前回投稿分の続きをご紹介する前に、ササっと今回のお題を回収しましょう。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
その世界が「その世界」で在り続けられるように、他の世界から侵略を受けたりしないように、
あんな仕事やこんな仕事、そんな仕事なんかを、たくさん、引き受けておりました。
特に先進世界から発展途上世界への技術的侵略や、
滅亡世界から生存世界への大量の難民流入、
他の世界から自分の世界への略奪行為、
「その世界」で「それが常識」とされている概念を破壊したり、改変したりするのは、
違法として、徹底的に取り締まっておりました。
たとえば異世界渡航の技術が確立してない科学の世界で、魔法によって異世界を持ってきたりとか。
で、
そんな管理局の昼休憩。
収蔵部の女性局員、ドワーフホトが、
キンキンのに冷やしたコーヒーポーションとマーマレードジャムを混ぜ合わせ、
トポポポしゃわわわ!よく冷えた炭酸水を、上から注ぎ入れて、コーヒー色に泡立てておりました。
「んんー、最高だよぉ」
コーヒーの苦さと、マーマレードの柑橘と、それらに清涼感を与える炭酸。
それらが調和して、ドワーフホトを冷やします。
なにより、コーヒー色した泡です。
この泡が、スモーキーな風味でドワーフホトの鼻と喉と、なにより舌とを楽しませます。
「泡になりた〜い!
ほろ苦いマーマレードコーヒーからのぉ、
濃厚で甘いティラミスからのぉ、
更に、ほろ苦いマーマレードコーヒーぃ」
ああ、ああ!なんと幸福!なんと大人な味!
ドワーフホトがコーヒー色の泡を堪能しておると、
「ほいっ。みやげ」
ドワーフホトの大事な親友、経理部のスフィンクスが、なんということでしょう!
ドチャクソに高い水晶糖のキャンディーケーキを、
それが確実に入っていると分かる紙箱を、
ドワーフホトの前に、差し出したのです!
泡立つマーマレードコーヒーに確実に合います。
「スフィちゃん!どーしたの、それぇ!」
「臨時収入入った」
「『臨時収入入った』、じゃないよー!臨時ボーナスの金額だよぉ。どーしたの、何があったの」
「だから、臨時収入入った。
法務部のカラスのやつが、俺様に『水晶文旦内蔵の人形を、1回使うだけの脆弱強度で良いから、大至急仕立ててほしい』ってよ。
法外吹っ掛けたら、普通に法外持ってきた」
「ほーがい」
わぁ、わぁ。何がどーなったの。
ドワーフホトは幸福と混乱がごっちゃごちゃ。
だけど目の前のケーキがドワーフホトを、上品な香りで呼んでいます。
ひとまずスフィンクスの分のマーマレードコーヒーを作ってやって、ケーキを一緒に食べました。
と、いうことで、
しっかり「泡」のお題を回収したので、ここからが前回投稿分の続きのおはなし。
…――日本から姿を消しつつある希少な花々を救うため、故郷の大イチョウの封印を解除して、
そして、この世界に発展世界の技術を呼び込もうとしている雪国出身者、藤森です。
このたびようやく目的の、大イチョウの前に到着。
紅葉シーズン前の夜ということで、観光客の姿はどこにもありません。
「さあ、着いた」
レンタカーから降りた藤森、封印の鍵であるところの、稲荷子狐を外に出しました。
「巻き込んでしまって、本当に、ほんとうに、すまない。お前の母さんに叱られたら、私に脅されて仕方なかったんだと言ってくれ」
藤森は子狐を撫でました。
子狐が大イチョウの封印を解いて、イチョウの下にあるという黒穴を使用できる状態にしてくれれば、
この世界と先進世界が繋がって、その先進世界の技術が気候変動と環境問題をたちまち解決して、
そして、今もジリジリと数を減らしつつある、藤森が大好きな日本の在来花を、救ってくれます。
「たのんだぞ。子狐」
これ以上、日本の自然が消え去る前に。
先進世界の技術でも取り返しのつかないほど、完全に日本の自然が破壊し尽くされてしまう前に。
どうか、どうか。
藤森は子狐に、祈りました。
「ん!ゆーれーの、におい!」
そんな藤森の祈りもなんのその。
稲荷子狐、知ってる魂の匂いを察知して、藤森の腕の中から脱走、疾走、突撃!
「はなのぼーれー、花の亡霊の、におい!」
子狐が突撃して、飛びかかり、「誰か」の腕の中にスッポリ収まる様子を、藤森は見ました。
「あれ?」
藤森は首を傾けました。
「つうきさん、……付烏月さん?」
その「誰か」は、さきほど祭り会場で別れた同僚で、友人で、実は管理局員だった付烏月でした。
でも様子がヘンです。
『やあ。こんばんは』
「付烏月」が言いました。
『いわゆる憑依というやつだ。この体を借りてでも、どうしても、あなたに伝えたいことがあって』
その口調は、付烏月とは完全に別人で、穏やかな静かさを秘めておったのでした……
8/6/2025, 9:58:41 AM