『踊りませんか?』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
踊りませんか?
ダンスとはまた日本人には縁遠いお題がきたな。それとも俺がやってないだけで普通の人は割りと踊る機会があったりするのかな?
少なくともフリーターの俺にはさっぱりなお題だ。踊ったのなんて多分人生でも数える程度しかないと思う。
まぁ音楽を聞いて一人でちょっと踊ったことはあるかもだけどそういうのはノーカンだよな。というか踊りませんか?なんだから誰かと踊るのが前提か。
でも踊りと言えば祭りとかでも踊るのか。そう考えると割りと踊る人ってのはいるのかもしれない。
じゃあこの映画くらいでしか聞かないようなセリフも実際に言う人が結構いるのかもな。うーむ、俺には縁遠い世界だ。
踊るに関しての曲は割とあるけれども、タイトルで絞るなら、私が好きな曲は、フレデリックの「オドループ」、Guiano、理芽の「空っぽなら、踊ろうぜ」、Ado「踊」、宮下遊「踊ろうや」、キタニタツヤ「悪魔の踊り方」とか、割とまぁ、こんな感じです。てか、好きな曲聞いて、踊ればいいんですよ、もしも好きな曲のタイプが私とあった方、私と一緒に踊りませんか?なんてね。
勧善懲悪 童話の世界
灰かぶり娘の 姉ふたり
指とかかとを 切り落とし
わたしを妃と くつを履く
結局かなわぬ その夢を
灰かぶり娘は いとも簡単に叶えたの
悪役救済措置を 願うならば
ご慈悲をどうぞ ふたりの姉に
たとえば こんなのどうかしら?
ふたりのまえに ふたごの兄弟
昔から好きでしたと 大胆告白
ここらで一曲 おどりませんか?
奏でおどるわ くるくると
だけど大変 血塗れの足で
ひとりは 指が
ひとりは かかとが
ふたりは 結局おどれるの?
ふたりのまえには ふたごの兄弟
どうぞふたりにも 愛のお恵みを
踊りませんか?
この時代(とき)に
この地球(ほし)で
この宇宙(そら)の下
あなたと出会えた
踊りませんか?
命のダンス
晴れの日
風に吹かれて揺れる木漏れ日
キラキラ踊る陽光と木の葉のリズム
雨の日
降り注ぐ雨の雫に揺れる木の葉
絶え間なく刻む雨音のビート
風の日
全てが風に煽られて
ヘビメタのノリで暴れ狂う
雨上がり
空に天使の7色の鍵盤
落ちる雨粒が波紋で踊る
地球の自然が織り成すダンス
ゆっくり眺めるのもいいかもしれない
「踊りませんか」
短い秋の始まりは遅く、終わりは早い。
紅葉が舞い散る夢の中で私は黒い猫になっていた。
さまざまな年齢の数種類の猫が
猫語を話して木の下で戯れる。
なぜか私にも分かる、その猫の言葉が。
全ての紅葉が舞い降りる前に私は彼らを誘った。
「一緒に踊りませんか?」
彼らと私は初対面なのに
猫同士には初対面の気まずさがないと見えて
私たちは紅葉という葉吹雪のなかで
猫の界隈で流行っている「グレーの招き猫」を
歌いながら踊った
踊りませんか?
