踊りませんか?
休日だというのに、仕事だ、と言って普段と変わらない様子で出ていった。あまりにもいつもと同じ様子なので、何も言えなかった。
今日は、記念日なんだけどなあ……。
心の中でつぶやき、洗濯を始めた。
お昼前。
ただいま。 彼の声。こんなに早く?驚いて振り返ると、さらにまた、驚いてしまった。
タキシード姿の彼が蝶ネクタイを整えながら立っていた。
ど、どうしたの?
君とダンスしたい。 そう言って手を伸ばしてきた。わたしはその手を取り、彼に近づいた。
この服、どうしたの?
借りてきた。どう?
うん。カッコいい。服が。
服だけ?
服だけ。 お互い笑顔が漏れた。今日初めての笑顔。
それから、ふたりとも馴れない手つきで踊ってみた。リビングの小さなスペースで。テレビか何かで、誰かが踊っていたのをなんとなく思い出しながら。
下手ね。
シューズを借りるのを忘れたから、しょうがない。スリッパじゃ本来の力が出ないんだよ。
わたしだってスリッパよ。服も部屋着だし。
じゃあ来年は、君のも借りてこよう。シューズも。
イヤ。あんな派手なの着たくない。
そっか。
うん。でも。
でも?
踊るのはいいよ。ここで。来年も。再来年も。
10/4/2024, 11:33:39 PM