かたいなか

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前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某不思議な不思議な稲荷神社をスタート地点として、早朝から都外へ出てゆく、レンタカーがありました。
レンタカーの運転席には、神妙な顔してハンドルを握るお題回収役。名前を藤森といいます。
レンタカーの後部席には、ベルトでしっかり固定した、しめ縄付きのペットキャリー。
レンタカーの、助手席には……?

「おとくいさんと、どらいぶ、ドライブ!」
おやおや。なんということでしょう。
しめ縄付きのペットキャリーから器用に抜け出して、稲荷神社の子狐が、マンチカン立ちよろしくポンポンおなかを見せて、ちょこん!
助手席に座って、シートベルトを締めています!

なんとシュール! なんとファンタジー!
「おとくいさん、まずは、どこまで行くの」
まぁフィクションなのだから気にしない。

「子狐、たのむ、キャリーに入っていてくれ」
「キツネ、ここがいい」
「急ブレーキをして、お前の体が下手に締められたら、ケガをするかもしれない」
「ケガしない。キツネ、ぜんぶ知ってる」

「子狐」
「どらいぶ、ドライブ! キツネ、ここがいい」
「こぎつね……」

早朝といえど、東京の道路。あっちにも、こっちにも、区外ナンバーも都外ナンバーも、
びゅんびゅん、走り回っています。
稲荷神社を出発したレンタカーは、それらの車とすれ違ったり、合流したり、追い越されたり追い越したりしながら、都外を目指して、走りました。

目指すは運転手の故郷の片田舎。
そこに生えている、大きな大きなイチョウの木。
地方は首都圏が置き去りにしてきた、過去と自然と、水と秘匿が残る、在来種のオアシスでした。

「おいしい。おいしい」
「待て。子狐、何を食べ……そのデカい弁当箱いったい『どこ』から出した?!」
「かかさんが、『車の中で食べなさい』って」
「質問に答えてくれ子狐、そのデカい重箱の弁当箱、どこに隠してどうやって持ってきた?!」

「おとくいさんも、どうぞ」
「あのな、あのな……」

――稲荷神社から稲荷子狐を借り受けるとき、藤森は子狐のお母さんから言われました。

『たとえ望んだモノが手に入らなくても、どのような結末になっても、すべてを受け入れなさい』

『目的地までは一般道を使うのが良いでしょう。
高速道路は見張られています。ハイウェイオアシスは待ち伏せされていると思いなさい。
そして可能なら、子狐に様々なものを見せなさい』

藤森が稲荷子狐を連れて故郷を目指すのには、藤森なりの、目的がありました。
藤森は、花咲き風吹く雪国の、片田舎の出身。
自然を愛し、気候変動を悲しみ、花々が生息地を追われて消えゆく昨今に、心を痛めておりました。

そんな藤森に幸か不幸か、異世界の組織がヒソヒソと、吹き込んだ情報が「異世界技術」。

『異世界の先進世界の技術を導入すれば、気候変動も、花の保護も再生も、たちまちに解決できる』

『丁度、お前の故郷のイチョウの下に、異世界へと通じる穴が封印されている。 封印を破れ』

藤森の故郷には、「イタズラ狐の大イチョウ」という、不思議な昔話を持ったイチョウがあって、
「昔々、そのイチョウが生えている下に、あらゆるおばけが湧き出る黒穴があった」と、
「その黒穴を、狐がイチョウに化けて塞いだ」と、
言われて、おったのです。

そのイチョウの封印を解くために、稲荷神社の稲荷子狐の協力が必要とのこと。
藤森は稲荷神社に行き、子狐と対話し、お母さん狐とも長く話し合い、お父さん狐から許しを得て、
そして朝早く、稲荷神社から出発したのでした。

「あげる」
「なんだ」
「ととさんが焼いた、おにく」
「完全に炭じゃないか??」
「おいしくない。あげる」
「うん……うん」

「これもあげる」
「それは?」
「キツネ、つくった!もちきんちゃく」
「それは美味そうだ。ありがとう」

稲荷子狐を乗せたレンタカーは、高速道路を避けて、一般道へ入り、そして、遠くへ、遠くへ。
日本の在来種のオアシスに向けて、すなわち藤森の故郷であるところの地方、片田舎へと、
ゆっくり、着実に、進んでゆきます。

藤森が誰に、「何」に追われて、「何」を避けて高速道路ではなく一般道を選んだかは、
それはまた、次回以降のおはなし。
しゃーない、しゃーない。

7/28/2025, 3:29:44 AM