恵桜

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「踊りませんか?」
その一言を、この場で発するためにあらゆる苦痛も苦難も耐え忍んだ。
貴族として生きることを育てられた俺の18歳の誕生日。貴族としての立ち振る舞い、教養を叩き込まれる英才教育の隙間に遊びという言葉などなかった。父親の雇ったであろう教育係が5人体制で俺をしつけた。
その過酷な教育から逃げ出した俺が何者かも知らずに遊んでくれた少女。
俺は少女と遊んで30分ほど後に教育係に見つかってその後少女とは出会っていない。
だが、彼女もまた由緒ある貴族であるにもかかわらず、屈託のない笑みを俺に浮かべてきたその様子は今でも記憶に残っている。
そんな少女も俺と同じ歳になり、この誕生日パーティーに呼ばれている。
彼女の前で膝をつき、手を伸ばして発する。
「踊りませんか?」

10/4/2024, 11:59:18 PM