曰く、何も知らない人と結婚は無理。
曰く、だって冗談だって思ってたから。
一度目は、まだ連絡先も交換していない顔見知りの客同士。自分が「トリプルワークを始めます」という少しばかり頭のおかしいことを言い始めた頃。なぜそれを始めようと思ったのかは覚えていないが、気付いたらそうなっていたというのが正しい。カレンダーに空欄などなく、一日の半分は仕事で埋まる。そんな生活がもうすぐ始まるから、お店には顔を出せなくなりますと挨拶も兼ねて飲み歩きをしていた頃。
「来月からトリプルワークが始まるから、絶対しんどくなるの。癒やしが欲しいから付き合ってよ」
「嫌だよ、絶対仕事優先じゃん。会えないし遊びにも行けない人となんで付き合うの」
「だめかー」
そういうことを口に出せるぐらいにはよく会うし、仲は良い方だった。割とちゃんと断られて、案外押したらイケるのでは?と思ったのがこの時の感想。これを言うと「鋼メンタルなの?」と聞かれるが、仕事という分かりやすい理由で断ってきたのなら仕事を調整すればいいと思ったのだ。
二度目は、その数ヶ月後。トリプルワークを始めてもうすぐ一年が経ちそうというそんな頃。身体の限界と言うか、主軸にしていたバイト先に新しく来た上司があまりにも役に立たず心が疲弊してバイトを辞めようかと周囲に相談していた頃。新しく来た上司は社員で、仕事が出来ないけれど社員なばかりに安易にクビにすることが出来ず系列店で押し付け合っているような人で。結論から言えば自分はそこのバイト先を辞めた。主軸にしていたバイト先だったから、カレンダーには一気に空欄が増えた。「やっとゆっくり飲めます」と元上司の愚痴の一つでもこぼしながら、心身の回復を求めて。
「トリプルワークもうしてないよ。時間作れるから付き合って」
「駄目だよ、もう友達枠だもん。友達とは付き合わないって決めてる」
「友達ではあるの?じゃあいいかな」
「友達でいいならそういうこと言わないの」
この頃は色んな人に会う度に「まだトリプルワークやってるの?早く辞めな」と言われていて、もちろん君もそっち派で。仕事に片が付いたから言っとこうかなと思った二度目は「駄目」と言われて断られた。この時点でだいたいの人は諦めるんだよ、と今の君は真面目な顔をして言ってくるけれど、正直な話本気で付き合いたいと思っていたわけではなかったから、友達という肩書きが貰えただけで自分は良かったのだ。
三度目はそこから半年経たずして。いつものバーに居た時に偶然会って「この子に2回フラれたんですよ」とキャストの人に話しながら隣に座った。バイトは1つしかしていなくて、連絡先も交換した後だったからどうかなと思って言ったのが三度目。
「ねぇ、やっぱり付き合ってよ」
「無理、だいたい恋人欲しいわけじゃないでしょ」
「それはそう」
「じゃあ告白してくんなよ」
「フラれたー」
そんな三度目。実は二度目の告白の後すぐぐらいに連絡先を交換していて、ご飯にも行って遊びにも行って、ちゃんと友人をしていたと自負している。それでもやっぱりフラれたけれど自分にダメージは無かった。だって「やめて」って言われなかったから。
三回のどれも人前で、バーで飲みながらの状況での告白だったから君は二度目までは完全に冗談だと思っていて、三度目で(あれ?)と思ったらしい。実は三度目の告白の後、別の店で「付き合うのは無理だけど、同居とか結婚ならいいよ」と言われ「じゃあ結婚してよ」と間髪を入れずに答えた自分に(本気か?)と君が悩んだおかげで今に至る。
きっと一般的ではない始まり方で。今も付き合ってはないけれど結婚はほぼ確定していて週の半分を君の家で過ごすという、「それはもう付き合ってるんでは」と周囲にツッコまれる関係で。
世の中には色んな出会いがあるけれど、こんな出会いも心が踊りませんか?
踊りませんか?中秋の夜に
月と星をバックに屋根の上で
君は軽やかなステップで
私はおぼつかない足取りで
秋の空気はすんでいて
君の瞳のように透明で
人生は空虚だ。毎日が会社と家の往復。休日は寝るだけ。動画サイトとスマホゲームに少しばかりの快感と時間を吸い取られる日々。気がつけば会社に勤めて10年が飛ぶように過ぎていた。
「え?サヤ、結構まいってる感じ?社会人つらくなってきた?」
中学生からの親友マキエとお茶をしている席でそんなことを吐露してしまった。やっぱり疲れてる。
「あんたってさ、音楽のライブとか、見に行ったことない?ライブハウスでもフェスでもいい」
「え、ないけど。でもそんなの…」
別にライブに行かなくたって、音楽は聴けるじゃん。サブスクだって入ってるし、音楽の趣味がないわけじゃない。
「あとは、カラオケとか、そう!スポーツ観戦とか」
ますますなにを言ってるのかわからない。娯楽?家じゃなくて外に出ましょうってこと?
