ツバメのことを、推しとして崇拝しておったのでした。
推しが駆るバイクに乗って合法的に推しにお触りできるって何のご褒美でしょうね(しりません)
「誰か居る」
紅葉してない緑の大イチョウの、輪郭がバイクのライトでぼんやり浮かんだ瞬間、ツバメはイチョウの下の2人+αに気付きました。
「藤森と稲荷子狐と、 カラス査問官??
いや、あれは、『アレ』は……??」
2人のうちの1人は、ツバメが管理局員として、行方を追っていた藤森でした。
藤森の目的は、故郷の雪国に生えている大イチョウの、その下に封印されている黒穴の封印を解いて、
そして、「この世界」と異世界を繋ぐこと。
異世界の先進技術をこの世界に持ってきて、この世界の環境問題を解決すること。
「現在のこの世界」にとって、異世界は「まだ」、非現実的なフィクションの領域。
藤森が異世界の穴を開けば、たちまち大混乱です。
なにより最初から異世界の先進技術に頼っては、せっかくの「この世界独自の技術」が、その成長の道が、ぱったり、閉ざされてしまうのです。
ツバメはこれを阻止するために、藤森を追っておったのでした。
ところで藤森と向かい合っている「カラス査問官」は「誰」でしょう……??
「ツーさま……ツバメさん、あそこ!」
ツバメが「カラス」に気を取られているところに、高葉井が声を張り上げました。
「誰か隠れてる!」
高葉井が見つけたのは、カラスと藤森がなにやら会話をしている地点から、少し離れた暗がりの中。
高葉井の知らない人影が、2人を観察しています。
「おそらく、世界多様性機構の構成員です」
ツバメが言いました。
「藤森さんに異世界のことを吹き込んだ組織です。
イチョウの封印が解けたら、異世界から移民なり船なりを問答無用で呼び寄せる魂胆なのでしょう」
急がないと。手遅れになる。
ツバメはバイクの速度を一気に上げて、ぎゃん!
「飛ばします。しっかりつかまって」
「飛ば、……え、え??」
「口閉じて!」
そして、ショートカットよろしく雪国の夜空に、
駆るバイクを、とばしました。
「ぎゃー!!死んじゃう死んじゃう死んじゃう!」
「そのまま騒いで。隠れている機構のやつを、慌てさせましょう」
「いーーやぁぁぁぁぁーーー!!!」
道路のルートを無視して、慣性の法則に従って、ツバメのバイクが宙を行きます。
「高葉井?!」
自分の後輩たる高葉井の悲鳴に、藤森が空を見上げて、カラスが物陰の中の機構職員に気付き、
しかしどうやら対処が遅かったようで、
『ぐっ、ぅ』
「付烏月さん!」
ドン! 機構職員に何かを撃たれたらしく、藤森に「付烏月」と呼ばれたカラスは、みかん色の光の粒になって、パッと消えてしまいました。
『大丈夫。また、会えるさ』
藤森とカラスの間に何があったか、ツバメも高葉井も知りませんが、
カラスはカラスらしくない、穏やかな口調でもって、おわかれの言葉を藤森に残しました。
『私の憑依先が壊れただけのことだ。
またね、藤森。 かならずや大イチョウを――』
大イチョウを、どうしてほしいのか。
ツバメの同僚、カラスによく似た「誰か」は、
肝心の「そこ」を言わず、ガッツリ今回のお題を回収して、そして、静かに消えました。
「くそっ。やはり管理局にバレてたか」
カラスを撃った機構職員が、暗がりの中から出てきて、そしてササっと大イチョウの封印の鍵を――つまり稲荷子狐を、少し乱暴に掴みました。
「いたい!いたいっ!はなせ!」
ぎゃん!ぎゃん!ぎゃぎゃん!
稲荷子狐がチカラいっぱい威嚇します。
だけど機構の職員は、そのまま稲荷子狐を連れて、
異世界と繋がる黒穴が封印されている、大イチョウに近づいてゆきます。
「稲荷狐さえ手に入れば、こっちのものだ」
機構の職員は勝ち誇って、高らかに、笑いました。
そこに丁度着地したのがツバメのバイク。
「世界線管理局だ、おまえの――!」
おまえの行為は、法に反する可能性がある。
ツバメが大きな声で機構職員に叫ぼうとした、
そのとき、でした。
藤森が前々回投稿分で付烏月から託された「小さな願いが叶う銀色インク」のボトルを開けました。
「こぎつね!」
藤森が叫ぶと、銀色インクが強い光を放ちました。
「大イチョウの黒穴を封印してくれ。
今後、誰も手を出せないように!
どの異世界人もイチョウの下の黒穴を通って、この世界に来れないように!」
「おお、おおお、キツネ、チカラ、わいてきた」
光に包まれた稲荷子狐は、途端にフサフサ狐尻尾がモッフと伸び、2本になり、3本になって、
そして、機構の構成員を、稲荷狐のチカラでもって、弾き飛ばしてしまいました!
「キツネ、くろあなのフーイン、やる!」
そこから先はお題と関係ありませんので、以下略、以下略。それこそ「またね」、なのでした。
8/7/2025, 9:58:28 AM