前回頃投稿分から続くおはなし。
最近最近の東京をはじめ、この世界全体全土の、気候変動と希少種の花の減少を心配している雪国出身者がおりまして、名前を藤森といいました。
真面目で心優しい藤森に、異世界からやってきた組織その1が、耳打ちします。
『おまえの故郷のイチョウの下に、この世界と別の世界とを繋ぐ黒穴がある』
『イチョウの封印を、稲荷神社の狐で解除すれば、
気候変動も猛暑も酷暑も、先進世界の技術でもって、たちまち、解決することができる』
近所の稲荷神社の稲荷狐に、全部の情報を共有した藤森は、稲荷狐からその子供を借り受けて、
レンタカーで、故郷の雪国へ向かったのですが。
この子狐、はじめて東京から出ましたので、
なにより8月ということで、あっちこっち夏祭りなどして露店においしい料理が勢揃いなもので、
コンコン、こんこん!
藤森が余裕をもって引き出しておいた現金の大半を、美味しいお肉と郷土料理とお肉とスイーツと、それからお餅とお肉とに変えて、
胃袋に全部ぜんぶ、収容してしまったのです。
地元の露店の店主さんは皆みんな商売繁盛。
さすが、稲荷神社の神様の遣い。さすが稲荷狐。
「おいしかった」
ぺろり!鼻についた和牛串の脂を幸福に舐めて、小さな狐のお面を頭につけて、稲荷子狐は大満足!
シメにバニラシェークをチューチューして、ポンポンおなかを膨らませるのでした――…
と、いう我が子の経済活動を、狐の磁場だか神使の霊気だか、ともかくナニカで察知したのが、
子狐を藤森に託した、稲荷神社の両親狐。
「あの子が遠く離れた雪国の夏祭りで、盛大に経済を回してる気配がする。良いことだ」
お父さん狐は先天的な、ネイティブ稲荷狐。
稲荷狐の本能として、商売繁盛と五穀豊穣と、その他諸々がとっても大好き。
すごく優しそうな笑顔をしています。
「しかし、お得意様……人間の方は、路銀が一気に減ってしまったようです」
お母さん狐は本州最北端県から嫁いできた、小さな霊場出身の、後天的稲荷狐。
狐の秘術で手紙を書いて、狐の秘術でそれをぴらぴら、浮かせて飛ばします。
「あの子の飲食代と土産代くらいは、私達が持ってやっても良いでしょう」
さぁ、手紙よ、稲荷狐が書いた不思議な手紙よ。
狐の秘術の波に乗って、愛しい愛しい子狐の手へ。
波にさらわれた手紙は、さっそくお題を回収。
たった数秒で、故郷雪国のイチョウのもとへ向かう最中の藤森のところへ――…
飛んでいったハズなのですが、あらあらまぁまぁ、なんということでしょう!
秘術の波にさらわれた手紙は、数秒で雪国の夏祭り会場に居る藤森のもとへたどり着いたものの、
いっちょまえに慣性の法則に従ってしまって、
受け取ろうにも手紙側のブレーキのききが悪い!!
「おい!子狐!」
稲荷子狐のお母さんから手紙が届くことは、子狐本人もとい本狐から聞いていた藤森です。
「届く手紙がこのスピードとは聞いていないぞ!」
祭り会場から少し離れたところで待っておったところ、自転車くらいのスピードで、ゆらゆら!
藤森の目の前を、通り過ぎてゆきました。
「かかさんが、おかね、おくってくれた」
それ走れ、やれ追いつけ、頑張って掴み取れ!
お母さん狐が飛ばしてくれた封筒を、藤森も子狐も、頑張って追いかけます……
が、なにぶんブレーキのききが悪いので云々。
「おとくいさん、がんばって、はしって」
「もう走ってる!」
「もっとはしって、もっと、もっと」
「殺す気か!!」
「ねぇ藤森、カラスとの合流だけど」
「いま忙しい!!」
くそっ、自転車もレンタルしてくれば良かった!
軽く後悔する藤森が、一生懸命走る、はしる。
ようやく秘術の波にさらわれた手紙に追いつくと、
「よっ、久しぶり、藤森」
その手紙を、藤森の同僚、付烏月と書いて「ツウキ」と読む男性が、ぱしっ!掴みました。
「ずいぶん疲れてるじゃん。運動不足〜?」
やーやー、大変だねぇ。
明るく笑う付烏月は、藤森や付烏月がいつも職場で着ている私立図書館職員の制服ではなく、
別の制服を、着ておりました。
「付烏月さん?」
何故あなたが、東京から離れたこの場所に?
藤森が聞こうとしたその言葉を、藤森の胸ポケットから出てきた不思議なハムスターが、止めました。
「藤森。彼が、僕たちと合流したがってた世界線管理局の局員。『カラス』だ」
不思議ハムが言いました。
世界線管理局とはつまり、不思議ハムの職場。
異世界に本部を持つ、とても不思議な組織でした。
8/3/2025, 9:54:54 AM