前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某稲荷神社を出発点に、
ひとりの雪国出身者が、稲荷子狐を連れて、自分の故郷を目指しておりました。
雪国出身者の名前は藤森。
藤森の目的地は、故郷の都道府県にある、「イタズラ狐の大イチョウ」というイチョウの木でした。
なんでも異世界から来た厨二ふぁんたじー組織の構成員いわく、この大イチョウは不思議なイチョウ、
この世界と別の世界を繋ぐ大きな大きな黒穴が、イチョウの下に封印されておるそうで、
その封印さえ解除できれば、別世界の先進技術を大量に持ってきて、気候変動も絶滅危惧種の問題も全部ぜんぶ一気に解決できるのだとか。
藤森に先進世界の技術を吹き込んだ組織は、名前を「世界多様性機構」といいました。
美味いハナシです。
非常に、裏がありそうなハナシです。
だけど藤森、いまだに世界が気候変動の根本的解決策を、発見していないことを知っておるので、
この異世界ふぁんたじー組織の構成員の、ハナシに乗ってみることにしたのです。
イタズラ狐の大イチョウの、封印を解除する鍵は、
都内某所、某深めの森の中、本物の稲荷狐が居る稲荷神社の、その稲荷狐らしい。
藤森は稲荷狐のお母さんとお父さんに、全部の情報を共有して、そして稲荷子狐を借り受けて、
さっそく故郷の大イチョウに向けて、レンタカーで出発したのですが。
どうやら藤森と子狐のドライブを阻止したい「別の組織」が、藤森のレンタカーを探しておるようで。
藤森と子狐を追いかける組織は、名前を「世界線管理局」といいました。
「勘付かれたらしい」
一般道を利用して、なるべく管理局に見つからないように走行していたハズの藤森でしたが、
脇道から主要の大きい道路に曲がろうと、ウィンカーを左に出そうとしたそのとき。
「思ったより、早かったな」
曲がった先に、世界線管理局の局員さんを、法務部の執行課さんをパッと発見。
「主要道路は危ない。小さな道を使おう」
ソッコーで、右にウィンカーを出し、安全を確実に確認した上で、キュキッ!Uターンしました。
チラリと見えた局員を、ミラーで確認しましたが、
どうやら藤森のレンタカーを見ていない様子。
「ふぅ」
大きなため息ひとつ吐いて、藤森、ハンドルを握り直しました。完全に間一髪でした。
イヤな汗がドッと出て、ばくばく、どくどく。
心臓の音がダイレクトに、耳のあたりで聞こえるように感じました。
まさしく、「熱い鼓動」です。
嫌な熱が鼓動とともに、藤森の首筋に上がります。
「なんで、にげるの? なんで、かくれるの?」
勝手にキャリーケースから出てきた稲荷子狐、藤森の運転が気になって、質問しました。
「ワルいことしてるの??」
「そうだな。そうかもしれない」
子狐の頭をなでて、藤森、答えます。
「子狐。お前はこれからその『悪いこと』を、私に脅されて、やらされるんだ。
良いかい。もし叱られるようなことがあったら、『藤森にやれと脅された』と言うんだぞ」
管理局が藤森を追いかけるのは理由がありました。
世界のルールとして、その世界の問題に、先進世界が先進技術でもって技術介入・技術侵略するのは、完全にブラックなことなのでした。
藤森はその「完全なブラック」を知ってなお、この世界のイチョウの封印を解除して、先進世界を呼び寄せるつもりであったのでした。
「ワルいこと!」
ぎゃんぎゃん!子狐は面白がって、シートベルトを抜け出して、藤森の頭を、髪を、カジカジ。
「キツネが、せーばい、成敗してやるっ!」
正義の味方ごっこでも始めたのでしょう。楽しそうに、噛み噛みしています。
「そうだな。成敗、されるかもな」
それでも私は、姿を消しつつある在来種を、どうしても救いたいんだ。
藤森は小さく笑いましたが……
「ん?」
もぞもぞもぞ!