「なに?私がインドア派すぎるって言いたいの?」
思ったより語気が強くなってしまった。
「違う違う、そうじゃなくて。ダンスだよダンス!あんたに足りないのは踊ること!」
正解が出てもやっぱり理解できなかった。なんで私この子と友達だったんだっけ。でも相談してるのは私だ。
「私たちの世代って、踊ることを学んで来なかったと思うの。ほら、今は学校の授業でもダンスって必修でしょ?昔なら盆踊りだったり、フォークダンス?だったり。生きていれば通らざるを得ない踊りがあったんだよ」
なんかアカデミックな話し方で持論を展開している。面白そう。
「でも私たちは、求めに行かなきゃ経験できなかったの。踊りを。踊ることが当たり前じゃなかったんだよ」
それに日本人は平均的に踊る時間が少なすぎるっていう統計も出てるらしいという分析まで出してきた。
私は夏祭りの盆踊りもなにが楽しいんだろって思いながら眺めてたし、キャンプファイヤーの周りを手を繋いで回るのとかもドラマでは見るけど私の世代ではやったことない。ましてや体育の授業でやったことも。
踊るのが人生に必要だなんて思ったことなかった。
「で、踊るのって必要なことなの?」
「んー。ダンスをすると幸せになる」
雑だなぁ。
「少なくともあんたのその人生の空虚?それがどっかに吹き飛ぶ」
それって現実逃避じゃ?あ、でも、この悩みを最初に話したの私だった。
「でも踊るのって…その…怖いし」
我ながら臆病すぎる。語彙力小学生か。
「なにもいきなりクラブに飛び込まなくたっていいの。家で好きな曲に合わせて手足を動かすでもいいし、ひとりカラオケで振り付きで歌うのもいい」
ああ、なるほど。妙に納得してしまった。
「と、いうわけで…」
え?
「今から私と踊らない?」
「え、ちょっと、どこに?」
言いながら強引に席を立たせてくる。
「カラオケカラオケ♪ まだお昼だから安いから!」
「いや私、歌うのも…」
苦手だ。カラオケなんて歌ったこともない。
「私がサヤの知ってる曲歌うから!それに合わせて適当に踊ってみて!それでじゅうぶん!」
流されるのは好きじゃない。けど、私のことを想ってくれてるのはわかる。こういう友達がいて、良かったな。
お題:踊りませんか?
月落ちて 赤らむ君と 星の舞
何も思いつかないよー💦
ヨイショされ調子に乗り
踊らされる事は誰にでも
ありますよね?(笑)
#踊りませんか?
