22時17分

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雨に佇むものは、空にある慟哭に目を投げていた。
今まで、どれくらいの涙を流したというのだろう、天も自分も……

百代は永遠、過客は旅人――という意味。
月日は百代の過客にして~、と昔の人は詠んでいたというが、彼らにも汗に似た涙を地面に流している。
山に登れば自然に反応して汗をかくように。
それが雨粒で地表を滑り、川に流れて海にたどり着き、それが蒸発して雲になって、雨となって下る。

降りしきる雨のなかで、置いてきぼりを食らわされているそのものは、人間でない代物をしていた。

身体の色は全身白色をしていて、白いエビフライのような見た目をしていて、雨の中でもちょっとかわいい。
古い言い方をしたら白いアザラシである。
けれども図体はそれなりに大きくて、700メートルの山よりも大きく、まるで小大陸のように寝そべっていた。

周りは海しかない。空模様は止まない雨である。
そう、この星は、数百年前からずっと、止まない雨を降り、それを続けている。
今日も雨、明日も雨、一年後も雨だろう。

ちょっとしっぽに意識を向けてみた。
かわいいしっぽはすでに海の中。
持ち上げてみないと海の外にいけない。
渦が生じるような水の重さを感じ、ざばあ、としっぽを動かした。
ちょっとだけ別の生き物が出現したような感じがして、個人的に楽しい。

そのものの体色は、最初は黒土のように黒っぽかった。
土の中に埋もれていたような恰好をしていた。
地震の正体は、そのものが「ごろり」と寝返りをしたからだったが、地上の人々はやけに高技術なものを駆使して予測しようとしたり、プレートやマントルを研究していたらしい。
それを翻弄するようにそのものはそうしていたが、誰かが儀式でもしたのだろうか。
長い雨がやってきて、長い雨によって、そのものと地面の境に氾濫した川や、水の流れによって浸食した溝をいくつも作るようになって、今ではもう、それらの文明は海底の仲間入りとなった。

すべてが水没した。そのもの以外。

陸地が雨の幾重もの打撃によって、陸地が砕け解けたように見えた。
実際は陸より水の海域が広がっただけなのに。

そのものはまだ遠慮して、その場にとどまっていた。
過去に行った「ごろり」による影響を鑑みて、世界的に影響があると認識していた。だから雨が降ってから今日にいたるまで、苔むした石のように固まって濡れていた。
けれども、このままだと大量の雨粒の音を聞いて、身体がくすぐったくて、くしゃみや身体のふるえを引き起こすかもしれない。

そのものは泳ぐことにした。
そのものは体長1キロメートル以上はあるので、数分ほどで雲の端が見えるところまで泳ぎ、雨粒から逃れることができた。
やった、と嬉しそうにした。
そのものは海面をランランと泳いでいたが、海底とやらがどのくらい下にあるのか興味を覚え、ドルフィンのように海に潜った。

天に届くくらいに長いしっぽが塔のようにそびえ立った。ゆらゆらと揺れ、雲の欠片を払う。
それによりようやく、止まない雨はない、と言えた。

8/28/2024, 4:07:24 AM