藤森の胸ポケットから、おや、何か出てきます!
「なーにが『成敗、されるかもな』だよ!
僕に何も相談しないでさ!ちゅーちゅー!」
なんということでしょう。
藤森の胸ポケットから出てきたのは、言葉を話す不思議なハムスター。管理局の局員でした!
「カナリアさん!?」
「先進世界の技術侵略が危険だって、僕、何回も言ったでしょ!まったくもう。藤森を見てると、ウチの頑固で極端な部長を思い出すよ」
「私の居場所を管理局に伝えるつもりか」
「そんなんじゃないよ。仕方無いから、僕が君を説得して、君の所業を見届けるんだ」
「しょぎょう?」
「イチョウの封印を解くんだろ。ダメだよ」
ガリガリガリ、カリカリカリ。
「カナリア」と呼ばれたハムスターは、お弁当として持ってきたらしいカボチャの種をかじります。
「説教だ、ふじ、」
説教だ、藤森。 そう言いたかったカナリアは、
途端、自分を突き刺す視線に、熱い鼓動が更に熱くなりまして、ピャッ!胸ポケットに戻ります。
そうです。稲荷子狐です。
「ねずみ」
子狐は途端に、遊びモードになりまして、
「でてこい!でてこい、ねずみ!」
藤森の胸ポケットをトントン、タシタシタシ!
「たすけてッ!たすけて藤森!!」
「でてこい、ねずみ!キツネとあそべ」
「いやぁぁぁぁ!!やめろ!僕は美味しくない!」
「ねずみっ!ねずみ!」
「……」
あーもう。 ああーもう。
藤森は大きな大きなため息を、長く細く、静かに吐き出しましたとさ。
「リアルタイム時間軸風の連載」という投稿形態で、何がイチバン困るって、
まさしく、酷いタイミングで、酷い天変事件が発生することだと思う物書きです。
現在このアカウントでは、前々回か前々々回投稿分あたりから、雪国出身の上京者が故郷に帰る物語をご紹介中。あらバッドタイミング。
太平洋側の雪国は軒並み津波警報発令中。
日本海側だって、海岸には海面変動の予報が出ているという、まさかの自体です。
え?海無し県の豪雪極寒地域?
そうですね(ドカ雪)
そうですね(標高おばけ)
と、軽いお題回収はこの辺にして、
今回のおはなしの始まり、始まり。
最近最近のおはなしです。
舞台は完全に現代なのに、フィクションとファンタジーがてんこ盛りのおはなしです。
雪国出身の上京者が、都内の不思議な不思議な稲荷神社から、レンタカーでもって早朝に、
稲荷子狐と一緒に、故郷の雪国へ向かいました。
雪の人は名前を藤森といいまして、
花を愛し、日本を愛し、気候変動と希少植物の絶滅を悲しむ、心優しい生真面目。
異世界に本拠地を置く組織から、ひっそり、耳打ちされたことがありました。
『お前の故郷に、異世界に繋がる黒穴がある』
『お前がその黒穴の、封印を破ることができれば、
異世界の技術をその穴から持ち込んで、この世界の気候変動も絶滅危惧種の問題も、解決できる』
『行け。 稲荷神社の稲荷狐を使って、異世界に繋がる黒穴の封印を破れ』
藤森は稲荷神社に住まう稲荷狐の家族に、すべての事情を話して、すべての情報を共有して、
そして、狐のお母さんとお父さんから許しを得て、稲荷子狐を借り受けたのでした。
しめ縄付きのキャリーケースに子狐を入れて、さあ出発。まだ涼しい、早朝のことでした。
東京を脱出して、待ち伏せされていると予知されていた高速道路ではなく一般道へ。
安全運転を心がけつつ、藤森、故郷に向かってレンタカーを走らせまして――
どうやら子狐が「海を見ながらごはんを食べたい」と駄々をこねたようで。
結果として藤森、山の上から海を眺める、ペット同伴可能な流しそうめん屋さんをタイミングよく見つけて、レンタカーを停めまして。
「子狐。こぎつね」
流しそうめんは、タイミングとの勝負です。
「あのな、流しそうめん、というのは……」
藤森と子狐が通された個室にチュルチュル流れてくる、ひとつかみのそうめんを、
箸ですくって、ペット用のつけダレに付けて、
ペット用の皿に入れてやろうとした
その片っ端から子狐、がぶちょ!
