お題『風を感じて』
私は一重だ。それも、とても目が小さい一重。
そんな私は、今、眼圧検査のために右目を思い切り開けている。
自分では限界まで目を開けている。そのつもりだ。
だけど、目の前で検査している看護師が言う。
「もっと目を開けてください」
目ぇ、開けてるわと言いたくなるのをこらえながら更に目を開ける。だが
「まつげがかかっているので、指で押さえててください」
逆さまつげが邪魔をしているようだ。自分の目の小ささに加えて、まつげも下向きに生えてるからやりづらいったらありゃしないのだろう。
私は指でまつげをまぶたにはりつけ、更にまぶたを指で押し上げた。
片方の眼球が乾いていくのを感じる。
「それでは、いきますねー」
と合図されてから時間が長く思えてくるのはなぜだろう。早く目を閉じさせて欲しい。そう思ったその時、右目に風を吹き付けられた。途端、閉じかけるまぶた。
「では次、左目いきますね」
という声を聞きながら私は右目の違和感を消化するために右でまばたきを繰り返していた。同時に風を感じてないはずの左目も連動してまはだきした。
お題『半袖』
いやだ。肌が焼ける。
私はブスだから、せめて肌くらいは白くいようと努力している。
いままで、どうにか長袖でしのいできた。
でも、もう無理だ。
外に出ればむわっとした空気が気持ち悪く、日差しが眩しくて暑すぎる。
長袖を着ていたらいつまでたっても汗が逃げてくれない。
今年から私はTシャツを着るようになった。
かわいいユニクロのシルバニアファミリーのTシャツを着ればすこしはメンタル面もましになるだろうか。
でも、腕に感じる熱気に私の気持ちは暗くなった。
暑すぎる夏は、私の努力を無駄にしようとしてくる。
そんなことを言ってられなくなってきたのは分かってるの。
お題『美しい』
昔、心理テストにはまっていたことがあって、
「崖の上から湖を眺めた時、あなたは何ていう?」という質問があった。
私はそれに対して「美しい」と答えた。
そうしたら、その答えは「死ぬ時に言う最期の言葉」だと言われた。
「美しい」と言えるということは、きっと死後の世界はきれいな場所なんだろうなということだ。
まだ先の話の予定ではいるから実際のところよくわからないけどね。
お題『水たまりに映る空』
「最近、田中さん見かけませんよね」
社内でもうだつが上がらない田中は今、どうしているか知らない。
俺にとってはどうでもいい話だ。田中がいつも上司に怒られようと、仕事を押しつけられようと。
今の悩みは人生が退屈であることだ。
仕事はそこそこうまくやれている。ただそれ以外なにもない。
唯一の趣味は異世界に転生したり、転移したりする小説を読むことだ。こういう小説を読むことで退屈じゃない日常を送れるだけでなく、強大なスキルを手に入れたり、人からモテたりするんだよなと願ってやまないのだ。
今日も定時で上がり、なにごともなく帰宅しようとしてふと、雨も降っていなかったのに大きな水たまりを発見した。
(もしかしたら、俺はこれを使って異世界へ行けるのでは?)
そう思った瞬間、俺はそこに向かって飛んだ。
びしゃ。
水たまりには俺のアホ面と夕暮れ時の空がうつるだけ。
ふと、俺はこの時になって田中を思い出す。
田中は多分、異世界に行ったんだろう。会社では仕事ができないくせに、いいように使われているくせに、あっちの世界ではきっと英雄になって、ひょっとしたら努力しなくてもモテているかもしれない。
「畜生っ!」
俺は再度飛び上がった。スラックスに水がかかるだけ。
しばらく俺はその場で退屈な生活から抜け出すための執念をスーツを汚しながら燃やし続けたのだった。
お題『元気かな』
私の趣味はSNSの巡回だ。
いつものように昔のクラスメイトや、昔付き合ってた人のアカウントを特定して最近の近況を見ている。
なお、私は一部のクラスメイトからなぜだか知らないけどブロックされているし、元恋人はアカウントごと削除したりしている。
それでも私はどうしても見たくて別でアカウントを作り、彼等を見ている。
「結婚しました」
「子どもが産まれました」
「昇進したから大変」
「そっちも大変だね、お互いがんばろ」
それらを見て私は安心して「元気そうでよかった」と呟くのだ。