白糸馨月

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1/17/2025, 3:47:40 AM

お題『透明な涙』

 ついに見つけた。秘宝『透明な涙』
 こういう時、怪盗よろしくトランプみたいに「今宵、透明な涙をいただきに参上する」みたいな予告状を出すのがかっこいいんだけど、そんな警備が強化されるようなバカな真似はしない。
 あらかじめ警備員に変装した俺は人がいないことを確認し、透明な涙が飾られているガラスを破壊してそれを手にとってずらかる。
 防犯ブザーが鳴らないのは俺があらかじめスイッチを切っておいたからだ。
 宝を手にして走って走って走って、ようやく誰もいない海辺にたどりついて手のひらにある透明な涙を見つめる。
 これは人魚が流した涙が宝石と化したものだ。無色透明、きらきら光る真珠みたいな形をした宝石。
 昔、仲良くしてもらった人魚が持ち主の手先に囚われた時に流した涙の一粒だ。今、その人魚はもういない。陸に上がった後、干からびて砂になって崩れてしまった。
 ようやくここまで来た。人魚のねーちゃんを家に帰すんだ。
「ようやく帰れるよ、ねーちゃん」
 透明な涙を海水に浸ける。すると、それは溶けて海と同化する。ふと、俺の脳裏にねーちゃんの笑顔が浮かんで、俺は息をついた。

1/15/2025, 11:16:57 PM

お題『あなたのもとへ』

 昔、幼馴染が魔王の手先によって攫われた。なんでも彼女には強大な力があるんだって。
「今まで楽しかった、ありがとう」
 と涙を浮かべながら、それでも笑おうとする彼女が軍団に引きずられるように連れて行かれたのが十年経った今でも忘れられない。

 私は今、仲間と一緒に魔王と対峙している。ようやくここまでたどり着けたんだ。
 私が見据える先は魔王じゃなくて、その後ろで鎖に巻かれている美女の姿だ。綺麗な彼女は魔王に力を吸われていてもうぐったりしている様子だった。
「よく来たな、無謀なる勇者よ」
 と言う魔王の声を無視して私は
「助けに来たよ」
 と言った。その瞬間、疲労しているはずの彼女が顔を上げる。
「いやだ、来ちゃだめだったのに」
「それでも貴方を助けに来たかったの」
 泣く彼女に私は笑いかける。
 この十年、彼女を救うためにどれだけ鍛錬を積んだだろうか。魔法の粗質がないからひたすら剣の腕を磨いた。
 女であるこの身には限界があって、それでもそれなりに戦える術を身に着けてきたつもり。
 仲間を引き連れて、ようやくここまで来れたんだ。
 全部あなたのもとへ行くために。
 私は剣を構え、魔王のもとへ走る。仲間の僧侶が速さをあげる魔法を使ってくれたから動きが早い。
 彼女を救い出すため、私は低めに構えて魔王の足を切りつけた。

1/14/2025, 11:43:59 PM

お題『そっと』

 俺達は今、積み上げた細長いちいさな積み木の中の一つを手にとって、それを上に置くゲームをしている。要するにジェンガだ。
 今、大分タワーからささえになる木が抜かれていって、だんだん抜くのが難しくなっていく。
 それにこのゲームをやるとやけに緊張して、自分の番でもないくせに『そんな雑に抜いたら崩れるだろうが』とか、『そっとだぞ! そっと上に置くんだぞ!』という念を他にプレイしている三人の友人に視線で送ってしまう。
 さて、俺の番が来た。
 どこを抜いても難しそうで、タワーが揺れて見える。
 その中から、きっとここを抜いても大丈夫だろうというところにあたりをつけ、震える手つきで積み木を抜こうとして、思わずカンッと大きく積み木をずらしてしまった。
「あっ」
 と言ったときにはもう遅い。タワーはガラガラガラと音を立てて崩れていく。
 友達がみんなでおおきな声で笑いながら「あーっ!」と言う。
「お前、オゴリな!」
 と友人の一人が言い、そういえば負けた人はおごるというルールだったなぁと思い出して「うわぁー、くそぉー!」と思わず声を上げた。

1/13/2025, 11:47:54 PM

お題『まだ見ぬ景色』

 旅行は楽しい。
 ガイドブックやら、観光サイトの写真を見て「うわぁ、きれい」と思っても実際に足を踏み入れ、景色を目の当たりにするとまた違った感想が産まれる。
 一つの旅行が終わったら、『次はどこへ行こう』とまだ見ぬ景色に思いを馳せたりするのも楽しい。

1/13/2025, 6:48:16 AM

お題『あの夢のつづきを』

 気がつくと、俺は高層ビルの最上階にいた。その広い場所は俺の家らしくて、上から見下ろす景色がミニチュアみたいに小さい。それに運河が見える。それにまわりには美女が何人もいる。全員俺の妻らしい。
 普段、女性からキモがられがちだが俺が近づかずとも向こうから近づいてくる。それにいきなりシェフが現れたかと思うと大きなオムライスを出してくれる。
 こんなきれいな場所で、美女がいて、おいしい食べ物にありつけて、しばらくそれを堪能したいと思っていた。
 だが、気がつくとなんの変哲もない天井が目に入る。部屋はせまく、めんどくさくなって放置したカップラーメンの器がはしの方に積まれているのが見える。もちろん美女はいない。料理を作ってくれるシェフもいない。
 現実に絶望した俺はもう一度目をつむって、夢の続きに行こうとしたが、いくら待っても眠気がくることはなかった。

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