「踊りませんか?」
すき。色素の薄い目が。
すき。振り返るときの横顔が。
すき。どこまでも優しいその声が。
夢を見たんです。
小さいけれど美しい広間に、いろいろな洋服をまとった人々が集まっていました。私はいつもの制服を着て、スーツに身を固めたあなたを見つけました。
最初のダンスが始まりました。今夜の主役のふたりが、とても幸せそうに手を取り合って踊っていました。それはまるで時の流れがゆったりとしたように見えたのです。
2曲目になると、みんなそれぞれがパートナーを探して踊り始めました。私は煌びやかな人々を眺めながら、あなたのことも見つめていました。あなたはひとり、ごちそうが並んだテーブルの後ろに立って、私と同じように広間の真ん中に視線を向けていました。
シャンデリアの光を受けたその瞳があまりにも綺麗で、思わず見入っていると、あなたがこちらを向きました。
あたかもロマンス映画のワンシーンのように、周りの音が消えました。人々もなくなりました。私が一歩踏み出すと、あなたもこちらに足を出すのです。
やがてふたりは10センチの距離まで近づきました。あなたは背が高いから、それとも私の背が低いから、私は首を伸ばしてあなたを見上げました。あなたの髪が額に触れて、少しくすぐったくなりました。
「あなたの」
勇気を出して言葉を絞りました。
「最後のダンス、くださいませんか」
あなたの息が鼻先にかかりました。あなたは困った顔をして首を振りました。制服のスカートを指差していました。
あっと気がついて、私は化粧室に飛び込みました。確かにこれじゃいけません。きちんとドレスに着替えなくては。
私のドレスは、白いレースに桃色の刺繍がある膝丈のものでした。髪も1度ほどいて、かわいくなるよう結び直しました。
化粧室を出てあなたを探すと、あなたはバルコニーへ出ていくところでした。追いかけて手を伸ばしましたが、すんでのところで声をかけるのをやめました。
あなたはひとりではなかったのです。深い紅色のドレスをまとった方と一緒にいらっしゃるのです。
私は自分のドレスとその方とを見比べました。私のはかわいらしいけれども、幼稚でした。あの方のは単調だけれども上品でした。
私は苦しくなって、けれどそこから逃げるのもなんだか癪で、カーテンに隠れて様子を見ていました。
あなたは膝を折りました。右手をすらりと差し出して、その方に頭を下げました。
「わたしと踊りましょう」
とたん私の目に溢れたそれはどんな感情だったのでしょうか。あなたの相手はすでにいたのです。私はそれを知っていたはずだったのに。
帰り際、あなたは柱の影にしゃがみ込んだ私を見つけました。
「気つけて帰りや」
紅いドレスの方も心配してくださいました。
どこまでも優しいその声が好き。
こちらを振り向く横顔が好き。
あの方を見つめるその目が好き。
誰も去ったダンスホールに、私はつぶやきました。
「一緒に−−−−せんか?」
『彼女と先生』
踊りませんか?
「踊りませんか?」そう声を掛けられ
一瞬身を固くする。
そこに居たのは 冷徹と噂される
侯爵子息だった。
私は、差し出された手に視線を置き
こわごわとその大きな手に自分の細く白い手を置く
そうして広いダンスホールまで手を引かれ
広い空間に誘導される。
オーケストラの楽団の人達が自分の担当の
楽器を構え そうして曲が始まる。
最初はバイオリンの音色から始まり
高らかに響き周りの人達がターンや
ステップ そうしてくるくると回り
曲に合わせて それぞれのダンスが
思い思いに始まった。
何故 侯爵が私の手を取ったのかその
怜悧な青い瞳の中にわずかな皮肉が
混ざっており口元も意地悪く口角を
上げていた。
「笑みが引きつっていたぞ あまり不自然に笑っていると口元に皺が増えるぞ!」
「あら侯爵様 女性の容姿を揶揄するのは
失礼に当たりますよ 寛大な私で無ければ
気分を害する所ですわ!」
「よく言う早く帰りたいと表情に出ていたぞ 俺が声を掛けなければ しつこい
令息の話しを切り上げられず いつまでも
聞いているハメになっていたぞ!」
令嬢は、ムッと口元を引き結んだ
それは、事実なので言い返せない....
しかし声を掛けるにしてもいきなり
何の脈絡も無くあんな冷めた目で話し掛けたら他のご令嬢なら怖くて逃げたして
しまうだろう
「貴方こそ女性をダンスに誘うなら
もう少しにこやかにスマートに誘えませんの あんな真顔でまるで戦地に立つ兵士の
様に威圧し過ぎですわ!」
令嬢は、不満を露わにする。
「ああ それは、すまなかった.....
他の令嬢は、可愛らしい方が多く自然と
口元が緩んでくるんだが お前の吊り上がった高慢な表情を見てるとどうも笑う気に
なれなくてな....」
令嬢は、その言葉に怒りが頂点に達し
令息の足をステップを踏む振りをして
わざと踏もうと画策するが
令息は、彼女の行動などお見通しの様に
軽やかなステップを踏んでそれを回避する
高慢令嬢と皮肉屋令息 彼女と彼は、
社交界のダンスパーティーに参加する
たびに言葉の応酬を繰り返している
その応酬が始まる合図は必ず....
