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6/5/2025, 2:41:28 AM

恋か、愛か、それとも

事の発端は少しばかりの好奇心。
自分の好みにかすりもしない人間に対して、自分は好意的に行動できるのかという対象者が自分自身の実験。産まれてからの28年間、恋愛感情を抱いたことがない自分が意識して強制的に行う好意的な行動に心が吊られるのか否かを問う。デートに誘ったり、告白をした時の相手の反応によって自分の心がどう動くのか。それが知りたかった。
しかしこの実験は他者を巻き込む。相手は慎重に選ばなければならない。大前提として自分の好みでないこと。自分の好みだった場合、そもそもの好感度が高い状態でスタートしてしまい実験にならないからだ。"意識して強制的に"という部分に当てはまらなくなってしまう。そして巻き込む他者にかける迷惑も考慮しなければ意味がない。どう転んでもお互いに被害が最小限に済むように。
結果として声を掛けたのが君だった。彼女にフラれたとやけ酒を煽る君は、どうにも他人を信じるような人間には見えなかったのに、他人に期待して失望しているのが何だか可笑しかった。
初めて声を掛けてから連絡先を交換するまでに1年。この間に3回フラれたけれど、最終的に一緒に住むことと結婚することがなんとなく決まった。
連絡先を交換してから今日までで1年と1ヶ月。先月の半に君は引っ越してきて、半同居のような形になった。
正直な話、この1年で自分の関心は君から離れつつある。だから君から「アパートの解約日が決まった」と聞かされた時、本当に一緒に住む気だったのかと驚いた。最初の4ヶ月は心が動きそうであったし、実際動いてもいた。行動に心が引っ張られる感覚を感じて感心したのだ。自分が思っていた以上に自分は単純なのだと。だからこそ間の6ヶ月で君への信用や信頼が減る一方に変わった時に憤慨した。信用されるような行動をしない君をどうやったら信じることが出来るかを模索した。どうにも信じることが出来なくて、そこで初めて自分は君を信じたかったのだと自覚した。それと同時に自分の心が冷えていくのが分かった。結局直近の3ヶ月は会う頻度が以前より低下した。その事について自分が感じるのは安堵感であって、たまに君と出掛けると「怒ってる?」と聞かれることが増えた。それぐらいには態度に出てしまっているらしい。

こんな状態でも君から離れられないのは何故なのだろう。
最初の4ヶ月の恋にも似た感情が忘れられないから?
2年の月日に愛着が芽生えたから?
それとも今更他の人間を探すのが面倒だという怠惰な理由?
君でなければいけない理由はもうないのに。

5/26/2025, 11:06:24 AM

君の名前を呼んだ日

君の名前を知っている。名字も名前も、漢字で書くことだって出来る。
そもそも君と出会った飲み屋では、君は名字にちゃん付けで呼ばれていたから自分もそれに倣って、君のことはずっと名字にちゃん付けで呼んでいる。名前を知りたいとは特に思っていなくて、要は君のことを呼んだのだと君に伝わればそれで良かった。それに加えて自分は飲み屋では全くの偽名を使っているものだから、名前に対してそこまでの執着はなかったのだ。

昨年の夏頃、花火がしたいと言った君を実家に招いて、実家の駐車場で手持ち花火大会を開催した。その時に君は表札を見て自分の本名を知ったわけだけれど、君は何も気にせずいつもの呼び方で自分を呼んだ。その後も今日に至るまで、会話の流れで名字で自分を呼ぶことはあっても、名前については触れてこない。たまに酔った君が「名前にそんなにちゃんとした由来があって意味が込められてるのっていいね」と笑いながら言ってくる。どうにも君のところの三兄妹はアニメのキャラクターが由来らしく、あんまり気に入っていないらしい。

これから先、きっとお互いにお互いの名前を呼ぶことはないと思う。お互いに自身の名前があまり好きではなかったり、今更呼び方を帰ることに対して気恥ずかしさが勝ったりと理由は色々ある。しかし、自分は名前を呼ぶことによって関係性が変わってしまうことへの恐怖が最も大きい。自分の中で相手をどういう呼び方で呼ぶかということは、その相手との距離感を測る大事な要因の一つに成りうる。君との距離感をこれ以上縮めたいとは思わない。だから君の名前を呼ぶことはないだろう。

そんな自分が君の名前を呼んだ日。
それはきっと君と二度と会えなくなったいつかの日。

5/13/2025, 8:32:51 AM

ただ君だけ

おはようって言いたい。
おやすみって言いたい。
一緒に歩いてほしい。
一緒に休んでほしい。
どこかへ出掛けるときは隣りに居て。
どこに居ても独りにはしないから。

勝手に死なないで。先に死なないから。
無理に生きないで。死ぬ時は一緒でしょう?

