お題『宝物』
腐女子であることが母親にバレた。母親が私が部屋に置きっぱなしにしていたBL同人誌を手に取っていたからだ。
私は思わずカバンを床に落とし所、あわ、あわと震えた。
すると、母はふ、と不敵な笑みを浮かべ始めた。
「ついてきなさい」
部屋を出ようとする母に促されるまま、私はついていく。うちにはそういえば地下室があって、でも小さい時から「入らないで」と言われてきたから入らないでいたんだっけ。おまけに地下室の部屋は鍵がないと入れないらしい。その鍵のありかを私は実は知らない。
母は地下室へ進み、鍵を使って扉を開ける。そこに広がっていたのは、とんでもない光景だった。
ぎっしり詰まった本棚。それに目につくのは、私が小さい時見ていたアニメのイケメンの等身大パネルだ。
実は母もオタクだったのだ。その事実を十九年間生きてて初めて知る。
「血は争えないってことね」
そう言いながら母は、部屋の中に入ると本を一冊取る。それはさっき私が読んでいたカップリングと同じだった。
「お母さん!」
私は部屋に入ると母親と熱い握手を交わした。
お題『キャンドル』
うちが停電した。懐中電灯はあいにく持ち合わせがなかった。
仕方なくスマホのライトを頼りに夕食を用意しはじめて……ふと、ろうそくが目に入った。
スマホのあかりを頼りにごはんを簡単に用意した後、私はなにを思ったのかろうそくに火をつけて、夕食の両脇に置いた。
あたりがほんのりあかるくなる。だが、不思議な気分だ。いつもの大した事ないサラダチキンだけの食事がなんだかとても厳かな気分だ。思わず
「すべての命に感謝を、アーメン」
なんて言い出すくらいにはこの雰囲気に浸り始めていた。
お題『たくさんの思い出』
荒れ果てた街のなか、破壊された研究施設に足を踏み入れた。僕のようなアンドロイドは時折充電しないと生きていけず、荒れ果てた街の中なんかは特にそういう場所を探すのに苦労する。それにアンドロイドを破壊する部隊が時折派遣されるから、一箇所にとどまることはできない。
僕はいつものように探知機能で人がいないことを確認してから首にプラグをさす。
いつもは体の中に電流が流れるような感覚がしてから体力を回復するものだが、何を間違えたのか、僕の頭の中に矢継ぎ早に映像が流れてきた。
それは、ある男性との記憶だった。彼は僕を作り、本当の息子のように育ててくれた。だが、戦争が起きて男性は僕を逃がすために、僕が独りでも生きていけるように僕と彼の記憶をリセットしたのだ。
最後の映像。僕が泣きわめきながら『とうさん』をなぐって、でも『とうさん』は「幸せになれ」と言いながら僕の思い出を消したんだ。目覚めた場所はここからずっとはなれた違う場所だった。
映像が止まって僕は目から涙をこぼした。とうさんはあの時もうすでに七十を過ぎていて、あれから五十年の月日が経っている。もう生きては居ないだろう。
僕は涙を拭いてしばらくたくさんの思い出が詰まったメモリに浸ることにした。
お題『冬になったら』
「冬になったらいつでも会えるよ」
と言ってくれた雪の妖精の女の子とは、もう何年も会えてない。
雪深かった街から父が東京への転職を決めてから、十五年くらいが経つ。
東京はあまり雪が降ることはないし、何年か経つうちに僕は彼女の存在を忘れてしまった。
そんな折、新卒で入社したばかりの僕に配属先の辞令が出された。昔住んでいた雪深い街の近くの事業所だった。
引っ越して十二月になりかけたある時、雪が降り始めた。僕はなんとなく彼女が現れる木の下に行った。
十五年くらい放置して、いまさらだろうと思う。
だが、彼女は僕の目の前に現れた。すこし頬をふくらませながら。姿は昔会った時とどこも変わっていなかった。
「ねぇ、遅すぎる」
腰に手を当てて怒る彼女にただ、ごめんとしか言えなかった。そしたら、彼女がふと表情をゆるめて、寂しそうに笑う。
「でも仕方ないよね。だって何年も前だもん。もう君も大人になっちゃったよね」
「そうだけど、また君と遊びたくなってここに来た。だめかな?」
そう言うと雪の妖精はパァと笑った。
「えっ、いいの?」
「うん」
それからというもの、僕たちは昔のように雪の上を転げ回りながら遊んだ。仕事で疲れていた心が童心にかえることで癒やされていく。
それにまた彼女としばらく過ごせるという事実を僕は噛み締めていた。
お題『はなればなれ』
急に前世の記憶が蘇ってきた。
ここはゲームの世界で、さきほど喧嘩したさっきまで相棒だった者とはこれきり離れ離れになって、俺の前に敵として現れ、殺さなくてはいけなくなるところまで見えた。
そういえば俺はいつだって道を切り開いていたつもりだったけど、相棒にとってはそうじゃないのだろうか? 俺が自分勝手なだけなのか。あーもう、難しいことはよくわかんねぇ。今なら、そう遠くに行ってないはずだ。
俺は来た道を戻って、相棒が進んだ方の分かれ道を進む。すると、やはりまだいた。一人で木に魔法で火をともしている。
「よぉ、こんなとこにいたのか」
「話しかけるな。もうお前と俺は関係ないはずだ」
「そんなこと言うなよ」
そう言って俺は相棒の目の前に座る。しばしの沈黙が流れる。だが、耐えられなかった。きっと相棒もそうだろう。
俺は鞘から剣を抜く、相棒は手から雷の魔法を放つ。魔法攻撃を剣で受け止め、俺は後ろに飛び退いた。
「うまい言葉が思いつかねぇからよぉ! やっぱ、こういう方法しか思いつかねぇんだわ!」
「奇遇だな、俺もだ」
きっと離れたくないのはお互い様だ。でも、言葉じゃどうしたってうまく伝えられそうにない。だから俺たちは、殴り合うことに決めた。