君の名前を呼んだ日
君の名前を知っている。名字も名前も、漢字で書くことだって出来る。
そもそも君と出会った飲み屋では、君は名字にちゃん付けで呼ばれていたから自分もそれに倣って、君のことはずっと名字にちゃん付けで呼んでいる。名前を知りたいとは特に思っていなくて、要は君のことを呼んだのだと君に伝わればそれで良かった。それに加えて自分は飲み屋では全くの偽名を使っているものだから、名前に対してそこまでの執着はなかったのだ。
昨年の夏頃、花火がしたいと言った君を実家に招いて、実家の駐車場で手持ち花火大会を開催した。その時に君は表札を見て自分の本名を知ったわけだけれど、君は何も気にせずいつもの呼び方で自分を呼んだ。その後も今日に至るまで、会話の流れで名字で自分を呼ぶことはあっても、名前については触れてこない。たまに酔った君が「名前にそんなにちゃんとした由来があって意味が込められてるのっていいね」と笑いながら言ってくる。どうにも君のところの三兄妹はアニメのキャラクターが由来らしく、あんまり気に入っていないらしい。
これから先、きっとお互いにお互いの名前を呼ぶことはないと思う。お互いに自身の名前があまり好きではなかったり、今更呼び方を帰ることに対して気恥ずかしさが勝ったりと理由は色々ある。しかし、自分は名前を呼ぶことによって関係性が変わってしまうことへの恐怖が最も大きい。自分の中で相手をどういう呼び方で呼ぶかということは、その相手との距離感を測る大事な要因の一つに成りうる。君との距離感をこれ以上縮めたいとは思わない。だから君の名前を呼ぶことはないだろう。
そんな自分が君の名前を呼んだ日。
それはきっと君と二度と会えなくなったいつかの日。
5/26/2025, 11:06:24 AM