「踊りませんか?」と言う令息からの
問い掛けから始まる。
そうして手袋を放る様に令嬢が令息の手に
まるで挑戦を受けるかの様に体を震わせ
武者震いをさせて 戦場と言う名のダンスホールに赴く
組み手をする様にお互いの手を重ね
ダンスの曲が終わるまでにお互い皮肉の
言い合いを始める。
それは、最早 お互いだけの恒例行事に
なっている....
それに 果たして 令息と令嬢が気付いて
いるかどうかは 最早 神のみぞ知る所と
なっている....。
「記念日だね」
「もう二度と反芻はできないけれどね」
迷い子のことを今まで完全なる操り人形にしかできなかった彼女が、初めて意思疎通が簡単な会話なら取れるような状態にすることに成功した。挨拶や名前、天気などの最低知識しか残らず、難しい言い回しをすると固まってしまうレベルではあるけれど、彼女にとって大きな変化であっただろう。
「祝わなきゃいけないね」
「……君的にこれは祝っていいことなの?」
「……なんで?」
困惑したような顔で彼女は僕に向かってそう言った。僕には彼女の意思が分からず問い返すと、若干呆れたような表情で口を開く。
「……君にとっては迷い子を元の世界に返すのが目標なんじゃないの?」
「…………前はそうだったけどね。この世界に残るという選択が迷い子にとって最善だったこともあった。だから今は、なるべく不自由なく生きれる方がいいと思ってる。だから、今日は記念日なんだよ」
「……ふーん」
「ってことで記念日らしいことでもしようか」
「……記念日らしいことって何なの」
「…………じゃあ、踊りませんか」
僕が手を伸ばすと、跳ね除けられると予想していた手は取られる。
「…………あんまり踊れないけどいい?」
「ちょっとでも踊れるなら上出来じゃないかい?」
「そっか」
そのまま彼女と一緒に踊り出す。
誘ったのも唐突で、音楽もかかってなくて、なのになぜだか息があっていて、多分傍から見たらひどく滑稽な姿ではあっただろうが、とても楽しかった。
踊りませんか?
暑気払い。久しぶりの畳の感触をじっくり味わう余裕もなく、ひたすらに酒を煽り何かを忘れようと必死だった。意図している訳ではない。自然と体が動いていた。周囲に囃し立てられたり気遣う声をかけられても意に介さず、ただひたすらに。チェイサーなんて思考の埒外で、まだ30分も経っていないのにビールジョッキが4,5杯並んでいた。
周囲でガヤガヤ言っている連中に分け入ってアイツがやってきた。隣に座っている後輩を払いのけ有無を言わさずドカリと腰を下ろす様はどう見ても酔っているようだった。開口一番「八つ当たりか?」と。ああ、そうかもしれない。これは得体の知れない何かに対する行き場のない気持ちへの八つ当たりなのだ、と酩酊し始めた頭でぼんやり思った。するとアイツはこちらの手を強引に握り立ち上がらせようと引っ張り上げてきた。何をするのかと声を上げれば「んなもん、踊らにゃそんだ!」と。無論ダンスなんて学校行事でしか経験がない。なので「それも楽しいかもな」と思ってしまった自分はどうかしていて、立ち上がり衆目に晒されながらもアイツに合わせて体を動かした。すると、まるで導かれているかのように足が動きだした。いつの間にか座布団やテーブルが片付けられていた。動くたびに畳に靴下が擦れ、これは店に怒られるかもなと薄ら思った。でも、楽しい。調子に乗ってたくさん踊った。サルサ、スローフォックストロット、ブレイク、コンテンポラリー、など。自分はこんな動きまでできてしまうのか。アイツとならどんな世界でも行けそうな気がしていた。
