22時17分

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11/21/2024, 9:56:30 AM

宝物を守るミミックは、本日もダンジョン内をおさんぽ中である。

薄暗い地下ダンジョン。
攻略難易度は高めな方で、実際、そのミミックは百戦錬磨の無敗であった。
実はラスボスの魔王や裏ボスであるダンジョン最下層に座す主よりも強いのではないか、という噂もある。
実際、箱の中には、ラスボスをハムのようにスライスしてしまうほどの伝説の武器が何本も入っていたりする。
しかし、ミミック的にはそれら伝説の武器たちを丁重に運ぶことなどせず、ガッチャン、ガッチャンと、中身を揺らして歩いている。

いわゆるジャンプしての移動はしていない。
歩いているのだ。
ミミックは宝箱であるので二足歩行ができる足は生えてないが、どこか生えているような気がする。感情もある気がする。
スキップ、スキップ。
身体(箱)の重心を交互に、左右に、傾かせて。
見えない音符と見えないリズムを奏でている。

「……」

ミミックは、ふと耳を澄ますようになった。
身体を固まらせて、閉じた宝箱となっている。
変な場所で静止したが、その辺は問題ない。
意外とツッコまれたことはない。

電源が切れたように、もう動かない。
ちなみに箱の装飾はちょっと豪華である。
以前は普通湧きのボックスのように、錆だからけの金具に薄汚れた木箱を連想させる見た目だったが、いざこれがミミックだと分かると、冒険者が舐めてかかってきてしまう。
犠牲者の屍の山がダンジョンに積もって、掃除が大変だと魔物たちが愚痴を零していた。

だって歯向かってくるんだもん……。

ミミックがシュンとしていると、魔物たちは提案した。グッドアイデア。ミミックは宝物の中からアクセサリーを取り出し、箱の装飾を頑張って飾った。

十字の分岐路の一方から、冒険者一行がやって来た。

「おい、あれ」
「あ、宝箱……」

男が気づき、女が目ざとく視線を揺らす。
赤色のネックレスの反応が良い。

典型的なメンバーで構成されている。まだミミックだとは気づいていない。女が近づいて、箱を開けようとした……。

恒例行事。
口を大きく開けて、伸びた手を噛みちぎろうとした。

「うわっ、ミミック!」
「くそ……」

一行の目がきつくなり、臨戦態勢。
ミミック側は、ちょっと甘噛みして逃がす予定だったのだが、そんなにやる気なら仕方がない。
本日は気分が良いから相手になろう。

箱の蓋をぐっぱりと回し開け、中身をよぉく見せた。
中には山盛りの綺羅びやかなゴールド、歴戦の勇士が所持した豪華な戦利品。それから紫色の……よく知らない空気の塊。
それらをとことん見せてから、戦闘に入る。
そうすると、ゲームのシステム上「逃げられないバトル」に進化する。

とりあえず、男どもをザラキで即死させてから、可愛い女の子を土下座させたい。
1分後にそうなって、3分後には意気投合。
一緒にダンジョン内デートをすることになった。
女の方が少し怯えているようだが、ミミックにはよくわからない。

スキップ、スキップ。
こうやって、地下ダンジョンの魔物たちに見せびらかすことを毎日やっている。気分が良いのはそれである。
ダンジョン外にこの噂は広まることはない。
その辺は抜かりない。
「逃げられないバトル」なのだから、男たちに死に戻りなんてさせない。

11/20/2024, 9:50:10 AM

キャンドルの火の消し方って個性があるよなあ、って思った。
息をかけて吹き消す。
火の根元を指で摘むように消す。
コップか何かで覆って、酸欠状態にして消す。
水をかけて消す。

あとは何かあるかな。
あっ、ロウを燃やし尽くして消えるというのがあるな。
だったら、ロウを溶かしてしまうというのもある。

火が消えるためには、ロウという燃料に着目すればいい。
そうなると、大きな火で炙って、瞬く間にキャンドルそのものを消してしまえば、キャンドルの火は消えるな。
と考えた。

火を消すために火を点ける。
面白い発想だ。
このアイデア、どこかで使えないかな。

11/19/2024, 9:58:38 AM

「たくさんの想い出」という題名の泉を展示しているという美術館にやって来た。

高めの入場料を支払って、彼はゲートをくぐる。
道中の、細々としたつまらない展示品に興味はない。
油絵の風景画、木組みの工芸品、よくわからない彫刻。
それらについて、思索の時間を取らず、横切っている。
数分後、外に出た。
中庭のような、建物と建物の間にある広がりだった。

メインの展示品は、ただの水たまりではなかった。
泉に注ぎ込む水路がいくつか設置してある。
上から俯瞰すれば、星形の頂点が外側に延長されたような感じである。
水路は五つあった。ちょろちょろと、水路を流れる水の流れは外側から内側へ。つまり五つの水路が、直接中央にある一つの泉へ注ぎ込まれている。

水路といっても、そう大層なものではない。
パイプを横にスライスしたようなものである。
家の屋根にある、雨樋みたいな。
そのような大きさでしかない。

そんな飛び越えられる程度の大きさでしかない小さな水路を、いくつもの小洒落た渡し板が掛けられていた。
渦を巻くような、泉の周りを周回させる感じである。
柵はないから、そのままショートカットするように、ぴょんと飛んで、中心を目指した。

泉に到着しての感想、意外と池だな。
直径は五メートル程度。
だが、遠くから見たほうがよかったと後悔する。
至る所に苔のような暗い緑が敷き詰められているし、汚い沼のような、ぷんとしたニオイを解き放っている。
泉は乾いているようにしか見えなかった。実際、三センチもないだろう。
なんだ、5600円が無駄になった。どうしてくれよう。
憤怒の感情を剥き出しにして、きりりと引き返そうとした。