問答無用に、つけダレもろとも、気持ち良いほど一気に胃袋に収容してしまうのです。
「良いか、待て。待て」
藤森が左手で、優しく、子狐を制します。
「まつ」
子狐が瞳を輝かせて、藤森の箸を見ます。
「まだだ。いいな」
藤森がそうめんを箸でもって、上手に掴みます。
「いい」
子狐が藤森の箸の動きを、じっッ、と見ます。
「こうやって――」
こうやって、つけダレに付けて、つけダレもろともじゃなくて麺だけをだな。
藤森が言おうとしたそのタイミングでした。
そうです。ドチャクソに、藤森の対応できないマッハなタイミングであったのでした。
がぶちょ!!
藤森がつけダレから麺を引き上げるのを待たず、
コンコン子狐、ほぼほぼ箸の先端ごと口に入れまして、器用に麺だけ引っこ抜き、
「おいしい。おいしい」
ほっぺたを、麺でいっぱいにするのでした。
「『待て』が分かるか子狐」
「わかる」
「『待て』が、できるか、子狐」
「できる」
「……待て。良いな。まて」
「まつ」
「私がヨシと言うまで――
こぎつね?」
「『ヨシ』っていった!たべる」
そうめんをすくって、
つけダレを付けている最中にガッツリ食われて、
盛り付ける間もなく一気に食われて、
「『ヨシ』と言うまで待て」の「ヨシ」の時点でベロンチョ食われて、くわれて。
「こぎつね……」
もはや、流しそうめんになっていません。出てきた瞬間に豪速で為されるモグラ叩きか何かです。
とはいえ子狐はご満悦の様子。
「おいしい。おいしい」
つぎ。おかわり。おかわり、ちょーだい。
子狐はこの店のそうめんと、藤森が食べさせてくれるこのスタイルを、たいそう気に入りまして、
正直に狐尻尾をぶんぶん、びたんびたん!
高速回転させておったとさ。
前回投稿分で放ったらかした、「前回投稿分の物語の裏側」を、今回のお題に絡めてご紹介。
最近最近のおはなしです。完全にフィクションファンタジーで、現実要素2割程度のおはなしです。
都内某所、某稲荷神社から早朝に、雪国出身の藤森と、稲荷神社に住まう稲荷子狐とが、
レンタカーでもって、不思議な不思議な大イチョウを目指して、静かに出発しました。
藤森の目的は、大イチョウの下にあるという、異世界と繋がっている黒穴の封印を解くこと。
その黒穴は藤森の、故郷の雪国にありました。
『この世界と別の世界が繋がれば、先進世界の技術でもって、すぐに気候問題を解決できる』
藤森にヒソヒソ、異世界組織の職員が言いました。
組織は名前を、世界多様性機構といいました。
『お前が大好きな、絶滅してしまった花も、絶滅しそうな花も、救うことができる。
黒穴の封印を解け。この世界と異世界を繋げ』
何か裏は存在する。 藤森、考えてはいましたが、
事実として日本の自然環境は日々悪化の一途。
気温は上がり、水田は干上がり、一部の山はソーラーパネルの過剰な敷設で保水能力を欠き、
そして、一刻の猶予も、許されないのです。
黒穴の封印を解くには稲荷狐の協力が不可欠。
藤森は稲荷神社の狐にすべてを話し、すべてを共有し、そして、子狐を借り受けたのでした。
「何が起こっても得られなくても、すべての結果を受け入れる」と、子狐のお母さんに約束して――
――ここまでが前回投稿分。
そろそろお題回収に行きましょう。
藤森が稲荷子狐と一緒にドライブに出て1時間、
その藤森の動向を注視していた組織が、慌ただしく動き始めました。 藤森が都内に居ないのです!
