恵桜

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5/6/2025, 10:09:15 AM

「ラブソング」

僕たちには道標があった。その道標に従ってこの1年歩いてきた。だがゴールにたどり着けないこともあるようで、同じ道を歩んでいたはずなのに気づけばその道標からは外れていたようだ。
その道標はたった一つのラブソング。お互いに好きな曲だった。その歌の中の2人は老後も仲良く暮らせるらしい。だから、その曲に沿って2人で行動した。花火を見たり、お酒を飲んだり、旅行に行ったり……。その結果1年で別れた。
2人の行動に意思がないのだから、至極当然のことだ。最初から道を逸れていることに気づいた時には、既に迷子で到底戻れない密林の中のようだった。

5/4/2025, 11:15:44 AM

「すれ違う瞳」

特に何か特別なことがあった訳では無い。裏切られたとか虐められたとかものを壊されたとか。
昔は仲が良くほとんど毎日一緒に登下校したが、今では話すことが無くなった。そんな彼と廊下で会う時私は少しだけ気まずい。それはきっと私が内心もう少し話したいと思っているからなんだろう。ただなかなか話しかけられない。そこに明確な理由もない。ただ何となく自然と話している関係が理由もなく消え、それ故に理由もない中話しかける意義を見つけられないのだ。
そんなもどかしさ故に彼とは疎遠になり、卒業も半年後。高校は別々だから、この半年間が最後なのに、何となく離れた存在。
そんな彼と瞳がすれ違い、彼との登下校は古き日常の思い出として残る確信を持った。

1/22/2025, 4:52:05 AM

『羅針盤』

今から20年も前に羅針盤を貰った。
「今時、羅針盤なんて使わないだろうが、これは普通の羅針盤じゃない。何せこの俺が渡すものだ。待ってろ、時が来たらこの羅針盤がお前を導くからよ」
こう言って、俺の一番の親友だからが渡してきた。羅針盤を見た時には、いらねえなと思った。航海に出る予定もない。日々を暮らす上で羅針盤が必要になる瞬間は来ない。
彼は少し変わってたが、意味の無いことはしなかった。だから、この羅針盤は俺をからかうためのものか、今後必要になるのかと思い、念の為机の引き出しに保管していた。
そんな羅針盤が光っているように見えた。
羅針盤に触ってもいないのに、羅針盤の針がひとりでに動く。NWSEをくるくるとまわり続ける。針は高速でまわり続け、針が止まったと思ったら、NWSEの文字はなくなっていた。
代わりに、俺の行き先が浮かび上がっていた。
羅針盤を持って俺は家を出た。

1/21/2025, 6:54:43 AM

『明日に向かって歩く、でも』

今俺たちは胴上げをしている。全国高等学校サッカー選手権大会県予選を勝ち上がり、全国への切符を勝ち取ったのだ。全くの無名高校が初めての全国を勝ち取った。その功労者を胴上げしているのだ。
始まりは新人教師だった。大学卒業後体育教師として働いている。そいつが新たなサッカー部の顧問となった。
俺が2年に上がった時だった。1年の県予選は、2回戦敗退。1回勝てたことに喜ぶようなチームだった。
そいつはチームを見てサッカーをする目的を聞いてきた。勝ちたいのか。ゆるゆるとやりたいのか。そう言われて「勝ちたい」と言えないほど俺たちは弱くなかったが、そのためにこれまでの苦しさと、この瞬間の喜びがある。
県大会優勝。胴上げされているのは、新人教師。イケメンで女子からの人気が高く、そいつを見たいがために女子生徒が数名観客席にいる。
ついに勝てた。この喜びを噛み締めて涙を流す。
胴上げが終わり、先生は言う。
「お前ら、喜ぶのはいいが程々にしろ。俺たちは勝つんだ。この先も負けないぞ!」
その言葉で俺は涙を止める。
この先生は、すごい。俺はもう満足していたのに、そいつは最初から全国優勝を狙っていたのだ。
明日からの練習が厳しくなるな。全国の猛者を超える想像とともに今日を終えた。

10/27/2024, 1:59:26 AM

愛なんて、言葉で容易に語れるものでは無い。
もしも、愛を言葉で容易に表出出来るのであれば、人間関係はもっと容易であろう。それこそ、「私はあなたを愛しています」などという言葉で愛を語れるのであれば、世の中の男女も家族も幸せだ。そうでは無いからこそ、人は他者の親切を心の奥で僅かに疑い、他者からの好意に別の何かを思案する。
だからこそ、私が愛する人には、全身全霊の言葉を無限の時をかけて紡ぎたいのだ。
発せられる私の言葉に、私は愛を込める。その言葉に意味はなくとも、その言葉に価値があることを信じて。

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