恵桜

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『羅針盤』

今から20年も前に羅針盤を貰った。
「今時、羅針盤なんて使わないだろうが、これは普通の羅針盤じゃない。何せこの俺が渡すものだ。待ってろ、時が来たらこの羅針盤がお前を導くからよ」
こう言って、俺の一番の親友だからが渡してきた。羅針盤を見た時には、いらねえなと思った。航海に出る予定もない。日々を暮らす上で羅針盤が必要になる瞬間は来ない。
彼は少し変わってたが、意味の無いことはしなかった。だから、この羅針盤は俺をからかうためのものか、今後必要になるのかと思い、念の為机の引き出しに保管していた。
そんな羅針盤が光っているように見えた。
羅針盤に触ってもいないのに、羅針盤の針がひとりでに動く。NWSEをくるくるとまわり続ける。針は高速でまわり続け、針が止まったと思ったら、NWSEの文字はなくなっていた。
代わりに、俺の行き先が浮かび上がっていた。
羅針盤を持って俺は家を出た。

1/22/2025, 4:52:05 AM