かたいなか

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7月27日投稿分から続いているおはなしも、そろそろクライマックスが近づいてきている模様。
今回のおはなしは、前回投稿分からの続き物。

お題回収役の雪国出身者、藤森が、
異世界の厨二ふぁんたじー組織①の「世界多様性機構」から情報を吹き込まれ、
厨二ふぁんたじー組織②の「世界線管理局」から追われつつ、小さなボトルを託されつつ、
藤森の故郷、風吹き花咲く雪国の、大きくて不思議な大イチョウを目指して、
レンタカーを、走らせておりました。

「やー、まさか藤森、きみとウチの特殊即応部門のカラスが知り合いだったなんて!」
もぞもぞもぞ。
藤森の胸ポケットから、言葉を話す不思議なハムスターがコンニチハ。藤森に話しかけます。
「どこで知り合ったの?きっかけは?」
カラスとは厨二組織②の管理局員、そのひとり。
不思議ハムスターの、部署違いの同僚でした。

藤森は絶賛混乱&困惑中。
そりゃそうです。自分の友人が異世界人だと、友人自身から突然自己紹介されたようなものです。
なんならその異世界人の友人が、自分を追っかけて捕まえようとしている組織の人間だったのです。
そりゃ混乱するし、困惑もします。

「10年ほど前だ」
藤森が浮かない顔して答えました。
「故郷から上京して、数年で東京と田舎のギャップに揉まれていた頃、転職先の図書館で出会った。カラスではなく、ツウキと名乗って」
その付烏月さんが、異世界組織の人間だったとは。
小さなため息を吐いた藤森は、レンタカーをちょっとだけ路肩に停めました。

「小さな願いが叶うインク……か」

実は異世界人で、現在藤森を追いかけている側の職員だった友人、付烏月と書いて「ツウキ」と読む男から、藤森は小さなボトルを貰いました。
「3個まで、願い事が叶う。
まるで昔話か、童話のおはなしの中だ」

付烏月から貰ったボトルの中身は、美しい銀色をした、付烏月曰く「夢見猫の銀色インク」。
大きな奇跡は起こせなくても、小さな願い事であれば、3個は叶えることができるとのこと。
「本当だろうか」
藤森は半信半疑でした。
実は付烏月に全部騙されておって、彼は藤森が大イチョウの封印を解除するのを邪魔したいのかもしれないと、少し、思いました。

でも藤森の知る付烏月は、あの友人は、
そんな面倒くさいことするでしょうか?

「このインクが本領発揮するのはね、」
不思議ハムが証言しました。
「本当は、専用のペンに入れることで、発揮されるんだ。インク単体じゃ魔法のチカラは使えない。
だけど、うん、この量なら、小さい願いであれば」

不安なら、1回だけ試してみなよ。
間違いなく叶うだろうから。
不思議ハムはニヤニヤと、まるで勝ち誇ったように、笑いました――だってハムは、藤森が受け取ったインクのことを、藤森より知っておるのです。

さてここでお題回収。
実はこのレンタカー、藤森と不思議ハムの他に、
大イチョウの封印を解く鍵となる稲荷子狐も乗っており、夏祭りの会場で「葉月牛」なる個人ブランド和牛の牛串を、しこたま食ったのです!

葉月といえば8月。8月といえば夏。
コンコン子狐、願いが3回叶うインクのハナシを聞いて尻尾をぶんぶん!
「わぎゅう!わぎゅう!たべる!食べたい!」
ここココンコンコン、ここココンコンコン!
夏祭りの会場で食べた、夏の名を持つ和牛串の、
したたる肉汁、甘い脂、やわらかい身にメロメロ!
しめ縄つけたキャリーケースから飛び出して、藤森が持つ小さなボトルに、強くつよく願いました。

「子狐、あれだけ食ったのに、まだ食うのか??」
「たべる!食べる!わぎゅう!
キツネわぎゅう食べる、インクさん、わぎゅう出して、いっぱい出して、どっさり出して!
夏のわぎゅう!おいしいわぎゅう!おにく!」
「あのな子狐、このインクは3回しか使えn」
「おにく!おにく!」

いでよ、夏の名を持つお肉、夏の祭りに従う牛串、
3個くらい前の投稿分で藤森の現金を一気に減らした張本人にして1本500円。
「おにく!」

子狐が強く強く願うと、なんということでしょう、
藤森の手の中の、小さなボトルに入ったインクが、
淡く美しい光を出して、光量は次第に強くなり、
やがて、ぽん!!
小さな輝きを車内に爆発させると、藤森が借りたレンタカーの中を、葉月牛の牛串で牛々に……ぎゅうぎゅうに満たしたのです!
「うっっッそだろ?!」
「おにく!おにく!ただいま、夏のわぎゅう!」

ただいま、夏。
ただいま、葉月牛。
ただいま、子狐が大量に食い、更におかわりを所望しておるところの、夏の名を冠する牛の串。
子狐の興奮と幸福は絶好調です!

「おいしい、おいしい、おいしい!」
むしゃむしゃむしゃ、ちゃむちゃむちゃむ!
小さな願いを3回叶えるという銀色インクは、子狐の食いしん坊を叶えて、残り2回。

「もう1回使って、レンタカー掃除してもらう?」
不思議ハムが言いました。
「いや、」
じゅーじゅーアツアツの牛串から避難する藤森は、
「ちょっと、かんがえる……」
子狐が牛串を秒で胃袋に収容するのを、チベットスナギツネの視線で、見ておったとさ。

8/5/2025, 9:58:02 AM