「リアルタイム時間軸風の連載」という投稿形態で、何がイチバン困るって、
まさしく、酷いタイミングで、酷い天変事件が発生することだと思う物書きです。
現在このアカウントでは、前々回か前々々回投稿分あたりから、雪国出身の上京者が故郷に帰る物語をご紹介中。あらバッドタイミング。
太平洋側の雪国は軒並み津波警報発令中。
日本海側だって、海岸には海面変動の予報が出ているという、まさかの自体です。
え?海無し県の豪雪極寒地域?
そうですね(ドカ雪)
そうですね(標高おばけ)
と、軽いお題回収はこの辺にして、
今回のおはなしの始まり、始まり。
最近最近のおはなしです。
舞台は完全に現代なのに、フィクションとファンタジーがてんこ盛りのおはなしです。
雪国出身の上京者が、都内の不思議な不思議な稲荷神社から、レンタカーでもって早朝に、
稲荷子狐と一緒に、故郷の雪国へ向かいました。
雪の人は名前を藤森といいまして、
花を愛し、日本を愛し、気候変動と希少植物の絶滅を悲しむ、心優しい生真面目。
異世界に本拠地を置く組織から、ひっそり、耳打ちされたことがありました。
『お前の故郷に、異世界に繋がる黒穴がある』
『お前がその黒穴の、封印を破ることができれば、
異世界の技術をその穴から持ち込んで、この世界の気候変動も絶滅危惧種の問題も、解決できる』
『行け。 稲荷神社の稲荷狐を使って、異世界に繋がる黒穴の封印を破れ』
藤森は稲荷神社に住まう稲荷狐の家族に、すべての事情を話して、すべての情報を共有して、
そして、狐のお母さんとお父さんから許しを得て、稲荷子狐を借り受けたのでした。
しめ縄付きのキャリーケースに子狐を入れて、さあ出発。まだ涼しい、早朝のことでした。
東京を脱出して、待ち伏せされていると予知されていた高速道路ではなく一般道へ。
安全運転を心がけつつ、藤森、故郷に向かってレンタカーを走らせまして――
どうやら子狐が「海を見ながらごはんを食べたい」と駄々をこねたようで。
結果として藤森、山の上から海を眺める、ペット同伴可能な流しそうめん屋さんをタイミングよく見つけて、レンタカーを停めまして。
「子狐。こぎつね」
流しそうめんは、タイミングとの勝負です。
「あのな、流しそうめん、というのは……」
藤森と子狐が通された個室にチュルチュル流れてくる、ひとつかみのそうめんを、
箸ですくって、ペット用のつけダレに付けて、
ペット用の皿に入れてやろうとした
その片っ端から子狐、がぶちょ!
問答無用に、つけダレもろとも、気持ち良いほど一気に胃袋に収容してしまうのです。
「良いか、待て。待て」
藤森が左手で、優しく、子狐を制します。
「まつ」
子狐が瞳を輝かせて、藤森の箸を見ます。
「まだだ。いいな」
藤森がそうめんを箸でもって、上手に掴みます。
「いい」
子狐が藤森の箸の動きを、じっッ、と見ます。
「こうやって――」
こうやって、つけダレに付けて、つけダレもろともじゃなくて麺だけをだな。
藤森が言おうとしたそのタイミングでした。
そうです。ドチャクソに、藤森の対応できないマッハなタイミングであったのでした。
がぶちょ!!
藤森がつけダレから麺を引き上げるのを待たず、
コンコン子狐、ほぼほぼ箸の先端ごと口に入れまして、器用に麺だけ引っこ抜き、
「おいしい。おいしい」
ほっぺたを、麺でいっぱいにするのでした。
「『待て』が分かるか子狐」
「わかる」
「『待て』が、できるか、子狐」
「できる」
「……待て。良いな。まて」
「まつ」
「私がヨシと言うまで――
こぎつね?」
「『ヨシ』っていった!たべる」
そうめんをすくって、
つけダレを付けている最中にガッツリ食われて、
盛り付ける間もなく一気に食われて、
「『ヨシ』と言うまで待て」の「ヨシ」の時点でベロンチョ食われて、くわれて。
「こぎつね……」
もはや、流しそうめんになっていません。出てきた瞬間に豪速で為されるモグラ叩きか何かです。
とはいえ子狐はご満悦の様子。
「おいしい。おいしい」
つぎ。おかわり。おかわり、ちょーだい。
子狐はこの店のそうめんと、藤森が食べさせてくれるこのスタイルを、たいそう気に入りまして、
正直に狐尻尾をぶんぶん、びたんびたん!
高速回転させておったとさ。
7/30/2025, 9:59:26 AM