そこからの記憶はなく、気づいたら自室の布団の中。頭がどうにかなりそうなくらい痛い。習慣化された少ない動きで寝床に備えられていたスマホを取るとちゃんと自分のものだった。LINEを開くと幾つか届いているなかで、アイツからのスタンプが押されただけのメッセージが目に入った。既読するか迷い、痛い頭で親指を長押しする。そこには知らないキャラクターとともに「踊りませんか?」と戯けた文字のスタンプが。すぐにメッセージ画面を開き「覚えてない」と返す。すると透かさず返信が来る。「踊りませんか?」と。何度も何度も来る。アイツは気が触れたのか。いや、いつものことかもしれない。放っておくことにした。とりあえず薬を飲んで寝よう。これから先、何かが起こる予感に期待を込めて。
踊りませんか
いやいや踊れないな
優雅にリズムにのって
チャラリラ〜
足がついていきません
うーん
盆踊りぐらいならいけるかな
「踊りませんか?」
その一言を、この場で発するためにあらゆる苦痛も苦難も耐え忍んだ。
貴族として生きることを育てられた俺の18歳の誕生日。貴族としての立ち振る舞い、教養を叩き込まれる英才教育の隙間に遊びという言葉などなかった。父親の雇ったであろう教育係が5人体制で俺をしつけた。
その過酷な教育から逃げ出した俺が何者かも知らずに遊んでくれた少女。
俺は少女と遊んで30分ほど後に教育係に見つかってその後少女とは出会っていない。
だが、彼女もまた由緒ある貴族であるにもかかわらず、屈託のない笑みを俺に浮かべてきたその様子は今でも記憶に残っている。
そんな少女も俺と同じ歳になり、この誕生日パーティーに呼ばれている。
彼女の前で膝をつき、手を伸ばして発する。
「踊りませんか?」
私たちにとって「踊る」事は簡単ではない 小さい時から習い事でいろんなダンスをしてるとか 部活でしてるとかでないと照れくさくて難しいと思う…
人から「踊りませんか?」なんて お誘いを受ける事もほぼ無い… 世の中にはステキな音楽がたくさんある それに合わせて簡単に自然に踊れたら 楽しくて素敵だな...
ポポヤ
踊りませんか?
休日だというのに、仕事だ、と言って普段と変わらない様子で出ていった。あまりにもいつもと同じ様子なので、何も言えなかった。
今日は、記念日なんだけどなあ……。
心の中でつぶやき、洗濯を始めた。
お昼前。
ただいま。 彼の声。こんなに早く?驚いて振り返ると、さらにまた、驚いてしまった。
タキシード姿の彼が蝶ネクタイを整えながら立っていた。
ど、どうしたの?
君とダンスしたい。 そう言って手を伸ばしてきた。わたしはその手を取り、彼に近づいた。
この服、どうしたの?
借りてきた。どう?
うん。カッコいい。服が。
服だけ?
服だけ。 お互い笑顔が漏れた。今日初めての笑顔。
それから、ふたりとも馴れない手つきで踊ってみた。リビングの小さなスペースで。テレビか何かで、誰かが踊っていたのをなんとなく思い出しながら。
下手ね。
シューズを借りるのを忘れたから、しょうがない。スリッパじゃ本来の力が出ないんだよ。
わたしだってスリッパよ。服も部屋着だし。
じゃあ来年は、君のも借りてこよう。シューズも。
イヤ。あんな派手なの着たくない。
そっか。
うん。でも。
でも?
踊るのはいいよ。ここで。来年も。再来年も。
妖精がジェルブロワの秘密の庭をふわふわ漂っていた。
夢の中を彷徨うように。
家の窓辺では、丸くなって寝たふりをした賢い猫がその様子を薄目で見つめていた。
妖精は、
「ボンソワール、賢い猫さん。今宵一緒に踊りませんか?」
とふわふわと声をかける。
賢い猫は、
「いいね、ちょうど今音楽が降ってきたところだよ」
と神秘的な緑の目を向けて身を起こす。
それから妖精と賢い猫はふわふわ踊り始める。
風に乗る旋律が、庭に咲く秋薔薇の香りと深い緑を包み込む。
秋薔薇の棘は、秘密を隠すように二人の踊りを見守っていた。
「踊りませんか?」