「藤森の行き先は」
「まだ掴めていません。
高速道路を見張りましたが、引っかかりません」
組織の名前は「世界線管理局」。
世界の独自性を守り、別世界からの違法渡航や技術侵略を取り締まる、公的機関のようなもの。
藤森が封印を解こうとしている「黒穴」は間違いなく日本に昔から存在する現象ですが、
「それ」を、「今の時代」に、「先進世界から技術先進技術を導入するため」に解放するのは、
ひどく、非常に、実に危険なことだったのでした。
「稲荷神社の狐から返事は」
「『末っ子を連れて早朝にドライブに行きました』としか、情報は貰えてないよ。完全にダンマリ。
アンゴラの魔法と占いで何か分からないの?」
「それができてたら苦労しないわ」
「くそッ」
ダン!
管理局法務部の、即応部門はてんてこ舞い。
部門長がこぶしで壁を叩き、色々後悔したり、情報整理したり、部下に指示を出したり。
別世界の技術を東京に持ち込もうとしている組織があるのも、その組織が藤森をそそのかしているのも、部長さん、双方知っていました。
だからこそ、数ヶ月前から藤森を見ていました。
藤森の後輩が人質として使われないように、先手を打って保護もしたし、
藤森がそそのかされないように、藤森と対話もしてきた、つもりでした。
「まるで虹のはじまりを探しているみたいだ」
部長の部下、ツバメが言いました。
「藤森は確実にどこかに行った。ハッキリ見えているのに、その『正確な』『どこか』が分からない。
目的も分かる。行きそうな場所も把握してる。
なのに、その場所に向かっても、それが無い。
どうすれば良いんだ。虹のはじまりは、どこだ」
できるだけ早く藤森を探し出して、藤森の計画を、阻止しなければなりません。
相手の目的と自陣の目標の、両端がハッキリ見えているのに、追いかけても辿り着けないのは、
まさしく、虹のはじまりを探しているのと、似ているようでもありました。
「早く、探し出さないと」
全部が手遅れになる前に。
東京はじめ、独自性を保ってきたこの世界が、
別世界の技術で塗りつぶされてしまう前に。
「どうすれば、どうしたら……」
こうなったら、稲荷子狐の親を捕まえて、徹底的に尋問するしか、もう手がかりが。
即応部門の部門長が、手荒な真似を考え始めた、
まさに、そのときでした。
「こんにちはっ!!」
バン!
即応部門のオフィスのドアを、勢いよく開けて、声を張って入ってくる女性が、おりました。
「あ、あのッ!情報!いりませんか!!」
震える声で、しかし力強い意志でもって叫ぶ女性。
なんということでしょう、彼女はまさかの、藤森をそそのかしていた組織の構成員だったのです!
「私、藤森さんの情報、持ってます。
あの世界を救ってください、あの世界の、古き善き技術を、先進世界の侵略から、守ってください!」
ずいぶん丁度良く出てきますね。
まぁフィクションファンタジーだから仕方ない。
「言え」
震える女性の両肩に手を置いて、部門長さん、真剣な顔して言いました。
「あいつは、どこに向かった」
「あのひとは、藤森さんは……」
今日のお題のおはなしはここまで。
あとは今後のお題の配信次第。
しゃーない、しゃーない。
前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某不思議な不思議な稲荷神社をスタート地点として、早朝から都外へ出てゆく、レンタカーがありました。
レンタカーの運転席には、神妙な顔してハンドルを握るお題回収役。名前を藤森といいます。
レンタカーの後部席には、ベルトでしっかり固定した、しめ縄付きのペットキャリー。
レンタカーの、助手席には……?
「おとくいさんと、どらいぶ、ドライブ!」
おやおや。なんということでしょう。
しめ縄付きのペットキャリーから器用に抜け出して、稲荷神社の子狐が、マンチカン立ちよろしくポンポンおなかを見せて、ちょこん!