愛さなくていい。
愛そうとしなくていい。
勝手に愛してるだけだから。

そう思ったのも、全部全部、ただ君だけ。

4/29/2025, 12:05:34 PM

好きになれない、嫌いになれない

連絡先を交換して1年が経った。季節イベントに誘ってみたり、休みを合わせてご飯や飲みに出掛けたり。県内をドライブしたり、1回は県外にも小旅行に行ったりした。仲良くなってはいる。お互いに思うことはあっても、友愛や家族愛の濃度は増したと思う。

ただ、段々と君の優先順位が変動している。

ほろ酔い以上に酔っていれば優先順位は高い。理由は単純で、足元が覚束ないせいとずっと構ってくれるから。君は酔っている時に話した内容は丸っきり覚えていないけど、それでも寝るまでずっと自分の方を見てくれている。
アルコールを摂取していない状態の君はいつだってスマホやゲーム機とにらめっこで、話し掛けたって生返事だ。すぐに怒るし自分の知らない誰かと行った旅の思い出話を聞かせてくれる。だから優先順位は低め。

「毎日一緒に過ごす友達よりも、月に1回会えるか分からない友達を優先する」
君は確かにそう言った。その考え方には同意する。但し、だからといって毎日一緒に過ごす友達を蔑ろにしていいわけではないと自分は思っている。君もきっとそう思ってくれているとは思う。自分との約束を反故にした数日後に、君は別の友達の為に早起きをして出掛けていったれど。

約束を反故にされる度に君の優先順位は下がる。どうにも君を信頼することが出来なくて、好きになれなくて、君の中の自分は都合の良いただの便利な人間で友達ですらないのではないかと勝手に落ち込む。

それなのに君は「結婚式をするなら」「一緒に住んだら」と未来の話をするようになった。未だにプロポーズの返事もしていないくせに、まるでこの人は自分から離れることなんてないと確信しているみたいに。だから嫌いになれない。

4/7/2025, 4:12:20 AM

新しい地図

「4月を記念日にして旅行に行こう」
君がそんなことを言った。年の始めの方にある誕生日を、半ばすっぽかされて拗ねた自分に君がそんなことを言ったんだ。付き合っているわけではないから記念日という感覚は無いけれど、確かに連絡先を交換したのは昨年の今頃だったかと思い出す。
しかし、なぜだか今年の頭から、自分自身への誕生日プレゼントのような形でもう1つ仕事が増えトリプルワークになった自分に休みはない。1月には誕生日休みという名目で3連休を取っていたけれど、君がやらかしてくれたおかげで(休みなど取らなくて良かったじゃないか)とワーカホリックが加速するだけに終わった。
そんな君の冒頭の台詞。
希望と猜疑心を半々に織り交ぜて「そうだね」と返した。次は忘れずに計画を立ててくれるだろうという期待を込めた希望的観測と、いつも通りお金はないし当日になったら寝過ごすんでしょ?という諦めにも似た猜疑心。有給を使わずにシフトの調整でわざわざ休みを作ったんだよ、という独り善がりな八つ当たりも添えて。

「12時に起きる!起こしてね」
そう言って君は昨日眠りについた。今朝の5時頃の話だ。眠る時間自体に問題はない。いつも通り。自分も同じ時間に寝たから、まぁ起きられなくてもいいやと思って。
目覚めは11時で自分としてはよく寝た方だ。君は12時頃にもぞもぞと動いて何かを言ったが言葉にはなっていなかった。「起こしてね」とは言われたが、アラームを掛けているわけでもない人を起こすのは忍びなくて起こさなかった。せっかくの休日だし寝ていればいい。最悪14時までに起きなければ君を置いてドライブに行くだけだ。君と一緒に行くと楽しさが増幅するだけで、特段一人がつまらないわけではない。起こさなかったら君は怒るだろうけどね。

先月の末ぐらいからせっせと作っていた、君と行きたいところを記した新しい地図は暫く役に立たなさそうだ。

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