7月27日投稿分から続いているおはなしも、そろそろクライマックスが近づいてきている模様。
今回のおはなしは、前回投稿分からの続き物。
お題回収役の雪国出身者、藤森が、
異世界の厨二ふぁんたじー組織①の「世界多様性機構」から情報を吹き込まれ、
厨二ふぁんたじー組織②の「世界線管理局」から追われつつ、小さなボトルを託されつつ、
藤森の故郷、風吹き花咲く雪国の、大きくて不思議な大イチョウを目指して、
レンタカーを、走らせておりました。
「やー、まさか藤森、きみとウチの特殊即応部門のカラスが知り合いだったなんて!」
もぞもぞもぞ。
藤森の胸ポケットから、言葉を話す不思議なハムスターがコンニチハ。藤森に話しかけます。
「どこで知り合ったの?きっかけは?」
カラスとは厨二組織②の管理局員、そのひとり。
不思議ハムスターの、部署違いの同僚でした。
藤森は絶賛混乱&困惑中。
そりゃそうです。自分の友人が異世界人だと、友人自身から突然自己紹介されたようなものです。
なんならその異世界人の友人が、自分を追っかけて捕まえようとしている組織の人間だったのです。
そりゃ混乱するし、困惑もします。
「10年ほど前だ」
藤森が浮かない顔して答えました。
「故郷から上京して、数年で東京と田舎のギャップに揉まれていた頃、転職先の図書館で出会った。カラスではなく、ツウキと名乗って」
その付烏月さんが、異世界組織の人間だったとは。
小さなため息を吐いた藤森は、レンタカーをちょっとだけ路肩に停めました。
「小さな願いが叶うインク……か」
実は異世界人で、現在藤森を追いかけている側の職員だった友人、付烏月と書いて「ツウキ」と読む男から、藤森は小さなボトルを貰いました。
「3個まで、願い事が叶う。
まるで昔話か、童話のおはなしの中だ」
付烏月から貰ったボトルの中身は、美しい銀色をした、付烏月曰く「夢見猫の銀色インク」。
大きな奇跡は起こせなくても、小さな願い事であれば、3個は叶えることができるとのこと。
「本当だろうか」
藤森は半信半疑でした。
実は付烏月に全部騙されておって、彼は藤森が大イチョウの封印を解除するのを邪魔したいのかもしれないと、少し、思いました。
でも藤森の知る付烏月は、あの友人は、
そんな面倒くさいことするでしょうか?
「このインクが本領発揮するのはね、」
不思議ハムが証言しました。
「本当は、専用のペンに入れることで、発揮されるんだ。インク単体じゃ魔法のチカラは使えない。
だけど、うん、この量なら、小さい願いであれば」
不安なら、1回だけ試してみなよ。
間違いなく叶うだろうから。
不思議ハムはニヤニヤと、まるで勝ち誇ったように、笑いました――だってハムは、藤森が受け取ったインクのことを、藤森より知っておるのです。
さてここでお題回収。
実はこのレンタカー、藤森と不思議ハムの他に、
大イチョウの封印を解く鍵となる稲荷子狐も乗っており、夏祭りの会場で「葉月牛」なる個人ブランド和牛の牛串を、しこたま食ったのです!
葉月といえば8月。8月といえば夏。
コンコン子狐、願いが3回叶うインクのハナシを聞いて尻尾をぶんぶん!
「わぎゅう!わぎゅう!たべる!食べたい!」
ここココンコンコン、ここココンコンコン!
夏祭りの会場で食べた、夏の名を持つ和牛串の、
したたる肉汁、甘い脂、やわらかい身にメロメロ!
しめ縄つけたキャリーケースから飛び出して、藤森が持つ小さなボトルに、強くつよく願いました。
「子狐、あれだけ食ったのに、まだ食うのか??」
「たべる!食べる!わぎゅう!
キツネわぎゅう食べる、インクさん、わぎゅう出して、いっぱい出して、どっさり出して!
夏のわぎゅう!おいしいわぎゅう!おにく!」
「あのな子狐、このインクは3回しか使えn」
「おにく!おにく!」
いでよ、夏の名を持つお肉、夏の祭りに従う牛串、
3個くらい前の投稿分で藤森の現金を一気に減らした張本人にして1本500円。
「おにく!」
子狐が強く強く願うと、なんということでしょう、
藤森の手の中の、小さなボトルに入ったインクが、
淡く美しい光を出して、光量は次第に強くなり、
やがて、ぽん!!