助手席に座って、シートベルトを締めています!
なんとシュール! なんとファンタジー!
「おとくいさん、まずは、どこまで行くの」
まぁフィクションなのだから気にしない。
「子狐、たのむ、キャリーに入っていてくれ」
「キツネ、ここがいい」
「急ブレーキをして、お前の体が下手に締められたら、ケガをするかもしれない」
「ケガしない。キツネ、ぜんぶ知ってる」
「子狐」
「どらいぶ、ドライブ! キツネ、ここがいい」
「こぎつね……」
早朝といえど、東京の道路。あっちにも、こっちにも、区外ナンバーも都外ナンバーも、
びゅんびゅん、走り回っています。
稲荷神社を出発したレンタカーは、それらの車とすれ違ったり、合流したり、追い越されたり追い越したりしながら、都外を目指して、走りました。
目指すは運転手の故郷の片田舎。
そこに生えている、大きな大きなイチョウの木。
地方は首都圏が置き去りにしてきた、過去と自然と、水と秘匿が残る、在来種のオアシスでした。
「おいしい。おいしい」
「待て。子狐、何を食べ……そのデカい弁当箱いったい『どこ』から出した?!」
「かかさんが、『車の中で食べなさい』って」
「質問に答えてくれ子狐、そのデカい重箱の弁当箱、どこに隠してどうやって持ってきた?!」
「おとくいさんも、どうぞ」
「あのな、あのな……」
――稲荷神社から稲荷子狐を借り受けるとき、藤森は子狐のお母さんから言われました。
『たとえ望んだモノが手に入らなくても、どのような結末になっても、すべてを受け入れなさい』
『目的地までは一般道を使うのが良いでしょう。
高速道路は見張られています。ハイウェイオアシスは待ち伏せされていると思いなさい。
そして可能なら、子狐に様々なものを見せなさい』
藤森が稲荷子狐を連れて故郷を目指すのには、藤森なりの、目的がありました。
藤森は、花咲き風吹く雪国の、片田舎の出身。
自然を愛し、気候変動を悲しみ、花々が生息地を追われて消えゆく昨今に、心を痛めておりました。
そんな藤森に幸か不幸か、異世界の組織がヒソヒソと、吹き込んだ情報が「異世界技術」。
『異世界の先進世界の技術を導入すれば、気候変動も、花の保護も再生も、たちまちに解決できる』
『丁度、お前の故郷のイチョウの下に、異世界へと通じる穴が封印されている。 封印を破れ』
藤森の故郷には、「イタズラ狐の大イチョウ」という、不思議な昔話を持ったイチョウがあって、
「昔々、そのイチョウが生えている下に、あらゆるおばけが湧き出る黒穴があった」と、
「その黒穴を、狐がイチョウに化けて塞いだ」と、
言われて、おったのです。
そのイチョウの封印を解くために、稲荷神社の稲荷子狐の協力が必要とのこと。
藤森は稲荷神社に行き、子狐と対話し、お母さん狐とも長く話し合い、お父さん狐から許しを得て、
そして朝早く、稲荷神社から出発したのでした。
「あげる」
「なんだ」
「ととさんが焼いた、おにく」
「完全に炭じゃないか??」
「おいしくない。あげる」
「うん……うん」
「これもあげる」
「それは?」
「キツネ、つくった!もちきんちゃく」
「それは美味そうだ。ありがとう」
稲荷子狐を乗せたレンタカーは、高速道路を避けて、一般道へ入り、そして、遠くへ、遠くへ。
日本の在来種のオアシスに向けて、すなわち藤森の故郷であるところの地方、片田舎へと、
ゆっくり、着実に、進んでゆきます。
藤森が誰に、「何」に追われて、「何」を避けて高速道路ではなく一般道を選んだかは、
それはまた、次回以降のおはなし。
しゃーない、しゃーない。
最近最近、都内某所のおはなしです。
某深めの森の中に、本物の稲荷狐が住まう不思議な稲荷神社がありまして、
ただいま、「涙の跡」のお題に丁度良く、
稲荷子狐が1人の大好きなお得意様、ゲホゲホ!……もとい、常連参拝客の話を聞きまして、
ぎゃんぎゃん、ぎゃんぎゃん!
