恋か、愛か、それとも
事の発端は少しばかりの好奇心。
自分の好みにかすりもしない人間に対して、自分は好意的に行動できるのかという対象者が自分自身の実験。産まれてからの28年間、恋愛感情を抱いたことがない自分が意識して強制的に行う好意的な行動に心が吊られるのか否かを問う。デートに誘ったり、告白をした時の相手の反応によって自分の心がどう動くのか。それが知りたかった。
しかしこの実験は他者を巻き込む。相手は慎重に選ばなければならない。大前提として自分の好みでないこと。自分の好みだった場合、そもそもの好感度が高い状態でスタートしてしまい実験にならないからだ。"意識して強制的に"という部分に当てはまらなくなってしまう。そして巻き込む他者にかける迷惑も考慮しなければ意味がない。どう転んでもお互いに被害が最小限に済むように。
結果として声を掛けたのが君だった。彼女にフラれたとやけ酒を煽る君は、どうにも他人を信じるような人間には見えなかったのに、他人に期待して失望しているのが何だか可笑しかった。
初めて声を掛けてから連絡先を交換するまでに1年。この間に3回フラれたけれど、最終的に一緒に住むことと結婚することがなんとなく決まった。
連絡先を交換してから今日までで1年と1ヶ月。先月の半に君は引っ越してきて、半同居のような形になった。
正直な話、この1年で自分の関心は君から離れつつある。だから君から「アパートの解約日が決まった」と聞かされた時、本当に一緒に住む気だったのかと驚いた。最初の4ヶ月は心が動きそうであったし、実際動いてもいた。行動に心が引っ張られる感覚を感じて感心したのだ。自分が思っていた以上に自分は単純なのだと。だからこそ間の6ヶ月で君への信用や信頼が減る一方に変わった時に憤慨した。信用されるような行動をしない君をどうやったら信じることが出来るかを模索した。どうにも信じることが出来なくて、そこで初めて自分は君を信じたかったのだと自覚した。それと同時に自分の心が冷えていくのが分かった。結局直近の3ヶ月は会う頻度が以前より低下した。その事について自分が感じるのは安堵感であって、たまに君と出掛けると「怒ってる?」と聞かれることが増えた。それぐらいには態度に出てしまっているらしい。
こんな状態でも君から離れられないのは何故なのだろう。
最初の4ヶ月の恋にも似た感情が忘れられないから?
2年の月日に愛着が芽生えたから?
それとも今更他の人間を探すのが面倒だという怠惰な理由?
君でなければいけない理由はもうないのに。
6/5/2025, 2:41:28 AM