小さな輝きを車内に爆発させると、藤森が借りたレンタカーの中を、葉月牛の牛串で牛々に……ぎゅうぎゅうに満たしたのです!
「うっっッそだろ?!」
「おにく!おにく!ただいま、夏のわぎゅう!」
ただいま、夏。
ただいま、葉月牛。
ただいま、子狐が大量に食い、更におかわりを所望しておるところの、夏の名を冠する牛の串。
子狐の興奮と幸福は絶好調です!
「おいしい、おいしい、おいしい!」
むしゃむしゃむしゃ、ちゃむちゃむちゃむ!
小さな願いを3回叶えるという銀色インクは、子狐の食いしん坊を叶えて、残り2回。
「もう1回使って、レンタカー掃除してもらう?」
不思議ハムが言いました。
「いや、」
じゅーじゅーアツアツの牛串から避難する藤森は、
「ちょっと、かんがえる……」
子狐が牛串を秒で胃袋に収容するのを、チベットスナギツネの視線で、見ておったとさ。
前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内、某稲荷神社を出発したレンタカーは、運転手の故郷ちかくの祭り会場に到着。
運転手は名前を藤森といい、
故郷の大イチョウの木の下に封印されているという、「異世界と繋がっている黒穴」に用があった。
その黒穴の封印さえ解除すれば、発展途上であるこの世界と先進世界とが繋がって、
文字通り「規格外」の先進技術により、気候変動をたちまち解決できるという。
藤森に黒穴の情報を耳打ちして、黒穴の封印を解かせようとしているのが「世界多様性機構」。
黒穴の封印を解かせまいと、藤森の車を追いかけるのが「世界線管理局」。
藤森はただ、気候変動と地球沸騰、技術開発によって数を減らし続ける希少な花々を救いたくて、
機構の耳打ちに乗り、管理局の監視と追跡から隠れて逃げて、レンタカーを走らせた。
異世界組織から情報を得て、
異世界組織に追われながら、
異世界とこの世界を繋ぐという穴に向かう。
藤森の夏は完全にスペクタクルである。
休憩と、それから稲荷神社から借り受けた子狐の機嫌取りのために立ち寄った夏祭り会場で、藤森は職場の同僚とバッタリ出会った。
同僚は名前を、付烏月と書き、「ツウキ」と読む。
お題回収はここから。
祭り会場から離れた暗闇で、藤森と付烏月は炭酸飲料の缶を手に隣り合って座って、片方は無口。
藤森だ。 付烏月は無言の藤森に、何十分、1時間以上、自身の立ち位置と心境を語っている。
付烏月がまさかの、藤森を追う側の組織所属、
世界線管理局の制服を着ていたのだ。
「なぁ藤森。ゴメンって。俺が管理局の人間だったのを黙ってたのは謝るって。許してよん」
「……」
「ハナシだけでも、ねぇ、聞いてって藤森。
ホントに俺、お前と敵対するつもりは無いって」
「……」
「ふーじーもーりぃー……」
夜であった。
祭り会場の十数キロ先、藤森と付烏月の視線の先では、美しい花火が10発20発。
気まずい2人との対比に、明るく、美しく。
周囲を照らして破裂音を置き去りに、光の芸術を遠方まで届けている。
『ぬるい炭酸と無口な君』。
露店で購入した炭酸飲料は、手の温度と時間経過でぬるくなっており、藤森は口を閉じている。
藤森の胸中は完全に混乱していた。
今まで都内の私立図書館で一緒に仕事をしていた付烏月は、藤森に多くの知識と知恵を――特に「ちょっとした心理学と脳科学」とを、少し吹き込んだ。
約10年前の藤森は付烏月のおかげで、少し人付き合いが得意になったし、
去年の藤森は付烏月のアシストで、とある長年の問題を解決することができた。
付烏月は自分の味方であると、藤森は確信し続けていたし、事実付烏月もそのように在った。
そんな付烏月が、まさかの「藤森を追跡する側の制服」を着て、藤森の隣に座っている。
何が目的だろう。
藤森は付烏月の意図が分からない。
付烏月はイタズラを好むパティシエだが、決して、断じて、頭の悪い男ではない。
藤森が故郷の大イチョウの封印を解き、先進世界とこの世界を繋ごうとしていることは、管理局員なら当然の情報として掴んでいただろうし、
その管理局の制服を着て藤森の目の前に出てきたら、藤森自身がどう感じるかなど、数パターンのシナリオで想定できているハズの男である。
何が、目的だろう。
何故わざわざ、今日この日に、管理局員としての身分を開示して自分と合流したのだろう。
ぬるくなった炭酸飲料をそのままに、藤森はただ考えて、予想して、結局思考が全部とっちらかった。
付烏月さんはどっち側の人間だ??