文字通り、ギャン泣きしておったのでした。
「わぁん!わぁん!」
稲荷子狐、涙を龍神様の噴水のように、じゃんじゃん流して、大きな声で泣いています。
「おとくいさん、フーイン、封印されちゃう!
おとくいさん、キツネのおうちの、めしつかいになっちゃう!わぁん!わぁん!」
子狐が参拝客から聞いた話は、こうでした。
その参拝客、名前を藤森、旧姓を附子山といいまして、花咲き風吹く、雪国の出身。
昨今の気候変動と、それから一部の国内外資本の暴挙によって、次々と数を減らしていく日本在住の花たちに、すごく心を痛めておりました。
消えゆく日本の花を、救いたい。
心を痛めておった藤森に、幸か不幸か、勧誘の言葉をヒソヒソ流し込んだのが、子狐の知らぬ「外の世界」から来た異世界人。
『異世界の技術を使えば、この世界を救える。
異世界の技術に頼るには、お前の故郷の「黒穴」――異世界と通じている穴を、
完全に、開通させる必要がある』
藤森は日本の美しい景色を、よき花を、今まさに消えようとしているものを救うために、
藤森の故郷にあるという、「イタズラ狐の大イチョウ」の下の大きな黒穴を、稲荷狐のチカラを借りて開通させようとしておるのです。
「うわぁぁぁぁぁん!!!」
「子狐、こぎつね。どうした」
「わぁぁぁ、わぁぁああああん!!!」
「何故泣いているんだ。封印とは、なんだ?」
「おとくいさん、おとくいさぁぁん、
おとくいさんが、ゲボクになったら、キツネ、毎日、あそんであげるぅぅ、うわぁぁぁん」
「げぼく……???」
で、そのハナシと子狐のギャン泣きと、どう繋がるかと言いますと。
実は子狐住まう稲荷神社に、藤森のハナシとよく似たシナリオを辿って稲荷神社に鎮められた、昔々の花の亡霊がおるのです。
「たたり白百合の祠」とか、「附子の祠」とかいう石碑に封じられた亡霊です。
旧姓附子山と、附子の祠。あら偶然。
白百合の亡霊も、花が大好きな亡霊でした。
昔々、その亡霊が鎮まっておった花畑を、当時の人間が壊してならして、メチャクチャにしたので、
それを怒って怨霊になって、
日本の美しい景色を、よき花を、今まさに消えようとしているものを救うために行動した結果、
子狐のおじいちゃんと、おばあちゃんにエイッとやっつけられてしまって、
そして亡霊は、石碑に鎮め直されたのでした。
ゆえに亡霊は、今でも稲荷神社の草むしりやら雑用やらを、させられておるのでした。
白百合の亡霊は、
消えゆく花のために行動して、子狐のおじいちゃんおばあちゃんに封印されました。
藤森もきっと、
消えゆく花のために行動するので、子狐のおじいちゃんおばあちゃんに封印されるに違いありません!
コンコン子狐、考えました。
なんということでしょう。大好きなお得意さんが、子狐の稲荷神社に封印されてしまいます!
「おとくいさぁぁぁん」
それで子狐、ギャンギャン!泣いておるのです。
が、そういう背景を、藤森さっぱり知りません。
「こぎつね……」
「おとくいさぁぁぁん!!わぁぁぁぁん」
涙の跡も乾かぬうちに、次の涙が流れてきて、
わんわんわん、わんんわんわん。
あんまり子狐が泣きますので、子狐のお母さんがやってきます。
「どうしたのです」
お母さんが言いました。
「実は、」
藤森、決心して言いました。
全部ぜんぶ、子狐のお母さんに、打ち明けました。
その先のことは詳しくは言いません。
あとは、今後のお題次第なのです。
しゃーない、しゃーない。