かたいなか

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7月27日か28日か、そのあたりの投稿分から始まったおはなしも、折り返しやら終盤やら。
最近最近、藤森という雪国出身者が、異世界から来た厨二ふぁんたじー組織その1の耳打ちで、
稲荷神社の稲荷子狐と一緒に、自分の故郷の大イチョウへ、レンタカーで向かっておりました。

藤森の目的は、大イチョウの下にあるという、黒い大穴の封印を解除すること。
藤森は異世界組織その1から言われたのです。

『大イチョウの封印さえ解けば、黒穴が別の世界と繋がって、先進世界の技術を導入できる』

『お前の世界はまだ発展途上。
お前の世界と先進世界が繋がれば、先進技術でもって気候変動など、簡単に解決できる』

藤森は日本の古き善き自然を、田畑の原風景を、故郷の美しい在来花を、深く愛していました。
それらが今急速に、気候変動や無理な土地開発、自然破壊的な土地利用によって失われているのも、よくよく、知っておりました。
その1組織は藤森の自然を愛する心に入り込み、
イチョウの封印を、解かせようとしたのです。

その1組織が敵視している、異世界組織その2から隠れながら、逃げながら、高速道路を避けて一般道と裏道を使い分けて、
途中でその2組織所属のハムスターを仲間にして、
藤森はレンタカーで1日2日、故郷の雪国に、
到着したは良かったのですが。

気がつけばもう、8月です。
藤森は8月の故郷に戻ってきました。
そして8月は、藤森の故郷の雪国の、大イチョウが待つ町の隣の隣の隣あたりで、
小さな町の、夏祭りが開催されておりました。

露店です。出し物です。町の伝統芸能の披露です。
何が言いたいって、稲荷神社の稲荷子狐、お祭りが大好きだし、美味しいものが大好きなのです。

大イチョウに向かう道中で祭りののぼり旗を見つけた子狐はレンタカーの中で大暴れしました。

「おまつり!おまつり!おもち!おにく!」
「子狐、危ないから車の中で暴れないでくれ!」
「おにく!おまつり!おにく!
キツネ、おまつり、行く!つれてけっ、おにく!」
「用事がすべて終わっt」
「やだやだやだ!おまつり!キツネつれてけ!
キツネおにく食べる!おもち食べるぅ!」
「こぎつね……」

あーもう。 ああーもう。
藤森が長く大きなため息を吐いている間、稲荷子狐はぎゃんぎゃんぎゃん!大フィーバーです。
なんなら、のぼり旗の中に
『雪国和牛食べくらべフェス 開催中』
『葉月牛』
なんてキャッチーを見つけてしまってさぁ大変。

「わぎゅ!わぎゅう!!キツネこの漢字よめる!
わぎゅう!ビーフ!キツネ、わぎゅう食べる!
はづきぎゅう食べる!わぎゅう!!」
ああ、嗚呼、葉月牛なる個人ブランド牛!
8月、君に会いたい!
ガッツリお題回収をキメて、稲荷子狐、バイブスが最高潮に達しています。尻尾が高速回転です。

「ちょっとくらい、良いんじゃない?」
藤森の胸ポケットで昼寝をしておったハムスター、すなわち異世界組織その2の局員が、
もぞもぞ、ポケットから出てきて言いました。
「僕の同僚に『カラス』ってビジネスネームのやつが居るんだけど、そいつが藤森、きみと合流したいらしいし。露店でも見ながら待ってようよ」

「からす……???」
「僕たちはビジネスネーム制を採用してるんだ。
僕はカナリア、そいつはカラス、藤森を追っかけて隣の隣の県で『なぜか』『何かの影響で』足止め食らってるのがルリビタキとツバメ」
「はぁ」

「図書館の宇宙タコは始祖鳥だよ」
「としょかんの、うちゅう、……タコ???」
「うん。宇宙タコ」

和牛!和牛!葉月牛!8月牛!
稲荷神社の稲荷子狐、祭り会場まで続くのぼり旗の数が増えてきまして、8月8月の大合唱。
8月、8月、君に会いたい!
葉月牛とは単純に、生産者たる葉月さんの名字をとっての名前ですが、子狐それを知らぬようです。
8月に食う和牛の総称、と思っておるのでしょう。

「僕にも何か買っておくれよ。ナッツ系のやつ」
「何故私が?」
「だって僕の給料、こっちの世界のお金じゃないもん。後払いするから先に買っておくれよ」
「はぁ……」

そんなこんなありまして、藤森が運転するレンタカー、ようやく会場の駐車場に到着です。
小さな町の小さな祭りですが、そこそこの人がささやかな地域の祭りを、楽しんでおるようです。

稲荷子狐をそのまま会場に解き放つと、何が起こるか分かったものじゃありません。
お肉にモロコシ、お餅に郷土料理、全部の美味に尻尾を暴走させる子狐に、
藤森はハーネスをつけて、リードを繋いで、踏まれないように抱っこして、さぁ出発……
して数分で子狐がぎゃんぎゃん、腕の中で大暴れ。

全部の肉料理を買ってほしいのです。
全部の餅料理、米料理を食べたいのです。
露店の人も子狐の味方をするようで、それはそれは、もう、それは。「ペット用に塩分少なく焼きますよ」だの、「ちょっと冷ましときますよ」だの。

ところで雪国和牛の牛串食べくらべセットが10本で5千円ですって。あらリーズナブル。

「くぅッ……」
8月の給料日、君に、早く会いたい。
思う藤森であったのです。
「藤森、いた!合流したいって言ってたカラスだ」
異世界組織その2の局員、ムクドリの同僚、「カラス」という男性と合流して、
藤森はイチョウの木に、そろそろ向かいます。

8/2/2025, 7:27:23 AM