「俺は、俺の宝物の味方だよん」
藤森の混乱を見透かす付烏月の返答は軽かった。
「だけど、俺が異世界組織の人間なのも事実で、
俺の所属してる部署が、お前のことを追っかけて、捕まえようとしてるのも事実。
それだけだ。 それだけだよ。藤森」
トン、と藤森のヒザの上に、銀色の液体で満たされた小さなボトルが置かれた。
「お前にこれを、届けたかったんだ」
付烏月は言った。
「管理局収蔵品、『夢見猫の銀色インク』。
本来の使い方とは違うけど、これだけの量があれば、小さな願い事なら3個は叶う。
自分が居る場所の未来を覗くとか。
自分の姿を十分くらい透明にするとか。
自分が居る場所の過去に飛んで、1株だけ、『お前が本当に救いたかった花』を取ってくるとか」
よくよく考えて使うんだよ。
なんてったって、願い事が叶うインクだから。
付烏月はそう言って立ち上がり、無言で困惑の目を見開く藤森の視線を受けた。
「じゃあね。藤森」
付烏月が言った。
「『ここ』は俺が、管理局のカラスとしてじゃなく、お前の友人の付烏月として、引き受けるから」
どういうことだ?
藤森が首をかしげる間もなく、背後から声がして、
藤森はすぐ「ここ」の意味を理解した。
「世界線管理局法務部、執行課のルリビタキだ。
藤森、お前が大イチョウの封印を解いてこの世界と別の世界を繋ぐつもりなら、
お前を一時的に、この世界の脅威として拘束する」
「行け!藤森!」
戸惑う藤森の背中を付烏月は力強く押した。
「機構にそそのかされてじゃなく、管理局に禁止されてでもなく、お前の考えのために!」
前回頃投稿分から続くおはなし。
最近最近の東京をはじめ、この世界全体全土の、気候変動と希少種の花の減少を心配している雪国出身者がおりまして、名前を藤森といいました。
真面目で心優しい藤森に、異世界からやってきた組織その1が、耳打ちします。
『おまえの故郷のイチョウの下に、この世界と別の世界とを繋ぐ黒穴がある』
『イチョウの封印を、稲荷神社の狐で解除すれば、
気候変動も猛暑も酷暑も、先進世界の技術でもって、たちまち、解決することができる』
近所の稲荷神社の稲荷狐に、全部の情報を共有した藤森は、稲荷狐からその子供を借り受けて、
レンタカーで、故郷の雪国へ向かったのですが。
この子狐、はじめて東京から出ましたので、
なにより8月ということで、あっちこっち夏祭りなどして露店においしい料理が勢揃いなもので、
コンコン、こんこん!
藤森が余裕をもって引き出しておいた現金の大半を、美味しいお肉と郷土料理とお肉とスイーツと、それからお餅とお肉とに変えて、
胃袋に全部ぜんぶ、収容してしまったのです。
地元の露店の店主さんは皆みんな商売繁盛。
さすが、稲荷神社の神様の遣い。さすが稲荷狐。
「おいしかった」
ぺろり!鼻についた和牛串の脂を幸福に舐めて、小さな狐のお面を頭につけて、稲荷子狐は大満足!