彼が来たところから、車椅子の人がいた。こちらにやってくるようだ。
付き添いの人が押してくれるタイプで、車椅子に座っている人は女性だった。
制服を着ていた。とても若い人。
子どもだろう。小学生? わからない。
そのような華奢な体つき。

車椅子でも彼のようにショートカットできそうなものだった。しかし、車椅子の人は順路通りに従った。
泉を回るようなゆったりとした試み。
 
沈黙であった。彼は立ったままでいた。
彼女もまた沈黙だった。手押し車に乗せられたか弱い小動物のように、身体をじっと固めていた。
彼女を眺めていると、いつの間にか怒っていたことなんて忘れて、時計の一周を感じさせた。
人物像の輪郭が分かるようになると、座った彼女の目は閉じていた事が分かった。

やがて、車椅子と付き添いの人――どちらも女性だった――が泉に到着した。
付き添いの人は車椅子を固定したあと、一歩二歩下がって佇む。車椅子の彼女は深呼吸して、

「いい香りです。スイレンが咲いていますね?」

彼女は嗅覚にすぐれた。
付き添いの人は「ええ」と頷き、じっくり鑑賞していた。その後、「たくさんの想い出」という泉に付けられた題名について、議論を交わしている。
彼は、どこにスイレンがあるのか、細い目をさらに細めて泉の範囲を探している。
書き忘れたが、彼は極度の近視である。鼻もバカな方である。学もない。

11/18/2024, 9:56:57 AM

冬になったら、ホカロンに振り回される。

ホカロンとは何か。
一応書いておくと、カイロのことである。

僕は、冬の終わりかけになると、コンビニの20%から30%ばかり安くなったホカロンたちを買い占めている。
「ふふふ、冬は毎年来るんだぞ。な~にが今年で終わりそうな雰囲気出してる。来年の冬に備えていると思えば、割引ってお得だろっ」
と思いながら、カイロの在庫処分に貢献している。

春夏秋とカイロを眠らせて、満を持して押し入れから取り出す……ということを毎年予定しているがイマイチタイミングの機会を逸している。

冬とはな、突如来るんだぞ。
冬になったら、とか考えているうちに、今日来ちゃったのだ。
家にテレビとかないから、天気予報なんてスマホのホーム画面にあるアプリをさらりと見て終わっちゃう。
アプリも開かずに「14℃」という数字を見て、
「ああ、現在の最低気温は14℃なんだな」
とか思っちゃう。

実際は最低気温は4℃って書いてあった。
昨日と同じ秋の陽気だと思ったのに……さむい!

ヒートテックなし、防寒着なし。
体感してさむいってなったんだけど、
「まあ、行けるだろう」って最初は思うんだな。
室内の温かい空気を纏っているから。
でも、その衣が剥がれてきて、もう引き返せない段階になると「寒い!」ってなる。
風よけのない駅のホームで特急電車の通過待ちで待っていて、特急が来て、冷たい風がぶわんとやって来た。

「うわああ、さむいいい!」

いつもはやらない腿上げとかをやったり、奇妙なダンスを踊って身体を動かざるを得ない。みんなはいいよなっ、防寒着着てさ。僕は、僕は……くよくよ。
などとしてた。

そんな朝の寒さから10時間後くらい。
予報では11℃と書いてある。えっ、である。
えっ、朝よりももっと寒いの?
愕然とした。戦々恐々とした。
どうして、どうしてヒートテックを着てこなかったのか……。

そんな帰宅の風を受け、やむなくコンビニに赴いて、ホカロン(貼るタイプ)を1枚買う。
すぐに貼ってしばらくする。
お腹あったまってきた。
お腹をさすると、こたつにぬくりたいって言ってます。

11/17/2024, 9:44:54 AM

はなればなれになっている本館と別館。
その塊よりも遥かなる「はなればなれ」となっている一軒の小屋。

忘れ去られているように佇んでいるが、のれんは掛かっている。小さい建物ながら、当時はここが本館だった。
現在の本館は平地の方へ移されていた。
より近い方が交通機関のアクセスが良いといって、移転と建て替え工事がなされたのである。

公共事業とそれに類する大手建設業者たちによって、ここら一体を都市計画事業として施工した。
そんな難しいことを村役場の者たちが言って、誘致した。それから暫くして、田舎のだだっ広い土地にホテルのような瀟洒な建物を2棟も建てたのだ。

きれいなホテルと、古くて趣がある宿。
都会から来られた客たちは、最初の方は宿泊率は半々だったが、徐々にこの国が豊かになり、都市が散らばるようになってきた頃には、鉄道に近い本館と別館……新館ばかり利用するようになった。

宿のほうが源泉に近く、源泉かけ流し温泉と銘打って、見晴らしの良い展望が望めたが、窮屈な客室と、質素な料理。それに宿屋にたどり着くためには、曲がりくねった山道を登らなければならぬから面倒ということで、新館のほうに軍配が上がっていった。

現在は、宿の者も新館の方に移り、商売をやっている。
しかし、最近その建物を建設した大手建設業者の雇用形態がブラックであると判明し、瀟洒な新館に泊まることを客が嫌煙するようになった。
原点回帰が唱えられる時流となったのだ。

さすがの大人数を宿泊させるには手狭であるので、いっそ一晩貸切という風にしてみた。
すると、利便性を好み運動嫌い山道嫌いの都会人の客足はほとんど滅したが、一方地元民が懐かしがってその宿に足を運ぶようになった。

豪華な料理は提供しなかった。
質素な食卓。
敬語のない、方言の飛び交う会話。
客をもてなす、まだ腕は白い女将。
食べ終わったカニ。小皿と鍋。
はなればなれが一気に近づいた時。

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