白糸馨月

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お題『雨に佇む』

 顔がいい男は雨にうたれているとより一層魅力が増すものだ。私はテレビを見ながら思わず「尊い」とこぼす。
 横にいた夫がムッとした顔をしながら、なにを思ったのか急に外へ出た。今、外は大雨だ。
「えっ!? なに?」
 私もあとを追いかけると、夫がテレビの俳優の真似をして雨に打たれていた。正直夫はイケメンでもなんでもない。俳優と違って背が高いわけでもなければ、すらっとしていない。どちらかというと腹は出てるし、ガタイがいい。おまけに髪型も床屋で短く切ってきただけの清潔感しか備わってないものだ。正直、絵にならない。ただ、私が他の男にうつつを抜かしているのが気に入らないのだろう。推し活に関しては「いいよ」と言ってくれるくせにだ。
 私はため息をつくと、夫に
「そんなんで風邪ひいたらバカだから家に入んなね」
 と言う。その言葉に夫はすごすご戻っていく。私はゆるゆる洗面所に行き、バスタオルを持ち出すとそれを夫に渡す。
「えへへ。テレビの俳優は濡れてもこうやって君からバスタオル渡してもらえないもんね」
 と笑って言うから、アホなやつ、と私も呆れながら笑みを浮かべた。

8/28/2024, 3:39:34 AM