踊りませんか?
曰く、何も知らない人と結婚は無理。
曰く、だって冗談だって思ってたから。
一度目は、まだ連絡先も交換していない顔見知りの客同士。自分が「トリプルワークを始めます」という少しばかり頭のおかしいことを言い始めた頃。なぜそれを始めようと思ったのかは覚えていないが、気付いたらそうなっていたというのが正しい。カレンダーに空欄などなく、一日の半分は仕事で埋まる。そんな生活がもうすぐ始まるから、お店には顔を出せなくなりますと挨拶も兼ねて飲み歩きをしていた頃。
「来月からトリプルワークが始まるから、絶対しんどくなるの。癒やしが欲しいから付き合ってよ」
「嫌だよ、絶対仕事優先じゃん。会えないし遊びにも行けない人となんで付き合うの」
「だめかー」
そういうことを口に出せるぐらいにはよく会うし、仲は良い方だった。割とちゃんと断られて、案外押したらイケるのでは?と思ったのがこの時の感想。これを言うと「鋼メンタルなの?」と聞かれるが、仕事という分かりやすい理由で断ってきたのなら仕事を調整すればいいと思ったのだ。
二度目は、その数ヶ月後。トリプルワークを始めてもうすぐ一年が経ちそうというそんな頃。身体の限界と言うか、主軸にしていたバイト先に新しく来た上司があまりにも役に立たず心が疲弊してバイトを辞めようかと周囲に相談していた頃。新しく来た上司は社員で、仕事が出来ないけれど社員なばかりに安易にクビにすることが出来ず系列店で押し付け合っているような人で。結論から言えば自分はそこのバイト先を辞めた。主軸にしていたバイト先だったから、カレンダーには一気に空欄が増えた。「やっとゆっくり飲めます」と元上司の愚痴の一つでもこぼしながら、心身の回復を求めて。
「トリプルワークもうしてないよ。時間作れるから付き合って」
「駄目だよ、もう友達枠だもん。友達とは付き合わないって決めてる」
「友達ではあるの?じゃあいいかな」
「友達でいいならそういうこと言わないの」
この頃は色んな人に会う度に「まだトリプルワークやってるの?早く辞めな」と言われていて、もちろん君もそっち派で。仕事に片が付いたから言っとこうかなと思った二度目は「駄目」と言われて断られた。この時点でだいたいの人は諦めるんだよ、と今の君は真面目な顔をして言ってくるけれど、正直な話本気で付き合いたいと思っていたわけではなかったから、友達という肩書きが貰えただけで自分は良かったのだ。
三度目はそこから半年経たずして。いつものバーに居た時に偶然会って「この子に2回フラれたんですよ」とキャストの人に話しながら隣に座った。バイトは1つしかしていなくて、連絡先も交換した後だったからどうかなと思って言ったのが三度目。
「ねぇ、やっぱり付き合ってよ」
「無理、だいたい恋人欲しいわけじゃないでしょ」
「それはそう」
「じゃあ告白してくんなよ」
「フラれたー」
そんな三度目。実は二度目の告白の後すぐぐらいに連絡先を交換していて、ご飯にも行って遊びにも行って、ちゃんと友人をしていたと自負している。それでもやっぱりフラれたけれど自分にダメージは無かった。だって「やめて」って言われなかったから。
三回のどれも人前で、バーで飲みながらの状況での告白だったから君は二度目までは完全に冗談だと思っていて、三度目で(あれ?)と思ったらしい。実は三度目の告白の後、別の店で「付き合うのは無理だけど、同居とか結婚ならいいよ」と言われ「じゃあ結婚してよ」と間髪を入れずに答えた自分に(本気か?)と君が悩んだおかげで今に至る。
きっと一般的ではない始まり方で。今も付き合ってはないけれど結婚はほぼ確定していて週の半分を君の家で過ごすという、「それはもう付き合ってるんでは」と周囲にツッコまれる関係で。
世の中には色んな出会いがあるけれど、こんな出会いも心が踊りませんか?
10/5/2024, 2:05:07 AM