シメにバニラシェークをチューチューして、ポンポンおなかを膨らませるのでした――…
と、いう我が子の経済活動を、狐の磁場だか神使の霊気だか、ともかくナニカで察知したのが、
子狐を藤森に託した、稲荷神社の両親狐。
「あの子が遠く離れた雪国の夏祭りで、盛大に経済を回してる気配がする。良いことだ」
お父さん狐は先天的な、ネイティブ稲荷狐。
稲荷狐の本能として、商売繁盛と五穀豊穣と、その他諸々がとっても大好き。
すごく優しそうな笑顔をしています。
「しかし、お得意様……人間の方は、路銀が一気に減ってしまったようです」
お母さん狐は本州最北端県から嫁いできた、小さな霊場出身の、後天的稲荷狐。
狐の秘術で手紙を書いて、狐の秘術でそれをぴらぴら、浮かせて飛ばします。
「あの子の飲食代と土産代くらいは、私達が持ってやっても良いでしょう」
さぁ、手紙よ、稲荷狐が書いた不思議な手紙よ。
狐の秘術の波に乗って、愛しい愛しい子狐の手へ。
波にさらわれた手紙は、さっそくお題を回収。
たった数秒で、故郷雪国のイチョウのもとへ向かう最中の藤森のところへ――…
飛んでいったハズなのですが、あらあらまぁまぁ、なんということでしょう!
秘術の波にさらわれた手紙は、数秒で雪国の夏祭り会場に居る藤森のもとへたどり着いたものの、
いっちょまえに慣性の法則に従ってしまって、
受け取ろうにも手紙側のブレーキのききが悪い!!
「おい!子狐!」
稲荷子狐のお母さんから手紙が届くことは、子狐本人もとい本狐から聞いていた藤森です。
「届く手紙がこのスピードとは聞いていないぞ!」
祭り会場から少し離れたところで待っておったところ、自転車くらいのスピードで、ゆらゆら!
藤森の目の前を、通り過ぎてゆきました。
「かかさんが、おかね、おくってくれた」
それ走れ、やれ追いつけ、頑張って掴み取れ!
お母さん狐が飛ばしてくれた封筒を、藤森も子狐も、頑張って追いかけます……
が、なにぶんブレーキのききが悪いので云々。
「おとくいさん、がんばって、はしって」
「もう走ってる!」
「もっとはしって、もっと、もっと」
「殺す気か!!」
「ねぇ藤森、カラスとの合流だけど」
「いま忙しい!!」
くそっ、自転車もレンタルしてくれば良かった!
軽く後悔する藤森が、一生懸命走る、はしる。
ようやく秘術の波にさらわれた手紙に追いつくと、
「よっ、久しぶり、藤森」
その手紙を、藤森の同僚、付烏月と書いて「ツウキ」と読む男性が、ぱしっ!掴みました。
「ずいぶん疲れてるじゃん。運動不足〜?」
やーやー、大変だねぇ。
明るく笑う付烏月は、藤森や付烏月がいつも職場で着ている私立図書館職員の制服ではなく、
別の制服を、着ておりました。
「付烏月さん?」
何故あなたが、東京から離れたこの場所に?
藤森が聞こうとしたその言葉を、藤森の胸ポケットから出てきた不思議なハムスターが、止めました。
「藤森。彼が、僕たちと合流したがってた世界線管理局の局員。『カラス』だ」
不思議ハムが言いました。
世界線管理局とはつまり、不思議ハムの職場。
異世界に本部を持つ、とても不思議な組織でした。
7月27日か28日か、そのあたりの投稿分から始まったおはなしも、折り返しやら終盤やら。
最近最近、藤森という雪国出身者が、異世界から来た厨二ふぁんたじー組織その1の耳打ちで、
稲荷神社の稲荷子狐と一緒に、自分の故郷の大イチョウへ、レンタカーで向かっておりました。
藤森の目的は、大イチョウの下にあるという、黒い大穴の封印を解除すること。
藤森は異世界組織その1から言われたのです。
『大イチョウの封印さえ解けば、黒穴が別の世界と繋がって、先進世界の技術を導入できる』
『お前の世界はまだ発展途上。
お前の世界と先進世界が繋がれば、先進技術でもって気候変動など、簡単に解決できる』
藤森は日本の古き善き自然を、田畑の原風景を、故郷の美しい在来花を、深く愛していました。
それらが今急速に、気候変動や無理な土地開発、自然破壊的な土地利用によって失われているのも、よくよく、知っておりました。
その1組織は藤森の自然を愛する心に入り込み、
イチョウの封印を、解かせようとしたのです。
その1組織が敵視している、異世界組織その2から隠れながら、逃げながら、高速道路を避けて一般道と裏道を使い分けて、
途中でその2組織所属のハムスターを仲間にして、
藤森はレンタカーで1日2日、故郷の雪国に、
到着したは良かったのですが。
気がつけばもう、8月です。
藤森は8月の故郷に戻ってきました。
そして8月は、藤森の故郷の雪国の、大イチョウが待つ町の隣の隣の隣あたりで、
小さな町の、夏祭りが開催されておりました。
露店です。出し物です。町の伝統芸能の披露です。
何が言いたいって、稲荷神社の稲荷子狐、お祭りが大好きだし、美味しいものが大好きなのです。
大イチョウに向かう道中で祭りののぼり旗を見つけた子狐はレンタカーの中で大暴れしました。
「おまつり!おまつり!おもち!おにく!」
「子狐、危ないから車の中で暴れないでくれ!」
「おにく!おまつり!おにく!
