かたいなか

Open App

最近最近、都内某所のおはなしです。
某深めの森の中に、本物の稲荷狐が住まう不思議な稲荷神社がありまして、
ただいま、「涙の跡」のお題に丁度良く、
稲荷子狐が1人の大好きなお得意様、ゲホゲホ!……もとい、常連参拝客の話を聞きまして、
ぎゃんぎゃん、ぎゃんぎゃん!
文字通り、ギャン泣きしておったのでした。

「わぁん!わぁん!」
稲荷子狐、涙を龍神様の噴水のように、じゃんじゃん流して、大きな声で泣いています。
「おとくいさん、フーイン、封印されちゃう!
おとくいさん、キツネのおうちの、めしつかいになっちゃう!わぁん!わぁん!」

子狐が参拝客から聞いた話は、こうでした。

その参拝客、名前を藤森、旧姓を附子山といいまして、花咲き風吹く、雪国の出身。
昨今の気候変動と、それから一部の国内外資本の暴挙によって、次々と数を減らしていく日本在住の花たちに、すごく心を痛めておりました。

消えゆく日本の花を、救いたい。
心を痛めておった藤森に、幸か不幸か、勧誘の言葉をヒソヒソ流し込んだのが、子狐の知らぬ「外の世界」から来た異世界人。

『異世界の技術を使えば、この世界を救える。
異世界の技術に頼るには、お前の故郷の「黒穴」――異世界と通じている穴を、
完全に、開通させる必要がある』

藤森は日本の美しい景色を、よき花を、今まさに消えようとしているものを救うために、
藤森の故郷にあるという、「イタズラ狐の大イチョウ」の下の大きな黒穴を、稲荷狐のチカラを借りて開通させようとしておるのです。

「うわぁぁぁぁぁん!!!」
「子狐、こぎつね。どうした」
「わぁぁぁ、わぁぁああああん!!!」
「何故泣いているんだ。封印とは、なんだ?」

「おとくいさん、おとくいさぁぁん、
おとくいさんが、ゲボクになったら、キツネ、毎日、あそんであげるぅぅ、うわぁぁぁん」
「げぼく……???」

で、そのハナシと子狐のギャン泣きと、どう繋がるかと言いますと。
実は子狐住まう稲荷神社に、藤森のハナシとよく似たシナリオを辿って稲荷神社に鎮められた、昔々の花の亡霊がおるのです。
「たたり白百合の祠」とか、「附子の祠」とかいう石碑に封じられた亡霊です。
旧姓附子山と、附子の祠。あら偶然。

白百合の亡霊も、花が大好きな亡霊でした。
昔々、その亡霊が鎮まっておった花畑を、当時の人間が壊してならして、メチャクチャにしたので、
それを怒って怨霊になって、
日本の美しい景色を、よき花を、今まさに消えようとしているものを救うために行動した結果、
子狐のおじいちゃんと、おばあちゃんにエイッとやっつけられてしまって、
そして亡霊は、石碑に鎮め直されたのでした。
ゆえに亡霊は、今でも稲荷神社の草むしりやら雑用やらを、させられておるのでした。

白百合の亡霊は、
消えゆく花のために行動して、子狐のおじいちゃんおばあちゃんに封印されました。
藤森もきっと、
消えゆく花のために行動するので、子狐のおじいちゃんおばあちゃんに封印されるに違いありません!

コンコン子狐、考えました。
なんということでしょう。大好きなお得意さんが、子狐の稲荷神社に封印されてしまいます!
「おとくいさぁぁぁん」
それで子狐、ギャンギャン!泣いておるのです。

が、そういう背景を、藤森さっぱり知りません。

「こぎつね……」
「おとくいさぁぁぁん!!わぁぁぁぁん」

涙の跡も乾かぬうちに、次の涙が流れてきて、
わんわんわん、わんんわんわん。

あんまり子狐が泣きますので、子狐のお母さんがやってきます。
「どうしたのです」
お母さんが言いました。
「実は、」
藤森、決心して言いました。
全部ぜんぶ、子狐のお母さんに、打ち明けました。

その先のことは詳しくは言いません。
あとは、今後のお題次第なのです。
しゃーない、しゃーない。

7/27/2025, 9:58:26 AM