恵桜

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10/27/2024, 1:59:26 AM

愛なんて、言葉で容易に語れるものでは無い。
もしも、愛を言葉で容易に表出出来るのであれば、人間関係はもっと容易であろう。それこそ、「私はあなたを愛しています」などという言葉で愛を語れるのであれば、世の中の男女も家族も幸せだ。そうでは無いからこそ、人は他者の親切を心の奥で僅かに疑い、他者からの好意に別の何かを思案する。
だからこそ、私が愛する人には、全身全霊の言葉を無限の時をかけて紡ぎたいのだ。
発せられる私の言葉に、私は愛を込める。その言葉に意味はなくとも、その言葉に価値があることを信じて。

10/24/2024, 11:55:40 PM

--いかないで
---こないで

もう決めたんだ。誰が何を言おうと俺は行く。

---いくな
---くるな

あと一歩なんだ、あと一歩足を踏み入れるだけで未来は変わる。にも関わらず、現在は「いかないで」と訴え、未来は「こないで」と訴える。
俺は何度も未来を見た。同時に何度も過去に戻った。この世界の分岐点とも呼べる過去に。時渡りの能力でなにか世界を変えようと思っても、既に決定されている「現在」とその「現在」の先にある「未来」が俺を襲う。絶対に、この一歩を踏み出せば世界が良くなるのだとしても、世界の理がこの一歩を否定する。
能力には責任が伴う。その能力が強力であればあるほどに、その責任は重くなる。たとえタイムリープの能力を持とうと、同時に全てを背負う責任が無ければ宝の持ち腐れなのだ。

やるせない自嘲とともに、俺は能力を捨てた。

10/17/2024, 3:29:29 AM

何度か死後を妄想したことがある。死後と言うと、天国や地獄がどのようなものかと勘違いされるが、そこでいかに暮らすかではなく、死んだ直後どのように天国や地獄に運ばれるかというものについてだった。
それは妄想を超えるはるかに美しく、人類に希望を与えるものだった。私は特段良いことをしたつもりもなかったが、それでも大天使と形容するに相応しい美しい女性が、厳かに、やわらかい光と共に現れるその光景を見て、地獄に行くと思う者はいないだろう。
死というものは、生の終着点であるが故に恐怖される。ただ、死の後にこの光景があることを知っているならば、死も恐れずに済むのだろうが、それを生者に伝えるすべをもう持ち合わせていなかった。

10/6/2024, 8:00:07 AM

はるか昔、まだ太陽が動いていると思われていた時代。電灯もなく夜は暗いため、無数の星々が肉眼で見えていた。その美しい星空を草原で仰向けに眺める男女がいた。
「あの星とー、あの星とー、それからあれとあれとあれをつなげるとね」
腕を空にあげて一つ一つ星を指さしながら彼女が言う。
「うーんと、ちょっと待て。どれのことだ?」
片腕を彼女の肩に添えて、もう片方の手を使って星をひとつずつ指さす。
「違う違う! それじゃなくてあれ!」
指で示すものを伝えようとする。
「あれのことか?」
「そうそう! それを繋げるとね」
彼女が指をなぞっていく。
「じゃーん! くまの完成!」
「うーんと、うんうん」
彼氏は改めて繋げて、頭に少しクエスチョンマークを浮かべながらも大体はわかったという様子で頷く。
「あれがしっぽ、あれは顔!」
彼氏は頷きながら、自分も何かを繋げようと思案する。だが、彼女の想像力にはかなわず、再び彼女が星々を繋げる。
「いやー、よくそんなに繋げられるな」
もう諦めたのか彼女の顔を見つめる。
「えへへー、すごいでしょ」
そんなやり取りを毎日続けていた。
「あれとあれとあれをー」
「あれは昨日も使っただろ!」
「たしかに、でも2回使っちゃだめではない!」
「それはずるいぞ!」
「えー」
彼女がむうという顔をするので、彼氏は訂正し、彼女は笑顔になる。
2人が毎日同じことを続けているうちに、88もの星座がうまれていた。

10/4/2024, 11:59:18 PM

「踊りませんか?」
その一言を、この場で発するためにあらゆる苦痛も苦難も耐え忍んだ。
貴族として生きることを育てられた俺の18歳の誕生日。貴族としての立ち振る舞い、教養を叩き込まれる英才教育の隙間に遊びという言葉などなかった。父親の雇ったであろう教育係が5人体制で俺をしつけた。
その過酷な教育から逃げ出した俺が何者かも知らずに遊んでくれた少女。
俺は少女と遊んで30分ほど後に教育係に見つかってその後少女とは出会っていない。
だが、彼女もまた由緒ある貴族であるにもかかわらず、屈託のない笑みを俺に浮かべてきたその様子は今でも記憶に残っている。
そんな少女も俺と同じ歳になり、この誕生日パーティーに呼ばれている。
彼女の前で膝をつき、手を伸ばして発する。
「踊りませんか?」

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