キツネ、おまつり、行く!つれてけっ、おにく!」
「用事がすべて終わっt」
「やだやだやだ!おまつり!キツネつれてけ!
キツネおにく食べる!おもち食べるぅ!」
「こぎつね……」
あーもう。 ああーもう。
藤森が長く大きなため息を吐いている間、稲荷子狐はぎゃんぎゃんぎゃん!大フィーバーです。
なんなら、のぼり旗の中に
『雪国和牛食べくらべフェス 開催中』
『葉月牛』
なんてキャッチーを見つけてしまってさぁ大変。
「わぎゅ!わぎゅう!!キツネこの漢字よめる!
わぎゅう!ビーフ!キツネ、わぎゅう食べる!
はづきぎゅう食べる!わぎゅう!!」
ああ、嗚呼、葉月牛なる個人ブランド牛!
8月、君に会いたい!
ガッツリお題回収をキメて、稲荷子狐、バイブスが最高潮に達しています。尻尾が高速回転です。
「ちょっとくらい、良いんじゃない?」
藤森の胸ポケットで昼寝をしておったハムスター、すなわち異世界組織その2の局員が、
もぞもぞ、ポケットから出てきて言いました。
「僕の同僚に『カラス』ってビジネスネームのやつが居るんだけど、そいつが藤森、きみと合流したいらしいし。露店でも見ながら待ってようよ」
「からす……???」
「僕たちはビジネスネーム制を採用してるんだ。
僕はカナリア、そいつはカラス、藤森を追っかけて隣の隣の県で『なぜか』『何かの影響で』足止め食らってるのがルリビタキとツバメ」
「はぁ」
「図書館の宇宙タコは始祖鳥だよ」
「としょかんの、うちゅう、……タコ???」
「うん。宇宙タコ」
和牛!和牛!葉月牛!8月牛!
稲荷神社の稲荷子狐、祭り会場まで続くのぼり旗の数が増えてきまして、8月8月の大合唱。
8月、8月、君に会いたい!
葉月牛とは単純に、生産者たる葉月さんの名字をとっての名前ですが、子狐それを知らぬようです。
8月に食う和牛の総称、と思っておるのでしょう。
「僕にも何か買っておくれよ。ナッツ系のやつ」
「何故私が?」
「だって僕の給料、こっちの世界のお金じゃないもん。後払いするから先に買っておくれよ」
「はぁ……」
そんなこんなありまして、藤森が運転するレンタカー、ようやく会場の駐車場に到着です。
小さな町の小さな祭りですが、そこそこの人がささやかな地域の祭りを、楽しんでおるようです。
稲荷子狐をそのまま会場に解き放つと、何が起こるか分かったものじゃありません。
お肉にモロコシ、お餅に郷土料理、全部の美味に尻尾を暴走させる子狐に、
藤森はハーネスをつけて、リードを繋いで、踏まれないように抱っこして、さぁ出発……
して数分で子狐がぎゃんぎゃん、腕の中で大暴れ。
全部の肉料理を買ってほしいのです。
全部の餅料理、米料理を食べたいのです。
露店の人も子狐の味方をするようで、それはそれは、もう、それは。「ペット用に塩分少なく焼きますよ」だの、「ちょっと冷ましときますよ」だの。
ところで雪国和牛の牛串食べくらべセットが10本で5千円ですって。あらリーズナブル。
「くぅッ……」
8月の給料日、君に、早く会いたい。
思う藤森であったのです。
「藤森、いた!合流したいって言ってたカラスだ」
異世界組織その2の局員、ムクドリの同僚、「カラス」という男性と合流して、
藤森はイチョウの木に、そろそろ向かいます。
前回投稿分の裏側。
最近最近、「ここ」ではないどこか別の世界に、「世界線管理局」と「世界多様性機構」なる厨二ふぁんたじー組織が存在しており、
管理局側はそうでもないものの、多様性機構側が管理局を、ともかく敵視している状況。
というのも、機構が為しているのは、管理局が取り締まっている違法、脱法、グレーざんまい。
機構が動けば管理局が監視し、管理局が動けば機構が邪魔を計画する。
打倒管理局!ノー管理局!
