かたいなか

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7月27日投稿分から続いた一連の物語も、今回でようやくのエピローグ。
異世界から来た組織その1、「世界多様性機構」の職員さんが、小物感ある負け惜しみを吐き捨てて、
前回までの物語の舞台であった夏の雪国から、都内某所に戻って来ておりました。

世界多様性機構は、発展途上であるところのこの世界を、他の世界の難民のために狙っておりました。
この世界を難民シェルターにしてやろうと思って、
日本の某雪国に存在する、大きな大きな大イチョウ、その下の「異世界に通じる黒穴」を、
封印から、解き放とうとしておったのでした。

なお、この世界の難民シェルター化計画ですが、前回投稿分のおはなしで失敗した模様。
せっかく異世界に繋がる黒穴の鍵を持ってきてもらえたのに、その鍵でもって黒穴を、
開けるんじゃなく、閉められてしまったのです。

「黒穴を閉められるとは、予想外だったぜ」
さて。多様性機構の支援拠点、「領事館」に戻ってきた小物さんです。
この世界の現地住民をそそのかして、せっかく良いところまで計画は進んだのに、
そそのかした現地住民本人に裏切られるとは。
小物さん、思わなかったのです。

「まぁ、良い」
しょせん、別世界とこの世界を繋ぐ穴の、鍵を閉められただけのハナシだ。小物さんは言います。
「黒穴の場所は分かった。あとは……」

あとは、閉められた鍵を壊すなり、ピッキングするなり、小物さんが所属する「世界多様性機構」のチカラを使えばどうとでも。
そう思っておった小物さんは、ひとまず本部に黒穴の情報を提供しようと思って、

こっちの世界の領事館と、向こうの世界の世界線管理局本部とを繋いでいるドアを、
くぐって別の世界に行こうと思ったのですが、
「あれ?」
何故でしょう、ドアのメンテナンス中でしょうか、
いつもは簡単に向こうの世界へ行けるのに、
今日はドアが向こうの世界に、ちっとも、少しも、繋がっていません。ドアが完全に閉じています。

「ウソだろ?」
小物さん、ここでお題回収です。
「夢じゃないのか? えっ? なんで??」

「不思議ですよね。あなたが帰ってくる数時間前から、ずっとその状態なんですよ」
領事館で一緒に仕事をしている、「アスナロ」というビジネスネームの女性が言いました。
「問い合わせてみたら、こちらの世界と向こうの世界の繋がりが、完全に封鎖されてしまってるとか」

なんなんでしょうね。まったく。
首を傾けるアスナロです。
小物さんは「自分が帰ってくる数時間前から」の異常に、心当たりがありました――…

…――いっぽう、この世界を別の世界と繋ぎたい「世界多様性機構」と反対に、この世界を別の世界から守るポジションの異世界組織もありまして、
そちらは名前を「世界線管理局」といいました。

世界多様性機構による侵略まがいの計画が、一時的に阻止されたのを見届けた法務部局員が、
報告書を作るため、こっちの世界から向こうの世界に、戻ろうとしておったのですが。

「そうなんですよ、戻ろうとしていたのですが、
私達がこっちの世界から、私達の世界へ行き来するためのゲートが、完全にフリーズしてまして」

そうです。
世界多様性機構の異世界ドアが使えなくなって、
この世界と別の世界が通行止めになったように、
世界線管理局の異世界ゲートも使えなくなって、
この世界と別の世界が通行止め状態なのです。

「最初は緊急メンテナンスかと思ったのですが」
この世界を守る方の局員、黒穴の封印を守る派の男性が、頭をガリガリ言いました。
「そもそも論として、どうも、世界と世界を繋いでいるゲートに、なにか協力な『封印』のようなものが為されてしまっているようでして」

多分というか十中八九、「このコ」の影響ですね。
そう続けて男性は、思い当たるフシを見ました。
「『この世界と別の世界を繋ぐ穴』を全部ぜんぶ封印してしまったんだろうな……」

男性の視線の先には、「大イチョウの下の黒穴」を封印した稲荷の子狐。
別世界からの侵略を阻止して、管理局から褒められて、ご褒美のジャーキーや稲荷寿司もどっさり!
「おいしい。おいしい」
その子狐は神秘のチカラで、異世界とこの世界を繋いでいる日本中の「穴」という「穴」を、
全部、閉じてしまったのです!

「え、じゃあ、これからどうするんですか」
管理局を推している女性が聞きました。
「こちらからは、どうにもなりません」
管理局の男性が秒で即答しました。

仕方ないのです。稲荷の御狐様が、高度かつ上位の秘術でもって、キツく扉を閉じてしまったのです。
解除するには相当の魔力なり、相応の代償なり、
ともかくドチャクソなコストがかかるのです。

「こちらの世界と私達の世界を、再度接続して、ゲートを再起動して、安全確認とチェック。
数日から数週間、場合によっては数ヶ月です」
「すうかげつ」
「さすがに無いとは思いますが、向こうの世界の同僚が、『この世界とのゲートが使えない』ということに気づかなければ、数年でも、数十年でも」
「すーじゅーねん」

「つまり私達はこの世界から出られない。
当分こっちの世界にご厄介です」
「ツー様と、ルー部長が、こっちの世界に。
夢じゃないよね」
「夢じゃないですね……」

ということで、よろしく。
管理局員が言いました。
管理局員推しの女性はただただ、カッチカチに固まって文字通り「フリーズ」してしまって、
その静寂を子狐の、ご褒美ジャーキーを食べる音だけが、ちゃむちゃむ、邪魔しておったとさ。

8/9/2025, 9:33:42 AM