世界線管理局を潰して自分たちの活動を大々的に広げていくのが、機構の悲願である。
その日はとある理由から、管理局内の主戦力とウワサされている法務部執行課の面々が、
管理局から離れた別の世界で重要な作戦を展開中。
一時的に、数時間だけ、留守の状態が発生した。
これを逃さないのが世界多様性機構。
ひとりの武闘派精鋭を選び、管理局に侵入させた。
精鋭はビジネスネームを「サルスベリ」といった。
なんだか非常にツルツルしてそうな名m
事実としてサルスベリ、頭が眩しくてt
…――「ふふふ、ふはははは!!
自分の名は、サルスベリ!花言葉は『不用意』!」
管理局の収蔵庫から侵入し、管理局内に存在する難民シェルターへ到達したサルスベリは、
さっそくシェルターの中で暴力的なチカラと光とを発揮し、文字通りに暴れまわった。
滅んだ世界から生き延びて逃げ込んだ人々を、管理局はどこにも逃さない。
例外無く、全員シェルターに押し込んでいる。
まずサルスベリはシェルターを破壊して、収容されている難民たちを解放する魂胆であった。
「難民の諸君、自分が来たからには、もう安心だ!
諸君を閉じ込めるこのシェルターを、光のチカラでもって、破壊してみせよう!」
何が「光のチカラ」かというとそりゃもう頭n
まさかの規格外な輝きにより眩しくt
「破壊、破壊!管理局など、破壊だ!」
「そうはさせない!」
サルスベリの暴挙に気付かない管理局ではない。
難民シェルターの管理・運営をしている空間管理課職員が、サルスベリの前に立ちはだかる。
「サルスベリ、お前の暴挙もここまでだ!!
私は環境整備部、空間管理課の、キリン!」
妙にイケボの局員は、相手が相手ならコチラもコチラ、まさかの筋肉的スマート肉体美。
キリンは仁王立ちで、白く輝くふんどし一丁。
ワケが分からないが仕方無い。
サルスベリの光が反射してその白もまた眩しk
「サルスベリとやら。難民シェルターで静かに過ごしている難民たちの安全を破壊するその所業、このキリンが許さん!
活力100倍、お仕置キリンだ!!」
バキン! ずどん!
機構の眩しいのと管理局の眩しいのとは、双方が双方、自身の信念と組織の使命によって、
ぶつかり、拳を繰り出し、拳でもって防御して、
なによりお題がお題、「眩しくて」仕方無い。
「足元がお留守だ」
「なんの、誘っておるのだ!」
拳と拳、足と足、光と光で暴れるふたり。
イケボふんどしのキリンが早期決着をはかろうと、
後光さすサルスベリを、直視した、その時。
「不用意なり、キリン」
「ぬぅッ!!」
サルスベリのツルツルが暴力的な光でもって、キリンの目を十数秒だけ潰した。
どこが暴力的に光ってるかって?
そりゃサルスベリの頭n
「キリン、もらった!」
目眩ましを食らったキリンにサルスベリが、勝ち誇って必殺の拳を振り抜こうとしたところで、
さて、そろそろ物語も終了のお時間。
キリンに1人の援軍が来たのだ。
「えいっ」
「ぐあッ!!あちちちち、ぎゃーーーー!!」
暴力的な眩しさに対抗するには、徹底的な遮光。
溶接メガネを装備した局員が光の中からサルスベリを探し出し、ついでに、ガストーチバーナーでもって尻を少し炙ったのだ。
「きさま!卑怯だぞ」
「何が卑怯だよ。えい」
「おあぁぁぁぁぁぁ!!!」
眩しくて仕方ないなら、遮光すれば良い。
結果としてサルスベリは最終的に拘束されて、
キリンとのバトルの勝敗は、お預けになったとさ。